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7歳の男の子が9歳の女の子と仲良くなる第6話

 ――あたたかな少年時代が終わりを迎えたならば、今度はどんな少年時代なんだろうか。


 俺は洋上で黄昏ながら考えていた。目の前には、イル教国の聖都イルスが迫ってきている。あれから3週間余り。そこそこかかるものだ。


 洋上では魔力拡張とスキルの成長のためか、評価スキルを常時発動させられている。休んでいる時もこうして前方を眺めながらひたすら評価させられ続けている。


 最初はサボって発動をしていない時もあったが、氷山的なものを見つけて回避してからは、身の安全のためにひたすら発動している。


「がんばってるね!」


「ええ、まあ。命は大切ですから」


「哨戒業務が半分に減ると評判だよ?」


 7歳の子供にやらせる仕事ではないとは思う。


「まあ、とりあえず、一応、これで到着ですね」


「うん、ちょっとフードを被っておいてよ。いきなり神託の子が現れたらみんな動揺するし、そこそこ『顕現』って体裁を取りたくて」


 ――何事も演出は大事ですよね。


 と思っていると船はゆっくりと港に入っていく。


 大きな聖堂が見える。あれはイル教の総本山のサンスース大聖堂だ。創造神サンスースを祭る宮殿である。


 ちなみにイル教は多神教である。前世的にいえば八百万の神々に近い。それに照らし合わせれば創造神サンスースは天御中主神に近い存在だ。もっとも最高神であるにも関わらず一度しか出てこないためにマイナー神である天御中主神にくらべ、サンスースはこの世界で最も有名な神様である


「到、着っと」


 俺は船から降りると久しぶりの大地を踏みしめた。ゼナの町とほぼ同緯度に存在するためにそれほどの寒さは感じない。


 師匠に手を引かれるように後ろをついていく。いや、実際に手を引かれていて、さすがにちょっと恥ずかしかった。


「早く移動しなくてはいけない――ちょうど今日が顕現の日だからね!」


 神託という割には、ずいぶんこちらで用意しなければならない神託ですね、と思いながら大聖堂に案内された。


 謁見の間の手前で待っていると、オルガンの荘厳な音が鳴り響く。


「国母プラローロ=セロー様、ご到着にございます」


 師匠が名前を大音響で呼ばれる。と、同時に目の前の謁見の間の扉が開かれた。師匠がいつものような軽い足取りで俺の手を引きながら中に入っていく。


 脇の控えていた侍従たちはいっせいに平伏し、上座に座っているおばあさん――おそらくイル=サン27世は立ち上がった。


「プラローロ様!」


「邪魔するよ。」


「この私がプラローロ=セロー様を邪魔などと、いうわけがありません!」


 上段から駆け下りてきて、師匠の前で膝をついて首を垂れる。


「突然、エルフ領の主座から居なくなられたこと、心底驚きました。こうして戻ってきていただき心より安堵しました。」


「報告はイルのもとにも行ってるだろ!――まあ、自分の目で確かめればいいさ」


 師匠は後ろで所在なさげにボサッと立っている俺のフードをめくりあげた。


「あッ、赤髪の――神託の御子ですか!」


 そのイル=サン27世の声に顔を上げた侍従達のざわめきが謁見の間に広がる。


「ああ、これが正真正銘650年前の神託の御子――さ」


 イル=サン27世は俺に手を伸ばすと頬に触れた。


「可愛い――御子殿ですね」


「ライト=サリスです」


 顔を触れられているのに全く嫌な気持ちがしないのは不思議だ。


 俺はすかさず、評価しようとした――ら、弾かれた。


「それがどのようなスキルであっても、いきなり向けるのは礼に反する行為に当たるということをお知りください。――神託の御子殿」


 決して怒っているわけではないが、窘めるように、もっと言えばおばあちゃんが孫に優しく諭すように言った。


「すみません、癖なんです。これからは気を付けます」


 俺は素直に謝った。


「いえ、分かっていただければいいのです。さあ、どうぞ、十分にご覧下さい。この婆がどのような人間か分かっていただけるはずです。」


 そういって、纏っていたガードを解くイル=サン27世。恐る恐る――評価を再び発動させる。そもそも弾かれたのも気づかれたのも初めてだ。


――普通。ん、ほんとに普通だ


ごく一般的な、72歳のお婆さんだった。巷では5賢人の一人で、それは神聖術の大家ゆえに、と言われていたのだが。ただ、確かに間違いなく5賢人の一人であり、サンスースの加護と出ては、いる。


