第六話 会議2
「永琳ね、証拠はあるんでしょうね」
永琳こそがこの異変の黒幕だと言うからには、当たり前だが正邪の言葉だけでは足りない。誰にでも黒幕が永琳だとわかる確固たる証拠がないといけないだろう。
それを知るため霊夢は追及した。
「いえ、けれど確認の為に永遠亭に行った時は結界が閉じていて私でも入れなかったわ。
忌々しいことにこの事実のせいで正邪からの情報も無視できなくなったのよ。
ここには正邪の言動に影響される者は集めていないけど、こいつからの情報は十中八九嘘混じり、ってことを知っておいてほしいわ」
霊夢は納得はしていないが理解はした様子で引き下がる。だが、ここで霊夢は直感する。このまま正邪をここに入れれば絶対にめんどくさいことになる、と。
「そうなると、さとりがここに居ないのは悔やまれますね」
普段からどこか心に余裕がある麗夜が珍しく苦言を呈し、その違和感に諏訪子だけが気づく。といっても諏訪子は不思議と意外性は感じていなかった。...何故か?
それは一度、魔力痛を患って弱った麗夜を見たことがあったからだ。諏訪子が弱った麗夜を見て感じたことは「麗夜ってホントに人間だったんだ」という驚きと少々の母性本能である。
諏訪子という神は負けたことなら幾度となくあったが本当の意味で心から余裕がなくなるような『弱る』といったことは一度も無かった。
人は一生に何度も弱る、そして最後に弱って消えていく。
諏訪子は弱ったことはない。だがそんな人の弱りを自らの長い生の中で何度も見てきた。だからこそあの時分かったのだ。麗夜の心の弱さ、その危うさを。
「麗夜?大丈夫?」
「ん?ああ、大丈夫だけど」
何でもないという風に答える麗夜。実際に自分が弱っていることなど気づいていないのだろう。原因は力を奪われていることに関係しているのかも知れない。あの力がそれほど大事だったのかも。
でも今それはいい、麗夜は強いけどある意味弱いってことだけ分かればそれでいい。
「麗夜」
「なんだ?諏訪子」
『後でまた膝枕したげる。』
「……ッッ!!!???!?」
麗夜に耳元で聞こえるか聞こえないか程度の声で囁く。何故だか諏訪子は麗夜の顔は見れなかったが、麗夜のニヤニヤした顔を想像するだけで楽しかった。
そしてふと、諏訪子は思う。初めて麗夜と会った時、麗夜を神社にスカウトした理由はその強さもひとつの理由ではあるが、私はその異質な弱さにこそ……。
続く言葉を心の中で押し殺し、諏訪子は会議に意識を向けた。
「あっそうそう、伝えておくべきことを忘れてたわ。麗夜、あなたには戦線に復帰してもうわ」
「本当ですか!紫さん!!」
「ちょっと待って!!!」
喜んだ麗夜に被せて突然大声を出す諏訪子に紫や麗夜だけでなく、会議の面々全員が諏訪子に視線を注ぐ。諏訪子は気にも止めず続く言葉を思いのままに口にする。
「麗夜は今あいつらを相手にできる状態じゃないでしょ。今の麗夜は守るべき存在なのよ。いえ、あるいは、ずっと前から…、とにかく今は戦わせるべきではないわ」
「まるで、鏡を見ている気分ね」
「……?」
「麗夜には最低でも1ヶ月以内に“ゲーム”の魔術の代わりに魔法を習得してもらうわ。その際パチュリーか魔理沙に稽古をつけてもらってちょうだい」
麗夜が魔法を習得する。諏訪子の意見を無視しそう言った紫を信じられないといった目で見たのは意外にも諏訪子では無く、パチュリーと魔理沙だ。
魔法とは、元来、戦闘用のものではない。世界の理をより深く理解するためのものである。
それを無理やり戦闘に使うとなれば、人間では適正のない者は一生かかっても習得不可能なほどの繊細緻密な魔力操作の才能と、最高で50年の修行期間が必要になる。
それは生まれながらの魔女には劣るが才能がある魔理沙も例外ではない。ストイックと言っても過言ではない7年間の努力経て、“普通の魔法使い”を名乗る戦闘特化の異端の魔女が誕生したのだ。
「これは諏訪子に同調だな。さすがに1ヶ月は無謀が過ぎるぜ」
「いえ魔理沙、やり遂げる可能性はあるわ」
“ゲーム”の魔術は魔法とは別物ながらも魔力操作で似ている部分がある。麗夜とスカーレット姉妹との弾幕勝負を陰ながら見ていたときパチュリーはそう感じていた。なにより―――――
「やってみなくちゃ適正なんてわからないわ。とりあえず私は様子を見つつ、魔法を教えていくわよ。それでいい?レミィ」
「私に許可を求めるまでもないわ。むしろパチェがやる気を出したことに驚きね」
親友どうし軽口を叩き合うパチュリーとレミリア。何はともあれ、二人の会話によって今後の方針は麗夜に魔法を習得させる方向で固まった。
それに諏訪子は待ったをかける。
「そんな!それじゃあ…」
