また会う日まで
翌朝、いつもの時間に衣都が訪ねて来た。
あさひが玄関の扉を開けて出迎えたので衣都は驚いた。
あさひについてダイニングに行くと、朔とオクリト君の姿がなかったので、衣都はちょっとガッカリした様に見えた。
「衣都、いま朔とオクリト君がいなくてガッカリしたでしょう?」
「いえ、そんな事はありませんわ。今日はお姉様に会いに来たんですもの」
衣都はそう言ったが、明らかに残念そうに見えた。
「チッチッチッ、嘘はいけないなぁ」
あさひは人差し指を顔も前で振りながら衣都を見る。
「嘘ではありませんわ。それより、まひるさんがいらっしゃらないみたいですが…」
衣都は話題を変えて、あさひの追求を逃れようとした。
「まひるは昨日からおばあちゃんのところに行っているのよ」小夜が奥からカフェオレの入ったカップを二つ持って出てきた。
「そうよ、だから今日は学校はサボりよ」とあさひはすました顔で小夜からカフェオレのカップを受け取りテーブルに置いた。
「サボりじゃないのよ」
小夜が困った顔で弁解をする。
「わかってますわ、おばさま」と衣都は頷いた。
衣都は座る前に、あさひに細長い筒状の物を差し出した。
「あさひお姉様、これは私の一番のお気に入りのポスターですわ。これをお部屋に貼って私を思い出してください」
あさひは少しイヤな顔をして「あんたの趣味を私に押しつけるつもり」と言った。
「そうではありませんわ。これを見て私を思い出して欲しいのですわ」
あさひの態度に衣都が拗ねたように言った。
「わかった、わかった。部屋に貼るかは別にして貰ってあげましょう」
あさひが受け取ってくれたので、衣都は喜んだ。
「それと、お姉様にお手紙書きましたの。今はまだ開けないでくださいね。飛行機に乗ってから読んでくださいね」
衣都は封筒をあさひに渡した。
あさひは嬉しいような、寂しいような、なんともいえない顔をして受け取った。
「ありがとう、衣都。短い間だったけれど、知り合えて良かった」
あさひの目が潤んでいるように見えた。
「まあ、お姉様らしくありませんわ。わたしも、お姉様と会えて嬉しかったですわ。まひるがお姉様のいもうとだなんてまだ信じられませんけれど、これからは少し仲良く出来るように努力しますわ」
衣都も泣きそうになるのをこらえているようだった。
あさひは衣都がまひるのことを妹と言ったことに、まひるはもう妹になったんだと改めて思った。
「そうだね、いもうとのまひるをビシバシ鍛えてやってよ」
「お任せくださいですわ」
あさひは衣都が学校に出掛けるまで一緒にいた。
表に出て見送るあさひに、衣都は何度も振り返って手を振った。
衣都を見送ってから、急いで部屋に戻ったあさひは、まひるの様子を見に行った。
変わらずにまひるは眠ったままだった。
昨夜は小夜が一緒だったので、まひるのところには行かずにいつの間にか寝てしまった。
今朝も小夜と一緒に起きて衣都が来るまで一緒にいた。
一人になるとまひるのことで自分を責めて泣いてしまうあさひを、小夜は一人に出来なかったのだろう。あさひは小夜の気遣いに感謝していた。
あさひは小夜ともまひるとも別れたくなかった。このままずっと三人で過ごせたらどんなにいいかと思っていた。でも、自分が残るとまひるが代わりに連れて行かれると聞いて旅立つ決心をした。
あさひはまひるに会って謝りたかった、「さよなら」が言いたかった。だから目を覚まして欲しかった。
「まひる、目を覚まして」
まひるは眠りながらあさひの声は聞こえていた。
でも、その声がまひるの心には届いてなかった。
あさひはまひるに話しかけた。
「ねえ、まひる。わたしあんたが生まれたときのことを覚えているのよ。
わたしはあんたが生まれてとても嬉しかった…。
パパがいなくても、ママとまひるがいるから寂しくなかった。
小さなまひるはいつもわたしの後を追いかけてきたわね。何でもわたしの真似をしてた。そんなまひるがわたしは大好きだった。
ねえ、まひる。信じてくれないだろうけど、あんたは可愛い自慢の弟だったのよ。
だけど、幼稚園の時、あんたは女の子の洋服を着せられたわ。わたしはそれがとてもイヤだった。ママが困って幼稚園に行くときだけ、わたしの洋服を貸してねと言ったわ。しかたなく貸してあげたら、大人達は同じ洋服を着たときの、まひるとわたしと比べて見るようになったわ。
