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家畜からの競走馬

 約束の時間には早くいく方ですか? それとも遅く行く方ですか? 俺はちょうどに行きます。


 入学当初は十五分前とかに登校していたが、それが、十分、五分、三分、一分前とだんだん縮まっていった。今日はこの時間に出て五分前に着いたから明日は二分遅らせてもいいか、今日はちょっと遅れそうだったから明日は一分早く家を出よう。そんなこんなで、学校にジャストで着く日が多くなった。例外は当然ある。


 特に風。強いときなんて、本当に進めないからね。自転車をこぐよりも歩いた方が速いよってくらい。それを承知の上で早く家を出るならいいんだけれど、外に出て初めて風が吹いていることを知るから、「ああ遅れたな」ってペダルの重みを感じてから悟る。


 雪だろうと自転車で登校している。雪が積もっているときは、よくタイヤが空回りする。だから、サドルになんて座っていられない。かといって、脚を伸ばしてもいられない。中腰ぐらいでハンドルに少し力を入れ、集中する。そうすることで、タイヤが空回りしても対応できるし、もし滑って倒れそうになったとしても転ぶより先に足をつけるから、対策はばっちりって訳。


 そんなこんなで学校に着けば、一限から眠ってしまう。一日が終わったくらいに疲れる。集中するってやっぱり神経使うよ。



「おーい、彼方ー。ちょっと来ーい」


 一限が終わってちょうど起きると、担任が呼んでいた。寝ていたことを怒られたことなどないが、そのことだろうかとちょっと疑う。


「お前また寝てたのか? 進学か就職決めたのか?」

「進学なんて選択肢、元からありませんけど」

「もっと自分に素直になれって。学生は今しかないんだぞ」

「学生とか学校が楽しいって概念、見直した方がいいと思いますよ」


 そんな俺の言葉を押しのけるような担任の笑顔が、数秒間続く。束の間の沈黙。


 担任は、「何言ってんだお前。まあいいや、ちょっと話があってな」と切り出した。

「このクラスに不登校の生徒がいるのは知ってるか?」

「知りません」

「知らない訳がないだろう。安藤友也。わかるだろ?」

「さあ?」

 俺は空気を持ち上げた。


 担任は、「嘘をつくな」と言っているが、本当に知らなかったので反応に困る。だって、弁解したところで結果は変わらないだろうからね。


「その生徒が何か?」

 俺から聞いた。


「あ、ああ。そいつをさ、学校に連れて来て欲しいんだ。連れてこないと俺がクビになっちまう。周りの先生がごちゃごちゃうるさいんだよ。『教師のくせにそんなこともできないのかー』ってな」


 担任は、お手上げだ、と言ったような顔で腕を組み始めた。溜息を添えて。


「なんで俺なんですか? 他にもいっぱいいるでしょ、生徒なんて。ピンポイントでこんな根暗みたいなやつ選ばないでくださいよ」

「ピンポイントなんかじゃない。このクラス、お前と古屋以外部活に入っているのは知ってるだろ。 暇な奴はお前ら二人だけだからだ。ちゃんとした理由だろう?」

「じゃあ安広には、聞いたん、」


 ああ、そうか。


「古屋は成績が悪いからな。おまけに性格も知っている。それを考慮の上で頼んでる。一応、お前のこと褒めてるんだからな」

「具体的に何をすればいいんですか?」

「任せる」

「えー! 丸投げっすか先生。勘弁してくださいよー。俺の成績下がる心配はしてくれないんですかー?」

「大丈夫だ。いつも寝ているのに成績が悪くないような奴は、多少のことじゃ変わらない。まあ頑張ってくれ」


 多少のことじゃないだろーと思いつつも、彼の家までの地図と電話番号を置いて、逃げるように教室を出て行ったので、そこまでだった。


「これ個人情報だけどいいのかよ。不用心だな」


 信頼してくれていると思うことにした。


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