「諏訪子。守ってくれるのは嬉しいけど、俺は守られるだけじゃ駄目なんだ」
そんな諏訪子の言葉をできるだけ優しく遮り、麗夜は自分の意思をはっきりと伝える。そこで諏訪子は麗夜を守るべき存在であると言い切ったことを後悔した。
あの言葉は完全に逆効果であり麗夜の復帰したいという思いに油を注いでいた。
「はぁ、そういう、性格だったよね麗夜は」
諦めたといった風に諏訪子は項垂れそうこぼす。
「諏訪子。こういうやつの意志っていうのは神が武力以外でどうこうできるものでもないよ」
「うん、残念だけど、流石にわかってるよ」
麗夜はその神二柱のやり取りを聞いて「そこまで心配することかなぁ?」と口に出す。諏訪子が「もう!」と怒り麗夜を睨んだ。
「さて、じゃあ正邪をここに呼ぶわ。皆、言うまでも無いけど正邪の言葉には気を付けなさい。あれは言葉で異変を起こしたから」
そう言って紫は空に手を上げる。一秒か二秒か後、紫の上げる手の向こうにスキマが出現する。
どうやら、フランに中継をした時のスキマと同じものようだ。液晶画面の光が一瞬強く光った後、件の正邪と思われる妖怪の顔が映る。白髪混じりの黒髪、前髪の一部に何故か赤色が入っている。最も特徴的なのはその二本の角だろう。彼女は鬼では無く天邪鬼と呼ばれる妖怪らしいが。
『これ見えてんのか?ん?おっ、見えた見えた。うわ、全員ひでぇ面だな』
「嘘を言わないで、あなたからはこちらを見えないはずよ」
正邪は登場早々に息を吐くように嘘をつき、参加者たちを呆れされた。正邪は自分の渾身のギャグが受けたと解釈してそのまま話を続ける。
『確か、奴らの詳細について話せばいいんだよな』
「ええ、話しなさい」
正邪は顎に手を当て体をよじり悩む素振りをした。
『うーん、話すってもな、何から言えば良いのか…、能力について話すか。
主にクヲリとウミについてだが、やつらに『自分の能力に名前をつけるならどんなのにする?』って聞いてみたんだ。クヲリは平等の基準を計る程度の能力。ウミは調和を司る程度の能力。らしいぞ。訳わかんねぇよな』
「具体性のないものは除外しなさいよ。と、言いたいけど…。ふむ、調和ね」
正直、具体性はないが無視できないために扱いに困る情報だ。後で考えることにして今は次の内容に耳を傾ける。
『後は、そうだな、そういえばウミはもう一度でも麗夜と戦ったら勝てないみてぇだぜ。それこそ、麗夜が力を失った今の状況でもな。
ウミが言うには麗夜の強さの源はその運命力にあるとか言ってたぞ』
「それは興味深いわね」
運命力、とは一体何だろうか。麗夜にはまったく心当たりが無く、会議の参加者全員に見えるよう首を小さく左右に振る。
「ん?そういえば、レミリアって運命を操る程度の能力だったよな。俺の運命ってわかるか?」
「勘違いをしているみたいだから言わせてもらうけど“運命を操る”っていうのは“自分の力で運命を掴みとる”って意味よ。本当に運命を操れるなら私が霊夢に負けるはずがないもの。分かったかしら」
そのレミリアらしい能力の解釈に納得しつつもこのままでは進展しない、と麗夜は正邪に次の暴露を促す。
「正邪、他は無いのか?」
『うん』
「マジ?」
『ホントに』
聞けば知能が急激に溶けそうなやり取りを横目に、紫は椅子に深くもたれながら正邪に対し心の中で一つの結論を出す。
コイツ使えないな。
「あなたに自由に喋らせたのは私最大の失敗ね。それで?奴らの居場所とか目的だとか名称すらもわからないのかしら?」
『知らんな。ちょっと会って話しただけだから』
ため息をつく紫。正邪は自分をスパイだと紹介していたはずだが…、程度の低い嘘をつくものだな。よくこれで異変を起こせた、とさえ紫は考える。
「まあいいわ。じゃあ切るわね正邪」
『そうだ!思い出した!奴らの名称だ』
正邪は手のひらを画面に押し出し「待ってくれ」の意を示す。
「バイプレイヤーズ」
スキマが閉じた。
そこから先は特にトラブルもなく会議は進んだ。もし奴らに会った時の対処法、奴らに戦いをしかける時の駒の配置。それらがトントン拍子に決まって行った。
「他に質問はない?…ならこれで会議は終わりよ。お疲れ様。帰りはあなたたちそれぞれの後ろにあるスキマからね。
じゃあ、そのときはお願いするわ」
そう言い、紫が会議を締めると会議の参加者たちが一斉に席を立ち、縁のある者同士で話し合う。
この光景を見て先生の話が終わった後、皆帰れるってなった時のあの雰囲気に似てるなと麗夜は思った。
そのとりとめもないはずの会話達の中に一つだけ麗夜にとって気になるものが混じっていた。
『…バイプレイヤーズね』
『奴らの呼称がどうかされましたか?お嬢様』
