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只の婚約破棄ではありません

作者: 千
掲載日:2021/11/14

台詞に注目!




ーーーーーーーーーーー




「ダリア・サンドラー!お前は私の婚約者でありながら私の愛しいジュリアを身分を使って虐めたそうだな!」




王立学校の卒業パーティーにて。生徒達の華々しい門出を祝い盛り上がっていた場が、この国の第一王子の一声により水を打ったかのように静まっていた。




声を上げた第一王子、ハンス・スクランブルは、脇に熱をあげている令嬢を抱き、本来の婚約者であるダリア・サンドラー公爵令嬢を睨み付けている。




「なんて事を仰いますの、ハンス殿下。私がそのようなことをしたという証拠があるのですか」




あくまでも冷静に返すダリアの目は、完全に据わっていた。まるで、どうしようもないと言いたげに。




「かのようなもの、彼女の言葉が何よりの証拠だ!」




「ダリア様ぁ、私、あなたが謝って殿下から身を引くというのなら、私は許してあげようと思ってますぅー」




ハンスの脇でしたり顔をしている令嬢は、ジュリア・スチュワーデス男爵令嬢。ハンスという強い味方の前に最早怖いものなどなにもないのか、公爵令嬢に対して随分な上から目線である。




しかし、ハンスはその言葉に鼻の下をだらしなく伸ばして、満足げに胸を張った。




「うむ!ジュリアは優しい子だろう?さっさと自分の罪を認め、しおらしく謝ると言うのなら、まあ側妃くらいにはしてやろう。わっはっはっ!」




「話になりませんわ。全く…良いです。そっちがその気なら、もう遠慮は致しません。ライト、あれを見せてやってちょうだい」




「良いのですか、お嬢」




ダリアは深いため息をついた後、側にいた黒髪碧眼の少年に目を向けた。




「うん?ライト?誰だそいつは」




「私の側近ですわ。もういいでしょ。最初っからどうでもいいの。私」




最後の言葉は、ライトにしか聞こえないような小声だった。しかし、そこには押さえきれない嫌悪感を感じる。




「承知いたしました。お二方、これをご覧になってください」




ライトが示した数枚の紙を、しげしげと眺めたハンス。




「イッ、イリス王の印が入った訴訟状じゃないか!しかもジュリア宛てだと!?」




「殿方達からお金を搾り取るのは楽しかったですか?ジュリア様」




間髪入れず冷静にそう言いはなったダリア。その瞳は、まっすぐジュリアに向けられている。




「まさかッ、ジュリア、お前…」




「えぇっと、わ、私何も知らなぃ…」




「言い逃れは見苦しいですわ。ジュリア様。貴女は複数の殿方と関係を持ち、あれがほしいと高価な物をねだっては買わせ、その者が破綻するとすぐ捨てるという行為を繰り返していたようで」




ダリアのその言葉に、会場にいる者全員が非難の視線を彼女に向けるが、彼女は臆することなく胸を張る。




「でっでも、それは私に落ちた彼らが悪いんじゃない!私は罪なんて犯してない!」




「いいえ、中には結婚の約束をしていた者もいるそうですね。約束をしておきながら一方的にそれを反古するのは、立派な犯罪ですわ。親族共々、牢で罪を償いなさい」




ダリアの合図と共に、一斉に衛兵が動く。奥の方で聞こえるやめろという怒鳴り声は、彼女の父からであろうか。




「いっ、嫌よ!嫌!ハンス様ぁ!助けて下さっ…」




「流石は我が婚約者だよダリア。おいっ!犯罪者が気安く俺の名前を呼ぶな!」




呆れるほどに変わり身の速いハンス。しかし、ダリアは彼にも冷たく斬り込んでいく。




「なら、貴女も私の名を気安く呼ばないで下さいな」




「なんて事を言うのだダリア。君は私の婚約者であろう?」




「嘘を仰らないで下さい。婚約関係はさっき貴方によって一方的に破棄され、それによって貴方は王子から犯罪者に成り下がりましたわ」




「私が、犯罪者?何を言うのだ」




何も分かっていないハンス。元王子の癖に法律をまるで理解していないと言うことに、ダリアは頭痛さえ覚えた。つい、イラつきが言葉に出てしまう。




「だから、この国では、王の名を元に交わした約束は、両者の理解がないと破棄してはいけないことになっているんです。貴族同士の婚約は大体そうですから、一方的な婚約破棄は法に触れます」




「すると、俺は…?」




やっと事の重大さが分かったハンス。みるみる顔が青くなる。




「はい。そのうち王から正式に処分が下るでしょう」




「う、嘘だそんなの!俺はそんなこと人生で一度も聞いたことが無いぞ!」




「そんなことありません。基本中の基本ですわ。学校の教育ではまず初めに習いました」




「だっ…誰か!嘘だと言ってくれよ!」




そう悲痛そうに叫んでも、もう誰もハンスを擁護するものはいない。皆、こんなバカが王になりかけていたのかと自分の国の危機に頭を抱えていた。




「よく反省してください。十余年、自分がどれだけ愚かな日々を送っていたか。次に会うときは裁判所となります。どうかそれまで大人しくしておいてください」




衛兵がハンスの腕を無理矢理掴み、ホールから退場させる。その間もハンスは惨めったらしく泣き続けた。




「嫌だ!ダリア!悪かったっ!だから助けえくれぇ!ひぃぃん」



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