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「遅いよー。何してたんだ。ゲームする時間めっちゃ減ったんだけど。というか何? その格好」

 安広は、教卓の上に寝そべっていた。普段半袖ハーフパンツにならない分、疑問に思うのは当然だ。


「悪いな。ちょっと出が悪くて。服は、ちょっと汚れたから脱いだだけ」

「出が悪いだけじゃこんなに時間かかる訳ないだろ。もしかして白石か?」


 嘘に察してくれたようだ。多分、トイレで汚したと思っているだろうから。それか、本当に興味がなかったか。


「白石ぃー? まあ会ったには会ったけど、適当に話して終わったな」

「まさか、トイレに連れ込んだわけじゃないよな? お前みたいな童貞が」

「あーないない。そもそもそんなに仲がいい訳じゃないしなー。あ、でもなんか今度奢ってくれることになった」

「お前らって付き合ってんのか付き合ってないのかわかんねーなー」

「付き合ってなんかいねーよ。告白してもされてもないし、話すのも稀だ」

「そう思ってんのはお前だけだ。まあいいや、早くやるぞ」


 はいはい、とスマホを開く。メールが何件か来ていたが、今は安広に従順しなければならないため、そのままにする。待たせてしまったからね。


 ゲームが開くまでの間の数秒、数分間、その静けさは訪れた。隣の教室から聞こえてくる教員の声と、離れてはいるが薄っすらと聞こえる校庭からの声。それらが存分に耳に入るくらいには静かだった。


 気まぐれだとは思う。だが、思いついた空虚に蓋をできるほど俺は考えを及ばせることはできなかった。丁度いいと思ったんだ。


 二人でゲームを始める。


「安広さー、いじめってどう思う?」

 顔は、下を向いたままで聞いてみる。


「えらく折り入った話だな」

「信用してない訳じゃないからね」


 安広は「うーん」とか、「あー」とか言って、考えていながらも、「馬鹿っ。そこはデビルじゃなくて大型出せよ」とゲームのこともちゃんと忘れていないのは、彼の性格が出ているからだと思う。


 大分間が空いてこの話は終わってしまったように思えたので、自分の頭をゲームへと切り替えた。

「悪い。もうこれは、落城だけ阻止だなー」


「一方的な自己満足」


 このとき、ゲームを優先するなら目を離してはいけないところだったんだろうけど、顔を上げて、安広を見てしまった。まだきちんとゲームの方へ切り替わっていなかったのだ。当然ゲームの存在を忘れない安広は、視線を落としたまま。


「子どもの頃にさ、蛙を投げつけて遊ぶ友達がいたんだけどさ、そいつの顔っていつも笑ってたんだよね。まるで喜んでいるように。だからって、一方的な自己満足だって言う気はない。相手の気持ちを知っていながらも、いじめに加勢する人だっているだろうからね。まあそんな感じ」


 適当そうに見えて意外に繊細な一面。普段ずっと一緒にいても、こんな場面に出くわす訳がない。ふざけていて、適当で、でもどこか芯が通っている。もしかしたら、普段一緒にいるからわからないのかもしれない。


「じゃあ、もし、俺がいじめられてたらどうしてくれる?」

 そう言って、俺は視線をスマホに戻す。恥ずかしかったのか、ゲームに負けたくなかったのか。多分、どちらも正しくてどちらも間違っている。

 この質問には、間隔を置かず答えてくれた。


「助けないだろうなー。見て見ぬふりをすると思うよ。やっぱり巻き込まれたくないからね。近くにいる奴だったらなおさら離れていくだろうな」


 やっぱりそうなのか。軽蔑されて離れていくとわかっていても尚、自分を取る。でも、中途半端に助けられたり、「助ける」とか言って、実際その場面に出くわしたときに怖気づいて逃げる奴よりは、よっぽどこっちの方がいい。安広が、それをいいことだと認識しているのか悪いことだと認識しているのかは知らないが、そういう自分がいることを認めているだけで、すっきりするよ。偉そうに語る教師より百倍まし。


 でもそれは、イコール俺との関係はその程度だって意味でもあるんだよな。自分と俺のどちらが大事かって天秤にかけたときに、やっぱり重いのは自分の方で。助けなかったことで安広から俺が離れていくとわかっているのだから、「別にお前なんかいなくてもいい」と遠回しに言われているような気分だっただ。ただ、学校に来ているときの形だけの付き合い。お前がいるから、俺は話す。いなければ、別に話すこともない。

 そんな惰性の付き合いだったとなると、落ち込んだり落ち込まなかったりと、落ち着かない感情になった。

 頭ではわかっていたが、実際そう言われると虚しいものだ。入学してからのここまで、一番隣にいたであろう人物が、俺を見捨てるって言うんだから。まあ俺も、実際一人の女の子を見捨てているから、人のことをとやかく言える筋合いはない。


「あー、落城されちまったかー。もう時間的に終わりだなー。彼方はこの後どうする? 六限、自習らしいよ」


 少し迷ったが、今日は帰りたい気分だった。

「帰ろうかな。安広は?」

「僕は、真弓ちゃんとお話ししなきゃいけないから、一緒には帰れないな」

 真弓先生の顔を想像しているのがわかった。だって、にやけていて、まさに「でへでへ」って感じで鼻息が荒いから。


 暗い話をした後によくそんな話ができるもんだ。彼にとってはいじめが暗くないのか、そういう雰囲気にしたくなくて無理に装ったか、本当にスケベだったか。俺だったら本当にスケベに一票を投じるが、なんとなく無理に装った感があった。知る由もないんだけどね。


「じゃあお先に失礼する」

 猫背で視線はスマホのまま、「じゃあなー」と手を振ってくれた。


 荷物を持って廊下に出る。隣の教室ではまだ授業の最中だった。教師の声が聞こえてくるが、廊下には誰もいなくて、その人気のなさに好意を抱く。階段を降りるときも、自分の足音だけが、少し高い天井に響き、その響きと雰囲気に惚れこむ。


 ああ、皆無。


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