第2話 意識不明
次回からは元の長さに戻ります。
「あれっここは」
俺は今何故か神界いる。
確か昨日は風切亭で宿を取り、そこそこ狭い一人部屋で寝たはずだ。
疲れが溜まっていたのか、ベッドにダイブした瞬間に寝たのを微かにだが覚えている。
ん?何か大きな音が上から聞こえてくる。何だろ
「どうもすみませんでしたぁぁぁぁぁ」
俺はまた、物凄く見覚えのあるダイナミック土下座を見ることとなった。
「…ホントに、本当にこの堕神がすいませんでした!」
「いや、もうほんと大丈夫ですから、顔をあげてください秘書さん」
物凄く見覚えのあるダイナミック土下座から5分、神の土下座の直後に現れた秘書さんが必死に、それはもう必死に俺に謝り続けていた。
俺も始めの方こそ怒っていたのだが、段々と埋まっていく神の顔と、それに比例して上がっていく秘書さんの威圧感に、何か危険を感じ、とりあえず必死に秘書さんを慰める事にしていた。
「分かり…ました…」
その感じていた危険は途中、少し離れたところにあった机と椅子のセットが突如爆発した事で証明され、それからは更に必死に、それはもう必死に慰めた甲斐もあり、何とか秘書さんが折れてくれた。
「しかし、それでは我々の神としての面目が立ちません!」
少し興奮したのだろう。全身が、最早床と同じ高さになっていた神の下にある地面が突如として爆発した。
神の方も恐らく突然だったのだろう「あぁぁぁぁぁ」という言葉を残しながら遥か上空へと消えていく。
「それで、私からお願いしたいことがあるんです!」
その瞬間、更に興奮したのだろう。神が爆発したのを見た瞬間に、蜘蛛の子を散らした様に逃げていっていた野次馬神達が、神と同じように足元の地面が爆発することで吹き飛んでいく。「なんで俺達がぁぁぁぁぁ」とか「あの堕神だけじゃ無いのかよぉぉぉぉぉ」とか聞こえているが、今はそれどころじゃない。
このままいくと、順番的に次に吹き飛ばされるのは俺だ。無駄に頑丈で即時回復出来る他の神々と違い、俺の場合爆発の後に待っているのは確実な死だ!
「はい分かりました全て聞き入れます」
安直な方法ではあるが、とりあえず秘書さんの機嫌を取り、ヒートアップしないようにする。
これが俺の取れる助かるための唯一の方法だ。無駄に押さえ込みに行って、ピンポイントに俺だけ爆発とかされたら洒落にならないしな。
「本当ですか!」
急に辺りの重力が数十倍にまで跳ね上がる。
どうやら俺は実体じゃなく、霊体とかそっちの方らしく、体が潰れることは無いっぽいが、それ故にこの重力強化は、ただただ辛い、正に地獄の様な世界を作っていた。
また遠くの方で「今度は叩きつ」とか「俺達が一体何をし」とか「土下座の時よりも高」とか明らかに叫んでる最中に叩き付けられたであろう声が聞こえてくるが、俺の方もそれどころではない。っていうか俺のばか野郎!そりゃあ懇願してるときに一発でOKが出たら喜んで感情が昂るだろ!
