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パイオニア

作者: Q作くん

「境界認知度は?」

「5です」

 正直拍子抜けだった。境界認知度5なんてのは、防護服なしでアチラに行ける。アチラの住人を視認出来る。アチラの住人と会話出来る。その程度のもの。ガイド不要の観光客と何ら変わりない。武光は履歴書から顔を上げる。目の前の青年が、初見以上に頼りなく見えた。

「どうしてウチを?」

「志望動機ですか? 給与体系が時間拘束によるものでなく成果に対する見返りだったからです」

 でたよ。と武光は心の中で毒づく。近年早出、残業を嫌う若者が増加している。成果主義を叫び過ぎたせいか、若者たちは純粋に仕事への対価を求めるようになった。無論、経営者としては楽だった。片手で数える程度の獲物しか狩れなかった場合、アチラへ行くに際してかかる渡航費、保険料など諸々差っ引いて、事実上タダで人を使えるからである。しかし―

「といっても、最低労働賃金は欲しいですけど」

 やっぱり。武光は青年の履歴書を机の上に放り投げる。

「成果に対するペイが欲しいわけだよね? だったらその考え方はおかしいんじゃない? 最低労働賃金の保障が欲しいんなら、時間契約にすればいいんじゃないの? 成果主義でお願いしますって息巻いといて、成果上げられなくても金下さい? 仕事舐めんなよ! 帰れ! 不採用!」

 青年は椅子から立ち上がると「……ました」とほとんど聞き取れない声と共に頭を下げ、面談室から出ていった。

「たく」

 武光は受話器をあげると内線で総務の人事担当を呼び出す。

「はい」

「もうコッチのやつはいいよ。アッチ側の人材を積極採用の方向で」

「かしこまりました」

 コチラ側の住人をアチラ側の住人が狩り、アチラ側の住人をコチラ側の住人が狩る。狩った後の用途は知らない。所有者(オーナー)となった者の趣味趣向次第だろう。武光はコチラにもアチラにも属さず、人材派遣を生業(なりわい)にしていた。理由は単純明快。ニーズがあり、金が動くからだ。

「そろそろこの会社は安田の奴に事業継承して、狩人向けの武器事業でも起こすっかな」

 武光和男、30歳。人材派遣会社「クリエーション㈱」を起ち上げたのは弱冠24歳の頃。わずか6年の間に、同社を業界トップに押し上げ東証一部上場へと導いた。彼の挑戦は終わらない。

          

           ©トーキョーTV「創始者たち」2035.2/6(水)放送分より

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