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 チャリを漕ぎながら、「学校行きたくねえなあ」と何度呟いたことか。覚悟したなんて思ってはいたけど、実際その現実が現れるまでの間が、どれだけそのことで頭がいっぱいになるか誰にもわからないだろう。


 結局昨日は、プールのフェンスから出た。外は固いけど内は脆いね。まあ、入らない前提だからなんだろうけど。ちょっと高かったけど出られないことはなかった。濡れて張り付く服を肌で感じながら草むらの中を進むのはとても不快だったけどね。


 学校に着いて朝のホームルームが終わっても、いつもと変わったことはない。あの日のように、先生が声をかけてくることもなければ、誰かが声をかけてくることもない。


 一つの不安が頭の隅に残っていて、頭から離れないまま時間だけが流れていった。授業がつまらないせいか、思考が停止すると昨日のことで頭がいっぱいになった。眩い光を放つ月や咲奈のことなんかこれっぽっちも頭に浮かばなくなって、ただ真弓先生の顔が「許さないから」と訴え続けていた。


 不安に対して大丈夫だといくら諭しても、そこにある可能性は消えない。世の中に絶対はないと思って生きてきたけれど、今だけは、このときだけは、絶対であって欲しいって自分に言い聞かせることで、気持ちを落ち着かせ、安心しようとした。


 でも、そんなに嫌だった訳でもない。怖かった訳でもない。じゃあなぜ、こんなにも頭から離れないのかって言うと、その先の未来が、ちらちらと覗いていたからだ。


 急に物事が嘘に見えるときってないかい? この世界がすべて誰かの妄想で、俺の体は個体ではない。ホログラム。幻覚。幻想。幻。今死んだところで何も感じないし、天国もなければ、地獄も後世もない。ただここにいるだけ。


 人生の選択肢に、「生きる」って道があるのなら、「死ぬ」って選択肢も間違いではないのではないか。「金」と「命」の価値だけが信じられる世界で、それを自ら失おうとするのは、それに価値が感じられなくなったときなんじゃないかって、薄々気づいてはいたが、今になってそれが本当だったんだって思ったんだ。



 問題なく帰りのホームルームも終わった。心配事って大体起きないものなんだよね。でも忘れたころにそれがやってくるのではないかってハラハラすることもあるんだけど、それはもう今の俺には関係ないのかもしれない。


 ホームルーム後の騒がしい教室も、他クラスの生徒が入り乱れる廊下も、ラケットを背に足早に生徒がくだる階段も、何一つ不可解に思えることはなかった。苛立ちもない。妄想もない。かわいい女の子が通っても頭はかわいいと判断しない。


 校門を出るときになって、ふと校舎を振り返る。見上げた二階には、まだ残っているであろう生徒たちが見えた。


 平和だった。


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