恩と仇と敵討ち ②
あの後結局一睡もできず、されど動くこともできなかった俺が立ちあがることができたのは昼過ぎになってからだ。
ふらふらと頼りない足取りで村へと戻って行った先で見たものは――
・・・とても昨日訪れた村と同じとは思えない光景が広がっていた。
「あぁ・・・うっ・・・ぐぅ!!」
村の建物はどれもボロボロに壊され、中にはほぼ焼け落ちている家もある。そして何よりも・・・死体だ。
おびただしい数の死体が道に転がっていた。あるものは切り刻まれ、あるものは焼かれ、あるものは何かに踏みつぶされたかのように・・・・そこに広がっていた光景はとても直視する事ができない。
「う゛っ・・・ぐぶっ!?・・・ぐはっ・・・げぇ・・・」
あまりにも無残な光景を目の前に精神が限界をきたした。酷いめまいと押さえられない吐き気が襲い、その場に崩れ落ち我慢できずその場で吐いた。昨日食べたものはすでに消化され胃には何もなくただ胃液だけがそれの代わりを果たすようにとめどなく口から流れ落ちる。全身の不快感が目に集まり涙となってこぼれて行く・・・
「返せなくなった・・・」
しばらくして少し落ち着きを取り戻したところでふとこぼれた言葉。ほんのわずかなあいだとはいえ確かに受けた恩・・・それを・・・仇ですら返すことができなくなった。
沈んだ気持ちのまま、せめて墓だけでも・・・と気休めにしかならない行動に移った。
そうして村の片隅にあった広いスペースに狼たちに人が入れる大きさの穴を掘るように命じた。俺の命に一切不満の色を浮かべずに黙々と作業を始める狼たち。その間に俺は壊された家の中から無事な毛布などを持ち出し、それで死体をくるんで穴まで運んだ。
黙々と・・・淡々と同じことを繰り返し、日が落ちる前には見つけられる限りの村人全員を埋葬することができた。そして、眼前に広がる真新しい墓達に死体の血で汚れた両手を静かに合わせる。
「そういえば・・・あの人の名前・・・聞いてなかった」
自分を泊めてくれたあの青年。水をくれた村長。そしてここに住む多くの村人たち・・・誰ひとりとして名の知らぬ彼らにどんな想いで手を合わせればいいのか解らなくなってしまった。
名は知らずとも確かに受けた彼らからの恩・・・それを仇ですら返せなくなった今・・・
「せめて・・・敵討ちだけは・・・」
取れるかどうかも解らないが、やるだけやりたかった。虚しいだけの自己満足だと解っていても・・・
意を決して、敵討ちのための準備を始めた。焼かれずに残っていた家々を物色して身の回りの最低限必要な物を集めて行った。死を冒涜するような行為と気が引ける面もあったが、そんな甘いことなど言ってはいられない。
複数の家を物色している内にあることに気がついた。昨晩来たのは盗賊だと言っていたが、本当に盗賊だったのだろうかと疑うほどに物がある。家の中で暴れた形跡のある場所は色々壊れていたりなどするが、食料や僅かとは言え存在する金品はほぼ手付かずだった。さらに思い返せば、殺された村人たちにも不審な点はあった。
偏ったイメージではあるが、盗賊やらその手の奴らは普通年頃の女性を連れ去って・・・なんて事があるものだと思っているが、実際にはそういった人たちも例外なく惨い死に方をしていた。実際には連れ去ろうとした時に抵抗したから殺された・・・という可能性もなくはないだろうが、それを差し引いても多すぎると感じた。
まるで盗むものは命だけとでも言わんばかりの惨状だ・・・
だが、それもこれもこの目で確かめればいいだけの話。俺は狼たちに盗賊達の匂いを探らせて奴らのアジトを探させた。
ただ敵討ちをする・・・そんな、なんの価値もない自己満足のために俺は歩き出した。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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今回はつらい現実を目の当たりにする回的なイメージですね。しかし書いてて思ったんですが・・・
なんていうかこーゆー雰囲気の方が書きやすいなぁっとつくづく実感してしまった。