第十一話 異変の終わり
Creating「氷山創造」
戦闘はウミや麗夜達の準備を待たず、唐突に一方的に始まった。
「させるかッ!」
霊夢、輝夜、永琳を抱えていた麗夜が真っ先に魔術を向けられ、間にウミが割って入り氷漬けにされた。そのあいだに麗夜は抱えている三人を安全な場所に移動させるため走る。
「ふっ!」
短く息を吐き麗夜とすれ違うようにして妖夢が正邪、もといエイリアンに上段から二振りの刀の斬撃を振り下ろす。が、斬撃の一つは掌で一つは肩で受け止められる。
「はは、話になんねーじゃねーの。」
Creating「爆炎の風」
「ああ!!」
詠唱を終えた魔術の風は無慈悲に妖夢を吹き飛ばす。そしてそれでも風の勢いは衰えず、麗夜へと真っ直ぐ進んでいく。
「させるか!」
「あんた!行くな!」
麗夜の静止を無視し、妹紅が炎には炎をと言わんばかりに背に炎の翼を生やして飛びながら真正面から風を火を纏った右足で蹴るようにして受け止める。だが、それでも勢いを少し押し留める程度だ。
「ああっついな!!!まだ足りないか」
風を受け止めていた右足の指はいくつかちぎれ、右半身の皮膚は焼け爛れている。妹紅はそんな状態で決して死なぬ目で風とその先にいるエイリアンを睨み付け、さらに火力を出すために自身を自分の火に焚べる。
「最大火力」
「凱風快晴 フジヤマヴォルケイノ」
ゴォォォオオォオオオォオ!!!!
爆風と爆炎がぶつかり合い、妹紅の無限の命一つと痛みを引き換えにおよそ炎が出している音とは思えない轟音を放つ。だが、それでも足りない。風は妹紅を巻き上げながらまだまだ進む。
「麗夜!」
妹紅が稼いだ時間を利用し、麗夜と風との間に入った諏訪子は地面を大きく踏み込み、風と自分との間に何重もの土の壁を出現させた。
ゴゴゴゴゴォゴゴ!
土の壁を破壊しつつも遂に風の勢いは収まった。
「諏訪子!ありがとう!でも、あの人が...」
「ああ、あの子なら大丈夫。ウミとはまた違った形の不死だから」
「不死?」
「転生」
諏訪子のことばを聞いてか妹紅の死体らしきコゲクズから声が発せられ、その後に死体に先の戦いで地面に散らかった炎が死体に集まる。そして死体は火を纏い鳥を象り、そして――――――
「強すぎるだろうが!」
火の鳥は悪態を吐きながら元気にエイリアンへ飛んでいく。が、
「がぁ!なんだこれ!」
仕掛けていたエイリアンのトラップに引っ掛かった。
「拘束系だぜぃ!」「死なないなら相応の対応というものがある」
そうか、皆から俺はこう見えてたんだな。人間じゃないな、いや、なに無駄なこと考えてるんだ俺は!と麗夜は現実逃避気味な思考を振りほどき、一度冷静になろうと深呼吸する。
「麗夜、私と姫様は離しなさい」
「永琳さん」
麗夜の脇に抱かれながらも、強い目で見据える永琳。
「これは私が招いた事態よ。何もせずにいられないわ」
「それは…お互い様です」
麗夜はあのとき、正邪が麗夜のアカウントを保存していた機械に触ろうとし、永琳に殺されかけていた時。正邪を咄嗟に助けていたことに負い目を感じていた。もちろん、あの状況に戻れたとしても同じ事をするだろうが、それと今の状況を引き起こしたことは別だ。
だからこそ、永琳に共感した麗夜は永琳と輝夜を降ろした。
「姫様、」
「う、うぅん」
輝夜はうめき声をあげながら人差し指で目をこすりつつ、むくりと上半身を起き上げる。そして「ふぁー」とあくびをして、
「計画を狂わされるのは二度目ね永琳。そして、異変の解決紛いなことをするのも」
「はい、申し訳ありません姫様...もう一度私と戦ってくれますか?」
「無論よ!妹紅がここにいること以外、私が出るには最高のタイミングと場所だわ!」
両手を空に挙げながら快活に自身の自由を喜ぶ輝夜は挙げた手をゆっくりと下ろしながら妹紅に早歩きで近づき.....
