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世界の愛が重すぎると感じる第7話

「まあ、僕らの婚約云々という話は、ひとまず置いておくとしましょう――で、イルお婆様と師匠はどこまで僕のことを知っているんです?」


 とりあえず重い話は先に終わらせるタイプだ。先延ばしにはしない。


「少なくとも師匠には世話になっているし、信用もしているので――まあ、いっそのこと全部話してもいいかな、と思うんですけど」


 俺の言葉にポンと膝を打つ師匠。


「いいね!話してごらんよ!」


「ああ、でもそれはそちらの話が先ですよ。とくに650年前の神託の話は外せないし、その後、師匠が調べた僕の話も――知らないのは困る。師匠は僕の話を聞いても、ああ、そうだったのか、なるほど、程度かもしれませんが、自分の話で知らないことがあったら嫌じゃないですか」


「うん、なるほど。分かった。事実は全部話す。これは私たちの信頼関係の問題だし、ここのメンツは一蓮托生だからね!――ただ、事実と推論は別にしておきたいんだけれど」


 俺は首をかしげて、

「つまり、調べた事実は全部話してくれる、でも推論の部分は話さない?」

と問い直す。


 うん、とうなずく師匠。


「いいですよ。じゃあ事実をお聞きしたら、僕の話をします。それで推論を補完して、ある程度確証が取れたら、情報の交換というよりも教授してくれますよね?」


「――もちろん、私たちは一蓮托生でありたいからね!話すよ、すぐに話すよ!」


俺は立っているプララにも声をかけた。ここにいる人間には皆、俺サイド――つまりこの世界の俺ではなく、流転者としての俺サイドに立ってもらわなくは困る。


「プララさんも座ってください。今から話す話は運命共同体として必須事項です。あなたがいくら子供だからと言っても逃がさない。私を婿にするという意味を理解してほしい」


「もうすでにわからない言葉だらけなんです、よ?」


 そう答えて、少しだけ青ざめたプララを席につかせ、俺は彼女の手を握った。


「それでも、ですよ」

「――はい」


 俺はイル=サン27世をちらっと見て、目で同じ言質を求めた。


「もちろん、このイル=サン27世の名前と魂に誓って、一蓮托生となりましょう。もとより家族といったのは私ですから」


 俺は頭をペコンと下げた。


「ありがとうございます。――じゃあ、師匠どうぞおねがいします。」


 ちょっと頬をひきつらせた師匠。


「それが地なんだね」


 そりゃそうだ。7歳の子供が地ではない。精神が体に引っ張られても、何千回も転生を繰り返した過去の記憶を持つ今の自分が7歳でいられるわけがない。


「まあ、いいや。まず650年前の神託ね。あれにあったのは『この世界の支柱となるべき男が生まれる』というものさ。これは5賢人を称して世界の柱石と言ったものと同じ比喩じゃないはずさ」


「ん――お母様、なぜ違うのです?お母様もイルお婆様も世界になくてはならない人、正しく柱石ではありませんか」


 プララは動揺するだけの子ではないようだ。


「最初は私もそう思ったさ。でもプララ、考えてごらん――神託の主はだれだい?」


 ――神。神託とはそういうものだからだ。悪魔のささやきではない。


「つまり5賢人については一度も神託など出ていないんだ!それだけでも重いだろう。と考えると一つの疑念が生まれてきた。その推論は当たっているかわからないが――当たっていようがいまいが、まあ今は関係なく、世界の真理にも関係ない」


「分かりました。種類が違うということですね、どちらが――というわけではなく」


 プララは非常に聡明だ。


「そして神託は続くんだよ。『かの子が7歳になったら守り、育てよ、いつくしめ』ってね。あとは場所、人、周囲への予言――それは確定事項のように正確で、分かりやすかったんだよ!すごいことだ!」


 イル=サン27世が続ける。


「それでプラローロ様はイル教を創始される。650年もの月日の中で、ご自身の姿はエルフ領に隠し、人間の手で運営するようになったのが――イル教なのです」


「世界の支柱だよ?それを守るための組織を作らなくてはならないんだ!そりゃあ宗教の一つも創始するし、それまでの宗教をすべて糾合させもするよねえ。いやしかし、大変だったなあ!」


「ありがとうございます――」


 俺は頭を下げた。


「いやいや、その事実として、君が現れた――世界の支柱にして神託の御子、つまり神の関係者らしいキミがね」


 ――神の関係者か。言いえて妙。関係者だ。たしかに。


「――もう一つ、大切なことがあるのです。ただ――これは歴代のイル=サンがイル=サンを継いだ時に必ず起こるもの――いわゆる神理解の極みです。ですから言えないのです。神理解の極みに触れたこと、これがただ人たる私が5賢人たるゆえんです。」


 とイルお婆様は言った。


その目は「一つの疑問に答えられたかしら」と語っていた。


「ちなみに私も初代イル=サンなので内容については知っているんだよ。でも、これ、神との契約上話せない。最大級の秘匿なので、ライト君がイル=サンないし、イル教を継いだ時に知っておくれよ。君のことなので知った方が間違いなくいいけれど、教えられない――。それほどのレベルの強制力を持った話さ!!ほかにもあるけれど、あとは枝葉末節に近い情報!」


両手を挙げて、そのまま両手で俺を指さす師匠。


「で、ライト君は――うん、キミはなにものなんだい?」


 なるほど、誠実にほぼすべての情報を教えてもらった。この誠意には答えなくてはならないだろう。


「そうですね、俺は、そう、もともと一人称も()なんですよ。俺は、神の関係者、だと思います。それに明確に答えられないのは、自分が何者か、すでに記憶が摩耗しきって覚えていないからです」