まひるは男の子なのに『どうして女の子のお洋服?』『どうして?』『どうして?』って毎日思っていた。ママもあの園長には困っていたわ。
その頃わたしはフリルの沢山付いた洋服が好きだったけれど、ママに頼んで、まひるが着てもおかしくない洋服を買って貰うようにしたわ。
そのうちそんな大人に振り回されるのがイヤになってきた。だから追いかけてくるあんたを遠ざけることにしたの。
ママが心配して聞いたわ『あさひ、まひるを避けているようだけど、どうしたの?』って。
私は避けているつもりなんて無かったのよ『まひるを男にする大作戦を決行中なの』ってママに言ったわ。
だって、あんたが幼稚園行きたくないと思っているのを知っていたから、まひるの方がもっとイヤに決まってると思ったから、わたしが側に居なければ比べられないと考えたのよ。
ところがあの園長、わたしが卒園した後もあんたを女の子のままにして、最後はシンデレラの劇までさせたときには腹が立って殴ってやろうかと思ったわ。
あんたには耳タコでイヤだったと思うけど、そんな事があったから、あんたの顔を見るたびに『男らしくしなさい』と言うようになったわ。
まひるが男らしくなるために習い事を始めると言ったとき、剣道を選んだ理由が面で顔が隠れるからと言ったときは笑ったわ。
笑ってごめんね。でも、まひるが自分の顔を気にしているんだと思ったら、おもわず笑ってしまったんだ。
あんたが剣道を始めたので、わたしもコッソリ隣町の道場に通うことにしたのよ。いつか二人で一緒に出来たらいいなと思ったのよ。
ママが『一緒のところに行けばいいのに』と言ったけれど、それではあんたがわたしに頼ると思ったのね。でも、あんたは自分で休まずに道場に通うようになった。少しずつだけど、周りがあんたを男の子として見てくれていると思ったら、わたしは嬉しかった。
それにね、わたし衣都に会ってわかったことがあるの。同じまひるの身体なのに、衣都はわたしとまひるは全然違うと言ったわ。それを聞いて、わたしもまひるの外見を気にしていたんだと気が付いたの。まひるはまひるだったのに…ごめんね。
でも、わたしは、いっぱい頑張って男らしくなろうとしていたまひるを女の子にしてしまった…。
ママはわたしのせいではないと言ってくれたけれど、やっぱりわたしのせいだと思う…。
わたしはあんたに注文ばかりつけて、いい姉では無かったけれど、あんたが男の子でも女の子でもまひるはまひるなの…。まひるがどんなに変わっても、わたしがまひるを大好きなのは変わらないから。だから…はやく…起きて…。
わたし、今夜にはもう行かないといけないの…
まひるが眠ったままだと…さよならも言えない…」
あさひの頬を涙が伝ってまひるの顔に落ちた。
まひるの頬を涙が流れた。
あさひはまひるの顔をハンカチで拭いた。
まひるにはあさひの声が聞こえていた。
あさひがまひるを避けていたのではないと知った。
まひるがずっと「どうして?」と思っていたことが、あさひがまひるのためを思ってしていたことだと知った。僕は嫌われていたわけでは無かったんだ。あさひは僕が大好きだと言ってくれた。僕が剣道を始めたら、一緒に始めてくれた…。
あさひ、あさひ、僕もあさひが大好きだよ。
まひるの目から涙がこぼれた。
それは偶然にもあさひの涙と重なった。
涙はまひるの心に残っていた瘴気を消した。
まひるは眠りから目覚めた。
でも目を開けることは出来なかった。
女の子になった自分をあさひに見られることにまだ抵抗を感じていた。
「あさひ、あさひ」
お母さんがあさひを呼ぶ声が聞こえる。
「なあに、ママ」
涙を拭いてあさひの意識が外へ行く。
まひるはそっと目を開けた。
あさひはベッドから起き上がった。
その時御門野から貰ったお守りが胸の上で青白く光った。
驚いたあさひはお守りを手に取った。それは熱くもなく冷たくもなくただ青白く光っていた。そしてあさひが見ている間に紐を残して手のひらから消えてしまった。
お守りが消えた途端、薄かったまひるの気配が強く感じられた。
まひるの目が覚めたのかもしれない!