その地獄のような空間から俺達が解放されたのはそれから30分ほど後だった。
解放されてから10分、事件の首謀者とも言える神を除いた被害者達は、同志のような固い絆で結ばれていた。
実はあの時、野次馬以外にも数名、実務の報告に来た神達も巻き込まれていたそうだ。
だからどうしたという話でもあるのだが、吾が同志達の中にそういう者達もいたということを知って欲しかったのだ。
少し脱線してしまったが、最後に
「天国だろうと地獄だろうと何処でも呼んでくれ、いつでも俺達が駆けつけてやるからな」
というちょっと格好付けた言葉を残し、同志達は逃げ…立ち去っていった。
「………あの、そろそろいいですか?」
同志達が見えなくなった頃、秘書さんが話しかけて来た。
因みに、秘書さんは最初、また謝ろうとしていたのだが「すいません」の「す」を言った瞬間に隣の部屋が音も立てずに消滅した為、神や吾が同志を含めた俺たち全員で何とかなだめ、今に至っている。
「ええ、大丈夫ですよ」
ここで何かしょうもないことを言って、秘書さんの機嫌を損ねようものなら、ここまでの苦労が水の泡どころかマイナスに傾くので、細心の注意を払いつつ、全力で機嫌を取っていく事を決める。
「それでその、私達からのお願いと言うのがですね………」
「………以上が私達からのお願いとなります」
「はい全て受け入れます」
説明開始から10分程かけて行われた秘書さんからの『お願い』に対し、俺は秘書さんが説明を終わらせるのとほぼ同時に、なるべく普通に、平坦な口調で返事をしていた。
理由に関してはまあ、分かっているとは思うが、勿論身の安全のためだ。
「えっ…私が言うのもあれですけど、もう少し悩んだ方が良いのではないですか?」
「ナニヲオッシャイマスカ、ヒショサマノオカンガエニ、マチガイナドアルハズガゴザイマセン」
はっ恐怖を感じ過ぎていたせいか、いつの間にか棒読みになっていた。幸いにも秘書さんは少し首を捻った位で、スルーしてくれたみたいだ。
それでは少し、秘書さんの『お願い』について話しておこう。
秘書さんのお願いは、大きく分けて2つ。単発的なお願いが1つと、長期的なお願いが1つだ。
まず、単発的なお願いの内容は『約2ヶ月の間の安全を保証する』というものと『どんな魔法でもいいから便利そうなのを教える』というものだ。
1つめの『約2ヶ月間の安全の保証』は、何処かの堕神が渋クロプスの真ん前に転送したことのお詫びらしく、大体2ヶ月の間は不意討ちや、不意の遭遇などから身を守ってくれるらしい。
不意と付いているのにも理由があって、こうした加護を付けた途端に魔物の群れに飛び込んで行く輩が、少なからず存在しているからだそうだ。
前にも同じような加護を付けていたのかよ!と言及したいのは山々だったのだが、言及した途端に何か良くない事が起きるのはほぼ確定的であったため、今回は言及しないことにしている。
次に、2つ目の『どんな魔法でもいいから便利そうなのを教える』と言うのは、1つ目と同じく何処かの堕神が『元々の使えるレベルはゼロで良いからなるべく種類を使いたい』と言う俺の意見を完全に無視して『男ならやっぱり一点特化だぜ!』という掛け声と共に、『神代魔法』とか言うヤバい魔法を覚えさせたのが原因らしい。
しかも驚くべき事にどこかの堕神は、覚えさせるだけ覚えさせて、使い方などを全く教えてくれなかったのだ。
使い方を知らない魔法とか覚えていても意味がないんじゃ、と思ったのだが、追い詰められたりすると咄嗟に使える様になったり、それだけならまだ良いのだが、最悪の場合咄嗟に使おうとした挙げ句にその魔法が暴発して、魔法の使用者周辺が消滅したりするらしいので、使い方を知らなくても十分危険なんだとか。
しかもその神代魔法のカモフラージュの為に、大体どんな魔法でも使える様にしたそうだから尚更たちが悪い。
その大体の元凶に、良く秘書さんに見付からずに試験を突破できたな、と皮肉っぽく言うと
『フルマラソンを走れる選手に50メートル走らせるのは簡単だけど、やっと歩き始めた赤ん坊に同じ距離を走らせるのは無理だからね』
と返された。まあつまり、細かいチェックを逃れるためには試験を一発でパスしなければいけないわけで、とりあえず万全を期すために、大体どんな魔法でも使える様にしたり、試験の最中だけわざと最大出力を押さえたりしていた訳だ。
一点特化だぜとか言ってる割に大体どんな魔法でも使えるのは矛盾してるんじゃ、と思っていたのだが「いや、だってそうしないと試験通らないし」とか「いや、こっちだって思ったけど、何かおかしいなとか、何か矛盾してるなとか思ったけど」とか言ってる堕神の顎をおそらく試験官だったのであろう神達が、血走った目でアッパーしていくのを見て、何か口に出せば俺の方まで被害が及ぶことを本能的に理解し、それ以上の追求を止めている。
「まあそれでは、時間もないことですし、そろそろお開きにしますか」
「あの、時間が無いってどう言うことですか?」
「あれっ言ってませんでしたっけ?」
「言ってないって…何をですか?」
「あぁすいません…今の優介さんは、幽体離脱の様な感じで神界に来てるので、このまま朝になると、原因不明の意識不明状態にな」
「先に言ってよ!」
いやほんと早く言って!途中で遮っちゃったけど早く言って!それ早く戻らないとえらいことになるから!
