ライバル令嬢
友情エンディングがある乙女ゲームのイメージです。あくまでイメージです。
乙女ゲーム「友愛と恋」。ヒロインと競いながらも、友情を育む悪役ではない、ライバルな令嬢に転生した事に気付いたのは5歳の頃。気付いた瞬間、「ヒロイン任せで結婚相手が決まるのは危険だ」と悟った。
ゲームの内容は諸事情から貴族令嬢になった平民上がりの男爵令嬢が、慣れない学園生活の中、勉学と友情、そして恋に懸命になる、と言うもの。
攻略対象は6人。途中までは全員同時攻略が可能だけど、途中からは個別ルートに入る仕様(全員とエンディングを迎えた後ならば、ハーレムルートが開く。但しこのハーレムは恋愛ではなく、友情ハーレム。メンバーの中にはライバル令嬢が含まれる)。
攻略対象の個別ルートでは、其々違う持ち味のシナリオがあるけれど、共通するのは攻略対象とライバル令嬢の婚約が持ち上がる事。此処からヒロインとライバル令嬢との親密度の取り合いが起こる。
この時、気を付けなければならないのは、ライバル令嬢との間に隠し親密度がある事。当然の話だけど、恋愛イベントばかりを追い掛けるとライバル令嬢との親密度がドンドン下がる。結果、虐めイベントが始まってしまう。
虐めイベントが始まるとライバル令嬢との親密度修正は不可能で、後は断罪イベント真っしぐら。ザマァ返しされて、バッドエンドになってしまうのだ。
だけど他方、ライバル令嬢との友情を追い掛け過ぎると、攻略対象はライバル令嬢を選び、ヒロインは身を引くエンディングとなる。当然、此方もバッドエンドだ。
つまり重要なのはライバル令嬢との親密度と、攻略対象との親密度のバランス。一方に傾き過ぎない様にイベントを熟さなければならない。上手く行けばライバル令嬢は身を引き、ヒロインと攻略対象は結ばれる。その際、ヒロインの憂いない幸福の為か、ライバル令嬢は別の相手と結ばれる。その相手もまた、攻略対象なのだ。
攻略対象が6人、つまり偶数なのはライバル令嬢の為で、ライバル令嬢の相手はヒロインの選択によって宛てがわれる。ヒロインが攻略対象Aと結ばれるなら、ライバル令嬢は攻略対象Bと、ヒロインが攻略対象Bと結ばれるなら、ライバル令嬢は攻略対象Aと、ヒロインが攻略対象Cと結ばれるなら、ライバル令嬢は攻略対象Dと、ヒロインが攻略対象Dと結ばれるなら、ライバル令嬢は攻略対象Cと、ヒロインが攻略対象Eと結ばれるなら、ライバル令嬢は攻略対象Fと、ヒロインが攻略対象Fと結ばれるなら、ライバル令嬢は攻略対象Eと結ばれるのだ。
だからライバル令嬢は自分の結婚なのに、自分で選べない。貴族令嬢にありがちな、父親に政略結婚を命じられるのとも違う。家の繋がりで……、とも言えないヒロインに結婚相手を決められる。
ゲームをプレイしているなら何も思わなかったけれど、今は現実だ。結婚相手をヒロインに決められるのは嫌だ。
でも幸いな事は、ゲームでライバル令嬢が不幸では終わらない事。断罪劇はザマァ返しの為で、実際には追放も処刑もされないし、厳しい修道院に入る事もない。問題と言っても、まだマシだとは思える。だから「結婚相手をヒロインに決められるのは嫌だ」と言うのは我儘かもしれない。ライバル令嬢のお相手だって、素敵な攻略対象なのだから。
けれど前世は日本人なのだ。結婚も恋愛も倫理を守っていれば、自由だった。やむを得ない事情があっての事ならば、結婚相手を決められても納得しようとするだろうが、ヒロインの自由意志に依る強制は遠慮したい。
それに……、言い訳になるかもしれないが、ヒロインがヒドインでない保障も無い。自衛の為にも選択権が欲しい。強制力で剥ぎ取られる程度ではない、ちゃんとした選択権が。
ーー私だって、推しと結婚する未来が欲しいのよ!!!
ヒロインの選択に依って、一番興味の無い攻略対象と結婚、とかしたくない。だから努力するしかなかった……。それだけだった。
学園でヒロインと攻略対象達が出会う前に、貴族でありがちな「幼い頃からの婚約者」を目指して。
ーーどうしてジークフリードなのぉ〜!?
