光太の変化、そして決意
「光太くんって、昔からずっとそんな調子なの?」
三浦 未来がそう尋ねると、日向 光太は恥ずかしそうに頭をかいた。
「うーん、調子ってどんな?」
「その……夜更かししたり、猫背でぼんやりしてたり、あとギターのことになると目が輝くのに、普段はかなり控えめだよね」
「たしかに、光太が急に熱くなるのはギター弾いてるときくらいかもな」
石川 拓海が笑いながら横から口を挟む。
光太は困ったように肩をすくめて答えた。
「正直、俺って大勢の前で目立つの苦手なんだ。子供の頃からそんな性格でさ……姉貴にはよく“もっと堂々としろ”って怒られてたよ」
「でも、高校の文化祭ライブでは張り切ってたんだろ?」
未来が興味深そうに身を乗り出すと、光太は少し照れたように笑った。
「そこだけは自信あったんだよ。
ギターは中学から続けてきたし、自分でも好きでやってるからさ。
あのときはけっこう盛り上がって、成功して……昔はヘマも多かったけど、ああいう経験が少しは自信をくれた気がする」
「けど大学入ってからは、あんまり前に出るタイプじゃないよな」
拓海が頷きながら言うと、光太はギターケースをそっと撫でた。
「だってさ……軽音部では何人か目立ちたがりもいるし、俺が出しゃばるのも違うかなって思ってた。それに、やっぱり怖いんだよ。
告白とか、人前でちゃんと意見を言うとか、失敗するのが嫌でさ」
「でもあんた、未来のためにはすごく頑張ってたよ」
拓海がそう言うと、未来もふわりと笑顔を見せる。
「そうだよ。私が配信のことを打ち明けたとき、光太くんが“誰にも言わない”って約束してくれたの、すごく心強かった。
普通なら引いちゃうかもしれないのに、ずっと私の味方でいてくれたもん」
光太は恥ずかしそうに視線をそらした。
「そりゃあ好きな人が困ってたら放っておけないだろ。臆病な割に、こういうときだけは突っ走れたのかも」
「でも、おまえは臆病って言うけど、思いやりがあるところが一番いいとこじゃねえか。そこはもっと誇っていいと思うぞ」
拓海が真剣な顔で言うと、光太は少し驚いたように瞬きをした。
「行動力に乏しいところが短所でもあるんだけどさ……まあ、ありがとな。
この先も未来と二人三脚で進みたいし、やるしかないって気持ちはあるよ」
「ふふ。そういう決意表明、ちゃんと声に出せるようになったのは成長かもね」
未来がくすっと笑うと、光太は肩をすくめて照れ隠しをする。
「確かに昔の俺じゃ考えられなかったかも。
深夜に“ポルノバブ”ばっか見てたり、妄想に逃げてた頃よりは、ちょっとマシになったかな」
そう言ってギターの弦を軽くはじくと、ピンと澄んだ音が周囲に響く。
「俺、これからも曲作ったりして、未来を楽しませてあげたいんだ。
大げさだけど、自分の音楽で誰かの助けになれるなら、こんなに嬉しいことはないから」
「そっか。じゃあ私も、これからは光太くんの音楽に支えられるね」
未来がそうつぶやくと、拓海が「じゃあさ」とにやりと笑う。
「バンドにボーカルで参加する気はないか、未来?」
「え、私? そんな特技ないよ」
「あはは、冗談だよ。でも、おまえらが一緒にステージ立ったら面白そうだろ」
光太は思わず吹き出した。
「まあ、そのうち何かの形で一緒にできたらいいな」
そんな言葉を交わす三人の姿には、ほんのりした温かさと、これからの小さな期待が混ざり合っていた。