皇帝と、魔王と、教皇と。そして。第58話
朝、にこやかな笑顔で滞在した街を出発した。沿道には多くの人が詰め掛け、俺たちを見送っていった。
「まぁ、おおむね順調ね。ジャロロ姉さんが淫乱処女ビッチ大魔王だったこと以外は」
言葉の棘が凄い。ジャロロが俯いて所在なさげに小さくなっている。
「いや、そういってやるなよ」
「伝説のド変態性欲魔人のお兄ちゃんは黙れ。領都を出て二日目にして夢精しそうになる超ド級の性欲魔人教皇が――」
ぐ、と俺も黙る。
「2人とも片や大陸消滅の大魔王、片や樹海龍ラトーガの討滅の勇者というとんでもない伝説を残して、数千年単位で生きていきそうなのに、その実態は妊婦の妹の前でエッチを見せつけようとする変態夫婦――」
「「すみません」」
俺たちはハモった。そこからはもう針の筵だ。まあ、言葉に棘があるある。
沿道に人が詰め掛ければ笑顔で手を振りもする。休憩時の教会では説法に近いこともする。ストレスのかかるこれらの作業も、俺たちだけの空間になるよりもずいぶんましだった。
そうして二日目の夜、ようやく帝都ララミスに着いた。義父である皇帝ミド21世と会食する予定が入っている。
帝城の会食室は広かった。だが、ミド21世にの計らいにより、家族の食事としての体裁がとられ、衛兵の姿は近くにはなかった。食事もすでにすべて提供されており、給仕も近くにいない。
「ライト殿、久しいな」
「義父さん、お久しぶりです。ああ、こちらが妻のジャロロ=ジャロです」
「ジャロロじゃ。ミド公爵とは書簡のやりとりを何度かしたが、その末裔殿か」
ジャロロは淡々と言葉を紡いだ。帝室がまだ公爵であった頃からの付き合いである。
「なんと――いや、朕がミド21世だ。お初にお目にかかる、伝説の魔王殿」
「こちらこそミド21世殿。いや、すまぬ、名前で呼んでもらえるか」
「――うむ、ジャロロ殿」
言って二人は黙る。様々な思いが去来しているのだろう。
「ふふふ、伝説の淫乱処女ビッチ大魔王――」
伯爵夫人のレティがギリ俺とジャロロに聞こえる声で呟き、ニヤニヤしている。もちろん彼女のバランス感覚で、場を荒らすようなことはしない。
「ライト殿、ジャロロ殿との婚姻の話を聞かせてくれるか。今、巷で言われているようなことを信じてよいものか」
いてもたっても、というのはこのことだろう。この話を彼は聞きたかったのだ。わざわざ予定になかったこの会食をねじ込んできたのはミド21世だ。
「ふむ、確かに人族の王は心配であろうな。国土の5%は消失させたしの――」
ジャロロは淡々と語る。だが、かつてプララが言っていた。ジャロロは死んでいないだけの抜け殻だけの存在だと。そこに強い思いがあるのは分かっている。
「お前様はどのように考えておるのだ。わしがプラローロの要請を受諾した理由を。それを着てみたいものよ」
まるで試すように俺を見る。
「かつて、プララがダークマニフェストを使用した時に、ジャロロは俺たちの前に姿を現した」
「まぁ、実体ではなかったが、の」
ガタガタっとミド21世は立ち上がる。聞き逃すことができなかったのだろう。
「まて、皇妃殿はあの、極大消滅魔法を使えるのか」
「ええ、使えます。知っておいてください。そしてこれからの話をちゃんと聞いてください」
俺はミド21世を制した。
「その時にジャロロは言った。あの魔法を生み出したこと、使用したこと、命を奪ったことを悔いている、と」
「――なんと、悔いておられるのか、ジャロロ殿!?」
身を乗り出すミド21世にジャロロは苦笑した。
「勘違いしてもらっては困るミド21世殿。わしはたしかに極大消滅魔法生み出したことと使用したことを悔いておる。痛恨事だ。なぜなら、あの魔法は使える者は少ないが、使えば人類を滅ぼしかねない魔法じゃ。威力の際限がなさすぎる。」
前世日本でいうところの核兵器に近い。魔法のイメージを得た魔法適正Sランクの者がいたら、再現できる。それを生んでしまったこと、そのことにジャロロの大きな後悔があるのは分かる。
「――む」
「もちろん、命を奪ったこともストレートに悔いておるよ。だが、矛盾することを言わせてもらえれば、あれは旧帝国にも責はある。侵略者相手に魔国の血を一滴も流すわけにはいかなかった。わしは魔王であったしな――。つまりあの戦争を悔いているわけではない。――が、命そのものを奪ったことに対しては慙愧に堪えぬ」
ジャロロは用意された果実酒をぐいっと呷る。見た目が少女のため、異様な光景になるはずが、なぜかすんなりと受け入れられる。
「慙愧に堪えぬ?ちがうのう、もっとだ。気が狂いそうになるほどの後悔じゃ。おそらく何百万という命を水泡に帰した。あれは国防であったことも否定せぬ。だが、それらと命を奪ったことに対するわしの後悔は、矛盾することなく存在する」
そう、つまり、謝罪などはせぬ、ということ。ここらへんはさすが元魔王としての政治的なセンスを感じさせる。謝罪をすれば魔国が窮地に立たされる。300年前の自分たちの侵略を棚に上げて文句を言ってくるかもしれないからだ。
