未来の夢と彼女の歩む道
「未来ちゃんは、やっぱりその黒髪が印象的だよな」
石川 拓海が褒めるように言うと、三浦 未来は照れくさそうに髪を払った。
「巻いてるのは軽いクセもあって、ちょっとだけ手入れもしてるんだ。
大学じゃ地味な服装をしてるつもりなんだけど、やっぱり目立つのかな」
「そりゃあ目立つさ。大学ミスコンで準優勝だったらしいし」
拓海が茶化すように笑うと、未来は困ったように唇をかむ。
「でも実際はそんな華やかな生活してないんだよ。父が亡くなったあとの生活はずっとギリギリで、母のパート代と奨学金じゃ足りなくて……」
すると光太が静かにうなずく。
「でも、そういう厳しい状況の中、未来はちゃんと勉強もサボらずにやってきたんだろ。マーケティング論のレポートとか、いつもハイレベルだったじゃん」
「がむしゃらにやってるだけ。将来は企業に入って稼がないといけないし、母を楽にしてあげたいから」
未来の声には責任感がにじんでいた。
「だけど、一人で抱え込みすぎるときついだろう。配信を始めちゃったのも追い詰められてたからだよな」
拓海がそう言うと、未来はほんの少し目を伏せた。
「うん。お金を得る手段としては確かに効率的だったから、飛びついちゃった。でも罪悪感はあったし、友達にも言えなかった。
実際問題、配信してる私を“汚い”って思う人もいると思うから」
「俺はそれが原因で未来を否定したりしないよ。
むしろ、あんな状況でもちゃんと母親想いで頑張れるんだって、すごいと思う」
光太が力強く言葉を重ねると、未来は笑顔を浮かべた。
「光太くんはあたたかいよね。だから私、嬉しかったんだ。
本当はちょっと“配信なんて”って軽蔑されるんじゃないかって怖かったの」
「好きな子が必死にやってたことを、一方的に否定なんてできないさ」
光太がそう言うと、拓海がパチパチと手を叩く。
「はいはい、ラブコメ全開ですな。
でも未来ちゃんって、家のことだけじゃなくて、ゼミのプレゼンとかもめっちゃうまいじゃん?あれって訓練してんの?」
未来は恥ずかしそうに首を振った。
「特に訓練はしてないよ。
ただ、伝えたいことをまとめるのは昔から好きだったんだ。
父が生きてた頃、“何かを説明するのが上手だね”って褒めてくれて」
「ふーん、そっち方面に行けばいいんじゃないの。
企業で広報とか、プレゼンする役とか」
「うん、それも考えてる。
あとは奨学金返して、母の負担を減らして……多少苦労しても、二人で乗り越えたいんだ」
未来の瞳には小さな決意が灯っている。
それを見て光太は、そっと微笑んだ。
「配信のトラブルも山ほどあったけど、これからは学費補助とかも受けられるかもしれないし、噂も少しずつ収まっていくよ。
大学でやりたいことがあるなら、遠慮なく言ってくれ」
「ありがとう。
なんか、もう一回ちゃんと夢に向き合いたいって思えるんだ。
父がいた頃は、私にも“明るい未来”があるって信じられたから……今度は自分でそれをつかみたい」
そう言って目を細めた未来の姿に、拓海も「いいじゃん」と声をかける。
「俺も応援するぜ。だって未来ちゃんが元気だと光太もやる気出るし、大学生活が楽しくなるからな」
「もう、からかわないでよ。でもありがと、二人とも」
そうつぶやく彼女の唇には、いつになくはっきりした笑みが宿っていた。