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血を分離して、私達は、血清になる…姥捨て山伝説  作者: 海月 要
~水樹氏より、スミさんへ~
16/17

~山の存続をかけて、制裁~

やはり、間に合わなかった。


 ムクからの情報は、いつも楽しい話題、まるで何事もないかのように。けれど、彼女を通して入って来る情報は、緊迫していた。

 山は、包囲されていた。


 計算上は、六ヶ月間なのに、まだ、四ヶ月しか経っていない。けど、とても後二ヶ月間、山は、持ちこたえられそうにない。砂糖の頂に向かって蟻が、群れをなして昇って来る未来が、私には、視える。すでに、それぞれの山の裾野には、救護施設が、急ごしらえされている。あそこで、やるつもりだ。


 私達は、大小の差こそあれ、能動的な能力もある。武器の類は持っていないが、上から、石を投げるぐらいは出来る。石を、当てるぐらいなら。しかし、蟻は、排除しても、排除しても、上への行進を止めないだろう。無理なのだ。あいつらも、必死、少し位のダメージで、ひるむはずは、ない。山の上に、有益な獲物がいることを知ってしまったからには、決して、諦めないだろう。

 元を絶たなくては、終わらない。


 私のエネルギーは、今現在、明らかに、不足している。そのまま、行動を起こせば、対象者総てに、<印>を付けることは、不可能だ。残してしまえば、あいつらは、又増殖することだろう。次は、ない。さて、不足分を、何で補うか?山の住人に、負担を掛けたくない。私の余命を足しても、ダメか。ムク?君を犠牲にするくらいならば、そもそも、この戦いは、始めていない!


 私の部屋の、扉が、ムクの手で、大きく開いた。たくさんの<気>が、雪崩のように、いや、暖かい気流だ。部屋いっぱいに、充満していく。それは、遠くの山で暮らす、じいちゃん、ばあちゃん、いつも面会に来て下さる家族から、山の動物、水槽のキャリコまで、もちろん、共に働くスタッフからも。一つ一つは、極微量だが、

 これなら、いける。

 ムクが、呼びかけてくれた!これだけあれば、

      いける。


 私は、<印>を付ける作業に着手することにした。


「ムク、さようなら!もう、会えないかもしれない、きっと、会えないかな。

 ムク、最後に約束して欲しい。私は、永遠に、君の傍にいる。君の幸せな姿を眺める為にね。それが、今の私の救い、唯一の救済。だから、幸せな結婚をして欲しい。子供を産んで、孫に慕われて……私を忘れるほどの、幸せをつかむんだよ。それが、私の望みだから」


 私は、返事を聞かなかった。もう、決めたこと、後には、戻れない、これで、いいのだ、と。そして、

 ムクとの回線を、切った。


 丸二日間、トワは、手足を硬直して、目を開いたまま、小刻みに震えていました。扉は固く閉じられ、枕元に置かれた装置に向かって、トワの<気>が、放出されていきます。全てを遮断する服を着て、私は、見守るしか出来ませんでした。強く握られた拳から、自らの爪で、しばらくは血を流していましたが、触れることの出来ない私は、見つめるだけ。乾いた瞳に、点眼をするしか、私に出来ることは、ありませんでした。


 山のみんなは、下の騒音を聞かずに済むようにと、施設の地下深くに集められました。入居者さん達の介護する、最低限の人数を残して。

 比較的、聞こえの少ない人と、年老いた人達が、残りました。私のような防護服を着ての介護は、練習したとはいえ、大変だったと聞きます。頑張ったけれど、お風呂だけは、お休み。なにしろ、非常事態ですから。

 子供達は、非日常を、無邪気に喜びました。いえ、山の子供達は、ちゃんと気付いていました。気付いているからこそ、明るく振舞ったのです。大人たちの不安を、一生懸命に、和らげたいと、健気に頑張りました。そして、


 終わりました。しかし、トワは、目覚めませんでした。

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