第十七話
倉庫に帰り、結局昼も夜も飯を食わず、日は沈んだ。
それでいるのに、飯を食べるという当たり前の行為すら、忘れてしまうぐらいに精神的にダメージを受けている少女がいて、それを見ている僕も食欲というものはなくなっていた。
何をするでもなく、今日は終わっていきそうだった。
しかし、長らく風呂にも入ってなかったことに気付く。
「風呂ってどうしよう」
「風呂、なにそれ?」
少女は、風呂というものを忘れてしまったらしい。
「風呂だよ、風呂。お湯に浸かって体を洗わないと」
現に僕は汗を大量に出しており、風呂に入らないとそろそろ不快なになるころなのだ。
「ああ、お風呂ね」
少女は本当に風呂の存在を忘れていたのかはわからないが、なんとか思い出したようで、
「それじゃあ、銭湯に行こうか」
と、言い出したのだ。
ここから先は、僕は犯罪者になったような気分になった。
つまり、この無法地帯で、罪を犯した気になったのだ。
それは勘違いかもしれないし、本当に犯罪かもしれない。
少女と銭湯に行くということが、こんなにも罪悪感のあるものだとは思わなかった。
しかし、結論から言うと、その時は幸せだった。
僕たちは、着替えを鞄に持って歩いて銭湯とかいう場所に向かった。
ちなみに、僕は銭湯というものが、どんなものなのかよく知らなかった。
十分程度で、目的地到着。
ここらへんで、夏の銭湯というのは客が少ないようだった。
店の雰囲気は、いかにも目に悪そうなライトと、老朽化していて地震がきたら壊れそうな感じとが合わさって人気がなさそうなものだ。
店に入ると、なんだろう、雰囲気は旅館という感じがした。
男湯と女湯で、それぞれ大きな浴場があり、それ以外にも個室というか、小さな浴場があるようだった。
「お客様、二人だねえ」
声の主は歳が確実に七十以上いっているだろう白髪禿の爺だった。
この爺、客の数をファミレスの店員みたいに数えてやがる。
「そんじゃあ、個室でいいかね?」
個室? なんじゃそれ。
「はい、それなら個室でいいです」
僕は意味がわからなかったから、イエスと言ってしまった。
何故、イエスと言ったかは他でもなく、二択で迷ったときに『ムハンマド!』と言うよりは『イエス!』と言ったほうが無難だからである。
そして、僕たちは個室とかいうよくわからない場所に案内された。
扉を開ければ、そこは脱衣所であった。
爺は帰っていったし、僕は少女と二人きりになった。
どういうことだ、これは少女と一緒にお風呂に入るということになるのか。
少女は、結んでいた髪を解いた。
長い髪の毛が揺れて、可愛い。
「お兄ちゃん、私と一緒にはいるよね?」
少女は、平然とそんなことを聞くので、僕の脳は混乱してしまった。
だから僕は、
「う、うん」
と言ったのだが、
「えっち!」
と少女はふざけた風に言った。
ふざけた風に言ったということは、本当に二人で一緒に入るようだ。
ヤバい、興奮してきた。
なんだろう、犯罪臭がする。




