第一話『The First Story』
人物紹介
松川流星:主人公。新関東高校二年生。もやしボーイ
松川星良:流星の妹。新関東高校二年生。毒舌美少女
四葉奈々美:流星の幼馴染。新関東高校二年生。庇護系少女。
ヒィロ・ユーグナント:流星の幼馴染。新関東高校二年生。
処女ビッチ系有翼族
エクスシア・フェルツシュタット:流星の幼馴染。新関東高校二年生。
無表情系人狼族。
安芸田和輝:流星の友達。新関東高校二年生。忍系ヘタレ少年。
フェルナ・クレイ:和輝の幼馴染。新関東高校二年生。女、真面目系有翼族
古村琴音:和輝の幼馴染。新関東高校二年生。ツンデレポニテ忍者少女
元春大輝:流星の友達。新関東高校二年生。脳筋マッチョマン
中島千夏:流星の従兄妹。新関東高校二年生。ツンデレマッチョウーマン
寿司:大輝の幼馴染。新関東高校二年生。妹系整備士
カルマ・グレナ:大輝の幼馴染。新関東高校二年生。オタクスナイパー
浩二・ニューフロント・新原:流星の友達。新関東高校二年生。
不遇守銭奴半狐族。
用語
世界
魔力次元
形状は地球に酷似している、魔力が存在する次元。土地の形状は殆ど地球と変わらず、環境も類似している。
地球での扱いは大規模な新兵器の開発拠点及び実験施設と見られており、扱いは非常に悪く存在が開示された現在でも植民地としての認識が強い。
国/国家
新日本地方民主国家
東洋人と有翼族が数多く在住する地方。いち早く憲法の発布を行なった最も平和な国。
第一に人種差別と外交手段における武力行使を禁じており、武力行使も代行会社の専守防衛のみを許可している。
兵器開発における技術水準が高い事でも有名(これらは地球から課せられた義務である為憲法違反ではない)。
戦闘においては学院機関と軍事代行企業による専守防衛戦を行う。
新ヨーロッパ地方共同体
西洋人とエルフが多く在住する地方。
伝統を重んじる傾向にあるが新しい思想が生み出される場でもある。
エルフ伝統を研究していた学者により提唱された理論を元にした共同体憲法を発布している。
新アメリカ地方資本国家連合
多人種と鬼人が多く住む地方。
地元民は血の気が多い事で有名であるが財政的に一番豊かな国。
憲法発布の際に一悶着あったせいで一番発布が遅れた。
新ロシア地方連邦国家
ロシア人と人狼が多く住む地域。
険しい雪山と絶対零度の氷に囲われた極寒冷地である故に外交が極端に少ない。
連邦宣言後に新ロシア連邦国家憲法発布し、国際的な和平を保っている。
新アジア地域への大規模な進行計画を持っており、定期的な違法威力偵察を行なっている。
新オーストラリア地方連合国家
豪州人と半狐族が多く住む地域。
比較的熱帯環境に近い為に寒がりが多い。
観光地としても有名で統治領域内の産業の三割が観光産業。
統治民の殆どがサングラスをかけているのはかつての名残。
新オーストラリア地方連合国家憲法を発布、使用している。
新アフリカ地方独立行政特区
半猫族が多く住まう地域。比較的サバンナに近い乾燥した土地。
生産業や術的加工業等が盛んで行政領内の産業の七割が工業。
観光地としても人気があり、訪れる人は多いがそれらは全て北部の僅かな地域に集中しており
その他は行政的な開発すら行なわれていない状態であり、非公式施設等が乱立して社会問題となっている。
新アフリカ地方行政条例を発布、使用している。
新アジア地方・新南アメリカ地方特別自治区
亜人族が独立自治している地域。過去に起きた魔術内戦による魔術痕が多く残る地域で
原始的な暮らしが今でも残る低文明地域。
種族
人間:科学を司る異次元からの移住種族。
持ち込んで来た術である科学分野に精通し、扱いに長けている。
反面この世界の技術である魔術が術符を用いないと使えない。
科学を用いて各地域を統治している。
有翼族:新日本地方民主国家統治領域に多く住まう現住種族。
文字通り翼を持っているのが特徴。飛行する事が可能だが、
極稀に力が強力な代わり飛べない有翼族も存在する。
また、魔術因数が現住種族で半猫族の次に高い。
人狼族:新ロシア地方連邦国家統治領域に住まう現住種族。
犬のような耳と凄まじい怪力を持つ。
反面空腹になりやすく常に何か食べているか、大食らい。
魔術因数は現住種族で五番目に多い。
エルフ族:新ヨーロッパ地方共同体統治領域に住まう現住種族。
尖った耳が特徴的で素早い動きを得意とする。
その為、暗殺や諜報を生業とする者も多い。
魔術因数は有翼族に次いで高い。
鬼人族:新アメリカ資本国家統治領域に住まう現住種族。
頭部から生えた角が特徴で人狼よりも更に怪力。
但し、頭が悪く脳筋な気質である。
魔術因数は現住種族で最も低い。
半狐族:新オーストラリア地方連合国家統治領域に住まう現住種族。
狐の耳等を持つのが特徴で現住種族の中で過不足のない
平均的な能力を持つ。
大魔術を扱う他、神道宗の宗道官を務める事が多い種族。
能力的には人間に近い存在。魔術因数は現住種族中で中間の値。
半猫族:新アフリカ地方独立行政特区領域に住まう現住種族。
猫の耳等を持つのが特徴で現住種族の中でも際立って
高い俊敏性を持つ。
魔術因数は有翼族を遥かに凌ぐ。
その他
地方学院
各地方に一定数配置されている特別自治機関。担当地域周辺に住む学生の
処罰や治安維持を担当している。
後述する学院機関の機能を濃縮した組織体制を持っており、組織戦闘階位は軍隊レベルの特権を持つ。
国防戦力としての軍隊が無い日本では貴重な国有戦力であり、七つ存在する。
新日本地方学院連合
流星達が所属している新関東高校等の新日本地方内の学院を取り纏める組織。
細々とした内部機関等は無く、リーダーが在籍している学院が
その役割を一手に担う。
組織的規模としては世界で最も大きく、それ故交渉戦闘では
スタート組織として設定されていた。
昨年、世界統合に伴いリーダー校を巡った戦乱が勃発しており、戦乱のあった時期は『現代の戦国時代』とも呼ばれていた。
生徒会
学院内の統治や行政を執り行う所謂政府。
所属する生徒からの意見を元に学院生活条例を発行する権限を持つ。
防衛や戦闘等の武力行使の際は司令塔の役割を果たす。
生徒会長以外の構成員は選挙で選ばれた生徒会長が選抜する。
国立新関東高校
新横須賀第一メガフロートに建造された国立の全日制地方高校。
魔術及び科学分野を選択教科としている。
また、生徒が生業を持つ事も良しとしており、必要最低限の制約しかない。
運用している軍神の殆どは流星や学長経由で特別に払い下げられた
試作機であり、改良を加えた状態での運用データを商品として販売している。
この高校の生徒会長は司令官も兼任している。
四行属性魔術
異次元に共通して存在する火・水・風・土を司る魔術の総称。
神器武装の加護魔術とは異なって魔術因数を持つ者全てが使える。
大抵の術式武装の魔術属性はこの四属性のどれかである。
稀にこれらに入らない属性の術式武装が存在する。
地流行魔力
魔力次元の地中を流れる天然の魔力。殆どの魔術は主にこれを用いて
起動する。また、人間が術符を用いて発動させる、術式装備の魔術を
起動させる際にも用いる。
どの土地にも均等な量が流れており、環境の維持にも用いられている。
魔術因数
どれだけ魔術に特化しているかを示す数値。
種族の混血は若干魔術因数が低くなる。
鬼人族<人狼族<半狐族<エルフ族<有翼族<(越えられない壁)<半猫族
模擬戦場に剣戟の火花が散る冬。たった一つの勝利の座を掲げて彼等は、激突していた。
砂煙に響き渡る共振は金属の音、校舎に轟く轟音は銃撃のそれ。聞こえる破裂の様な快音は打撃を示した。
新関東高校に二つある生徒会、信任決議を巡っての戦闘。
実質の下克上を表すそれは両者を戦いに駆り立てる一つの条件でもあり、もう一つの条件を引き立てる要素でもあった。
攻め側、戦闘に置いてのリーダー格である少年、安芸田和輝は自身の専用武器である回転式拳銃、S&W M686の銃口を下ろし、相対する長身の少年、副生徒会会長片桐隆介を追い立てる。
踏み締めた左足を軸に右足を蹴って身を回し、和輝に向き合う姿勢から減速の踏み込みを行なって踏ん張る隆介は手にした単発拳銃、T/Cコンテンダーの薬室を同時に開放し、対応弾のカートリッジを滑り込ませる。
逆手で抜いたナイフを腕を曲げた突きの体勢で振り抜いた和輝の動きを左の回り込みで回避した隆介は右の腕を大きく振り、薬室を閉じると同時、鞘のロックを外したナイフを左の掌を擦らせる様に滑らせて柄を握る。
高速の突撃をかわされた和輝は両足を浮かせ、身を捩って反転する一瞬、研ぎ澄ました意識の中で命令の一文を紡ぎ出し、全身に仕込んだ魔術が霊脈から魔力を吸い出して型を成す為の力に変える。
『加速―アクセル―』
『身体強化―フィジカルエンチャント―』