「ということで、義父さん、今の話を総合すると、彼女は俺に恋をした、ということで――」
「何を言って居るか!痴れ者!!」
場の空気が軽くなった。
「もちろん冗談だ。ただ、冗談にはさせておかないからな。真実にして見せるさ」
「う、うむ――」
顔が少し赤らんでいるのはお酒のせいだろうか。
「淫乱処女ビッチ大魔王がデレた……」とは、レティの独り言。
「ライト殿、エミーもよろしく頼むぞ?」
「わかってますよ。よろしくやらせていただいてます。まぁ――ジャロロが俺と婚姻を了承した最も大きな理由は、あの時散った命の弔いと人族との和解。戦争としての結果には異論はないが、行為によって奪われた命を弔いたい。願わくば、二度とああいった戦争が怒らないようにするためには――人族にして世界の宗教権威の自分との結婚が最も良いと考えた」
俺は息を一つ吐いた。
「俺達の結婚は恋でも愛ではない。打算ってやつですよ」
「――ふむ」
「概ね正解じゃな。ついでにこの皇姫プララの顕現せし闇を永年にわたって監視することも目的じゃ――」
「俺は平和利用をしたいんだけどな」
俺はせっかくなので提案してみる。ダリアスの村のキエサル山脈に穴をあけたいのである。
「「平和利用?アレをか?」」
皇帝と魔王からそろって声が上がった。しかし基本、聖都で師匠やリャララと今まで話してきたことと一緒である。
「もうすでに魔王ジララには許可もとってある話なんだが、サリス領のダリアスと魔国の大樹海をトンネルで繋ぎたいと思っている。その工事にはダークマニフェストで掘ると同時に俺が岩盤固定すればいい。海上しかなかったつながりが、陸上輸送が可能になる。当面はサリス領と魔国の貿易を中心として組み立てる」
「キエサル山脈に穴をあけたら長城の意味がないではないか!」
「ダークマニフェストでいつでも穴があけられるのに何で必要なんですか?」
関係ないとしたら必要ない。
「まぁ、俺が固定しておくので、嫌ならば崩すことも可能。教皇として防衛上の安全保障はしますし、ジャロロでしたら正確に開けられるでしょう」
「あの魔法をわしに使えというのか」
「ああ、人族と魔国の和解のために使ってほしい、と思うけれど、別に強制するつもりはないさ。プララもやれるだろうけれど、それはジャロロが嫌がるならばしない」
目をつぶり、息を一度大きく吸い込んで、吐いた。彼女はできることとできないことを今心の中で計算をした。そして、すぐに結論を言った。
「使わぬ、二度とだ」
決意は固そうだ。
「ジャロロ殿、それは朕、アッティラ帝からの頼みであっても、か?」
「すまぬな、無理だ。わしはこの319年もの間に積み重ねた思いが大きすぎる。頑固であるというならそれで結構だ――」
ミド21世はそれを聞くと嬉しそうに笑った。
「ライト殿、奥方は信頼できるお方よ。たとえ夫と言えど、そしてたとえ皇帝と言えどジャロロ殿に首を振らせることは敵わぬ。安心した。今後、皇帝がいくら代替わりをしようとも――いや、だいぶ若返らせてもらったので、ずいぶん先になるが、そなたは我が帝国の友となってほしい。もしや、この申し出は断らまいな?」
ジャロロは呆気にとられた顔をしたが、ミド21世の腹積もりを理解して破顔した。
「ははは、まずは魔国と友好を結ばれよ。魔国は閉鎖的な国家なので侵略などの心配をするだけ無駄だ」
俺とレティはほとんど蚊帳の外である。
「気遣ってくれてありがと、お兄ちゃん。正確には私は全く蚊帳の外よ。お兄ちゃんは当事者だからいいじゃない。」
「まぁ、そうだけどよ」
「それよりもジャロロ姉さん、生き生きしてるわ。さすが元魔国トップ。やりて政治家らしいわぁ。お兄ちゃんのすぐ殴りつけたり斬り殺したりする短絡的な性格にはちょうどいい相手ね――」
確かに俺の数千はあるであろう前世の中に政治経験はない。簡単だ。政治をやれるまで生きられなかった。そういう意味では拙速で短絡的な――自分ではあまり考えたくないけれど――俺には、よい嫁さんである。
俺にとってもジャロロの普段見ないの面を発見でき、今回の会食はまさに大成功であった。
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「帝城内で要人の寝所で暗殺なんてことがあったら、国が成り立たぬよ」とミド21世は言っていた。「お兄ちゃん、今日はさすがに一緒に寝てあげられないわ」とレティが苦笑いをしていた。「猊下なら問題ない、と存じますが、暗部から万全に配置したとの申し出がありました」と誇らしげにセバスティアン枢機卿が頭を下げた。
つまり、そういう日だ。
「あのさぁ」
「な、なんじゃ、お前様、なにかあるのか」
俺が隣に座ったからか、ジャロロの声が上ずっている。アッティラ新帝国の威信をかけた気賓客室はとても豪奢だった。彼女はソファーの上でちょこんと座っている。まぁ、先程まで丁々発止の政治会話を繰り広げていた同じ人物とは思えない。
「いや、ジャロロはよく語尾に『じゃ』をつけることがあるのだけど、それってジャロロ=ジャロのジャとかけてキャラづくりしているの?」
ジャロロ=ジャロじゃ?
