失踪と謀
「う、嘘.......そんなことがあるわけが無い......これは夢でしょ...ねえ、あなたはあの時に死んだはず...答えてよ.......アイラ...」
謎の人物ネクロンの正体は数ヶ月前に死亡したはずのルシーラの実妹、アイラ・ロントハイムだった。
流石のキョウカたちも予想外の人物の登場に驚きを隠せないでいた。
「なっ...あいつはアイラ!?どうして生きているんだ...」
「確かに私たちはアイラさんの遺体を回収して墓地に埋葬したはず...一体何が起こっているんでしょうか...」
しかし、司会のヘレン達にはそんなことが分かるはずもなく、急に動きを停めた二人を不思議そうに見ていた。
「あれ?両者とも止まってしまいましたけど大丈夫ですか?」
そんな言葉を無視してアイラはルシーラに告げる。
「お姉ちゃん.......やっと会えた、ねぇ少し耳を貸して...」
そしてルシーラに何かを耳打ちしたのだ。
「........!?」
それを聞いた途端にルシーラの表情が曇り、俯いた。
「........降参します、私の負けです...」
なんとルシーラは負けを宣言してしまったのだ。
「うんうん、お姉ちゃんなら分かってくれると思ったよ!」
アイラは満面の笑みをルシーラに向ける。
「え......勝者...ネクロン.....!!こ、今大会の優勝者が決まりました!」
こんな異常事態を誤魔化すように上手く進めるヘレンだったのだが、この妙な結果に納得がいっていないのか、観客からは大ブーイングが巻き起こっていた。
「おい、なんだこのつまんない決勝はー!!」
「司会も何勝手に終わらせようとしてんだよー!!」
辺りから発せられる野次に怒りを覚えるキョウカ達だったが、それ以上にアイラが降参したことについて驚きを隠せないでいた。
「る、ルシーラさん降参しちゃいましたよ!?まだチャンスもあったのに...」
「でも何かおかしかったですわ...あのアイラさんという方がルシーラになにか耳打ちしていたように見えました、お姉様も見てましたわね?」
レガリアスは分かっていなかったようだが、キョウカとキャロルは耳打ちしたことを見透かしていた。
「ああ、アイラに耳打ちされる前は驚きの表情をしていたが、その後は全てを諦めたようなものに変わっていた...アイツ、一体何を吹き込んだんだ」
そうして、よく分からない結果を残したまま国際武闘大会は終幕を迎えた。
教会に戻ってからのルシーラは俯いたままで話しかけても無反応だった。
彼女の様子を見かねたのだろう、キャロルがルシーラの元へ向かおうとする。
「もう我慢できませんわ、お姉様ちょっとルシーはガツンと言ってきます」
しかしその肩をキョウカは掴んだのだ。
「いいや、今はそっとしておけ、余計に詮索しても状況が拗れるだけだ」
「京真さんの言う通りですね、ここはルシーラさんが落ち着くまで待つのが一番ですよ」
彼女たちは余計な詮索はせずに静観を貫くことにしたのだが、この選択を後に後悔することになる。
―翌日
一夜明けてもルシーラが部屋から出てこないのだ、かつてのキャロルみたいに閉じこもってる可能性もあったのだが、キョウカは彼女の気配すら感じなかったのが不審だと思った。
「おい、ルシーラ入るぞ」
妙な胸騒ぎを感じ、ルシーラの部屋に入ったのだが、案の定だった。
部屋はもぬけの殻で、窓は大きく空いておりカーテンが靡いてた。
「これは...書き置きか...そういうことかよクソっ!何が余計な詮索はするなだよ...」
そこに書かれていたのは。
(いままでありがとう、キョウマたちにはすごい世話になったし感謝もしてるけどこれ以上は私の事情で迷惑はかけられない、これを見てるってことは私はもう失踪したということだからこれからの神聖ミカド組をよろしくね ルシーラ・ロントハイム)
ルシーラの別れを告げるメッセージだった。
―同時刻、某所
暗殺組織マガツの拠点ではボスを中心に幹部陣による会議が行われていた。
「ロントハイム家の当主にルシーラ・ロントハイムの情報を流すことにより奴らの主力を一人削ることに成功しました」
一人の幹部が驚くべき作戦の成功を告げる。
「ご苦労、これで神聖ミカド組を潰す道のりが見えてきたな、我々マガツの仕事を妨害した奴らは絶対に許さん、どんな手を使ってでも瓦解させる」
ボスが告げた目的、それは皇帝暗殺を阻んだ神聖ミカド組を崩壊させることだった。
謀は当事者の知らないところで練られ、そして着実に水面下で進んでいた。