「ふん!!」
「ぐへぇ!」
勢いが完璧に伝わる綺麗なフォームで妹紅を殴り飛ばした。
「あ゛ぁ゛ん ! ! なに
―――――それは一瞬の出来事だった。
麗夜は、何を喧嘩してるんだこの人たち、、、と思いながら瞬きをする間に自分の体にバリアが張られていることに気付いた。そして自分がそのバリアに包まれながら、地面に巨大隕石がぶつかったかのような縦穴のクレーターの上に浮いていた。とりあえず小脇に抱えていた霊夢を落とさないように両手に抱きよせる。
『...........!、...!?』
『......?......!』
冷静になり辺りを確認してみると、先程までいた諏訪子と妖夢もバリアに包まれ浮いており、口パクをしながら困惑している。
「どうした、諏訪子!まさか...このバリアで声が届かないのか?」
この状況、初めはテレポートを疑ったが違う。クレーターができた衝撃に巻き込まれたかのように一部分が崩れた永遠亭が見えたからだ。ならばこの状況は時間移動なのだろうか?
だがそれも違う。先程の記憶と雲の形や太陽の位置が全く変わっていないのである。咲夜の力であることを期待したが、幽々子に仮死状態にされていたことは記憶に新しい、これもありえないだろう。
意味が分からないまま困惑するだけの時間が過ぎていくが時は待っていてはくれなかった。霊夢と麗夜二人はバリアを二つに裂かれ有無を言わさぬ力で引き離され、麗夜のバリアだけがゆっくりと降下していく。
クレーターは思った以上に深い。ビル一建てほど降りたころだろうか、ようやくクレーターの最下に着いた。地面にバリアが着くと同時にそれはシャボン玉のように弾けて消えた。
最下はすでに記憶が朧気になっている学校の体育館ほどに麗夜は感じた。そこには満身創痍の正邪の姿と死んだ目で立ち上がろうするウミ、輝夜、妹紅、永琳の姿があった四人はボロボロの服と傷一つ無い綺麗な体をしていて、それでもいまにも死にそうなほど憔悴した顔つきで、それが麗夜にとってはあまりにもアンバランスだった。
バタッバタバタ
「あっ」
四人は立ち上がり切れず倒れてしまう。我に帰った麗夜は四人に駆け寄ろうとするが、行動を終える前に大量の魔力が麗夜の中に進入する。
「うわっ!なんだこれッ!体の中で力が溢れる!!」
「あ゛、あ゛、あ゛アアアアアアア!」「ここまで私を追い詰めるか」「ひっくり…返すんだ……」
もはや正邪の形をした何かの成れの果てと化したそれらが麗夜目掛けて掌を向ける。
Creating「スーパーノヴァ」
その時、麗夜は急速に寒気と全身の毛が逆立つのを感じる。当たり前だろう、その技の恐ろしさは麗夜自身が誰よりも知っている。何せ、かつての自分の力なのだから。
「スーパーノヴァ」は二度の爆発でシールドを剥がし三度目の爆発で止めを差す。だが今の麗夜には一度目の爆発で十分過ぎる威力だろうことが流れる魔力を見ればよく分かる。つまり今の麗夜にこれへの対処法が無いのだ。
そんなことを麗夜は一瞬の内に考える。そしてもう何も出来ないのなら最期に一つ言葉でも残してやろう、と思い至った。幸い、と言っていいのかは分からないが麗夜の後ろには不死者が四人もいる、最後の言葉くらい永遠に覚えていてくれるだろう。最期の言葉はこうだ、
「一難去ってまた一難どころの騒ぎじゃねえぞ!!」
そう愚痴を叫びながらも麗夜の右足は無意識に一歩前へ出ていた、そして左足もつられるように前へ。
今の自分に何が出来ると言うのだろう?この逸るような気持ちは何だろう?俺は何故こんなに焦っていたのだろうか。
力を失ったことで諏訪子達に失望されるのが怖かったのか?いや、諏訪子はそんなことを思わない。分かってる。いままで頑張って努力して高めてきた力を奪われたことがやるせなかったのだろうか?いや、その時の経験は自身に刻まれている無駄になったわけではない。だが――――――――
だが―――――――――
死期に瀕して無駄な事を考えていた麗夜は当然この後に襲って来るであろう衝撃に対する覚悟は決まっていた。なのにそれらしき物は来なかった。不思議に思うと同時に ウォン、ウォン、ウォンと近未来的な機械の駆動音のような軽やかな低音が三回鳴り響く。
そしてその後から麗夜は自分自身の驚くべき行動を認識した。麗夜はエイリアンの、麗夜自身の「ゲーム」の魔術を消失させていたのだ。
,,
両者に少しの間が発生し、麗夜は突発的に魔力を込めた回し蹴りを相手の空いた腹に食らわせた。「ゲーム」での戦績はこの機を逃せるようにはさせなかったのだ。
ゴォン 「ごは!」
「ぁい つ!!やりがったな、、、!」「ハッハァ!素の体で過去の自分を越えやがったんですねぇ!」「流石はこの体の元の持ち主。だが妙だ魔力量が増幅している―――
奴が喋ってくれたおかげで麗夜の考える時間ができた。その時間をつかって今自分が何をしたのか改めて認識する。
簡単な話だ。至近距離で魔術の構造の穴を突き、魔術を霧散させた。元々麗夜が使っていた魔術だからこそ出来た芸当だろう。だがそれは出来ないはずだった、純粋に魔力量が足りないからだ。なら何故?