「猫耳つけて「だニャン」、とかうさ耳つけて「だピョン」とかいうのと同じ扱いにしないでくれ――ふふふ」
少し硬さが取れた。俺は素早く彼女の耳に口を近づけると、「それも可愛いと思うよ」と息を吹きかけた。
「ひぁ、な、なにをする?!」
「なにをしたい!」
「なにを?!」
ぐいっと迫った。ぐいぐいっと迫った。ジャロロは口では必死で抵抗していた。だが、体は下がっていかない。
俺は真剣な目で、彼女を見つめた。
「ジャロロ、俺はキミを抱きたい。互いが打算で結ばれたが、打算で夫婦生活を送らなくても、いいだろ?」
「――」
「打算でも、夫婦は愛で結ばれることができる。愛し合う、思い合うことはできるんだ。そして、キミが持っている苦しみを共有することができる。だから、俺とともに歩んでほしい。そして――俺の子をなしてほしい」
こくん、と彼女は俺の目を見つめたまま頷いた。
ゆっくりと、キスをする。
唇を合わせ、かすかに震える唇を舐める。歯がカタカタ言っているので、軽いキスを何度も繰り返す。俺の唾液が彼女の口の中に移るように、徐々に徐々に舌を差し入れていった。同時に、体の後ろに手を回し、ジャロロの小さい体を抱きしめた。
すると「んぱはあぁああぁぁぁ」と彼女は盛大に息を吐いた。
「どうしたの?」
「い、いや、すまない。キスをしている時はいつ息をしたらいいのだ?」
「ははは、いつでもいい。息を止めていると楽しめないから、遠慮なく息を漏らしてくれ」
かーわーいーいー!
600を超えるおばあちゃんやろー!なんやそれー。
まるで生娘を――いや生娘か。あまりの反応の初々しさに戸惑った。俺は素早く彼女を抱き上げると、お姫様抱っこをしたまま、ベッドに運ぶ。
「く、くりかえしになるが、こ、これでも、恥ずかしながら、生娘で、と、とんと殿方には縁がない。600年ないのだからこれからもないと思ってて、うん、であるから、その――」
「うん、その、なあに?」
「優しく、してほしい」
俺はもちろん、と言って、ベッドに寝かした彼女の右隣に寝転んだ。
左腕をジャロロの頭の後ろに差し込んで腕枕をして、左ひじをついて体を横に起こす。右手で彼女の寝巻の帯をゆっくりと外していく。
「ま、まて、わ、わしは二人のお嬢のように出るものが出ておらぬ、わ、笑うでないぞ?」
「笑うわけないでしょう?」
仰向けで寝ている彼女の俺側の手とって、俺のモノに導いた。
「心配しなくても、もう、オレ、こんなんなんだから――」
「な、なんじゃ、これは。硬すぎる……これが興奮しておる状態であるのか」
「そう」
俺は服を脱がしながら頬にキスをする。さらにはブラ代わりのシャツの上から優しくマッサージをしてほぐしていく。
「んうんんん」
彼女は必死に口を閉じて、声を出さまいとする。うむ、かわいい。
するりとシャツの間に手を滑り込ませて――
★
さぁ、朝。
朝からちゅんちゅんと小鳥が鳴いていた、
「起きるよ、ジャロロ」
「まっておくれ、お前様、こ、腰が立たぬ――」
初のエッチは評価を切って。基本である。
何回戦戦ったかは覚えていない。うん。傷を癒す精霊魔法はとても便利。16歳の性欲はとんでもないし、少しずつ彼女の体も心もほぐれていくのが嬉しかった。
一番、しっくりくるのは対面座位である。相手の肉体を感じることができるのもいい。特に小さいので軽く持ち上がるのもいい。椅子に座っても持ち上げても、楽しい。
とにもかくにも良い初夜であった。
ただ、一大スペクトラルセックスというには、彼女が初心すぎた。
うん、まぁ、それは、また、別のお話。
よっしゃ朝チュンや。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
たぶんここ20話くらいで一番苦しい回でした。よし、明日も頑張って更新しまっす。




