第二十話
星井という苗字の人間が本当にいるのかなと思いながら歩いていると、星井という苗字ではなかったが僕が探していたものが、あっけなく見つかった。
そこは星山組と書かれた表札が貼られている、アジトか事務所か本部かよくわからない場所である。
建物はコンクリートでできていて、なかなかデカいという印象を受ける。
建物の入口付近にはポスターが貼ってあり、『子供たちが健やかに暮らせる社会へ』とかいう、今の星山組のやっていることから考えればネタとしか思えないものであったが、本当はネタにもならない集団である。
「お兄ちゃん、もしかしてここが?」
「うん、そうみたい。どうする?」
「どうするって、どういう意味」
「入るか入らないか」
少女は困ったような顔をした。
無理もない。
何故なら、これが罠である可能性があるからだ。
すると建物の門から、グレーのシャツを着た男が出てきた。
男の手には拳銃が握られていた。
僕は気付かれないよう、小声で喋った。
「さゆちゃん。あの人、銃持っているよ」
「あの形はグロックだよ」
「へー」
今の状況は、少女が銃の形を見ただけですぐ名前がわかったということに感心している場合ではない状況なのだが、僕は感心してしまった。
僕は相手に気付かれれば撃たれると思って鞄から銃を取り出した。
すると、男は独り言を言い始めた。
「組長に『小牧さゆりを見つけたら、すぐに殺せ』とか言われたけど、小牧さゆりってなんだよ。名前を聞いただけで見つけられるかってーの」
男は見た目に反してチャラチャラとした喋り方だった。
「まあ、いいや。特徴は中学生の女子らしいからそこらの奴を殺せばいいか」
男は不気味に微笑んで銃を見つめた。
少女のツインテールあまりにも派手だった。
「ひゃー、言っていたら女子中学生っぽい奴がいたぜ」
男は銃を構えた。
大きな銃声がヤクザの建物の前で響いた。
男が倒れていた。
少女の小さな銃は硝煙に包まれていた。
少女の目からは確かな怒りを感じることができた。
「ここ、入ろう」
少女は扉を指さして言った。
「うん、そうしよう」
僕たちは銃を持ち、建物の中に小走りで向かい、入った。
そこに、人の気配はなかった。
銃声を聞き逃げたのだろうか。
建物の中をさらに見ることにした。
いろんな部屋があった。
そこに何かあるのではないかと探した。
一部屋目も二部屋目も、人はいなかったし、部屋は綺麗であった。
「ねえ、嫌な予感がするの」
無音の中、僕たちの足音が響き少女は呟いた。
しかしながら、何事も無かったように、最後の部屋に行ってしまった。
そこの扉から微かな音がした。
「誰かいる?」
少女が小声で囁く。
「銃の準備をしよう」
僕が少女にそう言うと少女は銃をいつでも撃てる状態にした。
僕もデザートイーグルのロックを解除した。




