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花火のあと  作者: akirpap
8/16

朱里

 「今日はすっごく楽しかったね」


 「そうだな」


 「えへへ。また明日ね。ゆーちゃん」


 「おう。また明日」


 もう何度もこのやり取りを遥としているが、この時の遥を今までで一番かわいく、愛おしく感じた。


 四人で花火を見て、ダブルデートが終わり、遥達と分かれて家に帰ると、明日からまた普通に学校に行って普通の毎日が待っているんだと急に現実に引き戻された気持ちになった。


 楽しかったなぁ。素直にそう思った。遥と一緒に撮ったプリクラを見て、その時の事を思い出して照れくさくなる。こうやって楽しかった事を形に残すのはいいな。なんて我ながら俺らしくない事を考えたりした。


 そうやって楽しかった時間の名残に酔っていると、突然携帯電話が鳴った。大祐からだ。


 「おう。どうしたんだ?」


 「はぁはぁ・・・。祐介」


 電話の向こうの大祐は珍しく焦っていて、息を切らしていた、その事からか直感的にただごとじゃない事が起きている事がわかった。


 「どうした?」


 「朱里が・・・いなくなった」


 「なんだって?」


 俺と朱里たちは花火が終わるまで四人でいて、そのまま遥と俺、朱里と大祐と言う二組に分かれて帰った。本当についさっきの出来事だ。


 「何があったんだ?」


 大祐は呼吸を整えようと、しばらく深呼吸をした後、話し始めた。


 「お前らと分かれた後、俺と朱里はちょっと出店とかを回ってぶらぶらしてたんだ。そしたら、よその学校の陸上部の面子に絡まれてさ。どうやら朱里の知り合いだったらしくて。最初は普通に友達なのかと思ったけど、あいつら数が多いからか調子に乗って朱里の事を馬鹿にしだしたんだよ」


 そう言うと少しまた息を整えてから再び大祐は話し始める。


 「いや、馬鹿にするっていうか嫌味だな。まあ才能ある奴はいいなとか、そいつらは練習の帰りだったらしくて、男と二人で歩いてる朱里を気に食わなかったのかよくわからないが、とにかく自分達は休みも練習してるのに、天才は呑気にデートしてて羨ましいみたいな嫌味をうだうだ言い出したんだ」


 「そんな奴らって本当にいるんだな」


 「ああ、俺も驚いた。ネットの掲示板とかならわかるけど、現実じゃ普段お前らみたいなやつらとしか接してないから、正直どうすればいいかわからなかった。まあでも朱里は慣れてたみたいで、そこは適当に愛想笑いしてごまかしてたんだ。俺がなんか言ってやろうかと思ったけどさ、なんかこういう時に男が口出すのもよくないんじゃないかって思って、俺は黙ってたんだ。今から思えば俺が何か言うべきだったんだ。ちくしょう」


 「まあ落ち着けよ。それでどうしたんだ」


 「そっからまた二人で歩いてたら突然朱里が泣き出してさ、あいつは強い人間だし、俺の前でもあんまり弱さを見せたりしないから、俺驚いてさ、ああ俺驚いてばっかでマジでクソの役にもたたねえな」


 「しょうがねえよ。自分を責めるなよ」


 「うんまあ、それで気にすんなってとかそんな言葉しかかけられなくてさ、なんとか慰めて、あいつもごめんね、変なとこ見せてとか言って強がってたからさ、俺もあそこで帰すべきじゃなかったんだよ」


 「それでそのまま朱里は帰ったんじゃないのか?」


 「いや、それで俺も、もうちょっとなんかいい事言ってやれたらって思ってまた電話したら出なくてさ、あいつの家に行っても帰ってねえんだ。それで色々探しまわったけどどこにもいねえ」


 「マジかよ。ちょっと俺も行くよ。とりあえず思い当たるところを探し回ろう。遥にも声かける」


 「ああ、頼む。助かるよ。俺あんな朱里見た事なくてさ、俺もどうしてやればわかんなくて、そのまま帰しちゃったんだ。ああいうときだからこそもうちょっと一緒にいてやるべきだったんだ。クソ!」


 「今自分を責めてもしょうがないだろ。とりあえず探そう」


 それから俺は遥に電話すると、遥は部屋着のまま慌てて出てきた。遥と俺は合流すると、警察に事情を話し、警察も一緒に朱里を一晩中捜索したが、朱里は見つからなかった。


 警察の一人に、後は任せて帰りなさいと言われ、警察が動いてくれた以上、朱里はすぐに見つかるだろうとたかをくくっていた俺は、言われたとおりにすんなりと帰った。


 そして俺は次の日、普通に学校に行った。そこには当然朱里はおらず、大祐も出席していなかった。ホームルームでは松山も朱里がいなくなった事に触れ、心当たりがある人がいたらすぐに知らせてくれと言うようなアナウンスをしていた。俺はこんな時くらいはちゃんと担任らしくしてくれるんだなとか思っていた。


 俺はまだこのとき何も事の重大さをわかっていなかったんだ。俺がかけがえのない時間だと思っていた時間は、明日も明後日も、いつまでも当然のように続くものだと思っていた。だからあいつらを大切だとか言っておきながらも、そんな風に呑気にその日を生きてたし、すぐにまたいつもの日々が戻ってくると言う、謎の確信に頼って普通の日々を送ろうとしていた。


 朱里がいなくなってから二日後、大祐は相変わらず登校してきていない。松山は形式的にと言った様子でホームルームで朱里捜索のアナウンスをしている。俺はこのときになってようやく『朱里はもう見つからないんじゃないか。』と言う焦りを覚えだす。


 そんな時だった。SNSのある書き込みが目に留まる。


 『この書き込みが今から二十四時間の間で拡散された数だけ人を殺します。ネタだと思って気軽に拡散してもよし、社会が気に食わなくて誰でもいいから死ねって思って拡散してもよし。では二十四時間後を楽しみにしています。』

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