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蜜柑はまだ齧れる程甘くなかった

作者: 逢坂ぎん

 あたしの名前は鏡見藍那。

 14歳、身長は162、髪型はショートカット。

 ごくごく普通な女子中学生。

 まぁ、ちょっと大きいかもしれない。


 あたしは、最近好きな人ができた。

 同じ中学校の同じクラスの前の席。

 すごく近いところにいる。

 で、ちょっと前までは好きじゃなかったんだけど、その人とメールのやり取りをするようになってから気になってきた。


 もともとあたしとその人は、なんの接点もなくて、あたしはその人のことをなんとも思ってなかった。

 でも、席が近くなって、色々話すようになってから、その人のことを毎日考えるようになった。

 最近では、毎晩メールをしてるんだけど、なんかあたしだけが熱くなっちゃってるのかもしれないと思うようになった。

 だって、いつもメールを最初に送るのはあたしだし、返信も遅いし、メールも短い。

 なんか悔しい。

 あたしだけが夢中になるなんて……。

 こうなったら、あたしに夢中にさせてやる! ということで、あたしは人生初の本気で燃える恋を始めた。

 

 その人の名前は赤川竜志。

 身長は165ぐらいらしい。

 あたしは、自分より背の低い男子は嫌いなのだが、一応ギリギリセーフで安心した。

 身長が低かったら、好きになってなかったのかと聞かれるとそうでもない。

 男子ならこれから伸びるだろうという希望を持って好きになっていただろう。


 あたしは、自分で言うのもなんだが、成績優秀でみんなに優しいと思う。

 この前のテストでは学年トップになることができた。

 みんなに優しいというのは、みんなから言われることだ。

「藍那ちゃん、いつも優しくしてくれてありがとう」

 みたいなことをこの前も言われた。

 ただ、優しいというよりは、他人に甘いのだと思う。

 だって、友達のしていることや行動にイライラすることは日常茶飯事だし。

 まぁ、他人に甘いというのは綺麗な言い方で、本当は他人に嫌われたくないのだと思う。

 だから、他人のやっていることには文句を言わないし、イライラしても口に出すことはない。

 そこを、みんなは「藍那ちゃんは優しい」とか勘違いしているのだと思う。

 まぁ勘違いされて、都合の悪い点はないのだが。


 話は戻るが、あたしは結構いい感じの女子だと思う。

 ただ、顔は中の中くらいだと思う。

 不細工でもないが、可愛くも綺麗でもない。

 微妙に残念な顔だと言える。

 ……ハッキリ言って、あたしは鏡を見るのが嫌いだ。

 自分の顔の悪いところはわかっているつもりだし、わざわざそこを再確認しようとも思わない。

 だから、鏡を見る回数は最小限で抑えている。

 そんなあたしは、竜志くんと毎晩メールをすること6日目。

 そろそろ結構時間が経ったと思ったあたしは、メールでこんなことを言ってみた。


 あたし、ちょっと非リア充同盟抜けるね(笑)


 非リア充同盟というのは、あたしと竜志くんが結んでいる同盟だ。

 どうせ彼氏彼女なんかできないよ、という悲しい同盟だ。

 すると、その日、竜志くんから返信は来なかった。

 次の日の夜、竜志くんから返信が来た。


 ごめん。いとこ来てて返信できなかった。

 それより、非リア充同盟抜けるってどういうこと!?


 案の定そこに食いついてきた。

 あたしは思い通りになったことに満足しながら返信メールを打った。


 えーとね……、ちょっと好きな人ができたんだ。

 だから一旦脱退するね(笑)

 たぶん、またすぐに同盟に入るから(笑)


 その好きな人というのは、もちろん竜志くんのことだ。

 竜志くんはたぶん気付きはしないだろう。

 だから一旦脱退するね、のあとに(笑)を付けたのは、あたしの覚悟のなさが表れていると思う。

 非リア充同盟脱退で竜志くんを焦らせたいが、非リア充同盟という竜志くんとのつながりを断つ勇気もない。

 ……ああ、あたしはヘタレなんだなぁ。

 改めて感じる。

 そういう勇気がないから、告白ができないのかもしれない。

 そんなことを考えていると、竜志くんから返信が来た。


 鏡見さんは、俺を裏切るの?(笑)

 

 なんと、この1文だけだった。

 あたしの目的は、竜志くんを焦らせることだ。

 でも、その目的達成には、とても難しい条件があって、あたしにはその条件が揃っているかどうかさえもわからない。

 その条件とは、竜志くんがあたしに興味を持っていること。

 少なくとも、メールの返信が1文だけの人があたしに興味を持っているとは思えない。

 毎晩メールをしてくれているのだから、嫌われてはいないのだと思うが、特別興味を持ってくれているかと言われれば、それにはNOと言うしかない。

 あたしは、少し痛む胸を抑えながら返信を打った。


 裏切らないよ(笑)

 あんまり長く続かないと思うし(笑)

 

 相手が短く返してきたら、あまりだらだらと長文は打たない。

 それでは、こちらがあちらに好意を持っていることを悟られてしまうかもしれない。

 とはいえ、あたしとしては、早くこちらの好意に気付いて欲しい。

 でも、単純に好きだとは言えない。

 面倒なことである。

 面倒なのだが、これが恋なのかもしれない。

 でも、面倒なだけではない。

 少しくすぐったくて、ムズムズする。

 竜志くんからの返信が来た。


 そうなの? 