あさひは慌てて内側に意識を戻してまひるを見た。
まひるはまだ寝ているように見えた。
でも、さっきと少し様子が違っているようにも感じた。
目が覚めたのならどうして起きてこないのだろう?あさひは不思議に思った。
「あさひ、大丈夫?」
小夜がドアを開けて入ってきた。
あさひは意識を再び外に戻した。
「あさひ?」
心配そうに覗き込む小夜の顔が見えた。あさひは小夜にまひるのことを話そうと思ったが、ぬか喜びをさせて後で寂しい思いをさせたくなかったので黙っていることにした。
「蒼海君が来てるの。あさひに会いに」
「わたしに会いに?」
学校に行っているはずの蒼海が訪ねて来たって?どうしてだろう?とあさひは思った。
「衣都ちゃんがお別れに来たでしょう。だから蒼海君もお別れを言いに来たんだって」
小夜の説明を聞いて、あさひは蒼海の優しさに嬉しくなった。
「わかった。蒼海先輩に上がって貰ってもいい?」
「この部屋に呼ぶの?」驚いた様に小夜はあさひを見た。
「うん、蒼海先輩に私の部屋を見せたいの。衣都の部屋もすごいけど、私の部屋もすごいのよって」
小夜は美少女戦士で埋め尽くされた部屋の中を見回した。
「わかったわ。じゃあ上がって貰うわね」
小夜が蒼海を呼びに下に降りたので、あさひはベッドから起き上がった。そして、机の椅子を部屋の中央に置いた。
小夜が蒼海を案内して戻ってきた。
あさひの部屋に入った途端、蒼海は部屋中のポスターに目が釘付けになった。
「ママ、ジュースお願いしてもいい?」
蒼海の様子を見て笑っていた小夜は頷いて下に降りていった。
「すごいね。衣都もすごいと思ったけれど、あさひちゃんのもすごい!」
相変わらず部屋を見回している蒼海に「衣都ほどではないわ」とあさひは言った。
「そうかな?」
蒼海の目がポスターからあさひに移った。
「蒼海先輩、椅子にどうぞ」
あさひは部屋の中央に置いた椅子に蒼海を座らせた。
蒼海が椅子に座ると「ちょっと目を閉じて貰って良いですか?」とあさひが言った。
「どうして?」と蒼海は不思議そうにあさひを見た。
あさひはにっこり笑って「狸を追い出すゲームをしたいの、だから黙って目を閉じてくれますか」と蒼海を見た。
狸を追い出すゲーム?蒼海は何のことかわからなかったが、とりあえずあさひの言葉に従って目を閉じることにした。
あさひはコホンと咳払いをして「狸さん狸さん出ておいで」と言いながら、蒼海の周りを少しまわって正面に来ると、少し腰をかがめて蒼海の顔に自分の顔を近づけた。
蒼海の唇とあさひの唇が付きそうになった時、
「あさひ、ダメだよ!」
「あさひ、ダメよ」
まひると小夜の声が重なった。
「ほうら、狸が出てきた」
まひるの声を聞いて、蒼海から離れたあさひが勝ち誇ったように言った。
「あさひ、僕の身体で何をするんだ」
「あんたが、狸寝入りするからよ。こうでもしないと起きてこないつもりだったんでしょう」
まひるの声に小夜と蒼海が驚く。
「まひる!?」
「まひるちゃん!?」
小夜と蒼海の喜ぶ声が重なった。
「だからって…」
「ブツブツ言わないの。ママも蒼海先輩も心配してたのよ」
「ごめんなさい、僕、女の子になってしまったから、ちょっと恥ずかしかったんだ」
消え入りそうなまひるの声がした。
「大丈夫よ。男の子でも女の子でも、まひるはまひるなんだから、誰がなんと言ったって、私の可愛い弟…じゃなかった、いもうとなんだから」
「あさひ…」
あさひの言葉にまひるが涙ぐんだ。
その時ふいに朔が現れた。
「まひるさんが目覚めたようですね」
「朔、何の用」あさひは朔をジロリと睨んだ。
