07話 天才児
ヒース暦1008年。
早朝。私は鏡を見て微笑む。
私の可愛さは日々高まり続けており、8歳になった今でも鏡を見ていて飽きが来ない。
本当はもっとゆっくり見ていたけど私は結構忙しい。
身だしなみが整っていることを確認して厨房に行った。
「おはようございます、アリアさん」
「おはよう、ソフィー」
朝の挨拶を交わした後、私はジャガイモの皮をむきはじめる。
孤児院の食事は、基本的にはパンと野菜スープ。
まれにお菓子を配ったり、特別な日にはパンケーキを焼く。
厨房の手伝いはもう慣れた。
野菜の皮をむいたり切ったり、スープの味付けをすることも上手になった。
パンケーキの作り方も教わった。
私が作ったものは特に美味しいと評判で、褒められるたびに嬉しくなる。
アリアさんが、私にもっと色々な料理を教えたいともらしたことがあった。
私には料理の才能があるようだから。
私も自分磨きのために、料理をもっと覚えたいと思いはするけど、お互いにその余裕がない。
「おはよう。まだやることあるか?」
テオがやって来た。
「おはようございます。もうじきスープが出来上がるので、配膳を手伝ってください」
「まかせろ!」
私は大人に対してだけでなく、子供にも敬語を使うようになった。
今はまだ『可愛い女の子』だけど、いずれは『美しい少女』へと成長するはずだから。
そうなったら『幻想的な美少女』のロールプレイをするつもりでいる。
きっと敬語を使うほうが似合うから、早い段階で敬語キャラになった。
ちなみに、今の私は『がんばりやさんで礼儀正しい可愛い女の子』
テオは私やアリアさんほど早起きではないけれど、私を目当てに手伝いに来る。
まだ幼児だった頃は、勉強や手伝いの邪魔をすることがあったけど、今では割と役に立つようになった。
配膳をしていると、私よりもずっと小さな女の子が近寄ってきた。
「ソフィーおねえちゃん。あしがいたいよ……」
目視すると膝に痣ができている。どうやら転んでぶつけてしまったらしい。
念のため診察聖術を使う。
これを使うと、対象の負傷や病状を詳しく知ることができる。
この子の負傷は大したものじゃなかった。
「大丈夫。すぐに癒します」
私は手をかざして治癒聖術をかける。痣は一瞬で消えた。
「ありがとう、おねえちゃん!」
初めて治癒聖術に成功した際、後でわりと大変なことになった。
テオが怪我をしたから、教わったやり方を試してみたら上手くいった。
それを偶然見ていたアリアさんが驚き、報せを受けたジョゼフ様も驚いていた。
ジョゼフ様が自分の手に傷を付けて「君の治癒聖術を見せてくれ!」と言った時は内心引いた。
まぁ、私が失敗しても自分で治せるからやったんだろうけど。
後で知ったことだけど、大神官になるための修行の中には、自らを傷つけて癒すというものが含まれているらしい。
ジョゼフ様の傷を治すと「君は天才だ!」と絶賛された。
まだ幼いのに、傷を治すことが出来たから。
治癒聖術を習得できずに見習い神官を辞める者もいるらしい。
診断聖術を使えるようになった時は、治癒聖術の時以上に驚かれた。
診断聖術も早い段階で使えるようになったけど、もっと精度を上げてからジョゼフ様に報告するつもりだった。
人を見るたびに診断聖術を使っていたら、教会に来た人が肺炎を患っていることに気がついた。
外傷を治すより、病気を治すほうが難しい。
今の私には荷が重いと判断して、近くにいた神官に患者を任せることにした。
私の診断結果を聞いた神官がとても驚き、報せを受けたジョゼフ様も驚いていた。
診断聖術は治癒聖術以上に高度なもので、大神官には必須スキルだけれど、神官で使いこなせる者は少ないらしい。
私の診断は的中していたため、患者の治癒が終えたジョゼフさんに大絶賛された。
なお、病状がよく分からない際は、聖力が尽きるまで治癒聖術をかけ続けるのが一般的な神官のやり方だそうだ。
ただし、それでは治らないことがある。
治癒聖術は、治す必要がある箇所にかけなければならない。
ピンポイントでかければ効果抜群だけど、どこが悪いか分からないまま術をかけると効果が霧散する。
ただ、治癒聖術には体力を回復させる効果もあり、体力を取り戻した患者の自己治癒力で病気を克服する場合もあるから、聖力が0になるまで術をかけるのは無駄じゃない。
ちなみに、ゲーム内ではSPという用語が使われていた。
『スキルポイント』の略で、技を使うと消費される。
この異世界にはSPという言葉はなく、聖力や魔力と呼ばれているものがある。
物理系の技は体力を消費しているんだろうな。
ゲーム的に言うと、HPを削って発動というイメージかな。
私には聖術の才能がある。
とても嬉しいことだけれど、満足することはできない。
浄化聖術や結界聖術はまだ練習中だし、診察聖術の精度を更に上げたい
治癒聖術だってもっと効果を高めたい。
朝食を終えて、素早く皿洗いをする。
私は皿洗いをするのも上手い。
終わった後は自分の両手に軽く治癒聖術をかける。
こうすることで手が荒れるのを防ぐのだ。
神官にとっては当たり前のことなのだとアリアさんから教わった。
おかげで今日も私の手は白魚のように美しい。
私は自分の手も指も大好き。だってすごくステキだから。
失くさないように気をつけないといけない。
だって聖術では失った部分を生やすことはできないから。