表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/91

俺は努力でこうなったんですよという第1話。

本日二回目の投稿です。

 転生者として最後の世界での俺の名前は、ライトと名付けられた。


 なぜか目も見えない時期から隣には同じように泣く子どもがいた。なんてことは無い双子の妹である。当然俺は男であるので、一卵性ではなく二卵性である。


 たぶん、あまり似ていないだろう。


 妹はレティと呼ばれている。


 目が開くようになると、この家が裕福であることが分かった。何人ものメイドが、俺やレティのオムツを替えて行く。


 ありがたい。ちょっと恥ずかしいけれど。


 これなら生後すぐに殺されることもあるまいし、食うや食わず中で食料にされるような世界でもない。まずは生き残る第一歩、第一拠点を手に入れた事は僥倖である。


 そしてやや特殊だが、妹の存在も大きい。ある程度親の目が分散するし、真の赤ちゃんである妹に合わせておけば奇異な目で見られることも少ない。


 そして、この妹をいつくしむ気持ちは強い。


 記憶のなかった頃も、家族の愛情を同じように感じてきたし、自分も表してきた。だがそれはどうやらこれまでの記憶と意識があっても同じようで、母親にも父親にもそれなりの愛情を持っている。


 まだしゃべることもできない妹だが、俺が優しく守っていてやりたいなと思う。


 8か月が過ぎ、ある程度安定して座れるようになると、泣いているレティを慰め、あやすのは俺の密かな楽しみになった。


 まだうまくはいかないが、レティの髪の毛を手で撫ぜてやったり、泣き止まない時に胸をトントンしてあげたりするのは、あまり娯楽のない赤ちゃん生活の中で唯一とも言っていい楽しみだった。


「ほんとライトはいいお兄ちゃんね」


 たどたどしい俺の手の動きに、親愛の情が入っていることが分かるのか、母さんや周りの大人は微笑ましいといった顔してこちらを見ていた。


 この頃、自分でスキルが発動できるようになった。スキル「評価」である。


 相手が自分に対してどういう思いを持っているかが可視化されるというスキル。もちろん拡張の余地があるように見える。


 この評価スキルは読心術といった類ではなく、基本的な評価が見えるといった感じだ。うむ、女神に希望した通りのスキルだ。


 幸い両親からはかわいい息子と言う評価をもらっていたし、屋敷のメイドたちからは守らなくてはいけない子と言う評価を得ていた。


 これもまた暇が潰せてよかった。誰が俺にどんな思いをもっているか、見られるだけでも楽しい。


 とにかく赤子のやれることは少ない。過去の赤子生活は意識が希薄でよかったが、今回はガッツリ意識がある。周りの大人を覗いては楽しみ、覗いては「あ?俺もっとかわいい子やろ!」と腹を立てたりした。


 ふとレティの俺に対する評価を覗いたところ、なんかオレンジの色しか見えなかった。暖かそうなので、良い印象なのだろうとちょっとほっとした。


 どうも相手の思考が未発達であると、感覚的な表現で表せられるようである。


 しゃべれるようになり走り回るようになると、レティは俺の後ばかりついてくるようになった。


 俺たちは双子であり、ほんの少し俺が先に生まれただけだが、もともと持っているスタートラインが違うので、歳の差のある兄妹のような関係になった。


「お兄ちゃん待ってぇ」

「待ってるよ、レティ」


 それが俺達の日常であり、暖かい日常であった。


 赤ちゃんのときに感じたように、父さん、カイン=サリスは富豪と言っても差し支えないレベルで商売を成功させていた。


 母さんミリィ=サリスは下級貴族マリエント士爵家の出で気品があって優しい。


 平民である父さんとの婚姻は、士爵の家族にはあまり良い顔されなかったらしいが、それでも富豪である父さんとの結婚は決して失敗ではなかったし、2人は愛し合っているように見えた。


 俺の評価スキルは、年経るごとに拡張続けており、各種パラメーターや、そのものの価値まで見えるようになってきた。


 生物に限らず、美術品や骨董品などの品物まで評価できるようになった。


 ――商人向きの力や。


 フフっと笑う。


 どうやら俺の評価スキルは、評価の範囲にあたるものならば、効力を発揮するようだ。そういう意味では鑑定に似ている。ただ評価スキルの方が、生物無生物を問わないので使い勝手が良い事は明白だった。


 5歳になった時、この世界の人間が誰でもそうするように、俺たち兄妹も同じように法適性にかけられた。親が自ら測り、その子の未来を見据えるために。


 俺の結果は惨憺たるもの。俺はどの法適性も持っていなかった。


 ――なーぜーじゃー。。


 と嘆くと同時に、スキルで魔法の深淵とかなんかそういう、こう強くてカッコイイスキルにしておけばよかったと後悔する。


 とにかく魔法4元素や光闇は無かった。魔法適性が無いゆえに期待された若干レアで商人に有効な収納、転移、創造、探査系統の法術にも適正がなかった。さらにレアな治癒や解呪などの神聖術のどの適性もない。適性が無いというのは魔力の多寡では無いから、この世界の既存の術式は全て使えないことが分かった。