「ありがとうございます。見させていただきました。」


 いきなりその疑問をぶつけるほど無粋でもなければ、危機意識に乏しいわけでもない。


「なるほど、たしかにプラローロ=セロー様の言う通りの御子ですね」


 というと、イル=サン27世は手を挙げた。


「神託は今ここに顕現した!この少年を神託の御子として認める。この決定はイル=サン27世と国母プラローロの名において行われる。異議あるものには弓と魔法で応える。くりかえす、これは決定である」


 お婆さんとは思えないほどの声量である。


 と、同時に会場の外で大きな振動が起こり大音量の爆発音がした。すかさず評価――結果は号砲。簡単な花火だ。意味は――神託の御子、顕現。


 会場は侍従達が大きな声で歌にも似た祝詞を合唱し始める。


「さあ、お茶でも飲もうじゃないか。儀式はこれでいいだろ――」


 若干、イラっとしたように師匠はいった。


「分かりました。――侍従長、4枢機卿や大司祭連絡会に速やかに伝達しておきなさい」


 素早く支持をだすイル=サン27世。


「プラローロ様、それから神託の御子殿、私の部屋に参りましょう――お話はそこで」


「もちろん――だよ、茶菓子は用意してくれよ!」


「はい、それからプララちゃんも、待ってますよ」


 言ってイル=サン27世は俺を見て微笑む。


 ――それは、なにより。


「楽しみです!」


「おい、少年、心がそのまま口に出ているぞ」


 それはごめんなさい。



――――――――――――――



 ――たしかに、美少女。


「お母様、お帰りなさいませ」


 驚くほどの美少女がイル=サン27世の部屋にいた。


薄い緑の透き通る髪に白い肌。耳はやや小ぶりだが尖っている。背の高さは俺と同じくらい。9歳と言っていたから俺が高いのか、美少女が低いのか、――それは、前者だろう。


「やあ、プララ!元気にしていたかい!?」


 師匠はプララに駆け寄るとぎゅっと抱きしめた。


「も、もちろんです!私はもう子供ではありませんから」


 その美少女――プララは焦って師匠の腕の中でもがく。こちらをチラチラ見てくるとこから見ると、俺に対して見栄を張りたいようにも見える。


「もう、お母様、ほんと、離してください!!お婆様も!ニコニコしてないで止めてください」


 ニコニコしたまま、イル=サン27世は自分の椅子に腰を掛けた。


 チリリン、とベルを鳴らすと、メイドがティーポットなどの茶道具やお菓子をテーブルにセットし、一礼して去っていく。


「神託の御子殿もお座りくださいね」


 と、俺に自分の正面に座る様に促した。


「あ、はい」


 俺も勧められるままに椅子に座る。そのまま、師匠親子のじゃれあいを見ている。うん、これは大変。確かに愛情たっぷりに育てたというのは間違っていない。


 ――が。


 プララの体が熱をもち始めているのを感じる。


「お、か、あ、さ、ま――――――――!」


 ゴォ!と師匠とプララを炎が包む。そこまでして、ようやく師匠は体を離した。


「手荒いなぁ、プララは」

「お母様がいけないのです!こんなことされたら顔から火が出ます!」


 そんな言い合いをしているが火傷などは一切ない。俺の評価で見立てたら、幻術に近い魔法だ。熱も光も発するが、燃えはしない。


「プララさん、よくわからないのですが、一応神託の御子のライト=サリスです。ここ数週間、師匠からプララさんの話を聞いて過ごしてきました」


 俺は立ち上がって自己紹介をした。なるべく丁寧に。


「あら、可愛いご挨拶ですこと――」


 と言ったのはイル=サン27世だ。


「まだ7歳ですから、そんなに形式ばったことはいえません」


 俺はさらりとかわすと、もう一度プララの方を向いた。そして一歩近づく。


「最初許嫁と言われたときには、戸惑いしかなかったのですが、実は道中お会いするのがとても楽しみでした。そして実際にお会いして、この出会いに感謝したい、と心から思います。まだ子供なので、師匠のいう『許嫁』などというものがどういうものかわかりませんが、お友達としてこれからお付き合いいただければとても嬉しく思います」