意識の奥底で理解した和輝は加速の為に変化し始めた体内と、強化された身体の感触を地面を叩く様に蹴る事で感じ、枷でも付いたかの様な重い感覚から無理矢理蹴り出しの右足を上げ、追加の加速を押し付けられた左足で行なう。
風圧で重量の増した左足に叩かれ、表面から爆ぜた地面がクレーターから細かに砕かれた砂塵を散らして衝撃に等しい反力を叩き付けた和輝の左足の裏に返す。
返された反力は加速する為の初速として和輝の体に速度を生むと同時、彼の体に衝撃も生み出す。
踏み込みの為に強張った脹脛の筋が生み出された衝撃に湿った軋みを上げながら熱に変えた衝撃を放出する。
引き剥がされる様な動きで両者に開いた数十センチの僅かな距離を詰める為に猛る様な叫びは上がらず。そして又、彼は叫びを加速に必要としなかった。
代わりに目測せず放った.357マグナム弾が撃発で放たれた銃声と言う名の咆哮を背に飛翔する。
捩れ、唸りながら音速を発揮する.357マグナム弾が退きの動きをとっていた隆介の左肩を掠める。
掠める瞬間に肩を捻り、体に伝わる衝撃を流す事で緩和した隆介はその間に距離を詰めていた和輝の一閃に舌打ちしながら前に突き出していた右肩を引いて、左の順手に構えたナイフを突き出す動きをとった。
和輝が突き出したナイフを中心に自身のそれを打ち付け合わせながら回り込んだ隆介は加速を使った効果による高速状況下の視覚の追い付きを見せる和輝の挙動に表情を強張らせる。
だが、頭の重量と体の重量は大きく異なる。コンパクトに回り込む動きに頭を振って視覚を追わせたとしてもそれを確かな動きに変える為にはそれとは別の動きをしている体を視覚に追いつかせ、連動させなければならない。
術式を用いた加速の弱点はそこにある。通常に比べて旋回に遠心力が掛かる為に小回りが利き難いのだ。
体の重量が旋回に移る動きに合わせて外に飛び、それに引き摺られる和輝は熱を放ち続けている左足を振り抜き、前に遠心力を引っ張って方向転換。滑らせる様に左足を地に着け、遠心力を逃がす為に体を回して正面を向くと右足で地面を蹴った。
身体強化された右足が生んだ反力を衝撃と共に速度に変えた和輝は対抗の姿勢を取った隆介と打ち合う。
火花と共に響き渡った音が大気を揺らし、和輝は乗せていた速度を利用した巴投げで投げ飛ばされた。
背中を打ち付け、咳き込んだ和輝は目前にて逆手に持ち方を変えたナイフを突き立てられるより前に体を右に転がして避け、立ち上がると同時、
放たれた30-06スプリングフィールド弾をのけぞって回避する。
音速で飛び去るスプリングフィールド弾に側頭部を切られた和輝は衝撃を逃がしきれずに回転し、叩きつけられた。
形を作らない苦悶が倒れ伏した和輝の口から漏れ、一発を撃ち切ったコンテンダーから硝煙が立ち上った瞬間、和輝は左のナイフを手放して代わりにM10を引き抜いて引き金を引いた。
拳銃並のサイズが特徴のM10の銃口から高レートで撃ち出された.45ACP弾は此処で加速と身体強化を用いた隆介の軌道を追う様に撃ち込まれて跳弾する。
高レートの連続銃撃による打撃により攻撃力の高い反面、小型軽量による不安定化により反動制御が難しい武器である。
これにより必然的にM10の有効距離は中近距離となり、射撃で距離が離れた以上連射してもまとまった一撃として通用しない。
だから和輝は手にしていたM10を投げ捨てて右手のM686の銃口を正面に左手で左腰を撫でる様にしてピンごと吊り下げたグレネードを抜いてコンテンダーの薬室から空の薬莢を抜いた隆介に投げ込んで妨害する。
破裂したグレネードは無数の破片を散らして宙にカートリッジを投げるとナイフを納めた隆介はグレネードの破片で削がれた制服のズボンの裾、足首の外側に付いた浅い傷に舌打ちする。
コンテンダーの薬室を閉じ、高度を低く距離を長く跳躍した隆介は膝蹴りの擦れ違い様、曲げていた足を伸ばして和輝の肺を蹴り付けて更に距離を取り、解放した薬室に紙や布に魔術式、別称『術式』を浸透させた術符を用いて製造された術式信管弾を滑り込ませ、スナップを効かせて薬室を閉じた隆介は左にナイフを引き抜いた。
その東、犬の様な尾と耳を持つ人狼族と呼ばれる種族の一対の男女と彼等と同じ種族の小柄な少女、二人の人間の少女達が速度によるぶつかりを生んでいた。
通常の何倍もの速度を制御出来る人狼の男、レオン・ウィルハーバーに反してうまく制御出来ない人狼の女、柴村市子はレオンよりも幾分か劣った速度で走るが身体強化魔術を使用して改造されたメリケンサック型術式武装『ナックルファンタズマ』を使用して力を増幅した己が拳を武器に相対している短刀を手にした小柄な人間の少女、古村琴音に殴り掛かった。
だが、素早い身のこなしが武器の彼女に不充分なストロークのジャブは当たらない。
当然だ、と市子は思う。彼女と相対している琴音は軽装かつ攻撃力に乏しいが素早い、学院規格で定められた兵科で言う暗殺者・忍者にあたる。
対してこちらは肉弾戦による攻撃力特化の兵科、強襲兵だ。
琴音の華奢な身体に拳の一撃でも当てればすぐに倒せるだろう、と振り抜いた拳を引き戻し、頭上を飛び越える琴音を視線で追いながら市子は思った。
だが、両脚を屈ませて着地の衝撃を吸収した琴音は女子制服のロングコートと共に翻ったミニスカートの中、左太股にベルトで括り付けたホルスターから抜いたSIGSAUER P239を照準する。
姿勢を低くした為に下から上に通す様な軌道で飛翔させる為に銃口を上げて躊躇無く引き金を引いた琴音は振り返った市子の左腕に重々しく直撃した9mmパラベラム弾が胸部を守る為に曲げた左腕を弾かせ、引かれる様に背を見せた市子は引き戻した左腕に向けて連続した射撃を叩き込み、筋肉にダメージを与える。
軽量かつ高速の9mmパラベラム弾による射撃の連続で骨を折れると想定していない琴音はチェンバーに一発を残し、マガジンを落としたP239をホルスターに納め、左手に小苦内を取り出す。
背後、加速術式と身体強化術式を併用して音速で駆けるレオンは彼と相対する小柄な人狼の少女、エクスシア・フェルツシュタットの連続突撃をそれを上回る速度でいなし、灼熱する火花が踊る様に虚空に散っていく。
エクスシアが用いている武器はランス。レオンが用いるサーベルは高速で振られて無数に描かれる剣戟の線にランスが何度も触れて、弾かれた彼女が退け反るも踏み留まる。
だが、その一動作をもレオンは隙とし、エクスシアの踏み込みを潰して更に彼女に防御体勢を取らせた。
攻撃としての飛び出しが潰されたエクスシアは押され弾かれると身を小さくして一回転し、屈んだ状態で着地すると自身の身体を宙に打ち出しながら背後にいた長身の人間の少女、松川星良は走りながら鞘込めの柄に手を掛ける。
見上げた視線でエクスシアを追うレオンは目前に迫っていた星良の居合いの抜き打ちに打たれ、身体を浮かせる。
そして、右手で抜いた太刀を両手で支え、降下してきたエクスシアがそれを足場にしてレオンを追撃する。
星良に当たらない様に振り回されたランスに薙ぎ払われたレオンは後方に弾かれながらもすぐさま右へのサイドステップを踏み込み、暴風と化した大気を右頬に受けながら右足を打ち付けて踏ん張り、鋭角に蹴り出して星良の背後に回ったレオンは自身のサーベルを突き出す。
『武装:ソードオブスラッシュ:起動』
サーベルの刃に滑る様に表示されて消えた武装の起動表示は浅葱色の光に変わり、レオンが振るった燐く一閃に万物切断の魔術と光の彩りを加えた。
表示が写し覚えた対象、エクスシアを上方に飛ばした星良との距離は数メートル。だが、切断の力は距離を障害とせず、太刀を下段に構えた星良に向かって効果は飛翔する。
だが、ほくそ笑んだ星良は対する様に太刀の刃の表面に表示を滑らせる。
『武装:灼絶:起動』
薙いだ焔が壁を成し、飛翔してきた切断の能力を受け止めて霧散する。
その上方、手にしたランスをレオンの頭部に叩きつけたエクスシアは跳ね返る先端に口から声にならない音を漏らし、後退の動きを取る為に左足を引きながら右足を上げ、左足で地面を蹴った。
距離を取る様に跳躍したエクスシアは彼女が空けた距離を埋める様に距離を詰めてきたレオンに相対する市子から距離を取り、走ってきた琴音をぶつけると自分は市子に攻撃した。
その上空、霞が広がる寒空には背に羽を持つ有翼族同士の激突によって生じた火花の花が咲いていた。
白翼の有翼族、新関東高校副生徒会副会長ケルビ・ゼロールと金翼の有翼族、ヒィロ・ユーグナントは空中を飛び交いながらそれぞれの得物を振り回しつつ、一撃離脱を行なう。
体力を消耗しやすい羽ばたきによる跳躍では無く、両者はそれぞれ魔術で作り出した多目的障壁を足場に翼を広げて身体強化魔術で強化した足で蹴り出し、勢いを付けた滑空を行ないながら新たな障壁を生み出しては蹴り付ける。
