時間差で投げ込まれるラブレターってきっと怖いよねという第3話
本日二本目の投稿です。
一部改稿しました。2/27
そうりゃあ、二人はすっかりマブダチさ。的なノリ。
父さんに評価スキルのことを説明せざるを得なかったので説明したら、めっちゃ興奮しているでござる。
――現在進行形で。
「相手の自分の評価が見えたのが4歳、基本的なステータスが5歳、イライラしているといった心理状態が6歳、か。お前のスキルは成長するのか」
「拡張しているよ?」
「いや、それは成長だろ。拡張とは違う。父さんのアイテムボックスには機能の追加はなかった。ただ、文字通り大きく拡張はしたけれどな。いや、しかし、評価のスキルか。聞いたことがない、どんな成長をするかもわからん」
父さんは笑う。
「しかし、発動させていることから法術スキルの一部であることは間違いない」
「でも法適正では法術スキルがないって」
「ああ、それは評価などという法術が存在していないからだ。収納、転移、創造、探査の各4系統が法術の既知のスキル。系統と言っても他のスキルを合わせても法術は20を超えない。法術適正はその既知スキルの適正と言ってもいい。お前の法術の適正が見えなくて当たり前だ。誰が固有スキル持ちだと思うんだ。レアにもほどがすぎる」
「そうなの?」
「ああ。極レア。だからこそ、固有の法術スキルの持ち主は世界を変える。どのような形であっても世界を変える。イル教国の守護者、イル教国エルフ領自治領主にして5賢者の一人プラローロ=セローが、最も新しく生まれた固有法術スキル保持者だ。彼女が生まれたのは760年前!実に、実に760年ぶりの固有法術スキル保持者――あああ!」
言って、父さんは天に祈る。何度目の祈りだよ。
「神様、ありがとうございます。私は一介の商人で人生を終えるところだった。それがもっとも素晴らしいことだと、私は思っていた。だが、今は違う。私はこの息子を世に出すこと、これこそが我が使命!我が息子ライトは世界の変革者で、我が娘レティは世界レベルの神聖術者、ああ人生はなんと美しく、出藍の誉れここに極まる。もはや我が名はカインではない。幼子に我が人生を託す喜び。幼子に世界を託す喜び。事ここに至り、1000年の後も我が名はライトの父親として名を遺すことが決まった。あああ!神よ!!凡夫のこの身に有り余る光栄。必ずや、必ずや!!!」
膝をつき、天を仰ぐ。
「わかったからさ、もう少し道具見ていい?」
引くわー。父ながら引くわー。
父さんの盛り上がりにさすがに引く。しかし、喜んでくれているのは僥倖だ。世界平和を願うほどの器量はないけれど、自分の手の届く範囲の人は幸せになってほしいわ。
「あ、ああすまん。いいぞ、内容を教えてくれ。ここの道具に関しては、分かりきらないことが多いからな」
トリップから素早く立ち直る父さん。
俺はそこらにあるものを一つ手に取った。
「これは、表示はアイテムボックス7㎏、でも収納物に対して時間を早める効果が裏で働いている。なるほど、このアイテムボックスに父さんは弁当を腐らせたんだね。で、『なんとなく怖くて使えないし、売ることもできない』と。それがこのアイテムボックスに対する父さんの評価」
「――そうか、お前のスキルは評価が見えるのか。」
「そういってるじゃん。んで、これは、表紙は神代の短剣か。んでも何のスキルも付属していない普通の短剣。神代の時代に作られた的な表層で、その実、53年前に現ドワーフ大公が初めて鍛治した短剣って――いや、普通にいいものじゃん」
「なに、現ドワーフ大公の打った短剣、しかも処女作なのか!」
俺たちが住むアッティラ新帝国の隣国、5賢人の一人、ドワーフ公国エンリケ公はドワーフの鍛治秘術を独占し、世界の一角を占めている。
「うん。でもこれにはドワーフの秘術は使われていない。だって、まだ、なにも知らない頃に打ったものだからさ。あ、大公の評価が見えた。これ、ドワーフ大公の宝物だって。ドワーフとして脂の乗り切った大公は初心に戻りたいらしいのさ。」
「俺が駆け出しだったころ、武器商人を目指して死ぬ思いで買ったものがマガイモノで死にたい気分だったのだ。しかし、お前の見立てでは、それはまさに宝ではないか」
父さんはおずおずと床に転がっていた短剣を手に取る。
「あ、これ面白い。魔力の歯車だって。魔力を込めると回路に魔力が流れる。上の歯車がくるくるまわる――だけ。父さんが心配している副作用的なものはないよ。へえ、一生懸命にいろんなものを組み込んで、それっぽく見せているけれど、これ玩具だね。その歯車の上に人形でも乗っけておけば?」
「なるほどな」
