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広場の裁判で絶望を感じる小悪党の第29話

訂正:一部人名を勘違いしてました。

 シュラウド商会会頭シン=ゼッターランドはイライラしているようだった。


 俺とプララがその場所、港前の広場に現れた時には、無駄にあたりに怒鳴り散らしていた。


「お前はバカか。そんなこともわからずにここにいるのかやめちまえよ!!」

「さっさと乗せろよ、こんなところ早く出るぞオラッ!!」

「出港が止められているってなんでだよっ」


 ピリピリとした空気があたりを包んでいる。しかし、シン、叫び続けて喉がかれないかな。


 だが、確かにピリピリするのもわかる。あたりから少しずつであるが、この広場を囲むようにエルフたちが集まってきている。昨日の騒ぎを聞いていたのだろう。


「ゼッターランドさん」


 俺とプララは、シンのところまで歩み寄ると肩を叩いて言った。


「なんだ!この忙しいときに――って、昨日のガキッ!!」


 シンは俺を認めると飛びのいて身構えた。昨日と同じフードをかぶっている。まあ、その気持ちもわからないでもない。


「サスティラのギルドに依頼があった護衛任務を引き受けたものだけれど」

「んだと?ああ、あれかカインが勝手に雇ったやつらか――」


 父さんをカイン呼ばわりとは、マジで増長してんな。


「ああ、そうだ」

「だが知らん。サッサと去れ――」


 手でしっしとされた。


「いや、去らん。去る必要もない」


 俺はにべもなく答えた。事実、シンの言葉に従う理由はなかった。


「なんだと?お前、昨日あれだけのことをしておいて雇ってもらえるとでも思ったのか?」

「あんたに雇ってもらおうとは思っていない。俺を雇ったのはサリス商会さ」


 俺の言葉にシンはちっ、と舌打ちをする。


「この船は俺がルールだ」

「ちがう、この船のルールはプラローロ様さ。あんたはただの貿易相手の雇われ商会のさらに下請けにすぎんだろ」


 俺は事実を告げた。すると怒り心頭に達したシンはつかつかと俺に近づき、胸ぐらをつかみ上げる。


「んだと、このガキが!ぶっ殺すぞ」


 その瞬間だった。遠慮のない蹴りがシンの腹部に突き刺さる。蹴ったのは、俺の隣にいた女の子。プララだ。俺はあっさりと解放された。


「やってみなさい。このジャロロ=ジャロの再来たる私とツーザン暗殺者30人殺しのライトを殺せるとでも?」

「ゴホッゴホッ――ライト?」


 シンが咳込みながら、首をかしげる。


 だが、その疑問は周囲のざわめきによって消し飛んだようだった。今や完全に広場をヘムヘースのエルフが取り囲んでいた。


「おい、プララ様だったぞ、あの隣の女の子――」「ツーザン30人殺しって、あれが魔国で今最も評判の人族の英雄にして、プララ様の婿――」「なあ、あいつら、マジで死ぬんじゃないか?」


