プロローグ
初投稿です。
至らないところが多々あるかもしれませんがお見守りいただけると幸いです
俺は幼い頃から、他人の暮らしてきた日常より多くの「モノ」が見えたり聞こえたりしていた。
何それ!って思ったやつ。期待するなよ。他の人には見えてないんだ。俺はこの見えないやつらのせいで幼少期は散々だった。関わらなくても散々だったんだ、関わっても散々な目に遭うに決まってるだろ。
これから話すのは平和な日常を過ごすため今まで関わることを避けてたやつらに襲われて、平和な日常を取り戻すために自分からそいつらの世界に足を突っ込んで散々な目に遭うまでの話だ。
俺の名前は透護跳巳[ユキモリハズミ]。15才。男子。雨宮[あぜノみや]高等学校一年。人より余計なものが見えること以外は普通。だと思う。
例えば道端の電柱の側に供えてある花。一見は少し萎びたアヤメの花。ここまでは見えてる景色はほとんどの人と同じだと思う。ところが俺の視界を通してみると不思議、アヤメの花をぼうっと見下ろす男の子が立ってる。目元は本来花を見つめるために必要な眼球は無く、ぽっかりと穴が二つあいていて奥は仄暗い。その見た目のせいか感情がありそうには見えないし大分不気味だ。動かずにその場に留まり続けるその姿は抜け殻にも見える。怒りも泣きもしないそいつは隣の電柱のようにただ突っ立ってるだけだった。
3日前に俺の住む住宅街で小学校低学年の子供が亡くなったって言うニュースをテレビで観てからそいつは現れた。多分こいつで間違いないんだろうな。
他の人はこういう時どうするんだろうな?俺は見向きもしない。これから学校だし朝からこういうやつらに干渉するつもりは無かった。今までと同じだ。
言っておくけど俺は見たり聞こえたりするだけでテレビ番組で見るようなお祓いやお清め的な力は無い。この男の子に出来ることは何も無いわけだ、本人もあんま気にしてなさそうだし。
俺はその場所を通り過ぎた。
—チリン—
どうしてかわからないけど幽霊を見かけるとたまに鈴みたいな音を聞く。
少し気になるけど、何故かわかった所で俺には何も出来ないし、なんとなく俺は心の中でごめんな、と呟いて学校に向かった。
教室はいつもより少し賑わっていた。持った雑誌のページを指してなにか訴えてるやつ。両手を胸元で組んでうっとりしながら雑談するやつ。
俺はその様子を横目に席について突っ伏したような状態で座った。
入学してもう少しで2ヶ月だけど、この高校はなんとも言えないこの時期に修学旅行の予定があって、しかも場所はイギリス。来週にはイギリスに居るわけだ。高1の時点で海外に修学旅行とかぶっ飛んでると思う。それに旅行の費用の三分の二は学校から出すって言うんだからすげぇよな。どうしてそんなことが出来るのか俺らは知らないけどクラスの雰囲気は一気に上がり、入学して間もないぎこちない感じの雰囲気も吹き飛んだ。
席に着いてからウトウトしてると頭上から「おい、ハズミ」と俺を呼ぶ声が聞こえた。
顔を上げる俺に「ひどい顔だな」と言ってイギリスの観光地のパンフレットを差し出してきたそいつを少し睨む。
「イズルの目付きほど酷くはねぇぞ...」「生まれつきだ戯けが」
俺の目の前の席に座ったそいつ、貫は少し顔を不機嫌そうに歪めてパンフレッドを俺の机に置いた。
イズルは小学校の頃からの付き合いでとても真面目なやつだ。真面目すぎてなんで俺とこいつは付き合いがあるのかわからなくなる時がある。
きっちり第一ボタンとフックまで留められた学ランにシワひとつない踝丈のズボン、本人が面倒だと言うくるくるっとしたくせっ毛は顎下くらいで切り揃えられていて、前髪は上げて髪留めで留められている。あと目つきが悪い。そりゃもう悪い。ちょっと目が鋭いとかのレベルじゃなくて本当に怖い。くっきりと目の周り全体を囲む隈と、真っ黒な瞳孔が開いたようなギョロっとした瞳。ただでさえ怖い目元は凄むと視線だけで切り刻まれそうな程だ。
ちなみにこの目がコンプレックスで小学校の時は前髪を長く垂らしていたけど中学校に上がってからイズルのことをからかうやつが現れて、そいつらと熱いバトルを繰り広げてから開き直ったのか前髪をあげるようになった。ちなみにイズルとドンパチやった相手は半泣き状態だった。(俺は遠目で怒ったイズルをみたけど怖すぎて直ぐに目を逸らした)
まあ目付きとかはともかくいいやつではある。ちょっと堅苦しい部分もあるけどな。
「で、なんだよこのパンフレット。お前もめっちゃワクワクしてるとかか?全然そう見えねぇけど」
「お前も同じ班だろうが!お前だけだ。意見を聞いていないのは。」
ついこの間旅行の自由時間にまわる場所を決める時間があったけど俺は特にここに行きたいってところが無くて意見を出してなかった。
「俺は特に希望とかねぇもん…お前らで決めてくれっていったろ?俺はそれでいい…」
「そうはいかないだろう? お前も一緒に回るんだから皆の意見もお前の意見も入れて等しく振り分けるべきだ」
俺は薄くため息をついて目の前のパンフレッドに手を伸ばした。「ひとつくらい気になるだろ」という呆れたような声が聞こえて来るけど、正直こういうのは現地に行ってじっくり決めたい。写真じゃ分かんねぇもん。
渋々俺がパンフレットを開いたと同時に教室のドアが開く音が響いた。
「席につけー!!」という担任の声と共に教室全体が慌ただしく席に着いてく。ここまではいつもと変わらなかった。
「よし、席に着いたな?」
担任が周りを一瞥してから少し改まったような表情になった。教室もそんな担任の様子に勘づいたのか少しざわめき始める。
「まあまあ静かに。今日は少し特別だ。」
そう言って担任は教壇から教室のドアの方を向いた。
「入ってこい!頼むからリラックスしてくれよ?」
ズパアアァァァァンッッッッッッ!!!!!!!!!
「あー…」と苦い顔をした担任を除いた教室にいる全員が突然の破壊音に呆然としてたに違いない。
さっきまで少し高級そうだけど何の変哲もなかった教室のドアは半壊。よく見ると壁にまで亀裂が入っている。
そんな状態の教室の入口に立つ小さい人影はゆっくりと教壇の方に向かって行った。
「あーっと…諸君!紹介しよう…」
担任の声が遠くの方から聞こえてくるようだ。教壇に上がって立ち止まったそいつはゆっくりとこちらの方に体を向けた。黒板に担任が名前を書き始める。
「今日からみんなと共に過ごすことになった、武鳴鋒[タケナリキッサ]君だ」
マスクと眼帯でほとんど隠れた顔の中で唯一見えてる右目が俺たちを見据えた。
そこから後はよく覚えてない。編入生にやりがちな質問攻めは全くしないし。誰もそいつに話しかけることが無いまま、編入生を加えた学級初日は終わった。
そして何故か、その編入生の冷たく冴えたような透き通った目が俺の頭から離れなかった。
読んでいただきありがとうございます
これからよろしくお願いいたします