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許嫁は禁忌の鬼子っていわれてもという第4話

「さあ、聞きたいことはあるかな!」


 父さん、母さん、そして俺たち兄妹を前にて、とんでもない美貌のエルフはティーカップを持ち上げながらそういった。


 聞きたいことはたくさんある。しかし、だ。とんでもない状況過ぎて何ともできない。


「うん、わかった。まずは自己紹介をしよう!我が名はプラローロ=セロー!その世界に定められし神託の子、ライト=サリスの師匠にして義母予定者!これはおまけでエルフ自治領主で、5賢人などという恥ずかしい呼ばれ方をすることもあるんだよ!」


 母さんが背もたれに緩やかに倒れた。


「母さん、大丈夫か!」


 父さんがその背を抱くように起こす。


「は、はい、大丈夫です、あなた――。でも今、なんと」


「うむ、我が名はプラローロ=セロー!その世界に定められし神託の子、ライト=サリスの師匠にして義母、と言った」


 プラローロは繰り返して、紅茶を口に着けて飲む。


「わ、分かりました。とりあえずプラローロ様」


「うむ、ミリィ殿、なんだ」


 母さんはよろよろと体を起こしながら、


「ライト=サリスの母親でミリィ=サリスと申します。こちらは娘のレティ=サリスでございます」


 と座ったままなので、略されてはいるが礼にかなった挨拶をした。紹介されたレティは立ち上がるとゆっくりと頭を下げた。


「レティです」


「ああ、知っているよ。しかし、お初にお目にかかる、どうぞ良しなに」


 プラローロはそういって二人に向かって頭を下げる。


「今日という日は650年前から定められたことではある!しかし、サリス家の皆さんに置かれては初めての状況だから。できるだけ説明するよ!」


 優雅に、まあ、実際どんな風に?という問いに答えられないがが、形容すべきは、とにもかくにもプラローロの立ち上がる様は優雅であった。


「ご子息のことを、サリス殿は理解している様子だが、ミリィ殿はご理解していただいてないね!」


 母さんの目に若干の怒りが宿る。


「私が息子のことを理解していない、とおっしゃられますの?」


「はっはっは、気を悪くされたなら謝るよ。べつにマウントを取ろうとしているわけではないんだ」


 母さんの軽い怒りをさらりと受け流す。


「では、お聞きしようかな。ミリィ殿はご子息のことをどう思ってる?」


「天才」


 と、レティが横から即答する。


「お兄ちゃんは天才です。間違いありません」


「ほほぅ!さすが天才は天才を知る、だね!」


 母さんの目が、レティとプラローロを往復する。


「母さん、ライトは固有スキルの持ち主だ。私も先ほど知った。ついでにその過程でプラローロ様に召喚を強要されて、こんなことになっている」


 その一点をもって天才と断ずるに値する。父さんはそう続けた。


 実のところ、俺は魔力の暴走させられたことによる後遺症で母さんの膝枕で寝ている。ろくに口を利くこともできない。


「固……有スキル、ですか?」


 母さんが膝の上の俺に目を向ける。


「その通り。ザッツライト!そう、ライトだけにね!」


 一人でケタケタと笑いながら、プラローロは手を広げて見せた。


「ご子息は天才だ。それをこのプラローロが保証しよう。そして、ご息女の天才も――は分かっておられることだね。いや、そんな心配そうな顔をしなくともいい。イル教国にはレティ殿に手を出させない。でなければ」