『ええ、名乗るのならどちらかというとヴィランかと思ってね。バイプレイヤーズ、脇役達って何の脇役なのかしら?』
レミリアに賛同しつつも答えを見いだせず。もやもやとした気持ちのまま麗夜は丁寧にも守矢神社と書かれた札の張ってあるスキマに入って行っ
ガシッ
肩を掴まれた。誰だ? 振り返るとパチュリーがいた。何故?ああ、そうか。
「あなたはこっちよ。これから1ヶ月魔法漬けね。」
「じゃ、私も同行するぜ」
魔理沙が自分を親指で指す。
よし!望むところだ! そう言いかけたところで麗夜は何か重大なことを見落としていると気づく。
さっきの会議で何か、忘れてることでもあったのか?麗夜は考えた。そして思いあたる節を見つけ、消え入りそうな声で呟く。
「あっ、膝枕…」
気づいた頃にはもう遅く、そこまで我慢強くない魔女二人は麗夜の手を引っ張って催促してくる。
「行きましょうか」
「ま、待ってくれ。1日くらいは休みとか…」
膝枕の為、なんとしてでも休暇が必要な麗夜はパチュリーに食い下がる。
「…?何いってるの。これからあなたの1ヶ月のスケジュールは全て、食う・寝る・魔法よ」
「お風呂とか、トイレとかは…」
「魔法ですませてもらうわ。自分の体のことになるとリスクが上がるから精密動作性が鍛えられるのよね」
結局、的外れなツッコミしかできなかった麗夜には更なる追い討ちがかかってしまう結果となった。
最後の綱として諏訪子にチラリと視線を送るとそこには、キラキラと擬音がつきそうなほど爽やかな笑顔をした。諏訪子がいて………………
「諏訪子、た、助け――――――
「ねぇ、早苗みてみて、あれが聞き分けのない人間の末路だよ。あははー」
「あは、あはは、は」
「うわああああああああああああああ!」
同情的な早苗の視線に気付かないほど麗夜は絶望の谷へ堕とされる。そのまま、魔理沙とパチュリーに引きずられながら麗夜はフェードアウトしていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
場面は変わり正邪の視点。
寂れた村の中、幻想郷の中においても忘れ去られた神の祠にもたれながら、彼女は折りたたみ傘に話かけていた。
それは前に紫からくすねておいた反則アイテムだった。
「バイプレイヤーズ」
チュンッ
「あっ、切れた。私にももうちょっと情報がほしかったなー」
「正邪さん長電話でしたね。楽しかったですか?」
隠れていたウミが気楽な調子で話かける。
「いやぁ、あんまりですねぇウミの旦那。取引先が短気でしてね」
反応が意外だったのかウミは目を瞬かせ困惑するが、そのまま裏切りものである正邪に覚悟の有無を問う。
「えっと、覚悟はできていますか?」
「いえぇ?まったくぅ、なんのことやら?」
しらばっくれるように手と肩を上げ、言葉を続ける正邪。
「そんなことより紫に取り入れるスパイとかは入りませんかね」
「ルーミア」
ザジュ
正邪の顔の真横を通りすぎ、後ろにあった祠に黒い大剣が突き刺さる。正邪は冷静に突き刺さったた大剣を見る。そこには摩擦熱のせいか煙が少し上がっていた。
「色々、話して貰いましょうか。まず、紫さん達に何をしゃべったのか…「はっ!」
正邪はウミの言葉を鋭く吐くような笑いでかき消す。
祠がミキミキと悲鳴のような音をたてる。それは縦に突き刺さっていた大剣が水平に捻られた音だった。いつでもお前の首を跳ねれるとの意思表示だ。
パチ、パチパチ
大剣を捻られた時に出た木屑が種火となって少しずつ祠に火が燃えひろがっていく。
「あんたが聞きたいのはそうじゃねぇだろ。旦那が本当に聞きてぇのは私の目的のはずだ」
燃える祠を背に両手を広げ、ギラついた笑顔で正邪は吠える。
「私の目的はひっくり返すことだ!誰が勝っても負けても関係ない、それが私の生き様だ!!」
ウミは気圧された。
その隙をついて正邪は折りたたみ傘を開き、とある場所へワープする。
だがそれを逃すルーミアではない。剣の持ち手に力を込め、正邪は広げたその傘ごと真っ二つに斬られる……………………はずだった。
「ルーミア!」
ウミの慟哭にルーミアの手が止まる。
「?」
正邪は困惑しながらも傘の中に入り、ワープする。そこには燃える祠とウミとルーミアが残った。
「ふふふっははははは」
ウミは正邪のいた場所、燃える祠を見て不気味に笑う。
「どうして殺さなかったのかな?リュウ。」
「はぁ、まあひっくり返すってのはなかなか面白いですし、まだ正邪さんもこれから使えそうですからね。それに、」
わざと言葉を区切って、じれったく間を作り、
「妖怪だろうとむやみに殺しちゃだめですから」
当たり前の事実を違和感を残して言い放った。