擦れ違いの瞬間、両者の剣戟はお互いを退け、結果として火花を生み出した。
そして、連続した瞬きを放つ火花に照らされた刃がお互いの上を滑り、風になびく制服の袖を切り裂いて過ぎていき、体勢を羽の前面で風を受ける様に変え、減速すると同時に上方に向けて障壁を展開する。
障壁に叩きつける様な足の動き。足場になった障壁から紫電が走り、打撃に対しての反力が大きい防御用の障壁が上昇の動きを取ったヒィロを上方に弾き飛ばす。
上昇に大きな翼は抵抗だ。だからヒィロは背面の翼を折り畳んで抵抗を少なく、風を流す様に飛翔し、上昇の風を受けて頂点に至る。
最頂点で滞空する為に翼を広げ、目下に見える筈のケルビを見回して探すも見当たらない。
然し、彼女は有翼族特有の発達した視覚では無く、人間と同等の聴覚により背後にいる事を感じ取る。
振り返った刹那、彼女の目前に電光が迸る。飛翔時の有翼族に非常に効果的な雷術系魔術が連続して放たれ、すぐさまヒィロは障壁を蹴って加速し始めた。
雷撃に一撃でも当たれば身体が痙攣を起こして失速し、墜落してしまう。非常に癪だが回避に徹するしかない、と彼女は思いながら頬に当たる風量で減速を測り、そして障壁を蹴った。
砕ける障壁に弾かれて加速したヒィロは空いた左手に魔術の術式を組み立てていく。
魔術式の構築を終え、翼を広げて振り返ったヒィロは飛翔するケルビが構えるサーベル型術式武装『ライジングサーベル』を見据えつつ身体の前面に魔術式を展開する。
雷術系魔術を内包したカートリッジを外し、別のカートリッジを再装填するのを見ながら展開した風術系魔術がケルビに直撃し、翼を翻したヒィロは白い羽を散らしながら落下していく彼女の腹部に蹴りつける。
だが、ヒィロは蹴り付けた感触に違和感を覚え、足を退けて踏みつけた下を見る。足の裏に微細な振動と紫電が迸り、それらの感触を受けてヒィロは自分が蹴っているのは多目的障壁だと悟った。
見ればケルビの表情は嘲笑に歪んでいる。しまった、と呟き掛けてヒィロはケルビに吹き飛ばされた。
打撃によって身体が浮き上がり、力なく落下し始めるヒィロの口から苦悶の声が漏れる。
広がった羽に空気が当たり、減速させた影響でゆっくりと落下していくヒィロは小銃の様にサーベルを構え、照準してくるケルビを見つめ、魔術が撃発する瞬間ヒィロは雷術系魔術に撃ち抜かれたケルビを見た。
口端から血を流しながら落下するヒィロは力なくほくそ笑んだ。
雷術の射手、赤茶けた羽を背に持つ有翼族の少女、フェルナ・クレイは右目の前に表示されたスコープホログラムを消し、羽と同じ赤茶けたロングヘアを揺らして手にしている砲撃形態の杖砲を携行形態に移行させる。
ストック部分から排出されたカートリッジが地面に落ちて白煙を上げる。
ブルパップ構造の杖砲型術式武装『ライジング』のストックにカートリッジを叩き込んだフェルナはストック側面のセーフティレバーをスライドさせて再び砲撃形態に移行する。
その隣、ブルパップ構造のボルトアクション狙撃銃DSR-1を構える紺色の髪を持った少女、カルマ・グレナはボルトアクションを行なったそれを構え、高倍率のスコープを覗き込み銃口を周囲に巡らせる。
高所に陣取った二人は撃ち込まれたライフル弾に驚きつつ、銃撃戦に慣れ、反応の早いカルマが素早く銃口を向ける。
射線上に小さく瞬くスコープの反射光に有翼族の狙撃手がいる事を知ったカルマはライジングを構えようとするフェルナを抑えて屈ませると傍らのケースから取り出したバイポットを装着して立てかける。
カルマは狙撃手の位置から作戦前に見せられた地図を思い出して距離を推し量る。
市街地戦を想定した第三模擬戦場では中央に十字路を構成する為に四つの中層ビルが建設されている。
それぞれの間は約千メートル程。だが相手が陣取っているのは斜め方向、その距離は千メートルは超えて有効射程距離千百メートルの.300ウィンチェスターマグナム弾を使用するDSR-1では到達出来ない。
だが、あの発砲音からして相手が.300ウィンチェスターマグナム弾よりも口径の大きいライフル弾を用いているとは思えない。
銃口を固定したまま隠れ、思案するカルマはふと脳裏をよぎった考えにそう言う事か、と笑いながらマガジンを外す。
「カルマ?」
意図を読みかねて咎めようとしたフェルナは彼女がマガジンに装填した識別用の塗装を施されたライフル弾に追求の口を止めた。
快音と共にマガジンに納まった空色をした薬莢のライフル弾はボルトアクションで排莢されたライフル弾の代わりにマガジンに装填され、ボルトアクションによって薬室に送り込まれる。
ボルトアクションを済ませたそれを構えたカルマはストックを肩に押し付けたフェルナと顔を合わせて指でサインを送り、ゼロと同時に拳を振って跳び上がる。
空中狙撃で滞空する為に一対の翼を広げて体勢を安定させ、バイポットを畳んだDSR-1を構えて相手の位置からスコープの反射光が瞬いたのを見ながらストックに肩を当て、スコープを覗き込む。
カルマが狙撃してくるのを見ていたらしい狙撃手、ジェスキン・セナールは手にしていたボルトアクション式狙撃銃、レミントンM700を手に後方に飛び、上空に銃口を向けず、スコープホログラムを右目にライジングを構えるフェルナの方に向けた。
その挙動を見て取ったカルマは焦りを見せるフェルナに舌打ちしつつ、ブラフに乗らなかったジェスキンに銃口を向けて冷静に集中して銃を構えていく。
伏兵がいる可能性もあったが彼女は気にせず、牽制で放った雷術を回避していくジェスキンの挙動に舌打ちしながら銃口を動きに合わせて巡らせていく。
一撃必殺が信条の狙撃にとって撃ち難いのは不規則かつ素早い動きをする相手、クラス区分で言うアサシンだ。
だが、今目前でその動きを取られている以上、カルマには撃つタイミングを掴めずトリガーを引けなかったが低出力の連射が掠める内にフェルナの雷術はジェスキンの身体に僅かな違和感を走らせ始めた。
まさか、とカルマはスコープ越しにジェスキンを見る。凄まじいスパークを発する雷術が彼の傍らを掠め、彼の筋肉を刺激させて硬直させる。
恐らく身体の知識などろくに持っていないフェルナは何の考えも無く連射しているだろうがジェスキンに掠める雷術が彼の身体を刺激し、麻痺させていた。
チャンスだ。そう呟いてカルマはDSR-1を構えてスコープを覗き込む。
トリガーに指を掛け、機械的な音を鳴らしてゆっくりと引いていくカルマは高度が中程に来た所で撃発させた。
銃口の目前に展開された魔術式を通過した特殊弾、高速魔術弾が唸りを上げながら飛翔し、ジェスキンの胸中に当たって彼の身体を吹き飛ばし、無力化するとカルマは焼けついた銃口を下ろし、地面に足を付けるとフェルナの肩を叩いた。
使えなくなったDSR-1を納め、代わりにM4カービンを取り出して構えた。
下に降りる、とフェルナにサインを送ったカルマは翼を広げて目下のフィールドに降りていった。
その近くでは拳の激突と剣戟の光に彩られた動きが生まれ、鍛えられた体格の少年が風切り音と叫びが遠く音を響かせて打撃を表し、蹴りの動きを見せる少年に相対する巨躯が交差させた太い腕に蹴撃を受け止めて吹き飛び、両腕を軋ませて衝撃を分散させる。
巨躯を弾いた足を戻し、左のフックを入れた少年は爆ぜる様な快音と音に見合わぬ手応えに表情を曇らせる。
防がれた。そう理解した少年、元春大輝は拳を引き戻し、連動して構え直したそれを突き出し、体重を乗せて巨躯、生徒会副会長瀬潟一郎に叩きつける。
身体の動きで荷重を移した故に重量のある打撃は交差した一郎の腕に防がれ、巨躯を吹き飛ばして隙を作り出す。そう、背後にいる少女と目前の戦いを繋げる為の決定的で必要な隙を。
大輝は感じた。背後に侍り続けた気配とそれに叩かれ、押し退けられた大気が彼の背面を撫でたのを。
拳を引いた大輝に拳を突き出そうとした一郎は疑問した。目前の後輩を殴ろうとしている自分の立つ場に影が差し込み始めたからだ。
それと同時に影に気配が乗る。気配は一郎の頭上に降り注ぎ、気配と疑問を払う為に彼は拳と身を引きながら頭上を見上げた。
自身が拳を打たない以上、攻撃範囲に入るのは危険だ。拳の攻撃範囲は極端に短いが下手な武器よりも攻撃力は大きい。
武装による補助や身体強化により増幅した運動エネルギーそのものを対象に叩きつけ、強烈な破壊を生み出すクラスをストライカーと呼ぶ。
重量を武器とするのは竿状武器を用いるランサーも同様だがこちらはコンパクトな動きを取れる。
射程距離の短さは瞬発力で補う。セオリーとも言える定義を彼は敢えて取らなかった。理由は明確。何故なら答えは一郎の目の前にあるからだ。
気配は殺気に変わり、殺気は叫びに変わる。叫びは刃の一閃として一郎の傍らを擦過する。
