第二話 増殖する謎
バギッ
それは一瞬の出来事だった。避難を促すために顔をウミに向け、声を発した直後のタイミングで、初めに捕捉した緑の妖怪が木を足場にし、急加速。そのまま豪の死角となる最悪の角度で棍棒は当たった。
だがウミには飛び散る赤と折れる音、それだけ認識すれば十分だった。
「う、うああああああああああああああ!!」
走る。一目散に、脇目も降らず、何も考えずにただ走る。
後ろからボガッゴギッという壊れたものをさらに叩くような音が響「ああああああああああアアアア!」
目を瞑り耳を塞ぐ。何も見えない、何も聞こえない、何も考えない。
木に頭をぶつけても、体のどこかに枝が刺さろうとも、ただひたすらに絶叫し走り回る。その行動の結果、奇跡的に絶叫が威嚇の役割を果たしその無作為な走りが敵の攻撃を避ける。
そんな未来もあったのかもしれない。ただし現実は非情である。数ある選択肢のなか最も引いてはいけないルートが選び出されてしまっていた。
つまり―――――ゴッ
まず、音を知覚した。絶叫し耳を塞ぐなか聞こえるはずのない音を耳が拾い、ウミは困惑する。次に後頭部に今までに感じたことのないほどの激痛が走る。そして受け身も取れず転がった。
「あ、ぐっ、お―――――」
さっきとは別の種類の声なき絶叫をあげつつもんどり打ちながら、ヤツらがなにかを投げつけたのだと痛みで冷静になった頭がようやく理解する。だが、理解したところで夢の中にいるかのように体にうまく力が入らず立つことがままならない。
妖怪達が悪意のあるニヤついた笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。全部で三匹、全員全く同じ顔立ちなのが不気味さを際立てている。首辺りに大きな傷がある一匹以外、見分けは全くつかなかった。
三匹が完全にウミを取り囲む。
「豪さんも...こんな―――――
言い終える前に森に打撃音が連続して木霊する。
ここで確かにウミは死んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「麗夜、起きる時間だよ。」
「う、うーん」
今日は眠い、疲れた。何より動きたくない。だが、俺を起こす声は諏訪子のものだ。経験上このまま起きなければ諦めてくれる、といったことは一度もない。渋々、俺は体を動かす。
まずは右腕からだ。手のひらを床にあてその次は左腕。そして――――
「もう、早く起きてよ麗夜。ミンチにするよ」
「すみませんでした。お願いします、どうかやめてください何でもしますから」
「ん?」
すっかり定着してしまったやり取りが終わり、どうして諏訪子は俺を起こしたのかと考え、思い出した。
「そういえば今日は宴会だったな。異変が終わったとかで」
「異変が終わったとかって、麗夜が終わらせたんでしょ?」
呆れたように諏訪子は言った。そう、俺はボスと紫さんが始めた戦いを終わらせた。より具体的に言うなら紫さんを説得・協力し、ボスに何もさせずこの世界から追放した。状況次第ではもっと酷いことになりかねなかったがために珍しく自分を褒めたいと思ってしまう。
「ふふっ、まあ今日はくらいはいいかもね。皆にいっぱい褒められてきなさい」
俺はすぐに支度をし、外へ出た。
そうして俺は宴会の場、博麗神社についた。今、諏訪子には食べ物を買ってきてもらっている、幻想郷を一人で堪能できるようにとの諏訪子なりの配慮だろう。
そこには見知った顔、見知らぬ顔、ふわふわと浮かぶ妖精、触覚のある妖怪、ウサミミ、歌う夜雀、演奏する騒霊、いろんな人達がいた。それぞれに個性があり、楽しみ方も人それぞれ。改めて幻想郷の在りかたには驚かされた。
どうやら宴会では大概異変の黒幕もしれっと参加しているらしく、呑気なことに黒幕に会えなくて残念だという声も聞こえてくる。
「あっいたいた、麗夜。こいつと話してくれない?」
霊夢さんだ、手を大きく振りつつ誰かの腕を体重を前に傾けながら引っ張っている。
「霊夢さん?いったい誰と...」
聞くより見ろ、と言わんばかりに霊夢さんがその人物を前に引きずり出す。それは顔を手で覆い隠した紫さんだった。