 まあ、珍しい事だが、それによって俺の評価が下がるわけでも無いから世間に公表された。


 そもそも、普通の人間は「火が起こせる」「10キロのアイテムボックス」「雨が5分防げる」「ちょっと性能のいいダウジング」「擦り傷を治す」程度が関の山だ。


 ある方がいいに決まっている。しかし、ライターとは言わないが、火起こしも馬車も傘もある世界。然程、問題ではない。


 ――ただ。


 妹は逆だ。


 レティは光魔法に若干の適性があるとされた。

 

 そう「された」のだ。


 ――彼女の未来のために。


 それを知っているのは立ち会った父さんと母さん、そして正確にそのことを理解できた俺だけだった。レティは理解できていない。世間に知られたら間違いなく、まともな人生は歩めない。


 いうならば俺が全適性Fランならば、レティは神聖術適性「Sラン」。見間違えたかと父さん達は3回テストを繰り返した。しかし結果は同じ。人類最高峰の適性だった。


 俺たちが住むアッティラ新帝国がある大陸の反対側に位置するイル教国がある。


 神聖術Sランクは教主イル=サン27世の次代イル=サンこと次の世界5賢者の1人に推挙されるレベルだ。イル=サン27世はもう70才。世間に知られたら間違いなく天啓の名の下にイル教国に連れ去られる。


 両親の怯えは凄かった。そのために何度も何度も「レティには光に適性があったけど、微々たるものだったわ」と、俺たちに繰り返し説いた。


 もちろん俺には両親の意図するところが分かったので「俺にも適性無いから仕方ないよな」と両親を無理矢理に笑わせた。


 ちょうどそれから数日後、イル=サン27世が神託を聞いたとニュースになった。両親は死ぬ思いでそのニュースの詳細を聞いて歩いた。


「これから数年の後、イル=サンを継ぐ赤き髪をもつ者がイルの地に顕現する」


 数か月遅れでニュースの詳細が届いた時の両親の喜びは凄かった。レティの髪は金色だ。ちなみに俺は色素の薄い白。少なくとも赤き髪の兆候は一つもない。もちろん、万が一のことを考え、神聖術適性に関しては両親によって完璧に隠匿された。


 まあ、それはいい。


 ――しかし、だ。


 俺はやっぱり残念だった。あいもかわらずハードラックだ。


 最短での死は生後2日。最もヒーローに近いと自負する3回前の世でも、果たし合いの上、舟のオールで気絶され、それを恥に思った見届け人の領主に惨殺された。あれは、相手が遅れてきてイラつかされたんだよな。


 そういや直近の前世でも木刀で撲殺された。まあ、多分、あまり記憶にないが数百回は撲殺されている。


 というわけで俺のこれまでの人生は、どれも不幸な終わりを迎えている。


 この転生の最終章は、それに比べれば、まあ、幸せな環境だ。なにが最終なのかは理解に困るけれども、とにかく油断は禁物だ。


 法適性試験以来、庭で遊ぶフリをして木剣をふっている。少しでも生き残る確率を上げるためだ。これまでの前世の経験は、記憶として、言うならば知識として存在する。ゆえに何度か武芸者にもなった自分としてはソコソコな剣術知識はある。


 ただ、肉体の経験値が足りない。それを補うために五歳の適正検査以降は黙々と型を繰り返し、体に馴染ませている。



「にいさん、お邪魔するよ。」


 ちょくちょく家に顔出す、父さんの弟のビルディ=サリス叔父さん。幅広く事業やっていると言えば聞こえがいいが、どうやらどれもうまくいっていないらしい。


 父さんはあまりいい顔をしない。毎度毎度金の無心に来るからだ。


「こんにちは、ビルディ叔父さん」


 ヒルディ叔父さんは、俺の挨拶にこちらに顔を向けると笑って手を挙げた。


「ああ、こんにちはライト。もう7歳になるか?」


「はい、もうそろそろです」


「そうか、じゃあ、新年からはスクールに通うんだな、頑張れよ。――よし、そうだな、お前とレティにプレゼントをやろう」


「ほんとですか!はい、叔父さん、ありがとうございます。」


 俺は頭を下げて、一応、笑ってみせた。


 新年からは今住んでいるサザーリン伯爵領の領都ザーリスで、富貴家庭の子弟が通うスクールに通うことになっている。


 ちなみにちょっと前に6歳になったばかりのレティの許嫁のパリスも通うことになっている。領主の設置している学校に領主の息子が入るのである。その許嫁とおまけである俺。当然、同じクラスに配置されるだろう。


 しかし、と叔父さんの顔を見ながら思う。


(叔父さんが俺にプレゼント、だと?)