叫びの主が放った舌打ちの響きが回避の動きを取っていた一郎を追う様に響き、逆手から投じられた短刀の刃が彼の左肩の薄皮を抉る。
太刀を両手に構え直した叫びの主である少女、中島千夏は血の赤を宙に記す一郎が回避の動きを攻撃に転じさせたのを気配で感じ取ると彼が使用している武器、腕甲型術式武装『拳聖・準型』によって強化され大気を切り裂き唸る右拳を受けて吹き飛ぶ。
弱なる女性を殴る、と言う行為に嫌気を感じた一郎だったがこれは勝負なのだと気を立ち直らせると拳を放つ体勢を取りながら駆けて来る大輝を見ながら置いていた思考の一つを引き出した。
来る、張り詰めた空気がそれを予言する。先程の様な腕を交差させたガードでは腕が重なった点に力が掛かりすぎるとダメージを受ける故、両腕を縦に並ばせ、前面に壁を作ってガードとして一郎は反撃に転じる為に握った両拳越しに大輝の挙動を見て取った。
拳を腰の位置にまで下ろす様に引き、打ち出す為の体勢を整える。ここまではセオリー、通常の行為だ。だがそこからが違った。
腰に添えた拳を彼は限界と目する位置にまで捻った。まさか、と一郎は大輝の動きを予想する。この構えから打ち出される拳はボクシングで言うコークスクリューブローだ。そして彼が何処を狙うかは容易に予想がついた。
腕と腕の間、僅かに開いた隙間だ。狙いは分かる。世間で言うガード破り、と呼ばれる物だ。無論この様な戦闘に置いて利き腕である右腕でやる物ではないが彼にはもう一人の仲間がいる、と一郎は油断をしなかった。
快音が鳴る。無論ダメージは無い。だが捩れた拳が強引に一郎のガードを抉じ開ける。
右がすぐに引かれ、左が飛び出していく。唸る。こうなっては避けられず、防御もままならない。
だが、一郎は左を弾いていた。目を丸くする大輝はその理由を目に入れていた。大輝が突き出した左拳は上げられた右膝に突き上げる様に弾かれ、拳と視線を連動させていた大輝は弾かれた腕の先を見つめたのも一瞬、視線を懐に潜り込んだ一郎に微笑みながら彼の拳を受けた。
そして、突き上げる様に吹き飛ぶ大輝の向こう、突きの動きを取る千夏は自動拳銃ではありえない二連続の高速射撃に軌道を反らされた。
ファニング、扇撃ちとも呼ばれる回転式拳銃の超高速射撃。曲芸撃ちの一つだが極めれば凄まじい命中率と連射を得られる射撃方法だが
熟練が必要である上級技能の一つで千夏は先の射撃をそう判断して太刀を納めようとしてその間を置いて三連続で放たれたマグナム弾を刀身で滑らせて逸らす。
金属の響きと震える感触が鈍色の刀身に手を掛ける千夏に伝わり、腰のホルスターに収まった自動拳銃を抜かせる隙をも無くして短気な千夏を焦らせる。
太刀を捨てる事も考えたが攻撃回数が有限の拳銃の為に太刀を棄てるのは格闘戦を行えなくなるリスクがある以上、出来ない事だった。
体勢を戻した大輝に射撃をしてもらう事も考えたが先程のダメージから見るにすぐには立てまい。ならばと千夏は腰部のユニットから切手大に加工された術符を取り出して裏面を舌に貼り付けて唾液を付ける。この地下に流れる魔力は種族に関係無く流れる。
体液の一種である唾液を術符に付ける事で術符に魔力を通す。
刃に貼り付けた術符に付いた唾液を千夏本人と認識し、流れた魔力が一定量まで蓄積して術符が起動する。
術式加工を施していない武器にこんな事をするのは武器の寿命を早める事になる。だがこの勝負に遠慮は無用だ。発動させた術符は高出力の雷術。
バランスの良い術である雷術が術符特有の初動の遅い起動方法で発動し、刃から手を離した千夏は逸れていく弾丸にほくそ笑んだ。
電磁波で弾かれた弾丸は唸りを上げてあらぬ方向に飛翔する。切手大の術符が魔術として効果を維持し続けれられる時間は持って数分。
使用が出来る回数は四回、残りは三回。一回の負荷が大きい故に同時使用は出来ない。術符の貯蔵は十枚、使用した雷術の他、炎術、水術、風術の他
特殊な物として物流切断の魔術がある。
そして、マグナム弾の射手らしき少年の姿が千夏の前に現れる。両側のホルスターに収まっている拳銃を一目見た千夏は形状からシングルアクション拳銃と取った。
リボルバーであるそれを手に抜かずに少年、生徒会臨時会長補佐南井健太郎は蹴撃と短刀の剣戟を織り交ぜた攻撃を仕掛ける。
短刀の攻撃を太刀で受ける千夏の背後、一郎と打ち合う大輝は傍らを駆け抜けていった小柄な少女に気付いて乱打される拳を往なしながら通信で警戒を呼びかける。
大輝の声を受けて魔術展開のキーボードが羅列する画面を操作する細身の少年、松川流星は共有設定表示に設定された個別表示地図に表示されたそれぞれの状況を見る者に伝える。狙撃手の位置等がバレるが戦略をリアルタイムで立てられる為、学院内の戦闘によく用いられる。
キーボードを操作して個別に作戦を指示する流星は和輝に接近するマーカー、先程大輝が言っていた少女の表示が和輝に向けて攻撃表示を浮かばせる。
クラス表示でアサシンと記された少女、副生徒会書記宮武小春の対策を取る為、すぐさま流星は市子と戦っている琴音と彼女とエクスシアの援護に回っている星良にそれぞれ個別の指示を出した。
琴音には小春を和輝から放す様に。星良には市子との相対を。それぞれ指示して流星は戦闘の様子を見て怯える生徒会会長、安登風香に視線を流し、
俯きながら自問をする。この不信任の戦闘は自身が政権を奪取し、交渉戦闘に応ずる為に決めた事だ。だが、それは同時に自身が彼等と共にあった日常を終わらせ、彼等を悲嘆に突き落とす事でもある。何の罪も無い風香を涙に濡らすその行為が果して自分の正義に許されるか。
否、と流星は否定する。そんな心は正義でも何でも無い。甘えだ。確かに仲間が戦いで傷つく様で痛む心は良心によって軋んでいる、だがそれは自分が逃げているだけだ。だが戦闘に慣れない風香の気持ちも流星には分かる。
それでも、と一人流星は決心する。仲間を信じてただ此処で待つ、と。
その時、風香の身体が膝から崩れ落ちた。啜り泣く声と滴る涙の音が流星の心に染み渡る。周囲に慰められる彼女の目前の表示に降伏確定の承認だった。魔力使用の投影表示が確定の赤に変わり、青と交互に点滅する中それぞれの戦士達は静かに戦いの手を止めた。
全員の戦いはそれぞれの長の為に戦っていた。だが風香は答えなかった。否、始めから食い違っていたのだ。
風香は戦わせたくなかった。一介の交渉士として彼女は戦力と戦闘状況を見極めていた。
彼女は流星達が率いていた不信任側は全員術式武装を保有していない一般生徒であるにも関わらず、学年でトップクラスの戦力を揃えてきた流星に
勝てない、と踏んでいた。そして彼等の方が強く生き残れるとも。
だが周囲は違った。彼女の威厳を守ろうと戦った。それなのに自分は、と風香は項垂れた。
そんな彼女を見ながらそれでも流星は握手を求めた。俯き、視線を合わせず握手を交わした。
「・・・僕の勝ちですね、先輩」
「うん・・・それじゃあ生徒会業務、お願いね」
「・・・はい、頑張ります」
二つ、言葉を交わして流星は風香に背を向けた。そして退室する前に流星は細く伸びた指で承認表示を選択した。
自分の実力の象徴としてのトレードマークであるロングコートを翻した流星は四葉奈々美と寿司と浩二・N・新原と共に外へと出る。
「・・・っ」
模擬戦場の専門棟として存在していた第一司令棟と第一戦術待機棟を繋ぐ通路で流星は拳を壁に叩きつけていた。
流星の背後にいた三人は戸惑い、身を竦めながら拳を震わせる流星の足下に滴る涙を見ていた。
祝福される戦いではない、と流星が言っていたのを思い出す。不信任決議による生徒会と主導権の奪取。流星が決めた方針、自分達で交渉戦闘を行使し最後まで残ると流星は言っていた。
流星には当の昔に分かっていたのだ。勝てば自分がこうなると、ちゃんと分かっていた。
だから、彼は涙しながらも歩いている。自分は傷ついていないと証明する為にゆっくりとでも歩いていく。
「僕等はこれから戦うんだよ、ね。だから・・・」
魔力転用の投影通信表を使用して涙声の流星は勝利に身を浸す全員に告げる。
「これから僕は生徒会長として皆の力を借りるよ。僕等で世界の手助けをする力として僕は皆の力を借りるんだ。だけど、」
続ける言葉は見当たらない。だが全員がそれを見つけてくれた。先の戦闘で戦力として戦った様に。
そして彼等もまた、彼が一様に掛ける言葉を笑みを作って告げた。
『後ろを向くな』
先を越され、苦笑した流星は頷くと涙を拭って彼等に笑い掛けた。士気を保とうとしている者達の努力と士気を落とす様な司令官が何処にいるのか。流星は自身を叱咤した。
四月に行なわれる世界を相手にした連合交渉、戦闘によって行なわれる学院連合交渉の前に行なわれる生徒会行事、新日本地方学院連合代表選考戦の作戦会議を行なう為、第一戦術待機棟のブリーフィングルームに全員が集結した。