「恐いね、あさひ」朔はおどけたようにあさひを見る。
「まだ迎えの時間には早いでしょう?」
「まひるの起きた気配がしたから見に来たのですよ」
「ふーん」と言ったあさひはまだ朔を睨んでいる。
「まひるの目が覚めて良かったですね」
あさひを無視して、朔は小夜に笑いかける。
「はい、ありがとうございます。それで、何か用事でも?」
「いやだなぁ、小夜さんまで」
「大好きなママとの時間を邪魔して欲しくないの」あさひは小夜の前に立って朔を見た。
「あさひの2ヶ月の約束が一週間ほど早くなったので、その代わりと言っては何ですが、天界と掛け合って特別に優遇した話しを持ってきたんですけどね」
朔はちょっともったいぶったようにあさひを見た。
「代わりって何?」
「あさひは小夜さんが大好きなんですよね」
「ママは大好きよ。ママとまた離れないといけないのは辛いわ。生まれ変わってもまたママの子にしてくれるという話しなら聞くけど」
「そう、それなんですが、あさひがおとなしくオクリト君と黄泉を渡ってくれるなら、まひるの子供として生まれ変わらせてくれるそうですよ」
「まひるの子供」
「僕の子供?」
あさひとまひるが驚いた。
「そうですよ。そうしたら、小夜さんはお婆さんになりますが、また会うことが出来ますよ」
朔はどうですか?と言うようにあさひを見た。
少し考えていたあさひは「わかった、ママとまた会えるならそれでいい」と手を打った。
あさひの答えを聞いて、朔は満足そうな顔をした。
「ところで、そのお守りに付いていた紐をわたしに頂けますか?」
これ?と言ってあさひが朔に差し出す。
「ありがとう」とあさひから紐を受け取った朔は、それを布にくるんでポケットにしまった。そして、「そうそう、オクリト君が8時に迎えに来ると言っていました。それまでゆっくり待っていてださい」と言って去って行った。
一連の出来事を見ていた蒼海は「僕も自習時間を抜け出してきたので一度学校に戻って放課後また伺います」と言った。
「蒼海先輩が来てくれたおかげで、まひるが起きてくれました。それだけで充分です」とあさひは断ったが、蒼海は「いえ、最後まで見送りさせてほしい」と譲らなかった。
蒼海が帰ってまた来るまでの間に、あさひは一番お気に入りのポスターを剥がして、そこに衣都から貰ったポスターを貼った。それは、あさひが「朔とオクリト君そっくり」と言ったあのポスターだった。「やはりこれか」とあさひは呟いたが、ポスターを剥がすことはしなかった。あさひのお気に入りのポスターは丸めてリボンで結んだ。
まひるが「どうするの?」と聞いたので、「衣都にあげる」とあさひは答えた。
それから衣都に手紙を書いた。
衣都に手紙を書いた後は、部屋の中を片付けてドアを閉めて下に降りた。
「ママ、お待たせ」
小夜とあさひとまひる、三人の最後の時間。
三人はあさひが生まれ変わって、再び会えることに満足していた。だから、寂しい気持ちもあるけれど、また会えるという喜びもあった。
「まひる、間違っても篤をパパに選ばないでよ」
あさひはまひると仲の良い篤が、現在はパパの一番候補になりそうなのが気に入らなかった。
「あさひ、篤君も良い子よ」と小夜が言っても、それは譲れないと反対した。
「僕が誰と結婚するかなんて、10年以上先の話だよ。今考えたってわからないよ」
まひるはあさひが気に入るパパを見つけるのは大変だと思った。大変だけどあさひとまた会える楽しみの方が大きかった。
夜の7時半過ぎに蒼海が訪ねて来た。
あさひは、衣都のために用意していたポスターと手紙を蒼海に預けた。
8時少し前に朔とオクリト君が迎えに来た。