 正直、俺はこの叔父が苦手だ。


 にこやかな笑みがいつも張り付いているが、俺の評価スキルで叔父の内面を覗くと、いつも大抵イライラしている。


 さらには〈富の簒奪者〉と俺に関する叔父さんの評価欄には書かれている。奪った覚えは無いけれど、彼の主観なので仕方がない。


 彼の視点から見れば、15年以上、子どもができなかった兄夫婦に突然できた子だ。いずれは息子を養子に、と考えていた叔父さんにとって、簒奪者と思えるのも仕方ない。


「レティ、中庭で遊ぶよ」


 俺は素早くレティに声をかけると、叔父にペコリと頭を下げて踵を返した。


「うん、お兄ちゃん」


 レティもトコトコと後ろを付いてくる。


 ちなみに叔父のレティへの評価は〈将来の保険〉だ。


 何を考えているのか、と思うが、レティは母さんの実家であるマリエント士爵家への養子縁組が決定している。


 然るのち、寄親であるサザーリン伯爵家の3男パリスと結婚する。


 士爵となることが生まれた時に決定しているパリス=サザーリン。普通部屋住みでいずれ平民になるであろう3男の生まれてすぐの叙爵決定には、豪商サリス家の金の力による政治力学が関係している。


 寄親に恩を売りたいマリエント家と、平民としての引け目を感じる父さんの両方が望んだものだ。


 パリスは俺たちの同年度の生まれでほぼ1年下。何度か我が家にも遊びに来ているが、悪いやつではない。


 まあ俺の義弟で、一応の主従関係にあると言っていい。もちろん、俺が従者だ。今はタメで遊んでいるが、いずれ俺は、伯爵家、両士爵家お抱えの御用商人となるわけだ。


 下級とはいえ、貴族の正妻となるレティは正しく将来の保険だろう。


 ――こりゃ、父さん今日は不機嫌だろうなぁ。


 普段は温厚な父さんも、叔父さんが帰った後はとても荒れる。俺はとてもそれが嫌だ。転生を繰り返してきたとはいえ、今の、そして最後の家族である。できれば穏やかに過ごしたい。


 ガン、と重い音が中庭に響く。俺の木剣がレティの木剣をはじきあげた。俺はレティにも護身術の一環として教えているが、レティは本当に筋がいい。


「お兄ちゃん、もう一本いくよ」


 刺突に特化したレティの剣尖は、フェイントを織り交ぜて的確に急所を狙う。刺突に特化させたのは、力よりも早さを優先させたからだ。


 俺は剣を刀に見立て、全ての刺突を剣の側面の部分で払い捌く。


 レティはなんというか、とんでもない類の天才だと改めて思う。術分野はもちろんのこと剣を握らせても一流になるだろう。


 その能力を感じさせる剣筋である。それゆえにパリスへの嫁入りは、才能を潰すという意味では残念だが、幸せを考えれば当然の選択だろう。


 レティの鋭い突きをさばき切り、剣を巻き込みながら後方に弾き飛ばすと、レティが天を仰いで、息を吐く。


「レティはやっぱり天才だなぁ」


「お兄ちゃんに言われても嬉しくないよ。全然、体にあたらないじゃん!私たち双子なんだよ?」


「俺は別だって」


「何それ、ひどい!」


「俺は努力の人だから」


 そう。俺は正しく努力の人。何千という人生を重ねなければ、今の状況までたどり着けない愚物。残念すぎる。


「そんなことないじゃん!!」


 ほほを膨らませながら、それでも剣を拾いにいくレティ。負けん気が強いのはいいことだ。


 と、そこへ父さんがやってくる。叔父さんも一緒だ。


「おーい、ライトにレティ」


 おや?父さんの声に不機嫌な感じがしない。


「はい、父さん」


「ヒルディがお前たちのスクールへの入学のために馬車をくれるそうだ」


「ほんとですか?!やった!なあ、レティ!?」


「うん、お兄ちゃん」


 喜んで見せて、内心首をかしげる。


 ――おかしい。


 スクールは寮生活だが、週のうち4日学んで、3日は実家に帰る。そういう意味では、自前の馬車があることは望まれるし、平民ゆえに金がないような姿は見せられないので、必須と言える。馬車の格もそれなり以上のものが求められる。


 だから、普通にありがたいとはいえる。


 しかし、である。


 叔父さんが俺に馬車を与える、なんてことがあるのか。叔父さんは借金にまみれているから、実はなかなかの貧乏だ。俺の評価で覗いてみてもその状況は変わっていない。


 ただ、客観的に見れば、6歳の子供である俺に、叔父さんの資産状況がわかるわけでもなく、証拠は俺のスキルだ、と言っても通じるわけがない。精々寝首を欠かれないようにするだけだが、これは困った。


「うれしいな!ねえ父さん、最初の時はパリスとも一緒に行きたいです」


「おお、そうだな。領主の子息の許嫁としてレティをアピールさせてもらおうか!貴族の子にもこれなら舐められまい」


 パリスを巻き込む俺。少なくともパリスやレティが乗ることを思えば、スクールまでの道で下手な手出しはできなくなる、はず。


「そうしなさい、うん、それがいい」


 叔父さんが満足そうにうなずいたので、俺は底知れぬ不安を抱えることになった。


 ――いったい何があるっていうんです?

何文字くらいが読みやすいのかわかりませんが、試行錯誤しながら進んでいきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