「それでは、元の世界へと送りますね」
物凄く焦っている俺は、その言葉を最後に意識を失っていった。
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「ユースケ!起きてよユースケ!ほんとに…起きてよ…」
目が覚めると、見慣れない天井と、俺を起こそうと必死に揺すっているストレが見えた。
「あぁうん。おはよう」
ほーらやっぱりこうなってた。絶対こうなってると思ったよ。ストレなんかはもう涙ぐんでるし。
「ユースケ!本当にユースケなのね!っていうかおはようじゃないわよ!人をこんなにも心配させておいて!」
ストレがポカポカと…いやボカボカと?…いやむしろドスドス殴ってくる…っていうか痛い!まあ、それもしょうがないか、昨日までピンピンしてた奴が急に意識不明になったらそりゃあこうなるわ…っていうか本当に痛い!
「スー、どうした!」
扉を蹴破らんとばかりに筋骨隆々のおっさ…もとい、風切亭の亭主、フェガトさんが入ってきた。
ストレとフェガトさんは、前に何度か一緒に仕事をやったことがあるらしく、それ以来ストレの事を結構気にかけていたそうだ。
実はこの宿の代金もストレの命の恩人だからタダに!と言ってくれたのだが、流石にそれは悪いと何度も食い下がり、なんとかお代をつけにして貰うことで、合意した。
「お前さん…起きたのか!」
「あっはい。お早うございます」
「もうお早うって時間じゃ無いがな。それにしても本当に良かった。ニーゼンの奴が匙を投げたときにはどうなることかと思ったが、何だかもう大丈夫そうだな」
ガハハハと笑いながらも、ちゃんと心配してくれるフェガトさんは本当にいい人だと思う。
町に来るときにストレに聞いた話なのだが、そのニーゼンって人は町で一二を争う位の医者らしい。
そんな凄い医者をこんな誰とも知らない奴に呼んでくるフェガトさんは相当なお人好しなんだろうか。
「ハハハ、そうかも知れねぇな」
どうやら途中から口に出ていたらしい。すると、フェガトさんのずっと笑っていた顔が急に真顔になった。
「しかし、誰でもって訳じゃない。俺が医者を呼んだのは、お前さんが俺の知り合いの、スーの命の恩人だからだ。だから感謝するとするなら、俺じゃなく、俺に泣きついてきたスーにするこったな」
やっぱり最後にはガハハハと笑いながら俺の背中を叩いてくる。
うん。やっぱりと言うかなんと言うか…痛いわ!
話は少し戻るが、町一番とも言われているニーゼンさんが匙を投げたことで、少なくともこの街での対処は不可能となり、ストレやフェガトさん、昨日喋った従業員さん達は、絶望とも言える空気だったらしい。
「そういえば、俺ってどれぐらい寝てました?」
ふとどれぐらい寝ていたかが気になった。
と言うのも、堕神達が言うには、神界とこの世界とでは時間の流れかたが結構違うらしく、時期や時間によって速かったり遅かったりするので、堕神サイドとしてもどれぐらい誤差が有るかは検討もつかないと、秘書さんが苦笑いしながら言っていた。
因みに例外として、転送の間だけは、転送先の時間と同じように動くらしい。その原理やらも少し教えてくれたのだが、専門用語まみれで全く訳が分からなかった。
俺が神界にいた時間は、体感で数時間程。しかし、ストレの起こし方を見るに一日ぐらい立っているかもしれない。
「昨日の夜から今日の夕方までだな」
「あれっ結構短い…」
結構意外な返答が帰って来た。
因みにストレは俺がフェガトさんと話始めた辺りで寝てしまった。恐らく疲れが溜まっていたのだろう。
その寝るスピードを見て、一日以上は立っていると思ってたんだけどな。
「まあ、そんぐらいの時間寝てたってだけなら、まだこんな騒ぎにはなってないわな」
そう言われて部屋の外を見てみると、いつの間にか、俺の部屋の先にはちょっとした人だかりができていた。
「えっと…俺そんなに危ない感じだったんですか?」
うーん。神界に魔法を覚えに行くのは良いんだけど、その弊害が大きすぎるのなら、諦める事も視野に入れないといけないな。
「まあ、揺すって、叩いて、殴って、蹴っても起きないうえに、途中何故か物凄く重いものに乗られてる様な顔で唸ってたからなぁ」
なるほど、思念体で攻撃を受けたときの反応がそのまま本体の方にも出てたってことだな。
っていうか揺する叩くはまだ辛うじて分かるけど、殴る蹴るってどう言うことだよ!もう完全に暴行じゃねぇか!さっきからなんか体の節々と、特に顔が無茶苦茶痛いけどそう言うこと!?殴られたり蹴られたりしたってそう言うこと!
