音響監督の覚書15(外郎売の意味とは?)
質問箱にはラジオに関するものが多く届くのですが、稀に芝居に関するものも届きますのでそれを一部加筆してこちらで残しておきましょうかね。
質問箱に以下のような質問が届きました。
「ういろう売りの練習をしていたら、そんなのやる役者はいないと歌を習ってるこに言われ大喧嘩しました。
ういろう売りについてどうおもいますか?」
なかなかどうして、面白いなと思いました。
まず、前提条件としてどんな手法であれ役者にも『トレーニング』は絶対に必要です。
身体が出来ていなければ良い芝居が出来ません。
と言う中で『外郎売』は昔から滑舌の鍛錬として使われ続けてきました。
そう、『滑舌の鍛錬』としてです。
そこで感情を込めたりして芝居としての鍛錬を目的としていないのです。
そもそも『口上』であって、8分程度かかる挨拶・自己紹介みたいなものなんです。
なのでセリフの目的としても明瞭に相手に伝えるべきで、言うならば語りです。
正しい発声と滑舌、そして刻み良い調子でお客さんに飽きさせずにこちらに引き込むための口上。
そう言う意図も汲んで、鍛錬だったりウォームアップとして役者の人たちは外郎売を使っているわけです。
ウォームアップと言いましたが、スポーツで言えば柔軟から身体を動かしての暖機運転です(って言葉が車の用語になっちゃった!)
ウォームアップの方法にはいろいろあるでしょう。
外郎売はいわば、野球なら、外のグランドでストレッチをして2周くらい6~7割のスピードで走って、ロングキャッチボールをするようなものです。
それを否定している子は、「えー! まだ外のグランドでウォームアップしてるんですか? 古ーいw 今はそんな埃の舞う外グランドじゃなくて室内練習場でマシンを使ってアップするんですよ。 ほら、イチロー選手のようにw」って言ってるようなものです。
※イチロー選手はマシンを使って科学的なウォームアップもしますが、ちゃんとグランドにも出てますけどね。
どっちが間違っているとかってわけじゃないです。
従来のやり方と新しいやり方でぶつかってるようなものです。
で、本題であります、外郎売についてどう思っているのか。
滑舌の中でも口周りや舌の動きにおいて、これほど満遍なく動かすのにちょうどいい物がありませんし(だからいまだに使われ続けている)。
しかも、並んでいる言葉をよどみなく出すためにも調子もよくなければならない、つまりは実践的な鍛錬・ウォームアップとして優れているんです。
なので出来て損は無いです。
歌と芝居で求めるものが違い過ぎますし、外郎売の意味も考えず・知らずに否定しているのであれば、それは単なる無知ですね。
昔から今でも続いてやっている人が多いと言うことは、それなりに価値があるからこそ続くんです。
逆に言えばうさぎ跳びのように効果が実はないと分かればすたれていきます。
そして、本来効果があるものも知らずに間違ったやり方をしたら効果を得られないでしょう。
2010年のダルビッシュ選手の言葉を最後に紹介しておきます。
「練習は嘘をつかないって言葉があるけど、頭を使って練習しないと普通に嘘つくよ。」
これに尽きると思います。
惰性で外郎売をしてるなら、準備運動にはなるでしょうけれど成長にはならないかもしれませんね。
意味を考えないと言うのは、損が多いんですよね。
何事も意味を考えてみると見え方も多角的になって良いことがあると思いますよ。
稀に徒労に終わりますけど(笑)