黒塗り
「久し振りだね……黒龍サマ」
「……お前は……ッ!?焔龍の娘かッ!?」
フィリア達は突然すぎる状況に思考が追い付かなかった。 あの少女は誰なのか?何故リディウムが腕を突き刺されているのか?そして何より、何故そのまま会話が交わされているのか?
「………ッ!リディッ!!」
その中で、最も早く冷静さを取り戻したフィリアが未だに呆然としている兄の手を振り払い、リディウムに駆け寄ろうとする。が、
「来るなッ!!」
「………ッ!?」
突然、リディウムが声を荒げてフィリアに制止を呼び掛けた。今まで落ち着いた口調で話していたリディウムの怒声を聞き、フィリアは身じろぐ。
「そこの金髪ッ!!」
「……ッ!?な、何だ?」
リディウムのその声で冷静になったフィリアの兄が自分が呼ばれていることに気付き、返事を返した。
「フィリアと……お前の親父を連れて出来るだけ遠くに逃げろっ!!コイツはーーーアグネルは危険だッ!!」
「……え……あ、ああ!!分かったッ!!フィリア、父さん、逃げますよっ!!」
リディウムのただならぬ声色を聞き、すぐさまギルとフィリアの腕を掴み、フィリアの兄は走り出した。馬を使えば、とリディウムは考えたが、先程の衝撃と轟音で、馬が逃げてしまったらしい。故に走るしかなかったのだろう、と瞬時に理解した。
「アハハッ……バカだなぁ」
「…………『黒の血鞭』」
リディウムがそう呟いた瞬間、剣が突き刺さっている傷口から滴り落ちている血が突然赤黒く染まり、蠢く触手の如く剣の刃を這い登り始めた。
「ッ!?………例の黒属色の魔力か……全く厄介な…」
少女はーーーーアグネルは透き通るような紅い刃の剣を手放し、リディウムから飛び退く。
彼女がそこまでの動作をするまでの間に、彼の掌から剣は引き抜かれ、『黒の血鞭』が傷口で蠢き、傷を殆ど修復していた。引き抜かれた剣がザシュッ、と音をたてて地面に突き刺さる。
「……化け物め」
「昔良く言われたよ」
と言っても人間の頃だがーーーーーとまでは言わず、リディウムはそこで会話を終わらせた。
「フギャッ!?」
「きゃっ……兄さん!?」
リディウムと少女が睨み合っていた時、突然、フィリアの兄が情けない声をあげて倒れ伏した。まるで、壁に衝突したかのように。
「……ごめんねぇ……もう聖域化しちゃってるの。この辺りは」
「聖域化…!?馬鹿なッ!!」
彼の悲鳴を聞き、調子を取り戻したアグネルが発した『聖域化』という言葉に、リディウムは過剰に反応した。
「そ、本来なら私にはまだ使えない力なんだけど…………」
そう言い、アグネルは赤いローブから、漆黒の玉を取り出し、玩具を自慢する子供のようにリディウムの前に翳した。
「これなーんだ?」
「………………ッ!!」
それを目にした瞬間、リディウムの瞳孔が一気に狭まった。
「アハハッ、見覚えあるよねぇ?貴方の呪いその物………貴方の『鍵玉』だよぉ?」
「……お前が何故それを持っている?」
「えへへ……『白の神殿』に置いてあったんだよぉ?簡単に盗み……いや、借りてこられたよ?」
悪戯がバレて親に言い訳するかのように、舌を出してアグネルは答えた。
「それにしても……すごいねぇ、コレ。物凄い魔素が内包されてるんだよぉ?」
殺気の籠った邪悪な笑みを浮かべながら自慢げに言う彼女を、リディウムはその数倍の殺気を込めて睨み付けた。
「……成る程な。本来、幼龍には扱えない龍の魔素を鍵玉を使って無理矢理行使している訳か」
「そういうこと~♪」
アグネルは、今度は明るい朗らかな笑みを浮かべながら間の抜ける話し方でそう言った。
「…単刀直入に聞こう……お前の目的は何だ?」
「……貴方を殺すこと」
「…なら話が早い」
感情の一切感じられない声でそう呟き、リディウムは右の掌を相手に翳す。
「…その鍵玉を返してもらうッ!!」
「………白龍様に捨てられた龍の分際でッ!!呪いを掛けられたお前なんて、すぐに潰してやるッ!!」
激昂したアグネルは剣を正面に構え、地面を凄まじい勢いで蹴り、リディウムに向けて一気に突っ込んだ。リディウムは直ぐ様それに反応し、地面に刺さっている剣を引き抜き、黒の魔素を染み渡らせる。
「付与術式……『黒の墓標』」
リディウムがそう呟いた瞬間、彼が握っていた剣が一瞬の内にして黒く染まり、大型の十字架に変化した。刃も何もついていない、剣を相手取るにはあまり向いていないようにも見えるが。
ガキィィィィィィンッ!!
凄まじい金属音をあげ、剣と十字架が激突する。力は互角ーーーー否、リディウムの方が強い。
「バカな……呪いを掛けられてここまでの力が?」
「そう言うことだ」
リディウムが剣をアグネルごと吹き飛ばした。アグネルはそのまま数メートル程吹き飛ばされ、地面に激突する。その威力は、吹き上がった砂塵の量を見れば、誰の目にでも明らかだろう。
「悪いが…俺は同胞を潰して罪悪感に浸れるほど優しくない。殺してでも奪い取らせてもらうッ!!」
追い討ちを掛けるべく、リディウムがアグネルの元に走り出した。
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