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アウトロー・アウトロリータ  作者: パセリ
小牧さゆりと死の無法地帯
2/26

第一話


 少女の名前は、小牧さゆり。

 僕は少女を「さゆちゃん」と呼んでいる。

 少女が祖母の家に一年半も行っていたのには、ちゃんとした理由があり、その理由というものは、大変複雑で、僕にはどうしようもないことに思えた。

 それは、ヤクザが絡んでいた。

 正直、ヤクザというものの存在を僕は信じていなかった。

 ヤクザという概念すら、よくわからないのだが、それでもヤクザが深く関わってくることは、僕にも理解できた。

 少女の祖母は、いや、主に祖母ではなく、少女の祖父をはじめとする家系自体が、ヤクザとの関係が非常に悪かったそうだ。

 何故ならば、少女の祖父は警察官として、ヤクザを嫌っており、厳しい取り調べや、逮捕などで、ヤクザという団体の維持を難しいものにした。

 しかし、祖父は定年退職。

 ヤクザの勢力は、その後拡大した。

 一人の警察官が、そこまでヤクザの勢力を抑えていたことに驚くべきか、抑えられていたのにすぐに拡大する、ヤクザの力の強さに驚くべきか、それとも、一人がいなくなっただけで、再び勢力の拡大を許してしまう、警察官の無能さに驚くべきなのかは、僕はわからない。

 そして、祖父、小牧さゆりの祖父は、その後ヤクザに殺された。

 長年の、鬼のような取り調べや逮捕に苦しんでいて、祖父にたいして恨みを強く持っている人間の犯行であることは、明らかである。

 しかし、犯人はまだ捕まってない。

 この事件はヤクザの圧力により、揉み消されてしまうのであった。

 ――そして、次に狙われたのは、少女の祖母であるという。

 だから、祖母の家に行ったというのだろう。

 それで、「助けて」と僕に言うのだから、結末はバッドエンドということだろう。

 一年半にも及んだ、ヤクザとの対決は、まだ終わったわけではない。

 祖母は、ヤクザに殺されたのではなく、病気で死んだらしい。

 標的は、その孫、小牧さゆりに移ったというわけだ。

 そこで、一旦帰ってきて、僕に助けを求めた。

 何故、僕なのだろうか。

「要件はわかった。でも、どうやって助ければいいかは、わからない」 

「これを使って」

 そうすると、少女は不思議なものを取り出した。

 それは、映画やドラマとかでしか見たことのないものだった。

 拳銃。

 少女はそれを持っていた。

「さゆちゃん、これはおもちゃだよね?」

「本物だよ。だから、はい」

 なんと、その拳銃を僕に渡してきた。

 デザートイーグル。

 そんな名前の拳銃らしいのだが、銃に対しての知識が皆無な僕にとっては、それが有名な拳銃なのか、マイナーな拳銃なのかはよくわからない。

 その拳銃。

 重量はずっしりしていて、結構大きい。

 これで撃たれたら一溜まりもないだろうなと思う。

 べつに、撃たれて平気な銃があるとは思わないけど。

 撃たれても平気な兵器。

 いらない、ゴミだ。

「いや、でもこれ渡されても、これでどうするんだ」

「戦って」

「おい、正気か。ヤクザとこれで戦うってことだろ?」

「うん、でもお兄ちゃんに、私の事情でそこまでさせちゃ駄目だよね…… お兄ちゃんが、昔、どれだけ私を可愛がってくれていたとしても、それは昔の話だし、実際には赤の他人だしね」

 少女は残念そうな顔をしていた。

 でも待てよ! 僕、拳銃渡されちゃったよ。

 ここで、僕がヤクザと戦うのは無理だと言って拳銃を返すというのは、あまりにもダサすぎるし、そんなことなら死んでもいいと思う。

「駄目だよね、そんなことさせちゃ」

 真剣な面持ちで、なのに照れくさそうに、

「好きな人に拳銃を渡して、助けてっていうのはおかしいよね」

 そう言った。

 好きな人。

 それは、この場合、だれを意味するのだろう。

 話を聞く分には、好きな人に拳銃を渡したっていう話にも思えるし、その好きな人に助けを求めていると考えることもできる。

 今の状況。

 僕は拳銃を渡され、助けを求められている。

 あれ、これは恋。

 なんということだ、これで少女に拳銃を返したら、とんでもないヘタレ野郎になってしまう。

 でも、なんだ、これじゃあ惚れた、腫れたとかそういう話じゃなく、拳銃が渡されているし、これから多分銃撃戦が繰り広げられるとか考えると、腫れるどころか、死ぬ。

 でも、僕は少女を助けなければいけない。

 それが、使命というものだろう。

 僕はやっと死に場所を見つけられたと言っていい。

 僕、高校三年生、まさかの決断。

 それはそれでいいことかもしれない。

 何故なら、僕は受験もしないし、就職とかそういうプランもハッキリしていないのだから、銃を持って死んでいくというのは悪い生き方じゃないと思うのだ。

「僕、やるよ」

「え?」

「ヤクザ退治。表現的にそれが正しいかわからないけど」

「でも、危険だよ」

「それは、分かっているつもり。でも僕は君の顔を見られて、今、幸せだから、僕はこれをやらないと駄目だと思う」

「お兄ちゃん……」

「だからさ、行こう。明日にでも」

「うん、それなら明日」

 そして、僕はそんな約束をして、デザートイーグルを持ったまま(流石に手に握っているわけにはいかないので、鞄に入れている)すぐ近くにある自宅に着いたのであった。


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