「ゆめのなかのくに ~歌おうよ!~」
❅冬の童話祭2024参加作品です。
あるところに、はぁちゃんという女の子が居ました。
はぁちゃんは生まれつき喉が弱くてよく風邪を引いていました。
そんなはぁちゃんの将来の夢は歌手になることでした。
けれど喉が弱いはぁちゃんにとってそれは本当に夢でした。
ベッドで咳をしているはぁちゃんを見たはぁちゃんのお父さんはある事を思いつきました。
そしてクリスマスの日。
「今年のプレゼントはなあに?」
きらきらした目ではぁちゃんはお母さんに聞きます。
今日という日をはぁちゃんはとっても楽しみにしていました。
はぁちゃんのお父さんとお母さんは二人で顔を合わせてうふふ、と笑いました。
「お父さんとお母さんどうしたの?」
訳が分からずはぁちゃんは首をかしげます。
「うふふ、はぁちゃんはきっとびっくりするだろうから」
「その驚く顔を想像しちゃってね」
そう言うと、はぁちゃんのお父さんは後ろに隠してた大きなプレゼントの籠を渡しました。
「え、え。なあにこれ!」
目を白黒させるはぁちゃんにお母さんは笑って言いました。
「はぁちゃんのお友達のセキセイインコさんよ!」
「わあ! 小鳥さんだ!」
籠の中では青色と白色の模様のセキセイインコがぴょんぴょんと枝から枝へと移動していました。
「可愛い! ありがとうお父さんお母さん!」
はぁちゃんは大喜び。
ベッドの傍に籠を置いてじーっと眺めては目を丸くしたり笑ったり。
それはそれは楽しそうにしていました。
はぁちゃんはそのセキセイインコに「リズム」と名前を付けました。
たまにそのセキセイインコが歌う様に鳴きながら、枝から枝へとステップを踏むように移動すると、
「リズム上手だね!」
とはぁちゃんは拍手をして褒めたのでした。
そんなある日のこと。
リズムがはぁちゃんの方を見て歌う様に何度も鳴くので思わずはぁちゃんも歌い出しました。
しかし。
すぐにはぁちゃんの喉は痛くなって咳をしてしまいました。
「う、うわーん!」
とても悲しくなったはぁちゃんは泣き出してしまいました。
お母さんが慌ててはぁちゃんを抱き寄せます。
ぐすぐす、とはぁちゃんはそのまま泣き疲れて寝てしまったのでした。
そんなはぁちゃんは夢を見ました。
「ゆめのなか」です。
気付くとはぁちゃんの肩にリズムが止まっていました。
「リズム……」
はぁちゃんはまた悲しくなってきました。
その時でした。
「はぁちゃん、歌おう、歌おうよ!」
「リズムがしゃべった!」
何と、肩のリズムがはぁちゃんに頬ずりしながらお話したではありませんか。
はぁちゃんはびっくりしましたが、すぐに泣き出してしまいました。
「はぁちゃん、どうしたの?」
「だって、だって! 喉が痛くなるからわたし歌えないもん!」
「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ、はぁちゃん」
リズムははぁちゃんの顔の前で飛びながら、一生懸命という感じで語りかけます。
「ここは『ゆめのなか』だよ、はぁちゃんは歌えるよ。喉も痛くならないよ」
はぁちゃんは涙の目で黙っています。
「ぼく、はぁちゃんと歌いたいっていつも思ってたんだ! ほら、はぁちゃんの好きな歌!」
リズムははぁちゃんの一番好きな歌を歌い始めました。
その歌が大好きなはぁちゃんは心がうずうずしてくるのを感じました。
「…………♪~」
リズムの歌に合わせて、はぁちゃんは小さく歌い始めました。
歌の歌詞が二番になっても、はぁちゃんの喉は痛くなりません。
はぁちゃんは嬉しくなって大きな声で歌いました。
こんな楽しくずっと歌えたのは初めてです。
それからはぁちゃんとリズムはいくつもの歌を一緒に歌いました。
その歌声は『ゆめのなか』の国中に響き渡ったといいます。
「手術?」
はぁちゃんはびっくりしてお母さんを見上げました。
お母さんの隣でお父さんが説明します。
はぁちゃんが喉の手術をすれば痛くなることが無くなるのだと、お医者さんに言われたというのです。
はぁちゃんはリズムの方向を見ました。
リズムは今日も歌う様に鳴いています。
「分かったよ、わたし喉の手術する!」
はぁちゃんは覚えていました。
ゆめのなかでリズムと楽しく歌ったことを。
あれは夢であったけれど、本当に楽しかったからです。
だから、はぁちゃんは夢の中だけでなく本当にリズムと一緒に歌いたかったのです。
「待っててね、リズム。わたし頑張る!」
数年後。
はぁちゃんはすっかり大きくなりました。
もう風邪もほとんどひきません。
はぁちゃんは今でも夢を諦めてはいません。
手術をして、喉が治ったはぁちゃんはリズムと一緒に歌う毎日を過ごしました。
その思い出があるから。
はぁちゃんの夢が叶うまで、そう年月はきっとかからないでしょう……。
お読みくださり、本当にありがとうございます。