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血を分離して、私達は、血清になる…姥捨て山伝説  作者: 海月 要
~水樹氏より、スミさんへ~
11/17

~下の動向 2~

家での生活が難しくなってきた高齢者は、月に二回、一日と十五日に、近くの<山>にやって来る。家族に付き添われて来ることもあるが、ほとんどは、病院スタッフや、福祉課の職員によって、運ばれてくることが多い。こちらで空きが出ると、すぐさま補充されていた。

 それが、最近、その人数が減ってきた。人口の推移から考えて、まだ、減るのには早すぎる。下の介護施設が機能していない中、訪問介護も問題山積で、在宅介護は、とてもとても、難しくなっているというのに、これは、何かある。

 そう、みんなが不思議がっている頃、看護師からこんな情報が入った。


「最近入所される方々、皆、何らかの感染症を、それも血液を媒介とする感染症に罹っています。今までも、数パーセントかはいましたが、これは、異常です。新しく感染したという訳ではありません。明らかに、梅毒や肝炎ウイルス、エイズウイルスなどに罹患している方々だけを、選んで、山に送っています」


 どういうことだろう?伝染力からすれば、スタンダードプリコーション、極当たり前の感染予防対策で、防ぐことが出来る病気。ウイルスを持っていても、発症さえしなければ、介護にさして問題はない。手間がかかるから、選んで上に運んでくるとは、どうも考えられない。

 というか、

 他の高齢者は、なぜ来ないのか?


 そう言えば、ゲンさんが最近、変なことを言っていた。

「この頃さ~言葉じゃない悲鳴が、多くなっているんだよ。短くて、ボヤっと、不安というか、混濁した感情、すぐに消えちまう」

と、


 下で何かが起きている。

 

 そこで私は、下の動向を探ってみることにした。あまり気が進まなかったが、下の火の粉が、昇ってこないともかぎらない。


 十五日、二人の空きに対して、一人の女性が病院スタッフの車でやってきた。目は開いているが、虚ろな瞳。小さな顔の右頬だけが、やけに赤い。

 彼女は、医師と看護師、介護員で、持ち込まれたカルテと共に、玄関脇の部屋へと、消えて行った。


私は、守衛のヨシさんに、前もって質問することを伝えておいた。

①「最近、上がっていらっしゃる方が、めっきり減ったようですが、病院で亡くなる方が多いのですか?」

②「何か、伝染病でも流行っているのですか?こちらでも対策を検討するので、教えていただけませんか」

 そして、私は、応接室の隣で、待機した。


①「」

「病院で、そう病院で亡くなる高齢者が増えたかな~」


 嘘は言っていない。が、かなり心拍数が増えている。


②「」

「伝染病?そりゃあ、いつの時代も、伝染病はありますよ」


 抜けていた。


 発した言葉には、頭に浮かんだ言葉の中から、一つの単語が、意図的に抜けていた。


 頭に浮かんでいたのは、


「伝染病?そりゃあ、いつの時代も、新しい伝染病はありますよ」

 これか……


 ヨシさんは、労いの言葉をかけながら、お茶を入れた。ここのお茶は、とても評判が良い。澄んだ空気に、気候も合っているのだろう、良質な茶葉が取れる。それを、手摘みにして、自然な形でお茶にしている。

「このお茶が、ここまで来る楽しみですよ」

と、飲み終えた客人に、

「まだまだ、掛かりそうなので、少し、ソファーですが、くつろいでいって下さい」

と、促した。

 超短期型睡眠導入剤入りのお茶を飲んで、彼は間もなく、深い眠りに入る。



 若い女性の顔だ。

 彼の妹が、その新しいタイプの感染症に罹患したらしい。彼の視線は、彼女が、顔に手を持って行った瞬間、逸らされた。「見たくない」何かがあるとでもいうように。


 本屋、積まれている派手な本。

”よく当たる「B.B占い」”後悔しない、相手の見分け方

Blood bled 血を混ぜる? お互いの気持ちを確かめることが出来ない不安から、こんな占いが流行ったのか? SEXの前にだって!


 まるで儀式だ。人差し指の傷……二人の腕を交差させて、反対の手で摘まんだ白い紙を引き合う。血の滴る指、それを重ねて、円を描く。

「Blood bled blood bled 導き給え」

 恍惚とした、若い男女の写真が添えられている。

 アクリル板に、お互いの指を押し付け合い、印を作り、本に描かれている模様と見比べる。

 ただそれだけ、たったそれだけ。

 こんなことで、感染のパンデミックが起きたというのか……嘆かわしい……


 老婆が見えてきた。

 彼の祖母、新聞を読んでいる。涙?涙が、ぽと、ぽと、と、新聞紙に音を刻んでいる。

 そうか、この感染症は、心疾患を引き起こすらしい。けれど、問題になっているのは、そこではなく、前兆として、皮膚が溶けだすこと。命が短くなることは、さして問題とされず、見た目の変化が、危機感を煽っていた。若い者にとって、それは、最大の恐怖という訳だ。

 この新聞に掲載されているのは、治療法。輸血、いや、全血交換だ。そして、一人の孫の為に、余命を投げ出した祖母の写真が。


「もう、十二分に人生を楽しみました。この残りの命、誰かの介護を必要とするまでは、望みません。惨めな終わり方など、したくありません。この命は、私の物です。孫の役に立つなんて、なんと幸せでしょう」


 笑顔の婦人。そうか、彼女も、これをやろうとしているのだな。


 病院、手術室だ。

 手術台が二つ、中央を、血が流れている管が繋いでいる。両端を、片や、生食液、血液代わりの食塩水を、流し込み、片や、汚された血を、排出して。

 そうか、孫の為にという親戚がいない者は、見ず知らずの高齢者を使うのだな。いままで、厄介者にされて、上に送られてきた高齢者を。そして、汚染された血液を持つ者は、<使えない>ので、上に来るのか……


 病室だ。

 高齢者ばかりだ。胃瘻、胃に外から穴を開けて、チューブを固定して、栄養を流し込まれている。手は、チューブを引き抜かないようにと、ミトンをされ、ベッドの柵に縛り付けられている。手首は、赤くただれ、浸出液が滲んでいる。膀胱留置カテーテル、これで、水分管理もされている訳だ。

 血を造る為の<収容所>、ここの悲鳴なのか、ゲンさんが聞いているのは……

 だいぶ肥った数人だけが、声をあげている。きっと、途中までは、鎮静をかける薬を注入し、<使う>間近になったならば、薬をOFF……だれがこんなことを考えたのか!


 私は、彼を、離した。


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