――お前の仕業だな」
聞き流していたエイリアンの言葉の一つに聞き流せない単語が出てきた。考えを中断しエイリアンの視線の先を、麗夜は後ろに振り返る。そこにはさっきまで倒れてたはずの,,,
「ウミ、さん,,,。」
「とにかく!!前を見て!戦ってください!!魔力は僕が供給します!」
―――――――――――――――――――――――――――――
“時は遡り、輝夜が妹紅を殴り飛ばした場面”
「あ゛ぁ゛ん ! !なにすんのよ!,,,,って時間が、止まってる?」
空の雲は動かず、飛ぶ鳥や虫は羽ばたきを止めつつも宙に浮き、川の水は流れない、ついでに色はモノクロだ。そんなテンプレート通りな時間の止まった世界の光景。幻想郷では日々起きているであろう現象の中に普段は見慣れない五つの姿が紛れ込んだ。
「ああ、くそが、」「神にしては随分と浅ましい感情に支配されてんじゃねぇか」「仕方がない。今はもう奴への嫌がらせ程度しか出来ないのだろう。」
ぶつぶつと未だに自分との対話を続けるエイリアンに警戒しながら妹紅は立ちあがる。
「時が止まった、ねえ。まあ、あなた程度にはその過小な認識能力の低さがお似合いかしらね。」
「『永遠と須臾を操る程度の能力』だろう。それぐらいは知ってるよ。知りたいのはここからどうするのかだ。」
嫌みたっぷりな輝夜の発言に冷静に返す妹紅。張り合いの無さを感じつつも輝夜も若干テンションをさげ。
《私達、不死、敵、強いので、時間をかけ、削り取る。ついでに、神の、援軍、待つ》
和訳すればこんな感じの必要最低限の情報をテレパシーに込めて妹紅を含めた味方側全員に送る。同時平行で輝夜の隣にいた永琳は幻想郷各地に散らばった鈴仙型NPCを媒介して幻想郷全空間の人間、神、妖怪、妖精といった全ての生物たちをバリアで包む。
「これが輝夜さんの能力ですか。」
遅れてウミが須臾を永遠に固定された現状をみて輝夜の能力を認識する。
「ウミ、数少ないあなたが活躍する場面よ。」
「はい!奴と戦えばいいんですね。」
上がっていくモチベーション。彼は大好きなこの幻想郷を救えることに歓喜していた。早速エイリアンに一太刀浴びせるために刀を抜き、歩いて近づくが。永琳に足を掴まれ宙にぶら下がる形で持ち上げられた。
「えっ?」
「いえ、あなたは武器になりなさい。」
そして言葉どおり永琳は足を柄に体を振り回し、ウミをエイリアンに上から叩きつける。次に起こるのはこの場にあるバリアに包まれた生物を除く全てを吹き飛ばす擬音に起こせないほどとてつもない爆発だ。ウミは体の感覚をつかめず困惑する。「何が起きた」と体の一部すらも残っていなかったので魂から体を生成し状況を確認するために声を上げる。
「何が起きたんですか!?」
《あなたの再生力のリミッターを外したのよ。再生力も極まれば爆発になりうる。そしてあなたはほぼ無限の信仰心を物語から得ている。現状、幻想郷が止まっていても外の世界は動いているあなたのエネルギー源が尽きる心配はないし、時間稼ぎも出来る。一石二鳥よ》
複雑な説明を術でウミの脳にぶちこみ、ウミと同様に魂から体を再生した永琳はまたウミの足を掴む。
Creating「爆発する矢」
反撃されるがそのままウミを魔術にぶつける
『爆発』
「おはは!こんなんじゃこのアカウントと私たちゃ100年経っても殺せやしねぇよ!」
「転生!」
爆発の余波を押し退けつつ再生した紅妹が足を掴み、
『爆発』
「ふふ、何だかお餅つきみたいで楽しいわね」
「アアアアア!」
『爆発』
――――――――――――――――――――――――――
そんなやり取りが一年続いた。
「あー、あれね。幻想郷の岩盤って硬いのねー」
「姫様、その話題何度めですか?」
全員の目が死ぬ程の長い戦い、この戦いの決着は相手を殺すことではなく相手の心をへし折ること。もしくは援軍の到着である
「リザ、レクション。いた、いたいー疲れた,,,ぐ、くそ!今、一瞬、魂が死んでたぞ!」
幸いと言っていいのかこの戦いの終わりは目前だった魂も致死量の痛みを浴びれば死ぬ。それは蓬莱の薬を飲んだ者にとっては一瞬の死でしかないが、その一瞬の死こそが、永遠と須臾の能力の途切れを意味する。
『爆発』
その爆発の後運悪く輝夜に魔術が当たり、それが切っ掛けとなって輝夜は人生で一度目の死を向かえる。