流星は粒子状に変えた魔力を転用して投影された画面に選考戦を主催する新日本地方政府の担当部署である学院省から送信されていたテキストファイルを表示し、ルール詳細を表示する。
新日本地方学院連合代表選考戦規定
1.各県域学院のリーダーの指揮能力を測る為に戦闘編成は三人を絶対の人数とする。
2.使用する武装は各学院で用意し、学院法第三条に基づいて選出した武装であるなら特に制限はしない。
3.脱落判定等を行なう為、防具はこちらで用意した物を使用する事。
同時、別ウィンドウで選考戦の戦場の見取り図を表示して流星は説明を打ち込んでいく。
表示に加わったリストには新関東高校に保管されている装備が種類別に表示されていた。
刀剣、竿状武器、防盾、拳銃、小銃、狙撃銃、機関銃、榴弾銃。カテゴリーに分類され用意された武装名称の数々が流星の指に滑らせられ、流れる様にスクロールしていく。
目的に対して過度な攻撃力を持つ武装の使用を禁じる学院法第三条に基づく武装選出は近接戦闘を行う為の近接武装に加え、射撃武器は学院法を大人しく守るなら攻撃力に乏しい拳銃弾を使用する武装を中心として選出される。
通常近接距離でのストッピングパワーを重視されている拳銃弾は特殊加工で防御力を向上させた制服を貫通できないつまり、制服越しにダメージを与える事が出来ても拳銃弾本来の用途にはならず、攻撃力を発揮できない。
過度ではない攻撃力、と言う拡大解釈を行なえば小銃、機関銃、榴弾銃を使用できる。
拡大解釈無しのギリギリラインを通過する散弾銃は新関東高校は未だ購入していない。
「散弾銃っつっても攻撃力が弱い訳じゃねえしよ。第二次学院法改正でようやく全武装の規制解除になったしな。
拡大解釈って言う形で全学院が短機関銃から自動小銃に主力変えたんだしな。
まだまだそこらへんの戦術が確立してないってのに学院省のオッサンは全くよ」
後頭部の辺りで腕を組んだ大輝は簡素な作りの木製机に足を乗せて苦笑する流星に説明を促す。
組んだ彼の足を押し退けて睨み付けた和輝は自身の術式武装の改造申請を記入しながら流星の方を見る。
「五月蝿いぞ大輝。それでだ、流星。編成についてはどうする。新日本地方の軍事代行としての一面がある俺達学院には最低人数として十人以上、生徒会を二つに分けている。その中から三人を編成人数としているんだ。
お前に、考えはあるか?」
ただ返答を待つ和輝の問いかけに流星は頷いて返答を声として形作った。
「編成は決めてあるよ。僕と和輝君、大輝君の三人。他の皆は悪いけど今回は出番無し。
その代わり、体勢を整えておいて。それと術式武装の改造申請と注文を済ませる様に」
何故ならとその続きを流星は言わない。全員がその先を理解していたからだ。
勝つ事だけを目指している。その先だけを見据えて体勢を整える。
「それじゃあ、皆。行動開始だ」
にこやかで、穏やかな流星の言葉に応じる様に全員が声を揃えて返答した。了解、と。
声は彼らに行動を促し、駆け出した和輝達の背を流星は見送った。
編成登録手続きを早めに記入した流星はウィンドウを消した。
第一戦術待機棟下、武器貯蔵室に降りた流星は並べられた武装の数々に目を通しながらその内の自動小銃一丁を手に取って構える。
精度の良い自動小銃を狙撃銃に改造したそれは安定した位置からの精密狙撃を目的にしておらず、中距離からの分隊支援を目的とした狙撃銃である。
狙撃銃に変わった自動小銃のグリップを握る流星は取り付けられたスコープを覗き込む。
先程の不信任決議戦では指令の為、参戦していなかった流星だが本来は和輝と同じクラス区分のラウンダー、全ての戦闘技術を扱える全距離対応型のクラスに入っている。
分隊支援目的の野戦狙撃なら、流星にも多少の心得がある。狙撃の腕が本筋の者に敵うとは思えないがそれでも何も知らない者よりは使える。
調達した狙撃銃にストラップを掛け、ホルスターユニットに納める副兵装にマシンピストルG18cを選択し納めた流星は馴染みの感触に気を引き締める。
狙撃銃をさて置いた流星は小振りのバックパックの隣に対人地雷等のトラップツールを持ってくる。
彼の役目は狙撃とトラップによる敵陣営の撹乱だ。リーダーらしからぬ役だが元々流星はそう言う立ち回りを得意とし、撹乱しつつ攻撃の指揮は忘れない。
自分は脇役に徹し、他の二人の戦いと言う名の舞台を整える。
戦場と言う名の舞台に立つ主役は二人。一人はラウンダーの和輝。もう一人はストライカーの大輝。
何でも出来る和輝は流星と大輝の中間距離で戦闘を行ない、攻撃力特化の大輝は最前線で戦う。バランスの取れた編成だがそれぞれの立ち回りが重要になる。
それから三日後、流星達、新関東高校生徒会連合は新日本地方学院連合代表選考戦に召集され、その場に相対した七つの高校と個々で調達した武装を構えて戦場に立って始まりの時を待っていた。
支援としての立ち回りを重視した装備を持つ流星は野戦狙撃銃を手に楔を描く様に後方に立つ大輝と和輝に視線を向けた。
近接戦闘を目的とした大輝は近距離専用の騎兵銃を手に比較的動き易い装備で整えてあり、副兵装は持たず、リロードの為の弾倉をベルトにして巻き付けているのみだった。
全距離対応に装備を整えた和輝は突撃自動小銃を装備の中心に術式強化に出したM686の代わりとして自動拳銃、シグP226を腰部ホルスターユニットに収め、残りを複数の弾倉と手榴弾で埋めていた。
流星のみが背負っているバックパックが乾いた音を発し、ふと流星は照り始めたカウントホログラフィックに目を向けた。
―――5
突き付ける様に始まったカウントに空気が張り詰め始め、
―――4
一つ減ったカウントに七つの学院はそれぞれの体制をとる。
―――3
バックパックを動かした流星は
―――2
トランジスタの様な形状の長方形を取り出し、
―――1
カウントが終わると同時。
―――0
背後の和輝達と前後を入れ替わらせる様に飛び退った。
前方、それぞれの武器を手に飛び出していった和輝達は隠れたままの六学院に見える様に立ち回り、流星が仕掛け花火を設置するまでの間、新中部地方学院生徒会連合に戦闘を仕掛けた。
飛び退さりながら腰のユニットに引っ掛けたピンをグレネードを引く事で抜いた和輝は腰添えの突撃小銃の銃口を下ろして前方に向けて足を引っ掛ける様に踏み止まりながら投擲した。
跳ねる様な快音に続けて宙を舞ったグレネードは内包した金属片を燃焼させ、突如として眩い光を周囲に撒き散らした。
炸裂の甲高い音も付け足して目前に光を浴びた新中部地方の生徒会長、瀬川隆一は退きの姿勢を見せた和輝達に苛立ちをぶつける様に手にした短機関銃を射撃した。
ライフル弾に比べて軽く乾いた銃声が密閉された戦場に響き渡り、点を連ねた線を作り出すそれらを回避した和輝達はそれぞれの武装を構えて最小限の攻撃を撃ち込む。
効率的に最小限の攻撃を叩き込みながら二人は仕掛け花火の準備まで耐え切る。
爆ぜる炸裂音が引き金を引く二人の意思に答えるが如く咆哮と共に鉛の銃弾を吹き散らして叩きつける。
銃撃の応酬を繰り返しながら遮蔽物に駆け込んだ和輝は騎兵銃を手渡してきた大輝に頷き、それを受け取ると束の間の休息として通信回線を開いた。
「大輝、手筈通りに行くぞ。流星が花火を仕掛けるまで」
「応、任せろ。耐え切るのは得意なんでな。四葉、状況の順次更新と通信回線の確保は任せる。
流星から合図が来たら通信音二回鳴らせ」
『了解・・・』
物陰に隠れた和輝と大輝は大人しい声色の奈々美との通信を切るとお互いにカウントのサインを送って飛び出した。
右の小銃の銃口を隆一に向けた和輝は遮蔽物から高く飛び上がった大輝を囮に左の騎兵銃を向けて射撃する。
隆一とその背後に立つ少女、新中部地方生徒会副会長多田加奈は弾雨から身を守る為に自身の顔を覆い隠し、その隙を突いて飛び上がった大輝は横合いから飛び出してきた刃に驚きつつ、体を逸らして着地した。
手にした長槍を引いた少年、新中部地方生徒会副会長立本政近を微笑を浮かべた表情で睨むと腕甲に守られた拳を握り締めて発動を促す。
ストライカーが苦手とするのは射程の長い攻撃。槍や銃器などである。だが、勝ち目が直ぐに失せる訳でない。
長槍の突きをいなし、弾きながら大輝は政近の右胸に拳を打ち付けて吹き飛ばすと拳を構え直して睨み付けた。
刹那、大輝の耳に二連続の通信音が鳴り響き、同時に轟いた銃声にほくそ笑んだ大輝は拳を放して後方に飛んだ。
「逃がすか!!」
空高く飛んだ二人を追う隆一は駆ける自身の足に感じた引っかかる感触に違和感を覚えた。
ワイヤーに足を引っ掛けた様な感触、そう理解した瞬間。破裂音と共に叩きつけられた無数の鉄球に新中部高校生徒会は新関東高校に敗北し、魔力による積載装甲を利用したボディアーマーと連動した転送魔術腕輪の緊急転送魔術によって強制的に退場させられた。
