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06話 宝物

 何だか暗い気分になったけど、『良い子』らしいリアクションをしないと。

 私は、『可愛くて良い子な私』でいることが大好きだから。

 ……そうだ、そういうロールプレイをしよう!

 ここは『ロールプレイングゲームの舞台と酷似した異世界』だから、ロールプレイをするのにピッタリじゃん。

 今までも良い子として振舞っていたけど、これからはロールプレイをしてるんだって意識しよう。それって楽しそう。


 何だか明るい気分になってきた。


 「ジョゼフ様。とても大切なことを教えてくださり、ありがとうございます」

 「いや。私も有意義な時間を過ごすことができたよ」

 ジョゼフ様からのウケは確実に良くなってる。やったぁ!

 「君にこれを渡そう」

 そう言ってジョゼフ様は聖典を差し出した。

 孤児院にあったものよりも古びているけれど、汚ないという印象はなく、大切に扱われていたような感じだ。

 「これは君の母が持っていたものだ」

 「……っ!」

 驚いた。変な声が出そうになったけど、どうにか押さえることが出来た。

 「君の母の名は分からない。まだ幼かった君を連れて旅をしていたようで、ルピナス・ビレッジで亡くなられた」

 あれ? 私はこの街で生まれたんじゃなかったの? 意外だな。

 「最期まで君の名を呼び、案じていたそうだ」

 私の母親、良い人っぽいな。

 「身寄りの分からなかった君はここへ引き取られることになった。この地方で孤児院があるのは、このベルガモット・タウンだけだからな」

 そうだったのか。

 「君が成長し、ここから巣立つときにこの聖典を渡すつもりでいた。けれど今、渡すことにしよう」

 私はそれを受けとり、そっと抱きしめるかのように胸に当てる。

 「……ありがとうございます」



 ジョセフ様と共に部屋を退室し、私は孤児院に戻ることになった。

 暗かった気分はもうすっかり晴れている。


 今後、ジョゼフ様の時間が空いた時は、神官になるための勉強を教えてもらえることになった。

 大神官に目を掛けられたということだ。

 3歳にして大神官から直々に指導されるだなんて、私すごい!

 私の人生、勝ち組じゃん!


 ……いや、ちょっと落ち着こう。

 私の夢はヒロインになることだから。

 本気で神官を目指しているわけじゃない。

 ただ、見習い神官になって聖術を学びたいだけ。


 だけど『神の教えを懸命に学ぶ、優秀で可愛い女の子』ってステキだよね。

 神の教えは別に知らなくてもいいけど、頑張ってるほうが良く見られるはず。

 よし、その方向性でロールプレイしよう。



 運命についてモヤモヤしていたけど、もう気にならない。

 ネガティブなのってよくないよね。ポジティブなのが1番良い。



 この聖典が手に入ったのも良かったな。

 『母の形見の聖典』ってすごく良い小道具だよね。

 お母さん、ありがとう!

 お墓はルピナス・ビレッジにあるそうだから、いつかお参りに行くよ。




 「ソフィー、どこいってたんだよ?」

 テオがこちらに駆け寄ってきた。

 「なんだよ、それ?」

 私が胸に抱く聖典を見て、不思議そうな表情をする。


 私は笑顔で答えた。


 「私の宝物」




 ジョゼフ様から教えを頂く日々が始まった。

 とは言っても、ジョゼフ様は忙しいから、他の神官やアリアさんに教えてもらうことも多い。


 まずは簡単なことから説明された。

 それらの中にはゲームで知っていることもあった。



 『神官』は3階級に分かれている。


 神官。大神官。大神官長。


 見習い神官は正式な神官ではなく、神官になるために修行中の者を指す。

 正式な見習い神官になることが出来るのは10歳から。

 だから神官になる勉強をしていても、私はまだ見習い神官ではない。


 大神官長は神官の頂点。聖区を治める唯一の存在。

 ものすごく特別な立場だ。


 大神官は特定の修行を修めた神官がなることのできる位。

 10名以上の大神官に認められる必要もある。

 ジョゼフ様のように、教会の責任者になることが多い。

 そして、大神官には見習い神官に、神官の位を授ける権限がある。


 神官は、その名の通り普通の神官。大多数が教会で働いている。

 孤児院が付属する教会では、アリアさんのように子供の世話をする役割もある。

 この世界の教会は病院も兼ねているため、治癒聖術での治療も行う。



 神官服は紺色で、見習い神官服は青色。

 青い目を持つ私に、青い見習い神官服はきっと似合う。


 首から提げる木彫りのお守りには、基本的には持ち主本人が手彫りしたもの。

 丸い板に聖なる紋章を刻み込む。

 見習いの頃から指導を受けて、上手く完成すれば首から提げる。

 お守り作成が神官になるための修行に含まれているといってもいい。

 ただし、不器用だったり、手が不自由でお守りを作れなくても、神官となるに相応しいと大神官に判断されれば特例として認められる。

 その場合、その者を認めた大神官がお守りを作る。


 神官は必ずお守りを首から提げなくてはいけないけれど、それは神官だけの特権というわけではなく、木彫り師が作ったお守りを持つ一般人も多い。

 信心深くて器用な人は自分で彫ることもあるそうだ。


 腰に下げたポーチには、必ず聖典を入れなければならない。

 私は母の形見の聖典を入れるつもりだ。




 勉強は大変なこともあったけど、私はすごいし、何だかんだで順調に進んだ。

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