「え、えぇ紫さん?どうしたんですか?」
「うぅ」
「ほら紫、いいなさい」
行動といい顔といいなんだか母親のような霊夢さんとは対称的に紫さんは罰が悪い子供のような雰囲気で、少なくともいつもの調子ではなかった。
「麗夜、私が間違ってたわ。ごめんなさい」
紫さんは顔を覆う手を膝へやり、頭を下げた。
「紫さん!?いえいえ大丈夫です!、って俺よりさとりさんとかこいしちゃんに言ってください」
「もう言ってきたわ。あなたで迷惑かけた人も最後、後は罪の精算ね。一生かけてでもやるつもりよ」
「一生って...」
流石にそこまで罪の意識を背負いこむことはないだろう、と正直思う。紫さんが犯した罪は取り返しのつかないほどのことではなかったからだ。結果的には人を殺してはいなかった。
「甘いわね、麗夜。実際こいつはあんたを殺そうとした。許さないどころか同情するなんて、どうかしてる」
「許さずに恨み続けるほうが辛いでしょうからね」
結局、紫さんを許す理由はその一言に尽きるのかもしれない。
「これを私が言う資格はないのでしょうけど、この世界にあなたが来てくれて良かった。幻想郷を救ってくれて、ありがとうございました。」
紫さんはもう一度深々と頭を下げる。謝るべき時にちゃんと謝れる大人であることを知った後では許さないなんてだれも言えないだろう。...霊夢さんを除いて。
「ふぅ、恥ずかしい恥ずかしい。キャラじゃないことはするもんじゃないわね」
どうやらこれでスッキリしたらしい紫さんは、恥ずかしがりながらもいつもの調子に戻った。それにしても俺以外の人に謝るときも顔を覆って恥ずかしがっていたのだろうか?
ザッ――――――ザッ――――――ザッ――――――
「...ッ!!?」
突然、長い髪を後ろに束ね、木材で作られたリュックサックに円柱状の荷物を背負った男がこちらに近づいてきた。宴会の喧騒の中その足音が明確に聞こえるのは、集音の靴がその存在の異様さを今までにないほど壮絶に訴えているからである。
その男は魂が継ぎ接ぎになっていた。早苗さんに近い、人が信仰を得た現人神のような魂。結び付きが強い三つの神のような魂達。あの“ゲーム”の自分を含めたプレイヤーたちに近い魂。そしてただの人間の魂。
それぞれが干渉し合い魂が今すぐにでも爆発しそうな状況をどうやってかは分からないが保ち続けている。素早くこの男が何をしてもいいように周りにトラップを撒く。
霊夢さんも紫さんも俺の空気感が変わったことで察してくれたのか人ごみの中を警戒している。
そして男は人混みから勢いよく飛びだし口大きく開き、
「どーも!紫さん!お久しぶりです。おお!霊夢さんも、だとすればあなたが麗夜さんですか?」
「...。」
「...。」
「...。」
「「「えっ、誰?」」」
警戒していたのが馬鹿馬鹿しくなるようなフレンドリーな挨拶に皆、素がでてしまっていた。
「失礼しました。僕はリュウ ウミと申します」
リュウと名乗った青年は霊夢に近づき、何かを説明した。
「豪さんはあのとき死んでたのね」
少しだけ悲しげにけれどもさらっと流すように、霊夢は豪さんという人がいなくなった真相を聞く。
「あーそう...ですね。で、僕のことを思い出せましたか?」
「うーん、そんなやついたような気がする...」
異変のゴタゴタにより霊夢のウミという人に関する記憶はほぼ失われているのだろうか?それは仕方のないことだろう。問題は紫さんだ。
「そうですか、紫さんは?」
「分からないわ。霊夢はともかく一度あった人の顔を覚えていない訳はないのだけれど。ごめんないね。うっ、最近謝ってばかりだからかこの言葉を発することに抵抗があるわ。」
「紫、霊夢はともかくってどういう意味かしら~♪」
「いえ、会えただけでも光栄ですよ」
「無視か!」
霊夢を完全に無視したリュウと紫の会話を横目にして少し和やかな気分になった。
だが、紫さんの言うように霊夢さんはともかく紫さんが人のことを完全に忘れるとは思えない。あるいは、ウミさんが嘘をついているのだろうか。いや、それよりもこの人からプレイヤーに近い気配がしたことが気になる。この魂、どこかで見たことがあるような?