「しかも唸り始めたタイミングが、スー馬乗りになってお前さんのことを揺すり始めた瞬間でな、それはもう見事なのが顔に入ったんだよな」
はい違いました本当にすいません。
秘書さんのせいとはいえ、女性が乗った瞬間に唸るのは駄目だ。殴られても絶対に文句は言えない。
もし言ったら?そんなの恐ろし過ぎて俺の口からは言えないです。はい。
「それでも顔を気にすることもなく唸り続けたもんで、スーの奴完全に切れちまってな、物凄い勢いで殴り続けてたんだ。それなのにお前さんと来たら痛がる所か全く反応が変わらないんで、これは何かがおかしいと判断して医者を読んだわけだ」
うん。ストレさん本当にすいませんでした。
そしてフェガトさん。出来ればストレが殴り始める前に医者を呼んで欲しかったです。顔が痛い。本当に痛い…
「外にいる連中は、そん時にお前さんからスーを引き剥がすのを手伝ってくれた連中でな」
えっちょっと待って。ざっと見ただけでもごつい男が、それはもう筋骨隆々と言った感じのおっさ…おっさんが10人以上はいるんですけど…
「ちょっちょっと、フェガトさん…この人数で押さえ込んだんですか?」
いくらなんでもストレ一人にこの人数は多すぎだ。しかもごついおっさんばかり…なんかもうストレが可哀想だ。
「いや、この程度の人数じゃ全然足りなかったみたいで、オーガみたいな顔したスーが、お前さんを殴るついでに全員吹っ飛ばしたんだわ」
「はい?」
えっストレが吹き飛ばした?このごついおっさん達を?
説明を受けてる間になぜか俺の上で寝始めたから、そのままにしておいてるストレが?
てっきりストレは俺を起こすのに疲れたんだと思ってたんだけど、もしかしてこのおっさん達を投げ飛ばすのに疲れたからあのスピードで寝たのか?
…俺、今まで感じたことがないぐらいに冷や汗をかいてるんですけど、っていうか俺の顔大丈夫?元の形保ってる?
「まあ、お前さんが驚くのも無理はねぇな。俺だって驚いてんだから」
うん驚いたね。ストレが投げ飛ばしたのも驚いたけど、フェガトさんの反応からして俺の顔が無事なのにも驚いたね。
まあ、部屋の外で「あんだけ殴られてたのに」とか「あいつ顔が全く腫れてないとか…化け物かよ」とか聞こえてるから間違いないだろう…っていうか、おいそこ!化け物ってどう言うことだ!
「それはそうとして、本当にご迷惑を御掛けしました。治療代も含めて、絶対に返しますので!」
そう。俺は今宿代を借金しながら生活をしている。そんな状態で更に治療代を借金するのはきついが、もうこの際しょうがない。何年掛かっても返していく所存である。
「ん?あぁそうか、お前さんは知らないのか。治療代の方だがな、ニーゼンの野郎から伝言を預かってんだよ。えっと確か「治療代は要らない。君のお陰で、私はもう一度一から勉強し直す決心がついた。今私に出来ることは無いが、もし目覚めたのなら私の所へ来てくれ、微力ではあるが、力になるよ」だったか?ったくどの面下げて言ってんだか。まあ、治療代がねぇってのは良いことだな」
「はぁ」
まあ、そんなこんなで治療代は無くなったみたいだ。なんだか面倒事が出来た気がして、あんまり素直に喜べなかったけど…
「あぁそれと、今日の分の宿代は無しで良いぜ。流石に寝たきりの奴からは金は取れねぇよ」
「えっそんな、良いですよ。ちゃんと払いますから」
「じゃあその金でいい装備買って、またウチに泊まりに来い。それが今日の宿代だ」
「フェガトさん…」
フェガトさん…やっぱりいい人だな。この言葉も胸に染み…
「あの、フェガトさん」
「どうした?」
「フェ、フェガトさんの後に鬼の形相のおばさ『ギロ』お姉さまが」
ひぃぃぃぃ。ギロって、ギロって聞こえたよ今!って言うか負のオーラ出しすぎて顔が一切見えないんですけど!
