影渡りの処刑人 ナイトメアリー
突然現れた着物姿の女は自らをナイトメアリーと名乗った、そして目的はエメラダの暗殺だという。
「こんな場に堂々と襲撃なんて、イカれてますわね.....」
キャロルはそう返すが、ナイトメアリーは下卑た笑みを貼り付けるままだった。
「ああイカれてるとも、だから暗殺者なんて稼業やってんだろうがァ〜ギャハハハハハ!!」
キャロルの直感が告げていた。
(この女は恐らく相当な実力者.....お姉様は居ないし、後ろにいるルシーラとレガリアスは実質戦闘は出来ない状態...奴を止められるのはわたくししか.....)
しかしナイトメアリーの異質とも言えるオーラを肌で感じ、ジリジリと後ずさってしまう。
それを見てナイトメアリーはつまらなそうな表情をした。
「なんだぁ...腰が引けたのか?ならアタシは遠慮なく皇帝を追わせてもらうからな.....あ?邪魔だどけ、雑魚」
「ぐぁっ!」
そうして踵を返すと同時に、進行方向に座り込んでいた、招待客をなんの躊躇も無く大鎌で斬り付けたのだ。
それを見たキャロルは頭の中が沸騰するような怒りを覚えた。
京真が以前話してくれたことがフラッシュバックする。
「キャロル、お前には覚えておいて欲しいことがある、それは自分たちの争いごとや戦いに一般人...カタギは決して巻き込まないことだ、そしてそれをやってしまったら私たちは自警団ではなくただの外道に成り下がってしまう、だからこれだけは絶対忘れないで欲しい」
その言葉が頭の片隅に入っていたキャロルは、ナイトメアリーの起こした行動が心底許せなかったのだ。
「あなた...罪もない人に何をやってるんですの...?」
自身を呼び止める声に、ナイトメアリーが振り向く、その顔には苛立ちが募っていた。
「何をやってるって?邪魔な虫を殺しただけじゃねぇか、それともなんだクソガキ、お前はそれに対して怒ってんのか?ギャハハ!!笑えるねぇ」
ナイトメアリーの人を食ったような物言いを聞いた途端、キャロルは我慢出来ずに翼を広げ最速で距離を詰める。
「ならあなたみたいな外道はここで死ぬべきですっ!ハァッ!!」
そして手の内を握った拳を奴に向けて打ち込んだ。
しかしその拳がナイトメアリーに届くことはなかった。
奴が大鎌の刃でキャロルの拳を受け止めたからだ。
「こんな、小細工みたいな武器を握った拳でアタシを仕留めようとは.....舐められたもんだな」
「ぐっ.....いたっ...」
金属を思い切り殴りつけた為、キャロルの拳には鈍い痛みが走っていた。
「その拳、痛ぇだろ?そんな痛みも長続きしないように一気に殺してやるよ!!」
そしてお返しと言わんばかりに、ナイトメアリーから大鎌のフルスイングが飛んできた。
回避するために翼を使って後ろに下がるも、キャロルは体勢が悪い状態だった為、脇腹に刃が掠ってしまう。
「あがっ.......」
脇腹に鋭い痛みを感じる。
「竜人族のクソガキ、ちょっとはやると思ったんだがな、期待外れか」
キャロルの脇腹は致命傷を避けたものの、少量の血が少しずつ流れ落ちている状態だった。
「これは長期戦はキツそう...ですわね」
そして彼女は、ナイトメアリーという女の絶望的な強さに心底戦慄することになる。
―同時刻
エメラダは付き人に連れられ、自らの寝室に逃げ込んでいた。
「はぁ.....はぁ.....ここまで来れば...大丈夫じゃな...」
エメラダは息を切らしながら、床にペタンと座り込んだ。
「ええ、ここなら奴らも来れないでしょう.....シスター・キョウカもね」
付き人が意味深な言葉を吐く、それに対しエメラダはえも言えぬ違和感を感じた。
「.....お主は一体誰じゃ?妾は忠臣の性格と表情は一通り理解してるのじゃが、お主はなにかいつもと違うんじゃ...」
そう、目の前にいる人物は何時もの付き人とは明らかに別人だったのだ。
「やれやれ、私の変装を見破るなんてやるやないか、さすが帝国のトップや」
そう言うと付き人の体が妙な黒い布に包まれていく、そしてそこから出てきたのは着物姿で青髪の少女、ユウカだった。
「まあ知られようとも問題は無い、アンタはここで何も出来ずに、無様に、死ぬんやからな」
そう言うとユウカは腰に提げた長ドスをゆっくりと抜く。
白銀に光る刃を目にすると、エメラダには一人の顔が思い浮かんだ。
(キョウカ...初めて出来た対等な友人...あんまり話すことも出来ないまま妾は死ぬんじゃな...)
そんな走馬灯が駆け巡るとエメラダの中で死にたくないという感情が湧き出てきた。
「い、いや.....助け.......誰かっ...」
自然と彼女からは助けを求める言葉が漏れた。
「エメラダ=ウォーバルド、終わりというのは案外呆気ないもんや」
怯えるエメラダに対してユウカがそう告げると白刃を振り上げる。
その時、扉が勢いよく蹴破られたのだ。
「オラァ!!私の友人に何やっとんじゃあ、ぶち殺すぞッ!!」
怒りの形相でそこに立っていたのは、大広間にいるはずの京真だった。




