18.夢 または冬休みの始まり
おかしな夢を見た。
そこはひどく透明な湖で、水中には古代の神殿の柱のようなものが横たわっている。肌寒いくせに日差しがまぶしい。
あの人は、湖のほとりに立っていた。柔らかそうな髪が風に揺れ、出会った時と同じように、その一本一本を輝かせている。
あの人は少し微笑んでいるようにも、沈んでいるようにも見える。
水中の遺跡は揺れる波のせいか、彫刻か模様が描かれているようにも見えるがはっきりしない。
でも、あの人はそんなものには興味がなさそうに空を見つめている。
僕は目の前にいるはずなのに、こちらを向くでもなく横顔のまま空を見上げている。
そんな夢だった。
何のストーリーもないくせに、妙にはっきりとした夢だった。
目覚めると毛布から体がはみ出していた。これが肌寒かった原因だな。
それに、どうやら母さんが起こしに来たらしい。カーテンが開いていたせいで、ベッド脇の窓から陽が差し込んでいる。
夢の中でまぶしかったわけだ。
きっと僕は、あの人を神聖化しすぎていて、そんな手の届かない気持ちが湖底の遺跡として映像化されたのに違いない。
少しずつ現実が戻ってきて、今日から冬休みに入ったことを思い出した。
夢の中でも、僕はあの人の横顔を見ているだけなんだな。
美しいだけで、どこか物悲しい夢だったけど、あの人と会えただけでも良しとするか。
そんなふうに思い込もうとしても、結局、しばらくは夢の中のあの人の姿を追いかけてしまう。
そういえば、昨日は2学期の終業式だった。体育館に全校生徒が集められた中で、僕は3年生の方ばかりを見て、あの人を探していた。
終業式が終わると、3年生から退場する。
その時、3年生の列の中にあの人を見つけた。あの人は髪を揺らしながら、腰のあたりで左手を広げ、小さく振った。
あれ?僕に合図した?
いや、あの人に限ってそんなはずはないか。そう思って、あの人が手を振るような知り合いがいるのかと、後ろを振り返ってみた。
それらしい生徒は僕以外にいそうにない。と言って、僕に向けてのものだったのかも確信が持てないままだった。
せめて、こっちを見て少しだけでも笑ってくれるとか、目を合わせてくれるなりしてくれればいいのに。いや、あの人はそんなことはしないな……。
そう考えている僕の横を、あの人はいつもどおりの横顔で通り過ぎて行った。
きっと、終業式という僕達にとって神聖な儀式の場での、あの人のつかみどころのない仕草……。それが形を変えて夢に出てきたんだな。
昨日の終業式の帰り道。
小さな商店街の洋菓子店から、ケーキを焼くにおいが漂ってきた。店の前には何人かが並んでいる。
まあ、僕には関係のない日だ。でも、もしもあの人が僕に手を振ってくれていたのだとすると、ちょっとしたプレゼントだったのかな、とも思う。
いやいや、もしもではなくて、間違いなく僕に手を振ってくれたことにしておこう。
そう考えた方が得だ。沢田ならそう言うに決まっている。
しかし、やっぱりあの人の考えていることはよくわからない。本当に人目を気にしていたら、こちらに手を振るなんてことをするだろうか。
一緒にチーズケーキやアイスクリームを食べたり、雨の下校時に僕の傘に入ってきたりするだろうか。
そんなことを考えているから、おかしな夢を見てしまうのだな、そう思った。
冬休みが始まった。
きっと、切ないだけの休みになるのだろう。