「ガハハ。なにいってんだお前さん。この宿にお姉さまなんて呼べるやつはいねぇよ。うちのかみさんなんか」
「あんた…この忙しい時に何をしてるんだい?」
その瞬間。部屋の温度が氷点下になったのではと思う程のこ「うおぉぉぉぉ」あっフェガトさんが物凄いスピードで窓に突進していってる。
「それと…うちのかみさんがなんだって?」
「そっそれゴフッ」
部屋の窓から緊急脱出しようとしたフェガトさんは、目にも止まらぬ速さで移動した女将さんに肩を掴まれ、言い訳しようとしたところを腹パンで沈められ「全く、夕食とチェックインが被る一番忙しい時に…」とぼやく女将さんに連れていかれた。
女将さんの腹パンは、ベッドに座っていた俺達まで衝撃が届くほどの凄まじいものだったと追記しておく。女将さんには逆らっちゃ駄目だね。絶対。
因みに、衝撃が届いた瞬間にストレが起きて俺に震えながら飛び付いて来たので、恐らくやらかしてあの腹パンを食らった事があるんだと思う。うん。本当に女将さんには逆らっちゃ駄目だね!絶対!
女将さんの一撃が解散の合図になり、俺の部屋の前に集まっていたごついおっさん達も各々離れていった。全員無言で、冷や汗を流しながら。
そして俺達も今後の予定について話し合う事にした。
今俺は、風切亭の中庭に来ている。と言うのも、本当だったら、今日は冒険者ギルドに俺の登録をしに行く予定だったのだ。しかし、何処かの堕神のせいで夕方まで意識不明だったため、それを諦めて、今日はストレに魔法を教えて貰うことになった。
風切亭の中庭には、端の方にテーブル1つに椅子2つと言うセットが2つ置いてあり、そこ以外のスペースは、体を動かすことが出来るスペースとなっている。そして俺達はと言うと、端に寄せてあるテーブルに向かい合う形で座っている。
因みに、俺が始めに向かおうとしていたニーゼンさんの病院は、今日は臨時休業らしい。恐らくは研究でもしてるのだろう。
「それじゃあ、始めるわね」
ストレは魔法教室を始めようとしているが、先に、この世界に来てから今現在俺が分かっている魔法の説明をしておこうと思う。
まず始めに、この世界にいる大体の生物や、無生物は、魔力と言うエネルギーの様なものを保有している。
そして、その持っている魔力を変換して、魔法を使用するのだ。まあ、魔法が使えるのは基本的に生物だけなんだけど…
まあ、それはそれとして、その生物の中にも、魔法が使える生物も居れば使えない生物もいる。
その違いは主に、体内に「魔石」と言う魔力が貯められる石が有るか無いかの違いと言われており、体内に魔石がある生物が魔物、そして魔石が無い生物が動物と言われ区別されている。中には神獣やら聖獣と呼ばれる魔物も要るらしいのだが、正直俺も良くわからん。
魔法を使えるかどうかの違いだが、勿論例外も存在していて、例えばサイクロプスは体内に魔石は有るが、基本的に魔法を使えない。
それに対して人間は体内に魔石は無いが、魔法が使える。そんな感じで、魔石のある無しで魔法が使えるか必ず分かる、と言う事でもないので、どうして魔法が使えるは、明確には分かっていないらしい。
因みに魔石は自然に生まれる物でもあり、他の鉱石と同じように魔石の鉱山等も有るようだ。
実は砂粒より少し大きい位の魔石ならそこら辺にも落ちていて、それを集めて売ると少しだがお金が貰えるらしい。なので、魔石拾いは子供達の小遣い稼ぎの仕事として有名らしい。
少し話が戻るが、魔物には、この魔法は使えて、この魔法は使えない。といった所謂適正と言う物がある。
この適正は、火・水・土・風・光・闇の6系統ある魔法の中のいづれかを使えると言うものだ。
一口に適正と言っても様々で、例えば魔法を使うので有名な魔物のリザード系統だと、火系統の魔法だけを使うファイアリザードや、水系統の魔法だけを使うウォーターリザードの様に、1系統のみを使う魔物や、その上位種で2系統の魔法を使うダブルリザードの様に、2系統以上の魔法を使う魔物もいる。
