撤退戦
更新するといったな?
―――あれは嘘だ<ウワァァァ
『ユーレスタ連邦防衛線崩壊。最終防衛ラインをさらに後退。防衛部隊は壊滅寸前の模様』
ランド「ここも、ここも、ここも駄目なのか」
命からがらオライオまで帰還した俺とゲイル大尉は休む間もなく偵察の任にかりだされ、撤退航路上の補給基地で生存者を捜していたのだが
ランド「ボリス中尉、こっちにはだれもいません。」
付近のキャンプを捜索し終わり、偵察部隊のメンバーに通信を入れる。
ボリス中尉は別の戦線で戦っていた兵士で、他の数名の兵士とともに乗船してきていた。
ボリス「ここももぬけの殻か。一人でも多くの同胞を見つけなければな」
ランド「ですが、そろそろオライオに帰還しないと時間が」
オライオから離れすぎては元も子もない。今俺たちは帰還途中で、敵がいつ追撃してくるのかもわからないからだ。
だが、逃げることもできずに戦い続けている仲間もいるはずだ
ランド「ごめんなさい。俺にはどうすることもできないんだ・・・」
操縦桿を握りしめ、自らの無力を悔いる。
ボリス「気に病むな。帰還するぞ」
ボリス中尉に諭されながら、俺はオライオへの帰路に付いた。
ランド「ふう。」
機体から降り、ヘルメットを外しながら整備兵の人たちと機体の相談を行う。
と言っても、雨と風にさらされたこの艦の上では簡単な整備しかできない。
スペースも無いので、ボリス中尉とゲイル大尉の機体を共有している。
ユウキ「ランド。やっぱり君のギガンテスはどこか古い型みたいだね。初めて乗った君はあれが普通に思えるだろうけど、ゲイル大尉達からはどうも違和感を覚えるようだよ。ここじゃ調整が出来ないからそれは君に乗ってもらうことになりそうだよ。」
俺より若干背の低い整備兵が報告をしてくる。
こいつはユウキ・アオバ伍長。のんびりとしたたれ目の整備兵で、一つ下で年齢の近い俺とは気が合うためよく相談に乗ってもらっている。
かなりのメカオタで正常な生活は出来てないが。いつも作業着で髪とかもボサボサだ。可愛い系男子ってやつか?ちゃんとすればもてそうなものを
ランド「てことはみんなの機体よりも性能とかはあれなのかな。不安だ」
性能が良いに越したことはないからな
ユウキ「そんなことはないよ。これは先行量産型の一種だから使ってるコンソールが2,3世代古いだけだよ。機体の基本はあんまり変わんないよ」
ランド「それは問題といえるんじゃないか?」
さすがに古いと思うが。乗るしかないだろう。
ランド「ちょっとダイク艦長の所に行ってくるよ。報告書とかいろいろ出さなきゃいけないしさ。」
ユウキ「おけおけ。いってらー」
ユウキの気の抜けた声を背中に受けながら俺は艦長室へと向かったのだった。
~艦長室~
ランド「ダイク艦長。今日の報告書です。」
そう言って椅子に座るダイク艦長に書類を手渡す。
ダイク「御苦労。ふむ・・・この近辺の補給基地はほとんどもぬけの殻ということか」
ランド「はい、撤退を終えたのかはわかりませんが、誰も残ってはいませんでした」
ダイク「状況は、かなり悪いということだな」
ダイク艦長はため息をつきながらうなだれる
ダイク「既に部隊の大半が撤退した後であるならば、われわれはかなり後方に位置しているのかもしれん。追いつかれるのも時間の問題だろうな」
ランド「ほ!本当ですか!?あ。す、すいません!」
あわてて正す
そんなに不味い境遇にいるとは。
何もなければいいんだが・・・
ダイク「ランド少尉、ゲイル大尉との交代の時間まで、このままACSで待機するように」
ランド「了解しました」
甲板へあがると、整備兵たちがあわただしく走り回っていた。
現在、このオライオにはギガンテスが二機しかなく、それを交代で無理やり稼働させている状況だからだ。
その二機も俺とゲイル大尉が無茶して使った機体だから、余計に整備に手間がかかるのだろう。
ランド「調子はどうだ?ユウキ」
俺のギガンテスのコックピット周りを整備しているユウキを見つけ、声をかける
ユウキ「うん。僕もこのギガンテスも問題はないよ。・・・と、言いたいところだけど、このギガンテスはかなりガタが来てるね。あちこちのパーツが傷んでるみたいだからね」
ユウキはコンソールを操作し、問題の区画を指察す。
赤くなっている点は足と右腕、それにエンジン部分だ
ランド「あと何回か出撃があるかもそれないからなあ。なんとかもってもらいたいよな」
ユウキと入れ替わりコックピットに座る。
ユウキ「大丈夫、パイロットは気にしないで。僕ら整備士はそのためにいるんだからさ」