 そこでプラローロはこちらをちらりと見やった。


「7歳とは思えない、あのライト君に私が叱られてしまうじゃないか!」


「感謝をいたします、プラローロ様」


 そう頭を下げる父さんの混乱は幾分少ない。しかし最も混乱していないのは、レティだろう。ただひたすらにプラローロを睨み付けている。


「なぜ、お兄ちゃんをこんな目に!?」


「お、さすが。うん、そうだね。私にとって君のお兄ちゃんは大切な存在なんだ。だから今日は頂きに上がった、というわけさ」


「は?なにいってるの!私は許さないわ!」


 激怒。レティの迫力はすごかった。


「いやいやいや、怒らないでほしいんだよ。君の怒りは若干怖いんだ。頂くってそういうことじゃない。勘違いしないでくれよ!」


 子供をからかうように、ではない。本気で焦った顔でプラローロは手を振った。


「勘違いさせて悪かった。まず、君の大好きなお兄ちゃんを私の弟子にしたい。んで、徹底的に育てたい。――それだけだ」


「それだけって――」


「いや、それならば是非お願いしたい」


 レティの剣幕に割って入るように父さんは頭を下げた。


「父さん!?」

「あなた!?」


「落ち着け、母さんにレティ。ことはライトの将来の問題だ。下手にスクールに通わせるよりも5賢人に預けた方がいい」


 なんというか、俺不在である。いや、いるけれど、口を開けないほどに憔悴している。残念ながら。


「いいね!サリス殿。一流の商人とは奇貨居くべしって言葉をその血に刻んでいるってホントなんだね!ついでにもう一つの方も了解してくれないか?」


 ――もう一つ?


 これはいやな予感。いや、確実にもうダメやろ。


「それは?」


「うちの娘の婿になってほしい――ってことさ」


「はあ!?」


 レティ激おこ。


「いや、私の娘は嫁には不服かね?ちなみにまだ9歳だ。2歳年上だが、彼女はエルフの長である私と、先代魔王リャララ=リャラとのハイブリッドハーフだぞ?」


「は……?え?」


 レティには理解が追いついていない。いや、この中でそのことを正確に理解できたものがいただろうか。


 この世界は最も大きい大陸であるキエサル大陸と、他2つの計3つの大陸と小さい島々でできている。そのキエサルには3つの国家がある。


1つは俺たちの住むアッティラ新帝国。人族最大の国家であり、帝国を冠するだけはあるの大国家だ。大陸の東側を統べる。大陸の40%近くの大領土を持つ。しかし、実力は他の2国に比べると一段落ちる。


なにせ前アッティラ帝国は、魔王を頂点とした魔族と呼ばれる強大な魔法を駆使する魔国に対して、300年前に侵略戦争を仕掛けた。それが先々代魔王のジャロロ=ジャロの怒りにふれ、領土であった大陸の5%にあたる部分を海の底に叩き込まれた経緯を持つ。


たった一人の魔王の、たった一発の魔法に敗北を余儀なくされたのだ。勝つ、負けるというレベルの話ではない。ちなみに魔国の魔王はすべからく5賢人の一人だ。魔法の大家である。


その魔国が大陸の中心に3割ほどの大きさで存在する。余談だが、魔国の敗北後、狂乱状態に陥った旧帝国は、疲弊した国家財政を無視し、唯一の国境となったキエサル大山脈の頂に2300㎞に及ぶ長城を築いた。それが元で旧帝国は倒され、新帝国が樹立された。


 その魔国の西側に位置し、30%の面積をもつのがイル教国。世界のほとんどの民が崇拝する多神教イル=サン教の総本山であり、5賢人を2人も抱える大国家である。


一人は教主イル=サン27世。


もう一人が目の前のプラローロ=セロー。ありとあらゆる魔道具の生みの親とすら言われ、長命のエルフの長。膨大な知識と魔法力を持つといわれている。


いや、目の前のプラローロを見る限り、伝聞で語る類のものではないことがわかる。化け物だ。


「プラローロ様、今の話をどうとらえていいのか、正直私は困っている」


 父さんが、沈黙を破って呟いた。


「いや、婿って言っても養子に欲しいなんていってないよ。ライトくんはサリス殿の跡継ぎではないか。いや、そうだな。勘違いしてもらっては困る。うちの娘を嫁にもらってほしいと言ってるのだよ」


「いや違う、違う、勘違いされるな。その前の段階だ。」


 父さんが手を振った。


「なんだ?2人の気持ちか?」


「いや、娘さんの話だ」


 あっはっはと笑うプラローロ。


「美人だ。心配するな。しかも元とはいえ魔王とこの私の娘だぞ。強大かつ最高の力を持っておる。地獄の釜の蓋を開いたと言われるジャロロの再来とか、言われているぞ。我が娘ならばライトにも引けを取らぬ。」