――――――――――――――――――――――
――――――
目覚めた輝夜は最後の力を振り絞り麗夜を何度も何度も爆発させて出来たクレーターに降ろした。世界はもう動き出していた。
もはや痛みを感じないエイリアンとウミ以外の三人は活動の限界だった。眠気に抗えない。
「ウミ、助けて…あげて」
「オーケーボス!後は任せてください」
――――――そして現在に繋がる
「とにかく!!前を見て!戦ってください!!魔力は僕が供給します!」
「…」
麗夜は無言で答えた。『生きて帰る』死地を抜けてその思いがより強くなった麗夜は返事をするという余裕を、相手を殺す覚悟をする余裕を消し、目の前の敵に集中する。
「時」
敵が一言目を発そうとして唇を少し動かした瞬間に空中に張り巡らされたトラップを魔力探知にてくぐり抜け麗夜は魔力の籠もった膝蹴りを敵の顔面に食らわせる。
「間を」
打撃を食らわせた膝と顔の接着部を通して魔力をながし魔法を構築する。それは麗夜も知らずに使っていた魔法使いの禁術。他人の体と接合し相手の体をつかって魔法を使う。本来は神経がズタボロになる代償を払わされるが、
「稼いで「これは俺の体だ!!」
肘打ちをしつつもその理論でごり押す。そして敵の手足が氷に包まれていく。
「い」
殴る。足が氷って動けない敵を殴る度に氷つかせながら全力で連打する。麗夜は魔力を使う度に敵の魔力も一緒に減るのを感じていた。これはウミの力、麗夜とエイリアンの持っている魔力の均一化。これにより麗夜はエイリアンの持っていた魔力を使える。最終的には魔力ゼロになって倒れた麗夜と氷った敵がそこにいることになる。
「る」
「の」
筋繊維にかける魔力の精度と量を上げて、飛行機やヘリコプターのプロペラのように連打の速度が人の数えられる領域を超える。敵はもう喋ることは出来ない。氷が顎を固定したからだ。
バギ!!
「は!!」
「ぐッ」
あと数秒もすれば両者の魔力が底をつく、そんな瞬間に敵の魔力量が爆発的に増える。それと同時にエイリアンに纏わりついていた氷が砕け散った。
「お前だけじゃない」
エイリアンは幻想郷の時が止まっていた間、自分の分裂した欠片を集め幻想郷に入れていた。
不完全な欠片だけの状態でもその力は圧倒的で、世界の色を変え幻想郷中の全生物をバリア越しに震撼させる。そんな力を間近で食らった麗夜たちは地面に倒れ伏してしまう。
「がぁ!動け!動いてくれ!」
「...! ...!」
麗夜は叫ぶ。ウミは指を動かすことも出来ない。
「ふざけんなよ」「喋れるだけ凄いな」「世界の侵食を今始めよう」
そう言ってエイリアンは手を広げ宙に浮く。そしてエイリアンを中心に赤い亀裂が空間に走り、世界を侵食していく。
「待て!くそ!待ってくれ!」
「ウハハハハァ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!」「ひっくり...返し..て......」
「体を、亀裂が、貫く。誰かたすけてくださ、い。」
非情にも亀裂が収まる気配はなくバキバキと加速していく侵食は、ウミの体と力をも侵食し世界を赤く染めていく。
「好き勝手するのもそこまでよ。」
眩い光りと共に女性が空から降りる。不思議とその瞬間に赤い亀裂の侵食は跡形もなく消え去る。色を変えられた世界は再び彼女の色によって上書きされる。
底の見えない大きな力のぶつかり合い。それは片方の圧勝にて終わった。
そして眩い光は消え去り、その力の源たる女性が顕現する。彼女は赤と白を基調とした金の刺繍の着物を羽織り金の太陽を象ったと思わしき冠をかぶっていた。それがよく似合う金の髪をした、麗夜にとってもウミにとってもよく見慣れた女性の姿だった。
「紫...さん..?」
そう呟いたのはウミか麗夜どちらだったか、
「ふふ、私の名は天照大御神よ、あなたたちよくここまで持ちこたえたわね。これにて異変は一件落着。私はこの場に長くいてはいけないの。なので申し訳ないわねウミさん。もう手遅れかも知れないけれど、その傷は誰かに治して貰いなさい。」
そう言って天照大御神と名乗った紫に似た女性は虚空へと光と共に消えていった。
麗夜はそれを見届けたあと意識を闇へ手放す。ウミはただ一人想う女性の元へと走り出した。