恩と仇と敵討ち ①
僕はこの村で毎日毎日・・・変わらない日々を送っていた。その日もいつもと変わらずせっせと朝から農作業に精を出しいつもと同じように昼食を取ろうとしていた時だった。
「なんだろ・・・人?・・・ひ、人が倒れてる!?」
僕は村の入り口で誰かが倒れているのを発見して慌てて駆け寄った。駆け寄ってみると自分より少し年下の男の子だった。服はこのあたりじゃ見ないやけに薄着で不思議な格好の少年は荷物らしい荷物も一切持たず埃だらけで倒れていた彼は僕に気付いたのか弱弱しく顔を上げると「水を」とうわ言の様に口にていたので僕は慌てて少年を背負って村長のところまで連れて行った。
少年を村長の家まで運び水の入ったコップを渡すとくらいつくようにそれを一気に飲み干していく。2,3杯ほど飲んで落ちついたところで少年から事情を聴くことにした。だが、驚いたことにクラウンと名乗った少年は何も覚えていないという。自分がどこから来たのか?なぜここに居るのか?など、そう言ったことが一切解らないという事らしい。
とりあえずその日は僕の家で預かることになったのでその日の仕事は他の村人に頼んで家に早々に家に帰ることにした。家に入ってすぐ薄着の彼のために自分の古着をあげ、しばらく彼と話した後夕食を取り早めに寝ることにした。
僕が彼に抱いた印象は「不思議な子」だった。格好もそうだが、彼と話している時にここがどこだか知るために"地図"が見たいとか、何か"本"はないか?など聞かれた。普通そんな高価なものを持ってたり使ったりするのは大きな町でもそこそこ金を持ってる人か、商人か、はたまた冒険者くらいで普通はそう言ったものを見たいという発想には至らないだろう。っとなると彼はその類の子ということになるが・・・以前この村に来た冒険者の人と比べてみると彼は冒険者にはとても思えない。っとなるとどっかの商人の子供か、はたまたお金持ちの・・・もしかしたら貴族の子供なんじゃないか?そう感じるほどだった。色々思うところはあるが、今は寝て明日から考えることにしよう。
* * *
大!成!功!!
俺の立てた作戦が見事にうまく行き、無事村に入ることができたし飯にもありつけ、今は温かい布団の中でゆっくりと寝られている。狼たちがこの村を見つけ、いざ行こうと思ったときに気付いた問題を解決する作戦!
まず始めに狼たちを連れて堂々と村に入ったら大騒ぎになっていたであろうから、近くの森で人に見つからないように待機という俺の命令を与え隠れさせた上で行われた今回の作戦の最大の目的は衣食住と情報の確保だ。
それらの確保をするのに何がいいか考えた時ひらめいたのが『記憶喪失の少年を演じる』事だった。はっきり言ってベッタベタなシチュエーションではあるが流石ベタだけあってこうして無事に飯と服と寝る場所を確保できた。流石に情報まではどうしようもなかった・・・本どころか地図すらもないとは・・・だが、それである程度はっきりしたこともある。
この世界の文化レベルはまさにテンプレのようなファンタジーレベル。つまりは中世ヨーロッパとかそんな風に思っていればいいだろう。ざっと見た感じこの村は特に他の村や街などと交流があるわけでもなく基本自足自給でやっているようだ。おまけに家の造りや部屋の内装、衣類などからも大体それくらいだと思う。っとなるとこの村に滞在して情報を集めるよりはどうにかして大きな街に行く方法を考えた方がよさそうだ。
「・・・ん。ルビー・・・居るか?」
「・・・わふ」
ふとベッドから身体を起こして近くの窓からルビーを呼ぶと小さな鳴き声が返ってくる。こいつらを引き連れて堂々と入るのは騒ぎのもとだが、流石にこいつらが誰ひとりいないのも不安だ。ただでさえ俺には未知の異世界。おまけにかつて住んでいた日本とは比べるまでもないであろう・・・治安。それらを省みた時、自分を守る力すらないのだからと考えてルビーにだけは村人に見つからないように俺の近くに居るように命令した。
腕輪の力で強制的に支配下に置いているとはいえ仕事はきっちりこなすルビー・・・なんともありがたい限りだ。ちなみに一番目立つであろうルビーを護衛に付けた理由としては・・・ぶっちゃけこいつが一番強いからだ。
ここに来る前に狼たちの実力を知るのと能力を使いこなす練習のために少し模擬戦をやらせてみたのだが・・・ルビーが断トツで強かった。一対一だと他の奴らは手も足も出ないくらいあっさりのされてしまっていた。まぁ、そもそも出会ったときから他の奴らめっちゃ尻尾巻いておびえてたし実力の差は解ってたが・・・
「あぁ、特に用はない。今のまま村の人に見つからないように気をつけながら俺の近くに居てくれ」
「わふ!」
呼ぶだけ呼んでいたルビーをさがらせ、自分は再びベッドに仰向けで転がりながら今後の作戦を考えつつ静かな夜を過ごしていった。だけど、そうしているとふいに思うことがあった
「俺の目的考えると、いつか恩を仇で返す――」
・・・それ以上考えるのはやめよう。今は自分が生きることで手一杯なんだからその辺は考えないようにしよう。
「――!」
「・・・ん?」
寝入ってからまだそれほど経たないのに不意に眼が覚める。外はまだ真っ暗なのに騒がしい。
「う゛ぅぅ・・・がう!がう!」
「どうしたんだ?」
窓の外に居るルビーも何かを警告する様に頻りに吠える。その不穏な空気に不安が駆り立てられ、確かめる為にそっと部屋を出た。
──まるで地獄でも見ている気がした
怒号と悲鳴、そして立ち上る煙と燃え上がる家の光・・・何が起きて居るのかまるでわからなかった。
「クラウン!」
「ひっ!?」
背後からいきなり声を掛けられ思わず身を縮こませながら恐る恐る振り返るとそこには俺を泊めてくれたあの家主の青年だった。
「起きていて助かった。君は早く逃げるんだ!」
「あ、あの一体何が・・・?」
不確かな不安が少しずつ確かな恐怖に変わるの感じながら震える声で彼に問い掛ける。
不安が恐怖に変わるの理由・・・彼の手には使い込まれた鍬が握られていた。普段農作業に使っているであろうそれをまるで武器の様に構えて居るその姿が明示していた。
「盗賊共だ!ここからそう遠くない村が幾つも襲われているって風の噂で聞いてはいたけどまさかこの村に来るなんて・・・とにかく君は他の人たちと一緒に──」
そこから先はいまいち覚えていない。覚えているのは彼が盗賊達のいるであろう村の反対側へ走って行ったのただ呆然と見送った後、引きずられるようにルビーに連れられて森の中へと逃げ込んだことくらいだ。
そこから先の記憶は特にひどく、あいまいだった・・・でもその日は恐怖で朝まで目を瞑ることすら出来ずに木の下で小さくなって震えていた・・・それだけは確かに覚えている。
震えながら感じる・・・自分がひどくちっぽけで弱い存在だと・・・
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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さて、ようやく訪れた村で突如起きた事件。襲い来る盗賊達、立ち向かう村人、逃げるクラウン。
っということで今後は一気にシリアス・・・っていくかくらーい話になっていきますよー。