「これは魔鏡だね。といっても銅鏡の鏡面裏に絵柄が掘ってあって、光を反射させて壁に映し出すってやつ。魔法の技術なんてものは使われていないよ。ダース単位であるじゃん。磨いて売れば?――あ、これ」
俺の目はそれ、一本の短刀に吸い込まれた。
「転移の、短刀」
「お、それな。商売が少し軌道に乗ってきたときに世界を股にかけて商売したくて買ったんだが、転移の発動条件が全く分からなかった。何しても発動しなくてな」
ワクワクした顔で父さんが見る。
「作者はプラローロ」
「ほう!」
「なにこれ――」
俺は絶句した。
「――作者プラローロ、作ったのは650年前」
「ほう、プラローロ女史の古いものだな!」
「短刀の真の名が書いてある。父さん、これは不味い――」
「何が不味いのだ!プラローロ女史の呪いでもかかっているのか!呪いの類なんて見当たらないぞ」
俺は首を振った。
「650年前に作ったこの短刀の真の名前が『ライト=サリスに捧ぐ』だよ。呪いの方がまだましだ」
「ん――どういうことだ」
「これは呪いに近い。というよりも、真の呪いとは、こういう呪術を踏まえないものをいうんじゃないのとすら思う」
父さんは目をパチクリしている。
ハードラック。これは間違いなくハードラックだ。不運と踊っているだ。
「プラローロ様は――」
様と付けざるを得ない。
「650年前に、650年後の今、ここでこうして僕が短刀を手にして父さんに説明をしている図を明確に思い描き、そして、これを作成した。」
「わからないのだが、650年前にお前のために打たれた短刀が――世界をめぐって、俺の手に入っている。そして今この時にお前が短刀を手にし、評価スキルで内容を読み取っている、ということもすべて理解して作った短刀ということか。。ところで俺は、今俺が何を言っているのか、全く理解できない。」
そんな偶然があるわけもない。
このレベルの偶然がいくつも重なるのならば、それは必然なのだ。
「プラローロ様は、俺の評価スキルで読めるところに、文章を残している。『ここからは声に出して読まないとビンタするからね――ライト君』」
俺は生つばを飲み込んだ。
「――ライト君だと?なんだそれは」
俺の絶望感が凄い。
「続きを読むよ。『どうぞ、プラローロ様、我が魔力とこの短刀の力をもって、御身をこのサリス家にお運びください』」
これは正確に呪いだ。
「あああああああ!」
体中の血が逆流する。魔力が血液に乗って体中に駆け巡るのを感じる。
「おいっ、ライトっ、真っ赤に染まっているぞ――全身が――お前の髪先までが!!」
父さんは俺の体を抱きしめる。だが、そんなことを感じさせないほどに体中の魔力が暴れまわるのを感じる。
短刀に刻み込まれた魔紋が暴走し、俺の魔力を食らいつくす魔法が発動する。
――そして、俺たちの前に顕現する、美しき女性。しかしその存在に威厳しかない、ブルーサファイヤの髪を持つ、耳が少し尖っているエルフ。
「はっはっは!いやぁ!650年待ったぞ!!!!!」
そのエルフは嬉しそうにくるくると回転している。
「やあ、ライト、お前の師匠にしてお前の義理の母親となるプラローロ様だよ!」
ブルーサファイヤの髪のエルフ――プラローロ=セローは名乗り上げる。
しかし、今――なんだと――。
「お義母様とおよびといったのだ!」
「あ、あの、プラローロ=セロー様ですか。5賢人の一人の」
父さんが驚きから復帰してきている。そして、相手は王族に準ずる身分にして、この世界の柱と言ってよい存在。膝をついて頭を垂れている。しかし、父さんの右手は俺の体をつかんで離さない。
「うむ、いや失礼。我が名はプラローロ=セロー。サリス殿、頭を上げていただきたい。なぜなら、我らは親族となるのだから」
プラローロは微笑んでいる。
「いや、すみません、些か私は混乱しておりまして――ご説明いただきますか」
プラローロはニコニコと微笑みながら父さんと俺を交互にさして、
「ユアサン――イズ」
そういって今度は自分と俺を交互にさした。
「マイサン」
誰が、我が息子やねん。
「ユアさんいずマイさん?は?どこの言葉でしょうか」
プラローロは父さんの言葉に大きく笑うと、手をパンパンと打ち鳴らした。
「なーにほんの冗談さ――さて、説明するから、お茶をいただこう!そうだな、親族になる私に対する礼は最低限のものでいいさ!」
「は?」
「めんどうくさいから、さっさと説明したいんだ。奥さんと天才少女のレティちゃんも呼んでおくれよ!!」
そういってプラローロは父さんと俺に行動を促した。
「お祝いはとにかく早いほうがいいのさ!」
――何を言っているのかわからない。
ハードラックとダンスッちまったよ。