反撃の狼煙
「ちょっと落ち着いて話そうぜ」
石川 拓海はそう言って、大学のラウンジの片隅に光太を呼び出した。
二人で椅子に座り、周囲を気にしながら小声で会話を始める。
「未来とはどうなってるんだ。聞けば聞くほど大変そうじゃねえか」
「正直言うと、もう距離を置かれてる感じだよ。噂が収まるまで俺に近づかないほうがいいって……」
光太が苦い表情を浮かべて肩をすくめると、拓海は軽く舌打ちした。
「なるほどな。それでも放っておけないんだろ?」
「うん。あいつ、今にも大学から呼び出されそうだし、学費のこともある。
母親を悲しませたくないって思いが強いんだ」
「そんなら一肌脱ぐしかないな。俺も手伝うよ。だって未来ちゃんも同じ大学の仲間だし、放っとけねえだろ」
拓海は鼻を鳴らすように言い切った。
光太はその気概に少し励まされる。
「まずは掲示板やSNSで、誰かが面白半分に煽ってる投稿をどうにかしよう。根拠のないデマだって、ちゃんと訴えていかないと沈静化しないぞ」
「でも俺がそれを言ったら“本人乙”って叩かれそうだし……」
「だからって黙ってたら変に拡散されるだけだぜ。やるしかないんだ」
拓海はスマホを取り出しながら、目を輝かせている。
「それに、大学の学生課に相談ってのも手じゃないか。
一方的に未来が悪いって思われる前に、誤解を解く方法を探したほうがいい」
「でも学生課がどこまで聞いてくれるかな……」
「裏を返せば、大人に正式に対処してもらうための手続きだろ。
別に未来が悪いわけじゃねえんだし、勇気を出して説明すりゃいい」
拓海の言葉に、光太は少しだけ顔を上げた。
「そうだな。大学に誤解されたくないなら、早めに行動したほうがいいよな」
「だろ?じゃあこれから何するか、ざっと段取り組もうぜ」
場所を移して、二人は学食の空いているテーブルについた。
拓海がメモ帳を広げてペンを走らせる。
「まず学内掲示板の荒れたスレッドに、落ち着いて書き込む。
未来のことをやたら誹謗してる連中に“デマやめろ”って呼びかけるだけじゃだめだ。やさしく諭す感じがいいんじゃね?」
「例えば“大学側に誤解がないように話してる最中です”とか、そんな表現?」
「そうそう。あとSNSもチェックして、変な投稿やリプライがあったら地道に説明していこう」
「そんなんで本当に効果あるのかな」
「まあ、すぐに効果はなくても、やらないよりましだ。それに噂って意外と飽きられるのも早いからさ」
拓海の声には妙な説得力があった。
光太は小さく息をつきながら、スマホを取り出して掲示板を開く。
スクロールするほどにひどい書き込みが目に入り、胸が痛む。
「未来がこの書き込みを見たら、どれだけつらいんだろうな」
「だからこそやるしかない。あいつを守りたいんだろ?」
拓海はそう言うと、軽く拳を合わせるしぐさを見せた。
光太もかすかに笑って、それに応えるように自分の拳を合わせる。
「よし、ここからが勝負だな」