~トワの夢~
夢を、見た。
遠くから、何かが聞こえてきて、その方向から、私の夢は、暖かい<色>に、染まっていった。
母の声だ。その色で、私は、気付いた。いつも私を、護ってくれていた<母の声>だった。
私は、聞きたくなかった。ただ、ずっと、感じていたかった。ずっと、ずっと、傍に居て欲しかった。
聞きたくなど、なかったのに。
「トワ、私の大切なトワ、私は、あなただけを、護ろうと、しました。でも、あなたには、護りたい仲間がいる。トワ、私の誇り。救えるのは、あなただけ。今、母のかけた魔法を解きますね。これで、お別れです。私のトワは、私の手を、離れてしまう……後は、あなた次第、思う存分、生きなさい」
色は消え、しばらくは、何も起こらなかった。
あのアパートだ。三才の私が、クリスマスプレゼントのミニカーで遊んでいる。ストーブの匂い、さっき食べ終えたチキンの香り。テレビが賑やかな音と、チカチカする光を放っている。
私の手の中にあるミニカーが、テーブルの上に置いてあった何かを、落としてしまった。時計だ。あいつの時計。
振り返った時、あいつの顔が、恐ろしい顔が、すぐそこにあった。私は、とても悪いことをしたと思い、すぐ謝ろうとしたが、あまりの恐怖で、言葉が出てこなかった。
「このガキ、わざとやりやがったな、しつけが悪い、謝りもしない!」
床に、叩きつけられた。
母が、台所から、駆けつけた。
「ごめんなさい、でも、この子は、謝っています。あなたには、聞こえませんか?どうぞ、許してやってくださいな、こんなにも、怯えているのが、あなたには、わからないのですか?」
「わからないのかって?ああ、わかりゃしねえよ。お前たちの事なんか、わかるはずねえだろうが、なんだよ、いっつも、俺だけあほ扱いしやがって、ムカつくんだよ!」
母は、一瞬、台所に引き返そうとしました。しかし、そうはしなかった。私を抱きかかえると、
「ごめんね、こんなことしか、出来ないの」
と、私をその胸に抱きしめた。
母の身体が、一瞬、固くなり、そして、温かい血が、私を濡らした。
その後だ、私は……そうだ、思い出したぞ、あいつの身体に<印>を付けたのだ。胸に三箇所、母が刺された回数と同じだけ。
あいつは、
<印>に向かって、自ら包丁を、ねじ込んだ。
ここで、映像が途切れる。
強い力が、母からの、最後の力が、私を包んだ。そして、私は、眠りについた。母の最後の鼓動を聞かずに、私は、眠ってしまったのだ。母の胸の中で……
そうか、母は、この時使った私の<能力>を、封印したのだ。幼い子供が、生きていく上で、持て余すであろう<能力>、使い方を誤れば、自らをも、滅ぼしかねない、その力を。私が、平穏に生きていかれるようにと、最後の力を振り絞って、
私を、護ってくれたのだ。




