~浸食~
火の粉は、昇って来た。
「変な連絡が来ています。いままで、お母さんを入れっぱなし、面会はもちろん、こちらからのカードに、返事もよこさない家族から、「看取りたいので、返して欲しい」と、言って来ました」
使う気だ。
私は、
「今、お母様は、B型肝炎の治療中で、しかも、かなり衰弱されています。移動は、難しいでしょう」
と、伝えることにした。衰弱に関しては、きっと、問題視されず、病院で血液増殖することだろう。が、感染症ならば、使えない。案の定、
「仕方がありません」
と、お断りの連絡が入った。
これから、ますます、このような問い合わせが増えることだろう。その度に、これでは、怪しまれる。いっそのこと、山全体に、血液を媒介とする感染症が蔓延したとでも、公表するか?しかし、山は、点在している。行き来がほとんどない山総てに、感染を起こしたとは、理論的に無理がある。さあ、どうするか?
各山の代表者で、対策を話し合った。
そもそも、彼らを、護るべきか?
そこに関しては、全員一致で、「すでに、家族だから」と。それでは、
どうやって、下からの要請を回避するか?
すでに、感染経路は判明し、もうこれ以上、新しい感染者の増加は無いと考えれば、少しの間、やり過ごすだけで、済むのではないか。入居者さん達の寿命も迫ってきている。感染症を持っている人だけが、しばらくは、生き残る。でも、アウトブレイク、爆発的な大流行さえ、収束すれば、今まで通りに、又、使用されずに、高齢者はやって来る……放っておけば、いいことなのか?ほんとうに?
話し合いを持って、数日後のことだった。痛ましい事件が起きた。
南の山で、忽然と、一人の少女が、消えた。
下との境界線間近のコンサート会場、細心の注意を払っていたはずだが、熱気と興奮で、聞こえなかったのだと、推察される。彼女が、上の人間だと、わかっていた者の犯行だろう、最初に脳へのダメージを与えられてから、連れ去られていた。だから、私達には、悲鳴が届かなかった。助けられなかった。私達が気付いた時には、全血交換、すでに始まろうとしていて、助けられなかった。最後の意識は、鼠経動脈に、イソジンで印を付けられて、太く長い針を差し込まれた、最後の意識は、
「ごめんなさい、私の不注意で、こんなことになってしまいました。ごめんなさい、私が、この身体で、教えてしまいました。上の人間は、クリアーだということを、使えるということを。あーとんでもないことをしてしまった。ごめんなさい、ごめんな……」
それを聞いた、彼女の両親からのメッセージは、すぐさま、仲間が送った。しかし、その返事は、返って来なかった。メッセージ、
「あなたは、何も悪くないのよ。私達の、大切な娘でしょ。心配しなくていいから、もう、二度と、あなたと同じ目に、誰も遭うことは、無い、からね」
あいつらは、<山>を、仰いでしまった。
私達は、決断を迫られた。支配されないために、支配することを……