お別れの時が近づいた。
「ママ、ハグしてくれる?」とあさひは小夜に言った。
小夜はあさひを抱きしめた。
「今度会うときはおばあちゃんだね。わたしママにまた会えるのがうれしい」
「ママもあなたが帰ってくるのを楽しみに待ってるわ」
あさひは名残惜しそうに小夜から離れた。
そしてあさひは蒼海にもハグを求めた。
蒼海は躊躇いながらもあさひをハグした。
「蒼海先輩、ううん、お兄ちゃんありがとう」
あさひはそう言って、蒼海の唇にキスをした瞬間にスッとまひるの身体から抜け出した。
蒼海とキスをした状態で身体を戻されたまひるは一瞬固まって、慌てて蒼海から離れた。
蒼海もビックリして、離れたまひるに「ごめん」と謝って真っ赤になって固まってしまった。
「あさひ!」とまひるが叫んだ。
「良いじゃない、わたしとまひるのファーストキスを蒼海先輩にあげたかったのよ。だから良いじゃない」
「そんな問題じゃない!」まひるは叫んだが、あさひは笑って「じゃあね、ママ」と手を振ってオクリト君と消えて行った。
小夜は呆れながらあさひを見送った。
蒼海はしばらく思考が止っていたが、あさひが去って行くのは見えていたので、最後まで見送った。
まひるも真っ赤になって怒っていたが、あさひが消えるまで見送った。
最後の最後まで慌ただしかったあさひが去って、静寂が訪れた。
「じゃあ、僕は帰ります」まだ赤い顔をしたままの蒼海が、あさひから預かったポスターと手紙を持って帰る支度をした。
小夜は「見送りに来て頂いたのに、あさひがとんでもないことをして、すみませんでした」と謝った。
まひるは蒼海の顔がまともに見れないまま「ありがとうございました」とだけ言った。
「いえ、こちらこそすみませんでした」と蒼海は小夜に挨拶をして、まひるをチラッと見て帰って行った。
朔も蒼海の後を追うように、小夜に挨拶をして出て行った。
小夜と二人になったまひるは、蒼海とのキスにまだ気を奪われていた。
「あさひには困ったものね。まひるは大丈夫?」まひるの気持ちを察したのか小夜が声をかけた。
「僕、美月さんの気持ちに共鳴してたから、蒼海さんとお父さんの顔が重なって、だから、僕の気持ちじゃないところで、美月さんの「好き」の気持ちが残っているみたいで、蒼海さんを見るとなぜか胸がドキドキしておかしいんだ。それなのに、さっきのことでもっとドキドキして胸が熱くなってどうかなってしまったみたいなんだ。蒼海さんの顔がまともに見れなくなっちゃった」まひるは自分の感情の動きに戸惑っていた。
小夜はまひるの話しを驚いて聞いてたが、まひるに美月の「恋」する心が残っているのは、これからまひるが本当の「恋」をするのにたいした障害にはならないと思った。まひるには自由に「恋」をして欲しい思った。そのためには今度こそ良き相談相手になりたいと小夜は思った。
その頃、轟木美月の家では、美月の葬儀も終わり、年老いた両親が静かな夜を過ごしていた。
「弁護士の先生がお話があるといらっしゃいましたよ」
美月の母は夫のところに弁護士を案内してきた。
「ああ、美月が亡くなって、誰もこの家を継ぐものがいなくなったから、弁護士に後のことをお願いすることにした」と夫は妻に説明をした。
弁護士は座るまえに「轟木さん、驚かないでください」と前置きをして、「星夜さんにお子さんがいました」と言った。
「星夜に子供!」夫婦が驚く。
「はい、轟木星夜さん小夜さんの間にお子さんがいます」
轟木家にとって衝撃の事実だった。
日比野家にとっても隠された扉が開かれた瞬間だった。
まひるの周りでまた新たな事情が始まろうとしていた。