物陰でその効果を見ていた流星は傍らに降りて来た和輝と大輝に頷き、それぞれの銃を構えて走り出す。
転送された新中部高校の面々の中で隆一は一人膝を突いて拳を地面に叩きつけていた。
何故だ、何故だと反芻する隆一は傍らに転がった鉄球に目を奪われた。炸薬の爆ぜる音と光、そして鉄球。
これらを元に隆一は自分達が何に引っかかったのかを弾き出した。
先程引っかかったのはクレイモア対人地雷。それも術式転用による圧縮火薬を用いた加速もおまけした特殊性の対人地雷だ。
何と卑劣な手段なのか。隆一はルールを守っていない新関東高校に怒りを覚え、据え置かれた屑籠を蹴り飛ばして内燃する怒りを発散していた。
「あいつ等・・・・許さん!!」
叫ぶ隆一の声は新九州高校生徒会連合と戦う流星達の耳には届かず、空しい木霊となって室内に響いた。
一方、腕に装着した術式盾を用いて槍の攻撃を捌く流星は掛かったストラップで吊り下げられた野戦狙撃銃から響く乾いた金属音に苦渋の表情を浮かべ、左に抜いたナイフを順手に携えて槍を構えた新九州高校所属の半狐族の少年を見据える。
他種族に比べて身体能力等平均的な能力を持つ半狐族なのだが保守的な考え方から科学に対抗して開発された様々な術式を状況に応じて扱う事が出来る為、攻撃その物は単調な動きでも威力や感触が異なる。
何度も攻撃を弾かれそうになって耐えている流星は槍の穂先を追い散らす様にナイフを振るい、身体に直撃せぬ様に逸らして少年の懐に飛び込む。だが、確信した流星の目前に鉄砲水が打ち付けられる。
盾の前面を押す様に吹き荒れるそれは重心を前に持ってきていた流星の体勢を大きく崩し、止んだ水流が土砂を敷き詰めた地面を盛大に濡らし、泥水の溜まりを形成する。
踏み止まろうとする流星の足を捕らえた泥は、面で大地を捉えた靴底を滑らせて行動を封じる。
その隙を狙って泥の外から穂先を突き出す少年は突かれる度後方に下がっていく流星の表情に更に攻撃の手を強めて身体の加速を開始する。
守りを崩す。少年はそれを第一として踏み込みの初動を深くゆったりとした動きで取ると次の瞬間、一気に蹴り出して加速を行なうと流星の持つ盾の表面を削ぐ様に穂先を流した。
流れる穂先が金切りの悲鳴と共に盾から紅に熱された火花を散らしながら薄紙をカッターナイフで切るが如く滑らかに、それでいて軽くなる様に切り口を流される。
魔力を中央のユニットによって盾に変換され、その表面を流れる攻撃を表面に展開した魔力の流動によって小川の様に緩やかに流す流星の防御技術と相まって無通の盾と異名を取るこの盾はリーチの短いナイフと言う唯一の近接武器を手にしている流星にとって時間まで耐え切る為の武器だった。
泥に足の一部を埋めた流星を嘲う様にテンポ良く繰り出される薙ぎと突きは盾に弾かれる。
シールドストライクを狙いたい流星だったが休み無く盾を叩きつける衝撃に退きの体勢の数々を阻まれて体制を崩しており、防御体勢を維持する事でさえも至難だった。
その後方、和輝は弾を切らした突撃銃を捨て、腰に携えていた双剣を手にした新九州高校所属の少年と背面に取り付けていた太刀を抜いて打ち合った。
俊敏な斬りと返しで攻めに入る少年が癪に触るらしく表情を歪ませる和輝は手に持つ太刀で攻撃をいなすと間合いを測る為の牽制の打ち込みを絶え間なく続ける。
だが、相手が用いている得物は一対の剣だ。剣道の様にお互いが両手に一刀を持っている様な尋常な勝負を望める場では無い。
少しでも捌く手の気を緩めれば風切り音を轟かせて唸りを上げる剣に切り刻まれる。
攻守の比重を傾けようと押していく。だが、和輝は表情を歪ませて行動を先んじている少年を見据える。
癖のある双剣の扱いに長けているらしい少年の一撃を放たれるより早く弾いた和輝は太刀を構え直して少年を見据えた。
流派の無い独特の双剣の構えを取る少年は分の悪さを分かっている和輝を視線で牽制した。
対する和輝は脳内で判断材料を整理していた。双剣特化の相手、不味いと和輝は直感していた。様々な事をこなせるラウンダーはそれとは逆に特化した技能を持たない。即ちどんなに多くの技能を持っていても特化した技能を持つ者には敵わないのだ。
自身を一つの技能に特化させる事によって体得しえる業の極み。それがラウンダーには無い。
お互いを牽制する様に一度視線を交わす。鍔競り合う事を度外視した太刀の一撃、一発退場出来る位の威力で切り裂ければ僥倖、出来なければ脱落だ。そう胸中に語り掛けて構えを正した和輝と太刀に比べて厚みのある刃の双剣を構えた少年は踏み込みのタイミングを測る為にお互いに牽制しながら構えを維持する。
刹那、二人の左、舞い上がった塵が爆煙を形作り、巻き上がったそれから二つの影が飛び出す。
一人は新北海道高校所属を示す白の帯布を巻き付けた大柄の男、怒りを表す表情に焦りを乗せている彼と相対するもう一つの影、華奢な少女のシルエットだが猫の様な尾が付いている。八重歯を剥き出しにして笑う新近畿高校所属を示す橙の飾り紐を持つ少女は半猫族だと和輝は判断した。
刹那、男の手に納まった小銃が撃発する。連続した破裂の唸りが和輝の傍らにまで到達し、着弾の勢いで土砂を撒き散らして砂煙を立ち上らせる。
猛然と降り注ぐ弾雨がその場にいる三者を嬲り、和輝は背面から取り出した大輝から渡された騎兵銃を単発方式に選択し、腰添えに構えたそれを向けて乱射する男に射撃する。だが、和輝は使用する場面を誤った。
騎兵銃を向ける側面、風が頬を撫でてくる。そして和輝は目前に迫った少年が両の剣で突きの構えを取っているのを目に入れた瞬間、和輝は跳ね上げた騎兵銃のグリップを保持したまま加速の一文を紡ぐ。
『加速―アクセル―』
『身体強化―フィジカルエンチャント―』
足裏を前方に向けて叩き込み、緊急回避の為後方に急加速した和輝の右足の筋が身体強化で底上げされた許容範囲のギリギリの負荷に悲鳴を上げ、急加速によって押し退けられた空気が一瞬凝固し、層を作って和輝の背面に壁を作り出す。
だが、無理矢理背面を叩きつけ、凝固を融かした和輝はボディーアーマーを胸部に着込んだ制服の裾を双剣の切先に掠めさせて走り出す。
停滞をせず、腰添えに構えた騎兵銃を射撃する和輝は反動制御に意識を向けながら片手で携えている太刀を下段に構える。
初撃は逆袈裟で斬りつけ、其処から連撃に持ち込む。太刀の鞘と突撃銃を負う和輝は双剣を避け続ける、その上では。
「にゃはははは!! もろうたでぇッ!!」
敏捷な動きで宙を舞う半猫族の少女が八重歯を剥いて豪笑しながら肉厚な長剣を振り回し、彼女の正面、魔術形成の転送通路を用いて転送された戦斧を手にし、
相対して攻め掛かってくる男を蹂躙する。
火花が爆ぜる。叩きつけられた鋼鉄の身から削れ、薙ぎの暴風に吹き散らされたそれが二人を照りつけて彩りながら明滅し、紅と橙の吹雪を生み出して火花を浴びた男の巨躯を束の間よろめかせる。
戦斧の側面を盾に用いて踏み留まった男は表面に叩きつけられた長剣の刃を押し返す様に弾き、重量のある戦斧を打ち込む。
だが、戦斧の一撃は虚空で弾かれる。左腕を包む様に取り付けられた腕甲からメダルを撃ち出した半猫の少女はニッと笑った。
「銭を撃つ術式武装『銭撃』や。へっへ、硬貨の価値で威力が変わるんや」
短冊を横にした型の銃口と一体化した左腕を男に向けた少女はさも愉快そうに笑うと長剣を振り回して戦斧を弾く。
手にした戦斧を大きく逸らされた男は少女が持つ厚みのある長剣の刃を左に抜いたナイフで受け、少女の腹部を蹴り付けて吹き飛ばしながら戦斧を構え直す。
蹴られ、吹き飛ばされた少女は楽しそうに笑みを浮かべ、踏ん張りながら左の銭撃を連射する。
高速連射重視の一円玉。わざわざ二百円分を換金したそれを腕甲に納めて射撃している半猫の少女は9mm拳銃弾程の威力を持つアルミ硬貨弾を男に連続して浴びせていく。
軽い打撃音が絶え間なく男を痛めつけ、魔力を用いる積載装甲を搭載したボディーアーマーの耐久値が切れ、男は転送された。銭撃の射撃の手を止めて屋根に飛び移った彼女は、目下で繰り広げられている和輝の戦闘に目を輝かせていた。
体内機能を加速させる和輝は左手に携え、手放した騎兵銃を目眩ましに両手構えで太刀を振るって斬りつける。
肉厚な双剣と打ち合った太刀から火花が散り、双剣を手繰る少年と擦れ違い、右足を軸に左足を蹴り付け、前進する身を回転させて背後を振り向く。
再加速の為に踏み込みの動作を始めた和輝の方を振り返って双剣を構えた少年は確信した勝利に笑う余裕を見せながら和輝に向けて切先を突き出す。迫る切先の側面を蹴り付けた和輝は砕けた刃にほくそ笑む。
燐く粉になって散っていく鉄の中に裂かれた圧縮術式術符に目を奪われた少年はまさか、と地面に着地した和輝を見た。
