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情熱の薔薇はどこに

 俺は、ばあちゃんと二人暮らしをしている。親の顔は知らない。写真では見たことがあるのだけれど、小さい頃の思い出にはいつもばあちゃんがいたため、なんとなく「親」ってイメージが湧かない。実際は親なんだろうけど、俺にとっての親はばあちゃんなんだから、今はそう思うことにしているし、あまり深く考えないようにしている。


 もちろん、お墓参りは行く。俺の地元は、八月一日にお墓参りをする風習がある。昔のこの日に、ここら一帯の地域で大きな洪水だか台風だかがあったとかなんとかで、その名残が今でも続いている。


 今もその最中だ。八月一日じゃないけどね。


 お墓の角に置いた新聞紙に、ライターで火をつけ藁をくべる。火がついたそれに、少し広げた線香をかざし、こちらにも火をつける。火がついたら、さらに広げて上下に振る。


「ばあちゃん、出来たよ」

 先が少し灰になった線香を、半分渡す。


「はい、はい。ありがとうね」


 そう言ってゆっくりと、墓の前へと上った。

 俺も続いて上る。線香を香炉の中に置き、無言で手を合わせて目を閉じる。


 いつも思うのだが、目を閉じている間、何を考えればいいのだろう。安らかに眠ってください。これからも見守っていてください。それとも、自分のお願いをする? それはちょっと違う気がするけど。わからないから、無言を突き通す。俺なんかが伝えたことが上辺だけだってことは、彼らには見え見えだと思う。だったら、無言のまま、本当に思っていることを彼らに感じ取ってもらった方がいい。


 俺は、死んだ人は神様みたいになると勝手に思い込んでしまっているみたいだ。でもそんな気がしなくもないと思わない?



 両脇にある白と黄色の花。少し濡れた墓石。線香の煙、香り。墓石の上に置かれた萎れた天ぷら、香り。

 こんなことをしたところで、想いは届いているのだろうか。形式だけにはなってはいないだろうか。知る由もない。昔そんな歌があったよね。


 でも、周りに漂いながら消える線香の煙が、どこかに届いているように見える。感じる。それを見届けながら、何か願うこともなければ弔いの感情も乗せずに、「またね」って、薄っぺらく誰もいない石に向かって話しかけた。


「ばあちゃん、早く帰って天ぷら食おーよ」

「はいはい、じゃあ帰りますか」


 俺の言葉に反対する素振りは一切見せない。それが優しさなのか、孫だからなのか。そこら中に落ちている優しさに埋もれて、一輪の真赤な薔薇が探せない。金木犀ならそこら中に咲いている。謙虚が隠している燃える本心は何処へ行ってしまったのか。


 墓を降りて、藁に余ったやかんの水をかける。火が消えるあの独特の音が妙に俺の中の何かを消してしまったように思えた。


「じゃあ行こう」


 来た道を下る。

 だんだん遠くなる二つの背中を、誰かは見ていたのかもしれない。


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