立ち向かう決意と彼女の不安
「おい光太、聞いたか? なんか学内掲示板が大荒れらしいじゃないか」
石川 拓海が声をかけてきたのは翌日の昼休みだった。
光太は急いでスマホを開いて学内専用の掲示板を確認する。
そこには「ミスコン準優勝の三浦 未来って子が出てる動画見つけた」や「AV女優か?」なんて書き込みが並び、嘲笑や興味本位のコメントが飛び交っていた。
「これはまずいな。完全にデマと真実が混ざって、めちゃくちゃになってる」
「しかも普通に名前まで書いてあるし、あれアウトだろ」
拓海は眉をひそめ、スマホをポケットに戻した。
「どうするんだよ。ここまで広まったら、おまえと未来が否定しても聞かないやつ多いぞ」
「わかってる。でも黙ってたら余計にエスカレートする。何とかできないかな……」
光太は歯がゆそうに額に手を当て、周囲を見回した。
場所を変えようと二人は一度学食を出て、廊下の端で話し合う。
「まずはガセネタだって書き込みするのが手だよな。でもネット上の連中は『本人降臨』とか言って面白がるだけかもしれない」
「それに下手に光太が擁護すると、かえって“あいつもグルだ”とか言われるかも」
拓海が苦い顔でつぶやく。
光太も大きく息を吐いた。
「未来はきっとショックだろうな。そもそも普通の配信だって、表に出せないってだけなのに……AVなんてデマが広まったら……」
「しかも結構な勢いで拡散してるみたいだぜ。いくつかのSNSにも貼られてるらしい」
拓海はスマホをいじりながら、小さく舌打ちした。
「ここまできたら、もう学内だけの問題じゃない。早く止めないとまずいよ」
急ぎ足で教室に向かうと、そこで未来に会うことができた。
彼女はノートを抱えたまま、何か考え込んでいるように見える。
「未来、大丈夫か?」光太は周囲をはばかりつつ声をかける。
彼女はうつむいたまま、小さく首を振った。
「大丈夫じゃない。どうしてこんなことになっちゃったんだろう」
「噂は消せないかもしれないけど、俺たちで何かしら手を打つから。
それに拓海も協力してくれる」
「うん、ありがとう。でもこんな騒ぎになっちゃったら、私……やっぱりもう配信なんて続けられないよね」
未来の瞳に涙がにじんでいるように感じた。
光太は彼女の手元に視線をやり、そっと言葉を選んで口を開く。
「それは……未来が決めることだけど。だけど、もうちょっと冷静になってからでもいいんじゃないかな。今は一気にいろんな情報が飛び交ってるから」
「わかってる。でも、すでに大学の人たちまで騒ぎ出してるし、本当に明日にも教授や学生課に呼び出されるかもしれないんだよ」
未来の声に絶望がにじんでいる。
光太はかける言葉を探しながら、また一つ深いため息をついた。