 なるべく誠実に――そして、嫌みにならないように、言葉を紡いだ。そして、プララの前に手を差し出した。


「あ、は、はい、プラローロ=セローの娘、プララ=セローと申します。あの、私もお友達になれたら、いいと思います」


 プララはおずおずと俺の手を握る。握った瞬間に恥ずかしそうに手を離した。


「ライトくん――婿殿、でいいね?」

「師匠――もちろんですよ」


 俺と師匠は互いに頷きあった。


「――よく似た師弟、といっていいのかしらね」


 嬉しそうに、そして若干呆れたようにイル=サン27世は笑った。


「さあ、お茶にしよう!ここには私たちしかいないのだからね!積もる話ってやつがあるんだよ!」


「は、はいっ」


 プララがたどたどしい手つきでお茶を入れる。順番に注がれて俺にも出される。


「ありがとうございます。とてもいい香りですね。――ああ、なんて美味しい。ちゃんと茶葉が開くのを待ってから、丁寧に入れられているのが分かります。これほどまでの香り、しっかりとした手間をかけていただいて幸せです。ありがとうございます。」


 まあ、実際は評価スキルで入れられたお茶の評価を読み取っただけだが。


「あ、はい――」


 顔を真っ赤にするプララ。


「えーと、さっきからなにしているんだい?我が弟子くん」


「え?師匠、こんなにも素晴らしいお茶を入れるプララさんにお礼を言っているだけなんですが――なにか間違っていますか?」


「――恐ろしい子!」


 いや、仲良くなりたい子で、仲良くなるべき子で、仲良くならなくてはいけない子が、目の前にいるわけである。全力で喜ばせようと思うのは間違っていない。


べつにジゴロプレイしているわけではない。


「――神託の御子殿」


「はい、イル=サン27世様」


 俺は襟を正しなおした。


「そうですね、私のことはお婆様とでも呼んでほしいものね。私もライトくん、でいいかしら――私たち4人は家族みたいなものなのだから」


 家族、というのは分からないが、そういうものなのだろう。一蓮托生、に近いのだろう。


「はい――」


「だから――我々にスキルを発動しないでほしいのだけれど。」


 すっとくぎを刺された。


「分かりました――しかし、なんというか、お婆様は加護のために、師匠とプララさんは師匠の認識阻害アイテムのために詳しい評価は読めないんです」


「私を読もうなんて10年早いってことだね!」


 胸を張る師匠。


「うん、でもね、その力はすぐに私の加護をすぐに突破するようになる。読まれて困るものはないけれど、心を読まれるのは普通のお婆ちゃんには、少し恥ずかしいから」


 いって、ほほ、と笑う。


「はい、しかと心に留めておきます。でも、プララさんと仲良くなりたいのはホントなんです。こんなに美人で、お茶の入れるのが上手な女性のことを好きにならないのは、7歳の男でも無礼であることを知っています」


「――それくらいにしてあげて、プララちゃんはもう限界よ……」


 苦笑するお婆ちゃん。


 プララを見ると真っ赤な顔してうつむいてプルプルしている。


「――はい、ごめんなさい、プララさん」


「い、いえ、あの、お茶を美味しいと言ってくれてうれしかったです。」


 真っ赤な顔をこちらに向けて微笑んだ。


「うちの婿殿は――思った以上のジゴロだね!望んだことだけど、ここまで女の子が好きだとは驚きを隠せないよ!」


 俺は7歳で相手は9歳だからロリコンではないし、そもそも俺は欲情などしていない。いうなれば光源氏計画の一環みたいなものだ。美人で許嫁、そしてこれから幼馴染にもなる!なんとアツい相手なのだろう。


「なにいってるんすか、師匠。やめてくださいよ――いえ、」


 俺は真剣な顔でつづけた。


「お義母さん」


「わかったよ、婿殿」


 やっと一本とれた、という感じだった。

第7話に続きます。

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