6人の攻略対象の中、王道である王太子ジークフリード。一番興味が無い攻略対象。尚、推しは知的派第二王子フェルディナンド。
ゲームではフェルディナンドと結婚すれば王子妃となった。つまりは王族入り。だから「王族に相応しい、是非とも」と評価される様に努力した。ゲームでは学園での学びを頑張る事で魅力値を上げていったヒロインを思い出しながら。
結果。大人の記憶を持つ令嬢の、努力の甲斐ある優秀さと、王族入りしたい当人の希望が重なって、「未来の王弟妃より未来の王妃に!」となってしまった。
幼い娘の言う、「フェルディナンド第二王子殿下の妃」。確固たる気持ちだと思われていなかった事もあり、「優秀な令嬢を王妃に!」とジークフリードとの婚約が決まってしまったのだった……。
そして月日が経ち。学園でジークフリードはヒロインと出会い、距離が縮まった。当初は歓喜した。と言うのもヒロインがジークフリードを攻略した場合、ライバル令嬢はフェルディナンドと結ばれるからだ。
けれど此処でゲームとは異なる行動を取って来た事が仇となった。ゲームではライバル令嬢もジークフリードもフリーなのだが、今は確固たる婚約者同士、互いに立場があり、其れを守らねばならない。片側が義務を蔑ろにするなら、もう片側は諌めなければならないのだ。
ーー嫌だわ、まるで悪役令嬢じゃないの。
ゲームではヒロインが親しくなった攻略対象との婚約が持ち上がるライバル令嬢。其処からの親密度の奪い合い。それが敵うのは、婚約が仮婚約だから。
本婚約に至る為の努力は義務だが、相性を確かめる期間でもあるので、駄目だった時の為、他の異性とのそう言った交流も許されるからだ。
だけれど今はそうは行かない。長年結ばれた婚約と言う名の契約は仮ではない。婚約者として、ヒロイン視点では悪役令嬢の立ち回りをせねばならない。
ーー本当に自分でも嫌になるわ。
親しくなる等、当然、不可能である。そしてヒロインに対する虐めが始まる。手を下すのは同派閥の令嬢達。幾ら「余計な事をするな」と言っても、潔癖な正義感を暴走させ、「浮気絶許」のスローガンで攻撃が止まらない。
ーーあああああ……!
派閥の統制が上手く行かない事に頭を抱える。そもそも何故、ヒロインはジークフリードを選択したのか。その選択は本当にヒロインの意志なのだろうか。ライバル令嬢が先んじて、ジークフリードと婚約した事で、ヒロインと同じ男を奪い合うシナリオの強制力が働いてしまったとは言えないだろうか。
ーーもしそうだとしたら、ジークフリードの気持ちも……!
どうしたって疚しさを感じてしまう。シナリオとしての虐めだけでなく、虐めそのものに対する罪悪感。其処に先行きが見えない事への不安も湧き上がって来る。
ゲームでは虐めが始まって仕舞えば、ライバル令嬢との親密度は修復出来ず、断罪イベントからのザマァ返しは避けられない。ヒロインはバッドエンドを避けられない。ーー加えてライバル令嬢の将来が不透明になる。
ザマァバッドはヒロインと攻略対象が結ばれない結末だけを語り、ライバル令嬢に付いては何にも語られない。だからライバル令嬢とフェルディナンドと結ばれると確定するのは、ヒロインとジークフリードが成就するハッピーエンドのみ。
ーー私、どうなっちゃうのよ〜!!!
そして後悔する。「どうしてこの時に婚約解消を願わなかったのか」と。「ゲームと現実は違う」とか、「強制力はあるかもしれない」とか、色々惑って、「ヒロインとジークフリードが結ばれる為の障害を全うし、フェルディナンドと結ばれる」可能性から、その立場にしがみついてしまった事を。
卒業式を迎えるより早く、断罪は行われた。断罪したのはジークフリード、ではなく、国王。断罪されたのはフェルディナンド。彼は王位簒奪を企てたとして裁かれた。
ーーそ、そんな……!
どの歴代王妃より優秀になるだろうと評価されていた故に、ジークフリードは次期王妃の婚約者だから王太子だと世間では噂されていた。
ーー私が優秀過ぎたばっかりに……!
義弟となる予定のフェルディナンド。推しである事とは別に交流があるのは当然の事。問題はその交流に対する世間からの見方。フェルディナンドが次期王妃を己のものにせんとしている、と見られた事。
世間の評価から、「そうすれば王位を奪えると思ったのだろう」と国王に判断されてしまった。
そして当然、それは2人が不貞の関係にあったと判断されたからこそ、の話。反逆者の末路は処刑一択。
ーーあああああっ!!! 嫌よっ!!! 死にたくないっ!!! 私はライバル令嬢よおおおおっ!!!?? 悪役令嬢じゃない筈よ〜〜〜っっ!!!!?
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名前をちゃんと付けようと名前辞典を調べて見ましたが、面倒になって2人で断念した結果です。