なんら普通に言い張るユウキだが、一瞬後光が差して見えたほどだ
ランド「ありがとう。とりあえず、動けるようにだけしといてくれ。」
ユウキ「おけおけ、任せときなよ」
ハッチを閉め、機体のモニター類と通信機器だけスイッチを入れる。
いつ何があっても良いようにだ。
ギガンテスのモニターはコックピットと頭についており、普段はコックピットの前後左右がそのまま映る仕組みになっている。
準備を済ませ。そのまま待機すること二時間。モニターにはせわしなく動き回る整備員が映っているだけであり、何も問題は起きなかった。
ゲイル「ランド、交代だ。飯でも食いに行って来い」
ゲイル大尉の声で、時間に気付く
そういえば、もう正午をまわっているのか、はやいなあ
ランド「わかりました。失礼します」
ゲイル大尉と交代し、甲板に降りる。
体を伸ばしながらあたりを見回すと、ユウキが書類と睨めっこしていた。
全く、いい加減に休んだらどうなんだ。
ランド「ユウキ、いい加減に休憩にしようぜ。無理するなよ」
ユウキに近寄り声をかける。
ユウキ「やあ、ランド。今この機体の改造書を考えてたんだ。またあとで―――」
ランド「良いから来い」
俺はユウキの首根っこをつかみそのまま引きずる。
やっぱり軽い。普段からちゃんと食べてないな。こいつ
ユウキ「な、何をするんだ!ランド。今良いアイデアが閃きそうだったのに!僕は仕事中だぞ」
ランド「お前のシフトだと、とっくに休憩だろう。いいから飯いくぞ。俺もお腹へってるんだ」
ユウキ「僕の閃きが~」
ピーピーと文句をいうユウキを連れながら、俺は食堂へと向かったのだった。
オライオの中には、立派な食堂がある。
お昼時と言うこともあって、かなりの数の人が食事をしていた。
ユウキ「ひ、人がこんなに沢山・・・」
こいつはもう・・・どうしようもないのか
ため息をつきながら食堂に入る。
ルイン「あれ、ランドも今から食事ですか?」
ルインが食事のプレートを持ちながら立っていた。
ランド「ああ、この機械馬鹿とな。」
そう言って後ろのユウキを見せる。
ルイン「そ、そうですか」
ルインの顔は若干引きつっていたが、さっきからぶつぶつ呟いてるこいつをみたら当然か
ルインに席を頼み、列に並ぶ。
ユウキ「やれやれ、じゃあ今日のオススメでいいよ」
ランド「もうちょっとありがたみを持てよ。お前…」
もう呆れながら昼食を受け取り、ルインの待つ席へと向かう
ルイン「やっぱり食事の時間は落ち着きますね。」
ランド「そうだな。これぐらいしか楽しみがないのもあるんだけどなぁ。」
言ってから気付く、これは地雷だと
現にルインの顔は暗く、食べる手は遅くなっている。
ランド「(えーっと・・・)」
やばい。こんなとき何て言えばいいんだろうか。
何も浮ばずあたふたしていると、ユウキがこっちをみてため息をついた。
そして
ユウキ「大丈夫。この戦争は長く続かないよ。」
ルイン「ほ、ほんとうですか?」
とたんにルインの顔が明るくなる。
ユウキ「うん。お互いに戦力は多いとは言えないからね。このままいけばどこかで協定が結ばれると思うよ。それに――」
ユウキの助け船で空気は良くなったが、話しのタイミングを失いそのまま食堂を後にしたのだった。
ランド「ふう・・・」
夜も更け、艦内が静まり返った時間。俺は寝つけずに甲板に来ていた。夜風に当たるためだ。
昔から、何か迷っているときには風に当たっている。
敵の策敵を避けるため、今は船を岩場の影に隠しながら停泊している。
俺はブルーシートを掛けられた自らの機体、コックピットの上に座っていた。
ランド「もう少しでユーレスタの防衛線を超えるんだ。」
だから何だというんだ。俺は兵士だ、一旦帰ればまた新たな戦いに駆り出されるだけだ。
そもそも、なんで戦争になんてなった?
自分に生き残れる腕があると思うのか?
頭の中でいろんな考えがぐるぐると回っている。
ランド「あー!わかんねーよ!」
頭をワシャワシャと搔き毟りながら後ろに倒れる。
そして思い出す、ここはコックピットの上だと。
ランド「あっ!」
と言った時にはもう遅く、斜めになっている胸部装甲へ倒れこみ、そのままの勢いで下へと落ちていく。
甲板までの距離は近かったが、背中から、それも不意打ちで落ちていけば痛みはあるものだ
ランド「いたた・・・」
起き上がりながら背中をさする。痣でもできたか?
痛みをこらえながら起き上がり前を見る。
ルイン「あっ・・・」
ルインがいた。
進展ってなんだろうね?(遠い目