 頑張れ!

 応援してるぞ!


 なんか、微妙な感じになってしまった。

 別に応援して欲しいわけではないのだが。

 まぁ、応援してくれることは嬉しいことだ。

 そういうふうに単純に考えないと、あたしがもたない。

 あたしは段々胸の痛みが増していくのを感じながら返信を打った。


 ありがと!

 頑張って振り向かせてみるよ(笑)

 じゃあ、あたしそろそろ寝るね^^

 おやすみー。


 振り向かせたい相手は、君だというのに。

 あたしは、呼吸困難になりそうに痛む胸をおさえ、ベッドに潜り込んだ。

 自然と涙が溢れてくる。

 あたしがそうして数分過ごしていると、返信が来た。


 おやすみー。


 またも1文だった。

 見なければよかったと思うあたしは臆病者なのだろう。

 あたしは、流れた涙をそのままに眠りについた。


 次の日、あたしは学校に行った。

 授業中は話しかけることはできないし、休み時間は竜志くんが男子と喋りに行ってしまう。

 そうして下校時刻になった。

 せめて「さようなら」ぐらいは言いたくて、竜志くんの姿を探す。

 やっと見つけることができたが、竜志くんはもう正門を出るところだった。

 叫ぶわけにもいかないあたしは、自転車に荷物をのせ、独りで学校を出た。

 外でも容赦なく痛むこの胸は、我慢できないほど痛いわけではないのに、すぐに涙を流してしまいそうになる。

 危ない痛みだ。

 あたしは家に着くと、携帯を開き、メールを確認した。

 もちろん、竜志くんからのメールはなく、あたしはゆっくりとメールの新規作成ボタンを押す。

 そして、いつも通りのやり取りをしたあと、また昨日と同じようにベッドに潜り込み、うずくまって眠った。


 そんな日が10日続いた。

 あたしからすると、とてつもなく苦しい時間だったのだが、竜志くんは別になんとも思っていないのだろう。

 我慢しきれなくなったあたしは、メールでこんなことを言ってみた。


 そろそろ非リア充同盟入るわ(笑)


 別に鈍感な竜志くんに特別な返信は期待していないハズなのだが、やはり心のどこかでは期待しているのだと思う。

 返信が来た。


 ハヤッ!(笑)

 告白とかしたの?


 やはり短い返信だ。

 それでもあたしは返信を打ってしまう。

 恋は一種の魔法なのかもしれない。

 苦しいとわかっていながらも、なにかを求めてしまう。

 

 してないよー。

 あたしには告白する度胸がない(笑)


 短い返信にしてみたが、どうせこれにも短い返信しか来ないことはわかっている。

 それなのにこんなことをしている自分を不思議に思う。

 携帯が鳴る。


 でも、告白はしてみたら?

 頑張れ!


 なんでこんな短い返信をするのに8分もかかるんだろう。

 胸が痛む。

 返信を打つ手に力が入らなくなる。


 んー、どうしよ。

 実を言っちゃうとね……、

 ……あたしの好きな人って、今メールしてるひとなんだけどなぁ…………。


 これが、あたしがずっと言いたかったことだ。 

 手が震え、胸の痛みが激しくなる。

 あたしは覚悟を決め、送信ボタンを押した。

 その数分後、返信が来た。


 ……え……?

 まじ? 冗談?


 本気に決まっている。

 でなければ、あたしはこんなメールを送っていない。


 本気だよ。

 ずっと前から好きでした。

 付き合ってください。


 これも手が震える。

 どんな返信が来るのか、予想がつかない。

 あたしは震える手で送信ボタンを押すと、ベッドに潜り込み、返信を待った。

 ……そして、ついに返信が来た。


 いいよ。

 付き合おう。


 あたしは泣きそうだった。

 なんでオーケーしてくれたんだろう。

 そんなことを考えるが、答えはわからない。

 それからもメールが続いたが、舞い上がったあたしにはどんなに短い返信でも嬉しかった。


 そして、その10日後、あたしはフラれた。

 涙が止まらなかった。

 竜志くんは、メールで『俺には彼氏の資格がないから』と言ってきた。

 よくわからなかった。

 竜志くんに告白したのはあたしなのに、なんで自分に彼氏の資格がないと言うのだろう。

 よくわからない。

 そのよくわからないという感情が、余計に涙を流させた。

 もっとああしてれば良かったのかな、こうしてれば良かったのかな。

 後悔があたしを襲ってくる。

 あたしは自分を襲う波に抵抗せず、飲み込まれ、涙を流した。

 竜志くんはたくさん謝ってくれた。

 だけど、あたしはよくわからなかった。

 なにがよくわからないのかもよくわからなかった。

 しかし、自分がフラれたということはよくわかっていて、とても悲しかった。

 

 そして、その後あたしと竜志くんは、二度と、結ばれることはなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうも、戸倉佳奈です。 このお話を読ませて頂いて、思い出したことがありました。恥ずかしながら恋愛経験があまり無い私ですが、このお話とほぼ同じような体験をしたことがあります。そのときの気持ちが…
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