 俺は語った。


 何度も生まれ、何度も死んだこと。その数はどう考えても数千を超えていること。どうも神の禁忌にふれてこんな目にあっているということも。


 なんども死んで、なんども転生し、また死んだこと。死ぬたびに一度記憶を封じられて転生し、死んだら記憶を戻されて、また記憶を封じられて生まれて死ぬ。ひたすらいろいろな世界を生き、死んだこと。


死んで生きて死んで生きて死んで生きて死んで生きて死んで生きて――やっぱり死んで。


 ――やっとたどり着いたことを。


「前回の死でどうやら禁忌は脱却できたみたいです。なにが脱却トリガーかわかりません。そして、転生させた女神は言ったんですよ、これが最後の世界です、と。だから最後の世界なので『記憶』と『スキル:評価』をもらったんです。」


「それ、は」


 イルお婆様は絶句した。


「――やばいなあ。めっちゃ面白いのに、なんだかすごく嫌な推論が裏付けられた気がするよ。」


 顔をしかめた。


「お母様――」


「大丈夫さプララ。私の推論ならばライト君がいればこの世界は問題ない。ライト君は大変だろうけれど、この世界は問題ないさ。この嫌な推論、というのは未来に対してじゃないさ!過去のことさ」


「その推論、お聞かせ願いますか?その様子ならお話しいただけるようですが」


 俺は話を促した。


「文献で見たことがあるのさ!世界が誰かの手によって作られたという仮説は否定できないってやつ」


「最高神サンスース様は創造神ですから、サンスース様に世界は作られたってことで問題ありません、お母様」


 少し食い気味にプララは身を乗り出した。


「まあ、そう。この世界がサンスース様に作られたのは間違いなく、おとぎ話ではないということ――それはどういうことだい?」


「創造神サンスース様は世界をお創りになった。そして、そのライト君を転生させた女神は最後の転生先をここに指定された。さらに神託を授けた神は、世界の支柱としてライト君を――」


 そこでイルお婆様の口は止まった。そこからは声が一切出ない。


「禁則事項だね!残念!それ以上は禁則事項に触れるんだよ!イル、もうしゃべっちゃダメ。死ぬよ!もうあと30年は強制的に生きてもらうんだからね!死んじゃ困るんだよ!!」


 師匠は立ち上がって素早くイルお婆様の後ろに立つと、背中を思いっきりたたいた。


 イルお婆様はごほっと咳込んで、「ありがと、う、ござい、ます」と言った。


「禁則事項に触れた、ということは真実に近づいた、ということか――なるほど。なるほど。」


 俺は腕を組んで考える。理解した。なるほど。まだわからないことはあるけれど『この世界はお前のためのものだ』と言外に言われたようなものだ。


「自分が偉くったような気分になる、道を踏み外さないようにしなくちゃな……」


「お、理解しているね!少年!この世界の重鎮としては、アイデンティティの喪失すら感じる事態なっちゃったけれど!結果はオーライ!私は未来しかもう見ないぞ!」


「お母様、私には結局よくわからないのですけれど、ライトさんはこの世界を良くするためにいるという話ですよね?」


 首を傾げて――微笑んで俺を見る。


「――そう、それが真理ですね――お見事ですよ、プララ」


 イルお婆様はそういって笑った。単純にして明快。たしかにそういう理屈になる。いかんぞ、これはいかんぞ――『この世界はお前のためのものだ』ではない。『俺が努力すれば良くすることができる世界だ』という奴だ。


「うん!いいね、我が娘は賢い!何も小難しく考える必要はないんだよ。世界の成り立ちと()()()()()()は理解したけれど、この世界に生きる私たちは前向きに生きるしかないんだよ!前向きに生きるっていうのは――そう、我が娘プララ!言う通りだ」


 師匠は俺をびしぃぃぃぃッと指をさす。


「このこまっしゃくれたガキンチョを、『前世のことなんかもうわかりません!私のことは世界の奴隷とお呼びください!』というぐらいまでに追い詰めて、追い詰めまくって、死の淵を歩かせて、強く強く死ぬほどに強く育ててやるってことなんだよ!!!!!あはは、楽しくなってきた。これは我が友にしてプララの父であるリャララにも声をかけるべき事案!」


「ひっ」

 

 なにを言い出したんだ。このマッドな魔道サイエンティストは!!


「お母様!そんなことを――」


 プララ!君だけが頼りだ!


「ご決意なされたのですね!まさに身命を賭して神命を受諾する!すばらしいです!」


 やばい、この子、師匠の娘だ。


「ちょっと待ってください。師匠。私にそこまでの力はありません。魔法は使えず評価スキルだけの人間ですよ。やっぱり勘違いじゃないですか?」


「いえ、勘違いではありませんし、勘違いなら殺さなければならないレベルの情報ですから――」


 ニコニコとした目でこちらを見つめているが、このお婆様、怖いことなんか行った。


「まあ、勘違いなわけないよ。固有スキル持ちってだけでも本来はすごいことなんだからさ。心配しなくても死ぬほどに、であって殺すっていってないんだよ!そう!鍛える!死ぬほどに鍛える!もうね、エルフ領に戻ったら死んじゃうようなイベントたくさん用意しちゃうんだからさ。」


 そうして、俺は、師匠であるプラローロ、イル教主であるお婆様、禁忌の鬼子にして婚約者のプララと同じ秘密を共有し、世界のために生きることとなった。


 ――なんで、俺ばっかり苦しい話、なのかなぁ……


2/28 整理しながら書いていますが、矛盾があったら修正します。

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