これが人間になってくると更にややこしくなる。
例えばその人には、火系統しか魔法の適正が無いとしよう。しかし、火系統だけしか使えないのでは無く、物凄い魔力と集中力と時間さえ掛ければ、他の系統の魔法も少しだけ使えたりする。
まあ、そんな魔力を持っている人も殆どいなければ、そんな事が出来るくらい魔力を持っている人は自分の適正の魔法を使うので、殆どの場合は、自分の適正の魔法しか使わないらしい。
そして、適正の調べ方は
「適正を調べるには、この小さい魔石を使うのよ」
俺が頭の中で魔法についての復習をしていると、俺の心を読んだのか?と言うタイミングで、しかもかなり食い気味に適正の調べ方をストレが教えてくれた。
くそぉ、せっかく昨日『これで君も魔法使い(初級編)』って本をフェガトさんに借りて予習したのに。
因みに、これで君も魔法使い(初級編)はこんなの誰でも知ってるわ!と言う内容を懇切丁寧に書いている本で、一応大体のギルドには置いてあるらしい。
正直に言うと、懇切丁寧とは名ばかりの要らない豆知識満載のこの本だが、本当に何も知らない俺にとっては結構有難い本でもあった。まあ、それでも魔物と動物の違いの次のページが丸々『肉の焼き方』とか言う題名で、火を付ける、肉乗せる、焼く、終わり。と書いていたときは本気でこの本を床に叩きつけてやろうかと思った。
そもそも文字を読めない俺が、どうやって本を読んだかというと、昨日の夕方、丁度太陽が沈んだ位のタイミングで、秘書さんが「今日一日過ごしてみてどうでした?」と神界から話しかけて来たのだ。
そこで渋クロプスの前に転送させられたこと等今日一日あったことを話すと、秘書さんが急に静になり、急いで念話?的なものを変わった事務担当の神が「もうめんどくさいんで文字読めるようにしときますね」と訳のわからない返しをしてきたのだ。本当に訳がわからず「はい?」と返すと「あっ制限が付いてるから忘れずにね」と返され、次の瞬間には念話的なものは切られていた。
何故かは分からないけど文字が読めるそうなので、じゃあ取り敢えずなんか読んでみるか。と言う感じでフェガトさんにだいぶ適当に本を借りて、自分の部屋で読んでみると、何故かは分からないけど本当に文字が読めたので、取り敢えずそのまま読んでみた、と言う感じだ。
残念なことに俺が起きた時点で、枕元においてあった『これで君も魔法使い(初級編)』の表紙が読めなくなっていたので、能力は無くなってしまったと考えるべきだろう。
さっき部屋で文字を読めない事をストレに相談すると「私が教えても良いけどどうする?」と聞いてきたので、二つ返事でOKし、今晩からストレ先生に教えてもらうことになっている。これで取り敢えず文字はなんとかなる…と思いたい。
「ちょっと!私の話聞いてる?」
さっきからストレの話を聞く振りをしつつ、部屋での出来事を思い出していたのがばれたようだ。いやだって、さっきからずっと、魔石は魔物からも鉱山からも出てくるって内容の話しかしてないんだよ!もう10分近く同じような話をしてるんだよ!もういいよ!
「はぁ、突然ニヤニヤし始めたと思ったら急に苦笑いしてるし、やっぱり何処かおかしくなっちゃったんじゃ…」
ストレはぶつぶつと呟きながら、じゃらじゃらと、小さめの小石を更に一回り小さくしたぐらいの大きさの石をテーブルの上に出した。
どうやらこれが魔石らしい。
「それじゃあまずは火属性の魔法からいくわね」
こうして、ストレ先生の魔法教室が始まるのだった。
2018年5月23日訂正:サブタイトルにプロローグ(3)を追加。
2018年6月1日訂正:読みやすいよう、一部文章を訂正しました。
話数が間違っていた為、プロローグ(3)からプロローグ(2)へ訂正しました。
アクステリア王国編追加に伴いプロローグをプロローグ(0)のみに変更し、この話をアクステリア王国編2話に変更しました。
2018年8月20日訂正:読みやすいよう一部文章を訂正しました。