 俺は首をコキコキと鳴らして、一歩踏み込んで見せた。


「――まあ、殺せるか殺せないか、やってみてもいいけどね。俺とプララは魔族基準でBランカーの冒険者さ」

「ぐ……」


 シンは、俺の言葉に言葉に一瞬怯んだが、すぐに体勢を立て直して叫んだ。


「だがな!ライトとか言ったな、お前を乗せるつもりはない!俺がシュラウド商会の会頭である限りな!!」

「それも解決しているんだわ」


 俺の返事はさっぱりとしていた。予想済みの話だ。


「なんだと――?」

「うむ、解決してるんだよね!」


 その声に周囲がざわざわとざわめき、あたりを囲んでいる人が割れた。現れたのはブルーサファイヤの髪を持つ、絶世の美女。若干怒りが顔に出ている。


「だれだてめえ!」


 やめといたほうがいい、と思ったが、俺に止める義理はなかった。


「おいおい!キミは散々私の名前を使ってきたじゃないか!!分からないのかい?!」

「――?」

「760歳のクソ婆だよ!!それからなんだっけ『お前のような剛の者に抱いて欲しかった』だっけ!!ぶっ殺していいかな」


 ああ、殺意が膨れている。760年以上生きてきて、なおこの怒りと荒々しさ。そう、師匠はいつだって若いのだ。


「――!!まさか」

「そのまさかだよ!!私の名前はプラローロ=セロー!このエルフの主座にしてイル教国の国母!!5賢者の一人にして、そこのプララの母親さ!!」


 胸を張ってそこに立つ師匠。プララの前では絶対に言えないが、とんでもない美女で大きな胸なので、迫力と同時に神々しさがある。


「ということで、シン=ゼッターランドさん、いや、シン=サリスさん」

「なんだと?なぜ俺の本名を知っている!」


 狼狽えているが、俺は少し笑った。


「シンさん、あなたはすでにサリス商会から解雇されているのさ」

 俺はフードをとって顔を見せた。「今朝、父さんとその話をさせてもらった――」


「お前は――ライト!!」

「さっきから言っているじゃん。久しぶりだね」


 最後にあったのは6歳の時。あれから5年近く経っている。それも髪は白髪から赤髪に変化している。よくわかったと褒めた方がいい話だ。


「お前死んだんじゃないのか!?」

「死んでないって。ほら、足もあるんだよ」


 足をピラピラとしてみせた。だがそれに焦ったのはシンだ。


「――ちょっとまて、じゃあ父さんはなんで死んだんだ?」

「俺を殺しそこなったから死んだんだよ」


 俺は冷たい口調で言った。まあ、表向きは自殺。それがイル教国の暗部による暗殺だとしてもだ。シンの混乱が見て取れた。


「ちょっとまて、どういうことだ。父さんはお前を助けようとして失敗し、良心の呵責に苛まれて自殺――」

「父さんがそうしたのさ。俺は叔父さんにあの日、殺されかけた。叔父さんの手引きによる野党に襲われたんでな。すったもんだして逃げ出し、各地を放浪した挙句、イル教国にたどり着いたというわけ、さ」


 本当のことを話すわけにはいかないので、大筋で間違っていない話をする。全部気づいていて、やらせたことは別問題だ。


 シン絶句。そりゃそうだ。今までは誇れる父親が、突然の小悪党になったのだから。


「そうして、私の許嫁になっている、と」


 突然、嬉しそうに胸を張ってプララが宣言する。こういう立ち姿が実に師匠を彷彿とさせる。美少女で、胸はまだ薄いがそこがまたかわいい。


「なんだそれは――」


 シンがようやく絞り出した問いに俺はイライラしながら答えた。


「わかってねえなあ。父さんは叔父さんのことを本当に好きだったんだ。だから、事実は分かっていたけれど、お前たちを引き取ったり、シュラウド商会の会頭をさせたりしていたんだろうが。それを勘違いして偉そうにふんぞり返り、父さんの顔に泥を塗り、ここの国母にして偉大なる5賢人のプラローロ様を侮辱した」


 ドンっ、と踏み込み、俺は刀――モノホシに手をかけ、「万死に値する」と叫んだ。周囲のエルフから怒号のような拍手が打ち鳴らされる。


「――ひっ」

「お前は理解してないんだ。プラローロ様はこの国の人たちにとって、正しく信仰の対象。イル=サン教の国母でもあり、初代イル=サンでもある。それを、なんだと?クソ婆だと?しわくちゃだと?鉄の処女だと?」

「なんだって!!酷いことを言うんだね!!マジ許せないんだよ!」

「い、いや――」


 しまった、ちょっと盛ってしまった。


「だまれ!!お前は今発言を許されていない!」

「ひぅ……」


 よし、ごまかした!危ない!!