「麗夜さんあれを見てください」
「あ、ああはい」
考え事をしているといきなりウミさんに話かけられ、少しコミュ障を発動する。それでも戸惑いながら指差された方向を見やると―――
「ここだぁ!」
「は?」
ウミがこちらに向かって突っ込んできた。俺を掴む気らしく今から襲うぞと正直に言っているような、両手を上げた姿勢だ。これに剣技や魔術を使う間でもなく、襲ってきた手を逆に掴み後ろ手に組ませ、そのまま壁へ押し付け取り押さえる。
「すいませーん冗談ですよー。だからその手を離して下さいー。」
まだじたばたと抵抗している所を見るに、止めるつもりは全くないらしい。
Creating「トライド・レード」
「いきなり攻撃してあんた何なんだ!いったい!」
さっきは霊夢さんや紫さんと普通に話していたのに、こんな行動をとるなんて!敵だったにしても意味が分からない。
「はあ、...すいません。やっぱり...僕一人じゃあ...だめですか」
この人はいったい何を言っているんだ?
「あー、そういうやついるわよね。突然勝負をしかけてくるやつ」
「あなたがいつもされてるそれとは違うと思うわ。それにしても、奇妙ね。あなた、月でも直視したのかしら?」
「麗夜~鯛焼き買ってきたけどこの騒ぎは
なに?って紫!?」
霊夢さん達と諏訪子がいざこざに気付きこちらに声をかける。そして彼女たちが気付いているということは宴会を楽しんでいる人たちも気付いているということだ。
ざわざわ、おーいいぞーもっとやれー!ざわざわ、やられてるほうきばれー!ざわざわ、あいつが異変の黒幕か!ざわざわ、ふん、あいつよりあたいのが強いけどね。ざわざわ、
テレレレレレ♪テレレレレレ♪テレレレレレ♪テレレレン♪
宴会ではたびたびこういうのが起こるのだろか。拳を空に突き出したり、手をメガホン替りにしたりと、野次馬も野次を飛ばし慣れていたし、宴会にかかっていた演奏の曲調が変わってもいる。どうやら、戦いにすらならなかったあれの戦闘曲らしい。
「ここはいったん離れましょうか紫さん」
「そうね、いや、そいつは私がつれていくわ」
「僕はまた、...紫さんの...スキマに...入れるんですか!...いいですね。...とてもいい」
「あなたは...いえもういいわ」
紫さんは何かを言いかけ眉に手をやり言うのをやめた。多分スキマのことを何故しっているのか聞こうとしたんだと思う。だが、この人に何を聞いても無駄だと悟ったのだろう。だがこの人には聞きたいことがある。トライド・レードの喋ることに対する制限だけを解く。
「ぷはぁ、あー麗夜さん、何度も言いますがすいません。一番取りたくない手段をとらざるを得なくなりました。先にお詫びします」
「...」
まだこの人には取れる手段があると言うのか?そういえば、この人はさっき僕一人じゃ、うんぬん言っていた。もしかしたら仲間が周りにいるのかもしれない。
「麗夜、これはハッタリよ。この宴会の場に私の知らないやつはこいつだけ、気にすることはないわ」
紫さんの言うとおりかもしれないが、警戒だけはしておいても損はないだろうと辺りの状況を知るため、感覚をより研ぎ澄ます。そしてこちらに近づく気配を背後に感じ、急いで振り返って見ると、
「これはいったいなんの騒ぎなのだー」
そこには諏訪子に騒ぎの原因を確認しにきたルーミアがいた。杞憂だったか、よかった。ルーミアなら俺も知っている。ルーミアに諏訪子が近づき状況の説明をしてくれた。
「えーと私も今来たばっかりで状況がいまいち飲み込めないのだけれど。多分、あそこの紫に担がれてるやつが麗夜を攻撃したんじゃないかしら?」
「そーなのかー」
だが、果たして本当に杞憂だったのか?四天王達という前例がある以上、魂が前に会ったときと同じだったとしても、知っている人だからといって信頼するべきではない。そしてわざわざルーミアが宴会で起きたいざこざの原因を突き止めにくるだろうか?いやそんなことはしないはず。
まずい!だとすれば今一番危ないのは諏訪子だ!
「諏訪子!ルーミアから離れろ!」
ルーミアが諏訪子の腹に掌打を打ち込み、闇の力と思わしき衝撃波がさらに諏訪子を吹き飛ばした。
「ごはっ」
そして吹き飛ばされた先が最悪だった。
「ナイスパス、ルーミア」
Creating「不完全な盾」
一人称の視点で初めて小説を書きました。むずかしかったです。(小並感)