 ああ、と父さんは頭を抱えた。


「ちがう、私が聞きたいのは、魔族とイル教国が組んでいるのか――ということだ」


 おお、とプラローロは気が付いたように目を見開いた。


「すまん、これは機密なのでオフレコにしてくれ!大丈夫、相変わらずイル教国も魔国も手など結んでいないし望んですらいない。そもそも、どちらも覇権に興味などないのだから、心配には及ばない。この国に攻め込んでこようなんて考えるほど暇ではないのだ」


 プラローロはちょっとした小話的に話し始めた。数年前に「そういえば650年前の神託の子が現れる時期だ」と気づいたという。


 ――なんかいい加減だな、という俺の思いに気づいたのか、プラローロは手をぶんぶんとふった。


「いやいや、いい加減じゃないぞ。650年は私にとっても長かったのだよ。それで、あれ?神託の子に娘をあてがったら面白いかもしれん、とか思っちゃったりしてな。長い付き合いだった隠居してた元魔王のリャララに『子作りしようぜ』と軽い気持ちで声かけたんだわ。当代最高峰の二人の遺伝子がまじりあったハイブリッドハーフ。それを神託の子に娶らせる!そう、これはっっ!!」


 あまりの物言いに開いた口が塞がらないサリス家の面々。


「そう、これは、めっちゃ面白い。」


「ひどい!!」


 やっと声が出た。


「いや、我が娘は美人だし、可愛いし、母親の目から見ても最高だぞ。9歳にして半島を一つ消せるだけの魔力!すごい!楽しんで作ったとはいっても、全力で愛情を注いでいる。世界の危機の一つなんて言われ方をする子だけど、真っ直ぐに育っているし、なによりも私の一粒種だ!760年生きてて子作りなんて初めてだったぞ。ビビった!鉄の処女とか不名誉なあだ名があった私だが、さすがに最初の時はビビったぞ。理屈は知っていたが、初めてってのは怖いぞ!!」


「子供達のまえでなんて話をするんですか!」


 さすがに母さんが声を上げた。ナイス!母さん、生々しいから聞きたくない。いや、マジで。


「あ、すまん。とにかく血統も能力も最高。そしてハイブリッドハーフ、禁忌の鬼子と言われるだけあって、エルフ自治領主にもなれないし、魔王の継承権もない。これ以上の縁談はないと思え!」


「あの、娘さんの気持ちは――」


父さんが混乱のままに話す。


「ああ、娘にとってライト君は伝説の白馬ノ王子サマってやつさ。生まれた意義がそこにある、とすら思ってるね。まあ、ほんとはそんなこともないんだけれど」


 母さんが、大きく息を吸ってはいた。


「分かりました。考えてみれば悪くないお話。お受けしましょう。あなた、いいですよね」


 父さんにすっと目を向ける。父さんの頭が素早く上下に動く。


「ただし――ライトと娘さん、名前を聞いていませんでしたわ。なんとおっしゃられますの?」


「ああ!これはしまったね。私の娘はプララ。プララ=セロー」


「プララさんとライトの意思を最大限尊重すること、これは親として譲れませんわ」


「ああ、当り前さ!良かった!神託の子がうちの娘の婿にくるってのは、ほんとにいいことなんだよ!!」


 ニコニコとしているプラローロ。


 俺の縁談なんだけれど、ね。俺の意思はあまり存在しないようだ。


――そして、もう一つ爆弾を落としていく。


「いやあ、よかった。神託も受け入れてくれてうれしい!」


 そういえば、と思う。650年前の神託の内容を聞いていない。


「はて、そういえば神託とはどんなものでしたかね?」


 父さんも不思議に思ったらしい。


「うーん、聞いているよ、たぶん。ちょっと前に流したし」


 ふと。自分の髪が気になった。なぜそんなことを考えたか、理解できないけれど、無性に今の自分の髪の色が知りたかった。


「とう、さん、ぼくの、今の、髪の、色は?」


「――――――――――――――――――――――赤だ。」


 魔力の暴走で全身の気穴が沸き立ち、白銀の髪を赤色に染めたらしい。


「その通りさ!今のライト君は赤い髪をもっているのさ!うん、偶然じゃないんだよ!」


 ――イル=サンを継ぐ赤き髪をもつ者がイルの地に顕現する。


 650年前の特別な神託の第一文、らしい。


――俺はさすがに運命とやらに呆れた。


アイアンメイデンことプラローロ様。

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