「ということでお前はシュラウド商会から追放される。そして、エルフ自治領の主座を侮辱したということで不敬罪だ」

「ああ、残念だけど不敬罪なんてないんだ!!」


 師匠が俺のきめ台詞に突っ込んだ。


「マジですか?」

「だって、この私に不敬なんてこの国に存在しないんだよ」


 なるほど。等しくエルフの上に立つことを認められている存在。それがプラローロ。


「そうなんです、ね」

「だからね!法律上の罪ではないけれど、まあ、見てわかる通り、この盛り上がりだから、ゼッターランドくんの刑罰は私刑なのさ!」


 ひどい。あれか、罪人を広場に縛り付けて石をみんなで投げる的な?それとも竹のこぎりで首を切る的な?!!


「いやいやいや、そっちの方がごついでしょ?」

「うん。エルフは容赦ないんだ」


 師匠はうんうんと頷いていた。その様子を真っ青な顔で見ていたのは当然、シンである。その取り巻きも震えているのが分かる。


 そりゃそうだ。音はどうであれ、死刑か私刑だ。死刑だったら死ぬし、私刑だったら最低でもリンチは覚悟しなくてはいけない。


「ライト、ライト、ライトッ!!!頼む、助けてくれ!」


 土下座。取り巻きも含めて皆土下座。


「いやだなあ……めんどくさいし、シンさんに受けた恩なんてほとんどないんだけど。小さいころ、よく俺を陰で蹴ってたじゃん」

「ああ、そんなころのこと言われても」

「いや、だとしたら、従兄であることなんてなんでもない話。プラローロ様は俺の師匠で俺の恩人で俺の義理の親になる人だよ?残念だけど私刑(リンチ)されときなよ」

「そんな……」


 昔のことで済ます奴は、殺されておけばいい。された方の恨みは薄くないのだ。


「なんだい?リンチって?!」


 師匠が本気でわからないという顔をする。首をかしげた様もチャーミングではある。


「あ、私刑のことですよ、みんなで取り囲んでボコボコにするんでしょ?」

「いやいや!!!しないよ!そんな私たちエルフは野蛮人じゃないんだ!10年ほどヘムヘースで働かせるだけさ!給金は少ないけれど10年後に渡してあげるし、とりあえず食うに困らない!ただ、この一連の殺気を見ていれば分かると思うけれど、いつでもぶん殴られてもおかしくないからねー!治安維持部隊だって、今度はがっつり取り締まるし、私が発信機つけておくから逃げもできない、会話も全部筒抜けだけどね!!」

「うっわ、リンチの方が優しい」

「たった10年だよ!?」


 俺は少し同情した。32歳くらいまでただ働きか。エルフ基準なら1年にも満たない短い時間だ。


「人族ではたったではないんすけどね」

「このプラローロをバカにして10年で済むならラッキーなんだよ!?私はこんな奴らをやさしさで鍛えてやるほど、年は取ってないんだよ!!!」


 なるほど。確かにその通り。俺はシンの肩を叩いて言った。


「ま、しかたない。がんばれ、シンさん」


 シン=ゼッターランドはがっくりとうなだれた。


「このシュラウド商会のとりあえずの頭は航海長さんお願いします。帰るまでの暫定的な措置ですが、働きによっては皆さんの立場は俺が保証します。いいですか?」


 航海長以下、いわゆるエルフたちからプロと称された人々は一様にホッとして頷いた。


 俺も実はホッとしている。いやぁ、よかった。あのシンさんのもとで身分隠して護衛任務なんて冗談じゃないと思っていた。


 さて、久しぶりの帰省である。大っぴらにはできないことがあるけれど、ちょっと楽しそうだ。

会話回は多いですが、今回はとくに会話率が高くなりました。結局、裁判的なところになると会話で進めるしかないんですよね。ちょっと反省しました。

会話は書いていると楽しいんですが、ストーリーを進めるには向きませんね。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

ブクマ、評価や、下のランキングをぽちっとしていただけると、妻と一緒に愛について語りたいと思います。

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