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偽善倶楽部

作者: たぬ吉

 彼女の勧めで『偽善倶楽部』なる団体に入った。何でも、俺は普段から素行に雑なところがあるから治したほうが良いとのことだ。

 思い当たる節は確かにある。カッとなりやすい性格なのは自覚しているし、無神経といわれることもある。そういわれるたびに、いつも直接俺に対して無神経といえるお前らこそ本当に無神経な持ち主だと思うものだが。だが、初めてできた彼女ということもあり、しぶしぶ言うことを聞くことにした。

 さて、この怪しい倶楽部。毎週決められた種類・回数の善行をしなければならない。サボったらペナルティが課せられる。誤魔化した虚偽の申告もどういうわけか見破られた。もちろん、その場合もペナルティがある。どのようなペナルティなのかは知らない。ほら俺、善人だし。


「今週は公共機関で席を最低でも3回譲ってください。ただし、お年寄りと体が不自由な人に限ります」

 工場地帯の一角、古く寂れた建物の一室に窓口はある。その部屋は、さながらテレビで見る刑務所の面会室のようで重苦しい。

 この団体がなぜ『偽善』なのか。それはステータスの向上にあった。意識的なステータスではない。実際に履歴書へ書けるのだ。社会ではボランティア活動よりもワンランク上に見てもらえるらしい。端から見れば両者に大きな差があるとは思えない。英語検定と漢字検定の違いのような、そんな印象しかもてなかった。ただ、こちらは国公認というわけだ。活動歴が長ければ長いほど、そのステータスは高いものとなる。活動ランクなるものがあった。

 俺はその日も、半場指令とも思える偽善行為書を受け入れて建物を出た。


 それから一週間後、今週分の偽善行為を終えて倶楽部へ向かった。いつ来ても薄気味悪い場所だ。どうしてこんなひっそりとした立地にあるのだろう。

 駐車場に自動車を停め、助手席に放っておいた報告書の入った茶封筒を手に建物へと向かうと、中から彼女が出てきた。先ほど連絡を入れたら「今日は会えない」といわれたばかりだ。倶楽部に来るなら一緒でもよかったのに。

「なんだ、用って倶楽部だったんだ。言ってくれればよかったのに。ちょっと待っててよ。俺も報告すぐに済ませるからさ。一緒にご飯でも食べに行かない?」

 すると、彼女は今まで見せたことのない不機嫌な顔になった。

「私の活動終わったから。昇格試験も兼ねた活動。モテないあんたと付き合ってあげるのがそうだったんだよね~。にしても長かったわ~」

 俺はいきなりの告白に状況を飲み込めずにいた。すると、彼女はケータイでメールを打ちながら言った。

「あ~、もう。そんなキョトンとしないでよ。一人の気弱なモテない男が少しの間とはいえ彼女ができたんだからさ。よかったジャン」

 彼女がケータイをパチンと閉じた音が合図となった。


 やらぬ善よりやる偽善とはよく言ったものだ。ただ、善を受けた身としては、それがどちらからくるものなのか知りたくはなかった。俺は動かなくなった彼女を自動車のトランクへ無造作に押し込み、血のついたシャベルを持って偽善倶楽部の窓口へと向かった。こんな倶楽部。壊してしまったほうが世のためだ。

 それこそが本当の善行ってものではないだろうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。カッとなりやすい設定がそこで生きるのかと感心しました。ブラックなオチが良い感じです。 [気になる点] ちょっとわからないところがありました。 「誤魔化した虚偽の申告もどうい…
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