金属分子の凝結許容量を超えて圧縮されていた為に埋まっていた隙間に強制的に押し込まれた結果、配列が崩れて脆くなった所で和輝に叩かれた事によって砕け散った。
和輝は少年と擦れ違う瞬間、予め処置していた術符を張り付けていた。なるほど、と少年は頷きながら勢い良く飛んで来た鉄筋を避けて飛翔してきた先を見る。
高速で地面を駆け、バク転を繰り返す新九州所属の人狼の少女を拳に捉えられず全て避けられる大輝は拳に当たって吹き散るコンクリートに痛覚を感じつつ構え直して冷静になった。
ナイフを手に大輝を見据える人狼の少女はじり、と足下を擦らしながら己の身体の姿勢を整える。
彼女と対する大輝は両の拳を確と握り締めて少女を見据えるお互いに距離を測り、ガードを保持し続けた大輝の回し蹴りを必要最小限の高さまで飛んで避けた少女は死の鉄鎚の如き拳の拳圧に臆せず螺旋の竜巻を巻き起こす拳を掴み取り、高速の勢いを利用して大輝の背後に回る。
大輝の腰を蹴り飛ばした少女はつんのめった大輝の苦し紛れの拳撃を軽々と避け、後方移動の倒立からの蹴りが顎に当たり、脳を揺らされた大輝が
糸の切れた操り人形の様に倒れそうになるがそれを少女は許さなかった。
気絶した大輝は不意に腹部に走った痛みに意識を取り戻しながらも吐瀉する。
無表情のまま大輝の腹に左足を食い込ませてしっとりとした質感の右足で彼の右頬に膝蹴りをぶち込んだ少女は手にしていた苦内を走ってきた流星に投擲する。
だが、飛翔するそれを難無く捌いた流星は両の手に展開した盾で両側面の攻撃に対応していた。
高速である筈の少女と槍を持つ少年、その両者の攻撃は流星の巧みな技に弾かれ、流されて威力を発揮していなかった。
然し、焦りを浮かべているのは流星も同じだった。防御に決め手は無い。
巧みな防御も攻撃を絶てなければ無限に続き、何にもならない。
「大輝君ッ!!」
だから流星は盾を構えて防御し続けながら大輝の名を叫んだ。応じる声は無い。だが、流星は見ていた。
拳を握らず、駆けてくる大輝の姿を。
そして、振り返り、防御体勢を取った少女に向けて大輝は牽制の拳撃から防御崩しの肘撃に繋げ、全重量を乗せて身体の背面を少女に叩きつけた。
一撃で積載装甲を砕かれて吹き飛ぶ少女は宙を舞いながら転送された。
まずは一人、だが和輝は相手を撃破に至らせる手を未だ見出せず、流星は防御に徹し続けて攻撃出来ない。
然し、と大輝は司から送信された自分用の転送装備一覧に入っている武器の内、奇天烈な武器に言葉を失いつつもそれを用いようと転送を要請した。
魔力で穿たれた亜空間から転送されていく黒光りの銃身は地面に横たわらせる様に置かれ、それを手に取った大輝は巨大なドラムマガジンを背負って六銃身を束ねたガトリングを持ち上げて正面に構えた。
防戦一方の流星は背後を振り返り、ガトリングを構える大輝に気付いて攻撃を受け流すと飛びずさって射線を開けた。
吊り下げる様に握ったグリップを持ち直した大輝がトリガーを引いた刹那、猛烈なスピンアップを始めたガトリングの砲口から灼熱する弾丸がばら撒かれ、唸りを上げて猪突する弾幕が叩き付けられた部位は絨毯爆撃に晒された様に無数のクレーターを作り出して
その威力を周囲に知らしめる。
新関東高校特製術式武装『ラグナロク』。生徒に武装を提供する兵站整備科が遊びで作った術式弾使用のガトリングガンで現在大型ドラムマガジンに収めている弾種は圧縮榴弾。圧倒的な破壊力で万物を破砕する最強のガトリングガンであり、それでいて実用的な一面は一切無く、所謂使い所に困る銃であったこれは在庫処分も兼ねて使用されている。
流星に追撃を与えようとした少年は飛翔してきた初弾によって退場になっていたが最後まで自分が何に当たったのか理解できぬまま、転送先で気絶していた。
白煙を上げるラグナロクの銃身を下ろした大輝は手足に感じる痺れに息をついて傍らに着地した流星に視線を向けると流星は取り出した野戦狙撃銃を
構えて和輝と対峙する少年に撃ち込んだ。
突き出した剣の表面で爆ぜた火花に舌打ちした少年は目前に迫った和輝に蹴り飛ばされ、地面に叩き付けられるも少年は左手に自動拳銃を引き抜いて撃ち放ったがそれに先んじて動いていた和輝に回避され、起き上がって動こうとした少年は和輝が放った拳の一撃に吹き飛ばされた。
追撃の蹴りで転送された少年を見ず、和輝は太刀を収め、転送されてきた突撃銃を構えて流星と合流した。
三人は戦いの音を遠くに聞きながら周囲を警戒していると新東北高校と新中四国高校と戦闘している新近畿高校と遭遇して物陰からその様子を見ていたが、埒が明かないので大輝のラグナロクの射撃を合図に三高校の戦いに介入した。
新東北高校所属の人狼の少女がラグナロクをぶっ放す大輝に迫り、手にした大剣と戦斧を叩きつける。
いとも容易く寸断されたラグナロクの銃身に舌打ちした大輝は司の怒号を聞きながら飛びずさり、視線で追ってくる少女を見ながら拳を握り、打ち出す為の体勢を整える。
重量武器二つを扱う少女に向けて突撃銃を連射した和輝は飛び上がった少女に舌打ちしつつ、リロード作業を行って拳を構えながら走ってくる人狼の少女を見据えながら装填作業を終えた銃口を向けて射撃した。
そして、見計らった様に盾を突き出した流星は防御を無視して叩き付けられた拳の一撃に吐血しながら和輝に受け止められる。
咳き込み、呻く様に声を漏らしながら立ち上がった流星はふっと、口端を吊り上げて一対の魔力転送のトンネルに手を入れる。
トンネルを鞘に引き抜かれた剣は鈍い光を放ちながら流星の右手に収まり、その対岸のトンネルからは扱い易さを重視した短槍が流星の左手に納まっている。
槍を回し、剣を前に突き出した流星は身を屈めて加速する。
庇う様に走り出した流星を見送りながら和輝は突撃銃を周囲に巡らせると、突撃銃の銃身を鎌槍が攫った。
叩き落とされた突撃銃が銃口を竹の様に断ち切られながら和輝の手から落ちていき、手にしていた手榴弾を全て鎌槍の方向へと投げ込む。
炸裂した手榴弾が四方八方に破片を撒き散らし、粉塵を巻き上げたが鎌槍を手にした長身の少年は長い柄を振り回して煙を払うと煙を切り裂いて猪突してきた無数のライフル弾に舌打ちしながら全て往なして弾いた。
鎌槍の柄で弾かれたライフル弾が音速の唸りを上げて少年の傍らを飛び去っていく。
銃剣を取り付けた和輝は身を振って飛び上がり、煌く銃剣の先端を突き出し、鎌槍を構える少年と打ち合って激しい火花を散らす中、大輝は振り薙がれ、飛沫の様に破片を散らすコンクリートに目を瞠りながら走っていく。
大剣の振り下ろしが地面を抉り、跳ね散った土砂が両者に降り注がれる。巻き起こった砂煙が二人の視界を埋め、束の間の停滞が両者に流れる。
両拳を構える大輝は尻尾を振る少女に蹴り掛かると鋭いエッジの如き左の蹴りを避けた少女に追撃の右足が襲い掛かる。
両の武器を構え直す少女の前髪を切り裂いた大輝の右足は額をも切り裂いて傷口から漏れた紅の線を宙に描き、少女をのけぞらせた大輝は追撃の打ち下ろしを少女に叩き付けた。
投じられた長剣を回避し、突き上げる様に拳で弾いた大輝は振り被られた戦斧に目を見張りつつ、背面に激突した長剣が大輝の背面に打撃を与える。
浅葱色に瞬く少女の左手に遠隔操作魔術が展開されていた。
まるで自分の手の中にあるかの様な動きを見せる少女は腰溜めに戦斧を振るって大輝に距離を取らせ、大剣をぶつける。
薙がれた大剣が大輝の右腕に直撃し、吹き飛ばされた彼はコンクリートの壁を叩き壊して両腕にダメージを与える。
息を荒げ、両腕に走る痛みに苦悶の表情を浮かべる大輝は両腕を震わせながらも拳を打つ為の構えを取り、長剣を左に握った少女はそんな彼を興味深げに見つめていた。
深く短い息をし、笑みを作りながら拳を構えた大輝は鬱血した右腕を庇う様に左肩を突き出す。
少女を見ながら大輝は走り出す。そんな彼に向けて表情を引き締めた少女が右の戦斧による初撃を放ってくる。
彼女が見せていた少しの予備動作から予知していた大輝は連動して放たれた二撃目の長剣をも飛び越えて着地、少女の膝の裏に軽い蹴りを打ち込んで体勢を崩す。
位置の下がった少女の首をホールドした大輝はそのまま少女の身体を振り回して投げ飛ばした。
空中で身を二度回した少女は左拳を握って跳び上がった大輝に向けて戦斧をブーメランの様に飛翔させ、怪我の頻度が低い左腕で弾いた大輝は長剣を突きの形で構えた少女を見据えると口端を微笑に変える。
刹那、長剣の切先に貫かんと思われた大輝の巨躯が背面に叩きつけられた戦斧によって吹き飛ばされていた。
驚きに目を見開きながら少女は突き出していた長剣の切先を引いて戦斧諸共大輝に叩きつけた、筈だった。
その瞬間、少女は吐血していた。そして自分の身体が吹き散らされた木葉の様に舞い上がっているのと拳を突き出し、額に汗を滲ませた大輝の左腕から微細な血流が漏れているのを彼女は見ていた。
