三人の未来、これからの物語
「おまえらはいい感じだけど、俺も将来どうすっかなあ」
石川 拓海がぼやくように言うと、光太と未来はくすっと笑った。
光太が目を丸くし、「将来って、飲食店を継ぐかどうかって話?」と尋ねると、拓海は肩をすくめた。
「そうなんだよ。実家は小さな店やっててさ、親父は俺に店を継いでほしいらしいけど、俺自身はまだ迷ってる」
未来が興味深そうに声をかける。
「拓海くんは料理も上手そうだし、継いでも活かせるんじゃない?」
「まあね。ドラム叩いてるときのリズム感と、包丁さばきはちょっと似てる気もするし。でも俺としては音楽も続けたいし、もっと自由にやりたいんだよな」
「たしかに、拓海はなんでもそつなくこなせるけど、逆に言えば一つに集中しないタイプだよな」
光太が冗談めかして言うと、拓海は吹き出しそうに肩を揺らした。
「それ、めちゃくちゃ当たってるわ。
俺、何かやりながら“まあ楽しくやれればいいか”ってノリで生きてきたから、大きな挫折もなく来ちゃったんだよ」
「でも、それっていいことじゃない?
明るくて行動力があるから、私もすごく助かったもん」
未来の言葉に、拓海は軽く鼻をこすった。
「ありがとな。
まあ、つらいことあっても笑ってるほうが得だろってのが俺のやり方だし。
ただ、この先どうするかは真面目に考えないと、親父にも申し訳ないしな」
「悩むならゆっくり悩めばいいんじゃない?
うちの大学、就活はまだ先だしさ」
光太が言うと、拓海はうなずいて笑う。
「そうするわ。
まずは卒業までにしっかり単位も取りつつ、店を手伝いに帰る回数を増やして感触を確かめてみるか。
それで自分に合うかどうか見極めるってのもありだろ」
「いいね。そうやって、迷いながらでも前に進めば、きっと答えが見つかるよ」
未来がそう励ますと、拓海は「おまえら二人が近くにいるなら、俺もいろいろ試せそうだ」と笑みを浮かべた。
「それにしても、拓海はいつも周りを盛り上げてくれるよな」
光太がしみじみ言うと、拓海は「やめろ、照れるわ」と軽く手を振った。
「俺なんかまだまだだよ。
けど、みんなが楽しくしてるのを見ると嬉しくなるんだ。
おまえらだって、“あの配信の噂”で落ち込んでたのを乗り越えて、すごくいい雰囲気になったしな」
「あれは拓海のおかげでもある。掲示板やSNSでも、根気強くフォローしてくれたろ?」
「大したことしてねえよ。俺がやったのは“やめろやめろ”って叫んだだけだし。でも、そんな小さな声でも集まれば少しは流れが変わるかもって思ったんだ」
拓海はドラムスティックをカバンから取り出し、クルクルと回しながら首をかしげる。
「ま、これからも俺は俺のペースで動くつもりだけど、飲食店を継ぐもよし、音楽続けるもよし。
おまえらが近くでバカみたいに頑張ってるのを見てると、俺もなんかできそうな気がするし」
「拓海くんらしいね。いつか三人で何か一緒にプロジェクトとかできたら面白そう」
未来が微笑むと、拓海は「お、いいねえ」と声をはずませる。
「光太のギター、未来のプレゼン力、そして俺の勢い……無敵かもしれねえじゃん?」
「ふふ、それ無敵かはわからないけど、心強いかも」
光太が笑うと、拓海も「まあ、とりあえず今は大学生活満喫しようぜ」と立ち上がった。
それぞれの夢を抱きながら悩みを抱えつつ、三人は肩を並べて歩き出す。
もう大きな波乱はひとまず去り、彼らの足元に明日への道がはっきりと延びているように思えた。