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~水樹氏の手記 3~

施設の評判は広がり、次々と「関連施設をうちにも」という、誘いが来ました。私は、その中から、「山」だけを、推薦しました。交通の便が悪い所は、土地代もかからず、まとまった広さがあります。面会の便も悪いのですが、そこは、問題視されませんでした。「都合がいい」と、かえって高評価を得ました。そして、こちらにとって、何より好都合だったのは、職員の住居を、近くに造る<必要>があること。住居は勿論、入居者さん達と職員の為の病院、子供達の幼稚園や学校……元々あった農家も高齢化で、私達になることが見込まれています。

 やがて、いくつもの村が、国中に点在することとなりました。なにも、陸続きで移動する必要はありません。私達は、ネットで繋がり、空の上を移動します。下に行かない暮らしが、整っていきました。

 私達の主な仕事、収入源は、介護です。

 後は、自給自足。医師、看護師、先生、美容師、調理師、農業、養殖業、大工、電気工、等々、私達で、山の生活は賄えるようになりました。しいていえば、ここで作れない物、例えば、薬や医療機器、老舗の味などは、下から取り寄せます。


 こうして、次第に出来上がってきた、私達にも、入居者さん達にも優しい施設、「キャリコ」。全てが出来なくなったのではなく、ただ、「まだら」なだけ、と言う意味を込めて名付けられ、それにちなみ、水槽には沢山の金魚、キャリコが、優雅に泳いでいます。

 それぞれの地域の地名を頭に付けて、キャリコは泳ぎだしました。私達には、安心して暮らせる環境をもたらし、高齢者には、穏やかな余生が約束されました。私達は、介護職の誇りをもって、お年寄りを迎えています。

 一応、入り口には、守衛さんが二人。ふっと、出て行ってしまう、認知症の方々を、見守っています。まぁ、ぐるっと、ラビリンスのように入り組んだ生垣に沿って歩いて行けば、ここに戻ります。それよりも、大切な仕事は、外から来る人の監視。面会家族は勿論のこと、業者や政府関係者、心を感じることの出来ない人間が、いかに入居者さん達へ、害を与えてしまうか……私達は<護る>ことに、徹していました。


 国に対して、対等な権利を持てるように、交渉する……私達は、与えられた能力に、策略を持ってふるまえる知恵をつけました。

 国は、高齢者対策に苦労しています。多くの税金を費やし、多くの労働力を向けるのに、なかなか職員が定着しない。安易な就労支援は、ことごとく失敗に終わりました。病院のベッドは、行き場のない高齢者で、溢れかえっています。それが、

「もう、なにも、考えなくてよい、ただ、上に運ぶだけ」

これは、画期的な策です。私達は、国と言う縛りを解かれ、治外法権的な生活を与えられました。

「ただ、じじばばを引き受ける、害のないやつら」

それでよかったのです、私達は、安心して、ここで暮らせるのですから。

 私達は、よかった。が、下に残った者は……私達が、「何もしてあげない」ということは、こういうことでした。

 私達は、ノートに書くように、制裁を与えることだって、出来ます。けれど、そんなつまらないことに、大切な時間を使いたくない。人生は、短い。楽しむべきです。せっかく、排除して、集まり、安心を得たのですから。そう、私達は、私達の幸せを願っているだけ。下の人達の事には、関心がない。だだ、なにもしてあげなかっただけです。


 私も、歳を取りました。思い返せば、私の人生は、実りが多かったと、自負しています。悲しいこと、そりゃあ沢山ありました。が、今こうして、沢山の仲間に恵まれ、「自分のやってきたことは、間違いではなかった」と、確信しています。願わくは、この環境が永遠に続きますように。

 レールは、造りました。行き先も、決まっています。後は、護るだけ。


「心を読める」ということは、「嘘をついてもらえない」ということでもあるようです。

私は、どうやら、後半年も、もたないらしい……


 今、下が、騒がしくなっています。これからどうなっていくのか?私達が、「何もしてあげない」ことの代償は、想像を上回っていたようです。下に対しての対応、このままでいけるのか?それとも……


 私の役目は、ここまでです。後を頼みますよ。

 護る為には、戦うことも……いや、聡明なあなたなら、きっと大丈夫ですよ、トワ

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