第十話
人が多くいる住宅街。
港広市はヤクザがいても、結構な都市である。
しかし、一部地域はヤクザに支配されていると言ってもよいところがあり、そこは、警察もいない無法地帯となっている。
「この家から、星井っていう苗字の家を探せば見つかるかな?」
「お兄ちゃん、相手はヤクザだよ。そんな親切に表札とかかけてあるとは思えないよ」
それもそうであった。
しかしながら、そんなことでも、やらなければ見つけられない。
「そういえば、港広星山組の本部というか、事務所みたいなところの住所はわかっているの?」
「わかってない。そういうところは明かさない組織らしいから」
事務所を突き止めるのも、少し難しいようだ。
でも、事務所がわかったところで、そこに乗りこんでも無謀な気はする。
暫く歩いていると、そこには『星井』と書いた表札があった。
「星井だって」
「インターホン押してみる?」
「うん」
そのインターホンには、カメラがなかったので、テレビモニター付きではない。
相手がヤクザではなく、一般人だった場合、高校生である僕がインターホンで喋るよりも、中学生である少女が喋ったほうが、相手に安心感を与えるだろうと考え、少女がインターホンを押して、家の人と喋ることにした。
「すみません、ちょっといいですか?」
「なんだい、アンタはヤクザかい?」
声の主は、四十代の女性であろうか。
「ヤクザではないです」
「そうかい。アンタは何歳なんだい?」
「十二歳です」
「へえ、私の娘と同じぐらいだねえ」
「娘さんですか」
「そう、だけどまだ帰ってこなくて」
帰ってこなくてという言葉が、僕には少し引っかかった。
だから、僕は質問をした。
「その娘さん、少し太っていましたか?」
「なんだ、男の人もいたのかい。太めかって? 失礼なこと聞くね。でも、そうだよ。確かに娘は太っていたさ。でもなんだい?」
「服は、青いワンピースでしたか?」
「そうだよ」
あの女の子は、この星井さんの娘さんだったのだ。
ただ、特徴が似ている場合もあるかもしれないが、それは願望にしかならない。
「それでは、失礼しました」
少女が突然そう言って、歩きだした。
察したのだろう、暗い表情であった。
そして、僕たちは、星井という苗字の人を探し続けた。
この間にとった昼飯は、コンビニおにぎりとジュースだけで済ました。
ジュースはペットボトルで、少女と回し飲みをした。
コンビニで食事をした時の金は、少女が払った。
少女の両親は、少女を見捨てたわけではないので、お金は送ってくれるようで、毎日こうやってご飯を食べる分には困らない。
昼飯を食べて、星井という表札のある家を探したが、一向に見つからなかった。
ずっと探し続けていると、空が暗くなってきて、お腹も空いた。
夜飯は、歩いていて近くにあったファストフード店で済ませることにした。
僕も少女も、チキンのハンバーガーのセットを頼んだ。
ハンバーガーとポテトをコーラで胃に流し込み、また、星井という表札探しを続行した。
見落とさぬように、ゆっくりと歩いて探した。
住宅街なら、もう少しはいても良さそうな、星井という苗字は、結局先ほどの星井さんしか、ここにはいなかった。




