08話 明るい未来予想
皿洗いを終えたら協会へ行く。勉強と手伝いをするのだ。
孤児院を出る際、テオと顔を合わせた。
テオは剣の稽古をしている。
子供用の木剣を使い、元兵士の老人から指導を受けている。
テオに誘われて見学に行ったことがあるけど、素人目にはさまになっているように見えた。
けれど老人の見解は手厳しく、あれは気合が入っているだけで剣の使い方がなっていないそうだ。
テオもまだ8歳だし、上達する可能性は十分有るんじゃないかな。
老人はテオに剣を教えているけど、戦士ではなく兵士になってほしいらしい。
兵士のほうが生活が安定しているから。
兵士は国の指揮下で魔物を討伐する。
過酷だけれど確かに実力が磨かれる修練を受けることが出来るし、武器や装備が支給される。
違反や重い失態がなければ毎月きちんと給金がある。
魔物の攻撃で身体の一部を欠損するなどして戦えなくなった場合は大金が支払われ、引退する際の特別給金もある。
一方、戦士には様々な立場の者がいる。
兵士が常駐していない村で、他に職を持ちながら有事には戦士として戦う者。
この場合は生活が安定している。
各地を旅する戦士もいる。
訪れた土地で依頼を受けて魔物を倒し金を得る。
旅をすることが主目的な者や、武者修行として旅をしている者。
旅の戦士という生き方にロマンを感じている者。
ロクでもない事情で1つの土地に留まれない者など事情は様々だ。
大抵の場合、生活は安定していない。
ゲームで戦士が仲間になるけど、そのキャラは旅をしたいタイプだ。
テオは「戦士のほうがカッコイイ」と言っていた。
戦士の冒険物語は男の子に人気があるんだよね。
テオを挨拶を交わして別れ、教会へ向かう。
すると、入口付近に知らない神官がいた。
スキンヘッドで大柄で肩幅が広く、顔は厳つい。
それらの特徴に、とあるキャラを連想する。
とりあえず挨拶しよう。
「はじめまして」
神官がこちらを見る。
「私の名前はソフィーです。この教会で学んでいます」
その言葉を聞いて神官が口を開いた。
「神官になりたいのかね?」
「はい、そうです」
「そうか……私の名はアルヴィン。修行中の神官だ」
私が連想したキャラと同じ名前だ。これって本人確定かな。
ゲーム内で、王女が見習い神官として所属している教会の大神官がアルヴィンだ。つまりアルヴィンは今後、大神官に昇格する。
「修行中ということは、大神官を目指しておられるのですね」
「ああ、そうだ」
アルヴィンがそう言ったちょうどその時、ジョゼフ様が現れた。
「アルヴィンじゃないか」
「お久しぶりです、ジョゼフ様」
ジョゼフ様とアルヴィンは知り合いだったのか。
「入って休みたまえ。ソフィー、彼のためにお茶を淹れてくれ」
「はい、わかりました」
ジョゼフ様とアルヴィンがお茶を飲む。
「……とても美味い」
「ソフィーはお茶を淹れるのが得意なんだ」
そうなんだよね。私はお茶を淹れるのが上手だ。
「この子はここで学んでいると聞きましたが」
「ああ、そうなんだ。この子は幼くして聖典を読み、勉強を重ねている。更に、もう治癒聖術を使えるし、診察聖術まで使えるんだ!」
少しだけ興奮が滲み出ているジョゼフ様の言葉を聞いて、アルヴィンは驚愕した。
「何だと!? この年齢でもう……!?」
アルヴィンはおもむろに自分の手を傷つける。
「君の治癒聖術を見せてくれ!」
アルヴィンもこれをやるの?
ジョゼフ様の時も引いたけど、ごついアルヴィンがやると余計にドン引きだよ。
本心は決して表に出さず、アルヴィンの傷を治した。
「では、診察聖術も確かめさせてほしい。私は修行のため、あえて治癒聖術をかけていない傷がある。それを当ててほしい」
診察聖術を発動する。対象が服を着ていても問題なく調べられる。
「……左腕の外側。横に切った傷があります。血止めの薬草を当てていますね」
「何っ!? そこまでわかるのか!? まだ幼いというのに!」
この年齢でここまで出来るのはすごいことだって分かってる。
でも、もっと上手くなりたい。
一瞬で診察して、一瞬で治癒できるようになるくらいに。
邪神討伐のメンバーになるんだから、それくらいにならないと安心できない。
ゲームでは戦闘でキャラが死ぬことはなくて、HPが0になっても瀕死になるだけだけど、今はゲームじゃなくて現実だから。
その後は、ジョゼフ様が私の自慢話をしてくれた。
私の優秀さや、強い志を持って神官を目指している等、私を褒めまくった。
聞いていて気分が良い。
「ソフィーはこのまま、この教会で見習い神官になるのですか?」
アルヴィンがジョゼフ様に質問すると、ジョゼフ様の表情が変わった。
「……実は、そのことについて迷っている」
えっ?
「ソフィーにはこれほどの素養があるのだから、もっと良い環境で学んでほしい思っている。エキナセア・シティが特に良いと思っているが、あそこは人気がある。果たして私の推薦状でソフィーが入れるかどうか……」
エキナセア・シティってアルヴィンが教会の代表になる町じゃん!
教会の建物自体が大きくて、図書館があって、見習い神官のための戦闘訓練場まである、すごい場所なんだよね。
ジョゼフ様が私をそこへ推薦しようとしていたとは知らなかった。
それ程までに見込まれている私ってすごい!
だけど入るのは難しいようだ。
少しだけがっかりしていると、アルヴィンが頼もしく宣言した。
「私もソフィーを推薦します!」
おお!
「私は後1年以内に修行を終えます。ジョゼフ様を含め、既に署名を下さる方々は決まっているのですから、2年後には確実に大神官になっています。大神官2人の推薦状があれば、エキナセアの教会もソフィーを認めるでしょう」
アルヴィン、頼もしい!
……そういえば、アルヴィンは物語開始時点の4年前にエキナセアの大神官になったんだよね。今からだと2年後だ。
ということは、私を認めるかどうか決定権を持つのはアルヴィンじゃん。
アルヴィンはこのとおりだから、私がエキナセアに行けるのは既に決まったようなものだ。
エキナセアの教会に所属できるのなら、主人公の仲間になるハードルが下がる。
私の前途は明るい。