殴られた。それも弩級の威力で。左腕を潰した大輝の建物を挟んだ左側、走る流星と拳を振り回す少女の激突が散りばめられた火花の瞬きによって示されていた。
砕かれ、散らばっていくコンクリートの森の中を高速で駆け抜ける流星は剥き出しになった鉄筋を飛び越え、にやりと笑った流星が左手に持った短槍が生物の様に振り回されるも拳に弾かれた。
だが、流星はそれを見越して右手の長剣を少女に振るい、受け止められたそれを軸に拳の射程から離れる様に回転して高速で加速する。流星の後を追う様に拳を振るった少女は空振った拳に引かれる様につんのめった。
完全にこちらの攻撃を封殺している。拳を当てても貫通した衝撃を往なす様に身を動かした流星に少女は舌打ちする。だから彼女は動いた。自身も身体強化のみを用いた加速を始める。体内加速術式を併用していないが故に目や血液循環、神経伝達が追いつかないが出力が四倍されるが故に速度は流星より上だ。
故に彼女は流星が生み出した空気の層を殴りつけた。彼女が術式武装として用いている腕甲は彼女が放った拳の衝撃を接触面から射程無制限で貫通させる術式を使用している。そう、何者でもあれ、殴りつけた面から。
流星の背面から叩き付けられる様に貫いた衝撃が彼の体を弾き飛ばす。
鉄筋コンクリートに叩きつけられ、肺の空気を全て吐き出した流星は手にしていた短槍を投じ、接近してきた少女に向けて左の腕甲を突き出す。
『武装:ウォールオブローズ:起動』
生々しい音が両者の間に弾け、両者の手から血流が流れ出して揃って絶叫を発し、腕甲から展開された壁に棘が生えており、両者に突き刺さっていた。
否、両者が発していた絶叫の正体は拳の一撃だ。少女が放った拳の一撃は流星の腕を折り、少女の右腕を砕いていた。
自分が食らった攻撃と同等の攻撃を相手に跳ね返す術式、正に薔薇の棘の如き諸刃の術式である。現に流星よりも重症化した少女の腕の骨は折れて
腕から飛び出していた。
激痛に膝を突き、息を荒げる少女は治癒が働いているらしい流星の左腕を見据える。
そして、流星にボディアーマーを切り裂かれ、彼女は退場した。
一方、銃撃と剣戟の火花を狂い咲かせる和輝の戦いは果敢な攻めと崩れぬ防御の応酬で高速機動を行ないながら駆け抜ける和輝は銃器を構えて連射し、少年は鎌槍を振り回しながら銃撃を全て弾いていく。
職人技の域にまで至っている少年の防御技術に苦戦する和輝は腰からナイフを抜き放って鎌槍に叩きつける。
火花が散り、衝撃が和輝の腕に直に伝わってナイフの柄を握る左腕の筋肉を震わせる。
押されてナイフを跳ね返され、よろけた和輝は無理矢理体勢を立て直して加速術式を起動して走り始め、少年の背後を回る様に機動するとナイフを振るった。
コンパクトに振れる分リーチが短くなるナイフは剣戟を用いた一撃を与える為に至近距離までの接近を要する。制動を掛ける様に踏み止まりながら片手で扱っていた自動拳銃を棄てて新たに短機関銃を使用して容赦ない連射を少年の背後に叩きつける。
だが、和輝は違和感を覚えていた。目前の少年が自分と相対する様に正面を向いていたからだ。
ありえない、何故ならあの体勢では自分の動きをすぐに、それも正確に向ける様な位置に立ち回った訳ではない。では何故。そう和輝は思いつつ、短機関銃を構える。
蹴りを二発、足場にする様に打ち込み、防がれる。そして和輝は疑問する。何故こうも攻撃のすべてが防がれるのだろうか、と。そして彼は薙がれた鎌槍を避け、少年の懐に飛び込む。
鎌槍が届かぬ位置、つまり使用者の懐に入り込んでしまえばナイフでの刺突で有効的なダメージを与えられる。
だが、和輝は違和感を覚えた。突き出したナイフが一向に届かない。まさか、と彼は仮説する。
彼は攻撃を防いでいるのではない、自分が彼に攻撃を当てる事が出来ないのだと和輝は思い、拳銃弾を連射して少年の体の動きを見た。否、少年と言う幻覚を纏った何かの動きだ。
陽炎の如き揺らめきが少年の影から立ち上る。そして、和輝は笑みの形を作りながら投影させた転送一覧から一つを選択してナイフを収めると走り出し、短機関銃を連射すると弾切れになったそれを宙に放った。
そして、腰下げの鞘の様に展開された転送用のトンネルに手を突っ込んだ和輝は居合いの構えで少年との距離を詰める。
刃の届く距離より奥で和輝は希望を繋ぐ言葉を紡ぐ。切れろ、と。
『武装:絶:起動』
居合いの動きで少年の実像を切り裂いた和輝は霧散した華奢な少女の像にニヤリと笑った。
体に見合わぬ鎌槍を構えた少女に切っ先を向けた和輝は怯える彼女に笑みを向けた。なるほど、してやられた。彼女は常時圧縮した空気をレンズに投影した自分の姿を焦点距離より手前で写し込んでいた。
これによって写り込んだ像は特殊加工により防御の時だけ実体として攻撃を防ぐ。
彼女が積極的な攻撃をしてこなかったのはそう言う制約があったからなのだろうと和輝は思いつつ、平坦な胸に一撃を与えて退場させると上方でその様子を見ていた半猫の少女を睨みつける。
そして抜き撃ちで榴弾を放った和輝は屋根を吹き飛ばし、爆発した榴弾を避けた少女が手にした長剣に拳銃弾を撃ち込む。
空中で長剣を防御に使う少女は十円銅貨を二十個単位で揃えた銭撃を構えて和輝を射撃する。
重々しい十円銅貨の射撃は絶で弾かれ、単身戦闘を始めた和輝は少女の背後にいる少年の援護射撃に舌打ちしながら三対一の圧倒的に不利な状況で単身攻撃を仕掛けていく。
和輝の攻撃の手段は両手に構えた絶の剣戟。転送武器は全て使い尽くして攻撃はそれのみになってしまった。
防戦一方で逃げに走る和輝は八重歯を向いて戦斧を振り下ろして叩き付けた少年の攻撃を寸での所で避け、前回り受身で立ち上がった和輝は走りながら絶を構え直す。
絶で斬り掛かり、切り結んだ和輝は自身の体で踏ん張り、悲鳴を上げる右足首に苦悶の表情を浮かべた。
だが、その瞬間和輝は敗北を悟った。何故なら彼の背後、回り込んだ少女が振るう長剣の瞬きに歯を食い縛った瞬間、和輝は破裂音の様な銃声とそれを受けて弾かれる少女に目を見開いた。
野戦狙撃銃を両手で構えた流星は銃口から硝煙を立ち上らせて二撃目を放つ為に構えるとスコープを覗き込んだ。
伏兵の狙撃手に気付いたらしい突撃銃を構えた少年はそちらに向けて連射を浴びせる。
ライフル弾によって鉄筋コンクリートに穿たれた風穴が高速で退避した流星の周囲に形成され、走り出した流星は狙撃銃を手に狙撃ポイントを移動し始め、建物の間を飛び越えて狙撃の準備を始める。
長剣を支えに立ち上がる少女をスコープに写し込んだ流星はトリガーを引き絞り、二射目を放って少女を吹き飛ばした。
そして、弾切れになった野戦狙撃銃を棄てた流星は連続して放たれたライフル弾を避け、壁伝いに降下しながら剣を構えて少年の下へ走り出す。
突撃銃のリロードを終えた少年は流星に向けて高速で射出した鉛の礫を浴びせ、それを避けた流星は突撃銃を棄てた少年と打ち合いながら左手に特殊な形状の注射器を取り出す。
だが、まだ使うべき状況ではないと判断した流星は制服のベルトにそれを挟んで少年と斬り合った。
一方の大輝は両腕に施された治療用の術符包帯を見下ろしつつ、一人溜め息をついていた。
項垂れる彼が向けた視線の先、剣戟の火花が散る和輝と少年の斬り合いは拮抗と言う名の停滞を生み出して両者の精神力と体力を削り取っていた。焦る気持ちは酸の様に両者の心を蝕んでいく。
叩き付けられた戦斧が土砂を跳ね散らし、空を斬って振られる太刀の一線が煌びやかな彩を宙に描いて進んでいく。
そして、和輝は極力戦斧に太刀の刃を当てない様に動きながら少年に剣戟を当てていく。
だが決め手が見つからず、油断していた和輝は戦斧に叩きつけられ、へし折られた太刀の刀身に目を見開きながら振り下ろされる戦斧の一撃を白羽取りしながら滑る刃に冷や汗を垂らしつつ和輝は叫んだ。
「大輝!!」
叫びに応じた大輝の巨躯に笑みを作った和輝は戦斧を手放した少年が体当たりを受けて吹き飛ぶ様を間近で見つめていた。
潰れた様な音と共に吹き飛んだ少年は吐血しながら退場した。
一方、ブロードソードを引き抜いた少年と打ち合った流星はギリギリと悲鳴を上げる得物に舌打ちしつつ、一度弾いて飛び上がると左に引き抜いた短剣を投じ、続け様に少年に筋肉弛緩剤を打ち込んだ。
体中の緊張が解け、力を失って崩れ落ちた少年に流星は無慈悲とも言える攻撃で退場させると鳴り響いたブザーに顔を上げた。長く苦しい戦いが終わったのだ。
これで新日本学院連合の代表は新関東高校に決定した。そして流星達は構えていた武器を手放して転送されて戻ると見守っていた仲間達に笑みを投げた。
これから始まる戦いを始める為に。
初めての投稿になります。前書きの用語集も含めて好き勝手書いてみた作品ですが楽しんで読んでください。
コメントでの質問など待っております。